八田 鮎子(はった あゆこ)
オオカミ少女と黒王子(おおかみしょうじょとくろおうじ)
第5巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
2年生になったエリカと佐田くんはめでたく同じクラスになれました。同じクラスになったチャラ男の神谷くんが佐田くんを悪の道(?)に引きずり込もうとしつこく付きまとい始めますが、佐田くんは完全無視! 「意気地なし」と挑発する神谷くんも、ブレない佐田くんにだんだんと自分を見失い始め…!? 今回は、付き合ってから初めて迎える佐田&エリカのW誕生日エピソードも収録! 巻末には「オオカミ少女のM度診断」も!
簡潔完結感想文
- クラスメイト・神谷が提唱する理想の王国に恭也は賛同できない。王子を辞めてでも掴んだ幸せ。
- エリカの誕生日。「好き」という具体的な言葉のプレゼントは恭也にとって世界一困難なもので…。
- 恭也の誕生日。サプライズ準備万端のエリカの目前で まさかのサプライズ! エリカ大困惑ですぅ。
運命の人を見つける旅に出た男と もう見つけてしまった男の 5巻。
良くも悪くもヒーローの恭也(きょうや)は腹黒でも王子でも なくなりましたね。
身分はすっかり剥奪されて、そこに残ったのは ただの佐田(さた)恭也という一人の男でした。
低体温・省エネモードの恭也では少し分かりにくい彼の中でのパラダイムシフトは、
『4巻』から登場した新キャラ・神谷 望(かみや のぞみ)に行動よって追体験されるのであった…。
前巻に続いて、ウザくてチャラい男・神谷と恭也の価値観バトルの続きです。
神谷は、自分が見てきた イイ男ランキングの1位に入るほどの恭也がエリカのような決して垢抜けない女性だけと交際をしていることが信じられない。
広く浅く女性たちと付き合えば、人生の幸福度は倍増するのにと恭也にしつこく啓蒙する。
この辺りの神谷は、恭也に諦めずに言い寄ってくる女性のようですね。
エリカは神谷が男で、学校内で友人のいない恭也の友達として 神谷をあてがうような気持ちで恭也攻略法を教える。
ここはエリカ母が、社交性に欠ける我が息子・恭也の行く末を心配してるようにも思えますね(恭也マザコン説 支持派)。
だが恭也にとっては獅子身中の虫。
エリカは神谷との交流で恭也の人生を豊かになるように願っているが、かえって恭也にストレスを与えていることに気づいていない。
この お気楽さ&勘違いがエリカのエリカたる ゆえんですね。
彼女だけは間違っても人格が変わったりしないでしょうね…。
神谷に関しては何だかBLを仄めかしたり、作者の暴走、もしくは読者への間違ったサービスが繰り広げられています。
博愛主義者の神谷と、偏愛でもエリカへの愛を貫く(笑)恭也の価値観バトルも大詰め。
神谷は人脈の広さを見せつけることで、恭也に羨望されることを望むが、
恭也にとって その道はエリカと出会う前に既に通り過ぎてきた道。
かえって自分の価値観を恭也によって一蹴されてしまう。
そんな頃、神谷がいつも遊んでいる女生徒の中の一人が、『1巻』2話で登場した悪役・木村くんという恋人が出来たことで、
もう今まで通りテキトーには遊べないと神谷に告げる。
その帰り道、神谷の頭には恭也から浴びせられた言葉が繰り返され、自分の空虚さに気づき、そして魂が抜ける。
木村くんは破壊神であり、そして大事な何かを気づかせてくれる男ですね(出番ないけど)。
神谷もまた初期のキャラを脱ぎ捨てた一人ですね。
恭也によって砕かれた彼の価値観。
それにより彼は本当に魂が抜けてしまって、
恭也と同じように、外見だけは神谷のまま、中身が一新されたバージョン2としてリプログラムされました。
抜けた魂の後に入ってきたのはエリカと恭也の悪友という心。
以後、自分は恋愛には一切かかわらずムードメーカーとしての役割を全うします。
少し冗長な感もあった神谷回はこれにて終了。
神谷回に面白さを見つけるとしたら、
恭也もまたエリカと出会ったことで彼の心に革命が起きていたが出来るところでしょうか。
1年生時にはクラスも別で、本物のカップルではなかったので一緒にいる時間も短かったが、
恭也も恭也のクラスや、自室で魂が抜けていたのかもしれないと考えると笑えますね。
恭也の場合は自分よりも圧倒的に下位の存在だと思っていたエリカが
自分の心を占め始めたのですから、魂が抜ける時の葛藤も凄かったでしょうね…。
まさに生まれ変わりでもしないと認められない価値観でしょう。
まぁ神谷よりも防御力が高そうなので他人に察知されるようなことはなかったでしょうけど。
またエリカと神谷の2つの事例を見る限り、
恭也と仲良くなるには、おバカなところを晒して恭也より下の存在であることを明白にするか、
しつこくアタックして恭也の黒王子部分を引き出すか、のどちらかが有効ですかね。
そして恭也は、どんどんと王子要素が無くなって素が出てきている気がします。
エリカや神谷の前ではクラス内であっても毒舌を発揮していて、
周囲の人も彼の意外な一面に気づき始めているのではないか。
彼もまた自分に嘘をつかなくなった。
残ったのは、ただの素直じゃない一人の男でした。
後半は2回連続で2人の誕生日回です。
エリカのことを素直に「好き」と言えない恭也は、母親の呼称を ママや お母さんから変更したいけど出来ない子みたいだ(恭也マザコン説 支持派)。
これまでの関係があって、今までの見せてきた性格も知っているから、急な進路変更は気恥ずかしさが倍増する。
一度 言ってしまえば、その後、段々と それが自然になってくるから問題は初回の勇気。
息子に お袋と呼ばれるようになった母だって 息子の機微を察して なぜ呼称を変えたのかなど聞いて冷やかしたりしないだろう。
ただ、エリカは母ではないので何度もしつこく冷やかしてくるんだろうが…。
後半の2つのエピソードは作者のコメディの技量が楽しめる作品。
笑いの後に胸キュンポイントが待っている。
この辺りから本格的に「恋愛サザエさん」がスタートした気がします。
少し残念なのは、「好き」がキーワードのエリカの誕生日会において、
本来の意味とは違いますが恭也が「好き」という言葉を使っているところ。
一日デートの後半戦、どこへ行くというエリカに、
「好きにすりゃいい 一日 時間 潰すんだろ」と言ってる場面に「好き」が入ってるんですよねー。
ラストシーンをあの形に持っていくなら、
「お前のしたいようにしろよ」とか言い換えて、
「好き」という言葉が禁句(タブー)のように作品内から徹底的に排除して欲しかったですね。
「好き」の後は鏡写しの「き好」、キスを巡る物語。
恭也が一人で葛藤していたエリカ誕生日回に続いては、
エリカが一人で混乱する恭也誕生日回です。
サプライズパーティーのために潜んでいたエリカの目前で、恭也と三田(さんだ)さん がキスをしてしまう大サプライズ。
恭也をまともにお祝いすることも出来ずに終わった その日からエリカは大混乱。
エリカが何に心を乱されたのかという点がラストで明らかになる。
作者は1話の構成が本当に上手いですよね。
コメディでありながら三田さんの横恋慕を心配したり、
それでいてエリカの本心は全然別なところにあって、
それをちゃんと恭也がフォローしてあげるという王道展開まで一気呵成に話が続く。
確かに恭也のイジワル成分は足りないが、これはこれで楽しいお話です。
本書自体もタイトルと登場人物の容姿以外は転生してると言っていいでしょう。
ちなみに三田さんが同じクラスに来たことで、
本当に ところてん方式に漫画から押し出されたのはマリンと手塚(てづか)。
後ろ姿で登場していたり、本編の外にいたりして忘れられている訳ではないんですけどね…。
最終盤まで割を食う、かりそめの友人たちです。
そして神谷といい三田さんといい、どちらの回でもラストシーンでは、
エリカと恭也のカップルを羨まし気に見ている。
少女漫画史上、最低ともいえる2人が紆余曲折を経てカップルになった訳ですが、
一歩ずつ着実に最高のカップルへの階段を上がっていっています。
幸福度は ずっと ナウピーク!