八田 鮎子(はった あゆこ)
オオカミ少女と黒王子(おおかみしょうじょとくろおうじ)
第6巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
明日から、楽しい楽しい夏休み! ところが佐田くんとラブラブしたいと思ってたら、突然佐田くんのお姉さん登場! 佐田くんに負けず劣らず強烈なキャラのお姉さんに、エリカもタジタジ…。しかも何の因果か、佐田姉弟と一緒に実家のある神戸へ行くことに!? ひとつ屋根の下で過ごせるのは嬉しいけど母親との初対面にエリカの緊張はMAX! 初の番外編も収録で読み応え満点!
簡潔完結感想文
- 夏休み突入と同時に恭也の姉が上京。弟の変貌に驚いた姉は彼女であるエリカに興味を持ち…。
- 誘われるがまま恭也の母と対面するエリカ with 恭也。久々の親子の再会は何をもたらすのか。
- エリカを守るためなら苦手な人混みも接客業もこなす恭也。転生した腹黒は ただの裏腹王子。
『天使なんかじゃない』を連想する『王子なんかじゃない』 6巻
『6巻』の内容は矢沢あいさんの『天使なんかじゃない』を連想する場面が多いです。
まぁ、私にとって『天ない』はバイブルなので、神のお言葉に掃除機のように引っ張られているのかもしれませんが…。
ざっと挙げてみる『6巻』の共通点は、
・彼氏と 離れて暮らす彼の母親との微妙な関係と雪解け
・両者を取り持とうと奮闘する へこたれない主人公
・失くしたネックレス
などでしょうか。そこかしこに『天使』の影が見え隠れします。
『6巻』は高校2年生の夏休み前後のお話。
全16巻と知っていて読むと、あと10巻で残り1年半なのはバランスが悪く思える。
後半の水増し感と、3年生でも遊び惚けているように見えた原因は、序盤のペース配分を間違えたことが原因か。
恭也の姉が初登場。
少し目つきが悪いところが似てますね。黒目が小さ目なのかな?
恭也(きょうや)に「陰湿」と認定されるほどの性格で、あの恭也が従順になる存在。
(反論するのは省エネ主義に反するからかもしれない)
これまでの恭也の恋愛観を熟知している姉は、
気まぐれで女性(エリカ)を振り回すなら気の毒だから早急に別れろと助言する。
それを「気まぐれじゃ」ないと やんわりと否定する恭也。
ハイ、恭也のズルいところが出ました。
相変わらずエリカ本人には言ってあげないんですね…。
そして読者に不器用な優しさと彼女想いをアピールするんですよね。
まぁ、恭也じゃないですが「好き」や「愛してる」を言う人ほど本気じゃなさそうな感じはします。
ただエリカは言って欲しい人だから面倒なんですけどね…。
そんな弟の本気の恋人・エリカに興味を持って電話を掛ける姉・怜香(れいか)。
怜香からの電話が鳴る場面、夏休みに突入した途端午前10時まで朝寝しているエリカが期待を裏切らず素敵です。
もう とことん普通の子、少し駄目な子を徹底して欲しいですね。
ちなみに一方、恭也は友人の健(たける)の家で漫画を読みふけっている。
こちらも行動や思想は とことん非モテ属性の人ですよね。
姉・怜香に呼び出されたエリカが一日中スイーツ三昧。
怜香と過ごす中でエリカは恭也の彼氏としての真摯な態度を少し盛り気味に話す
(ここら辺、オオカミ少女の名残が…。いや見栄っ張りなだけか?)
しかし怜香は昔の弟の言動を知っているが故に、彼の変貌を信じない(ちょっと盛ってるからね)。
そこで険悪になる2人。
そして女の対決の幕が切って落とされる…。
対決内容はデザートブッフェでの食べ比べ勝負。
結果は、一応のヒロイン・エリカがリバースして負ける…。
ちなみに怜香は食べても太らない体質と言っているが、それと大食いは別問題な気がするぞ。
この勝負でエリカの根性と、そして恭也の弟ではなく男としての一面を垣間見た怜香。
そして怜香はエリカを姉弟の母のいる神戸に連れて行くことを決める。
そういえばスイーツ店を何軒もはしごしたり、タクシーを使用したり、何かとセレブな姉である。
神戸編スタート。
エリカのお守りという大義名分を得て、恭也は親と久しぶりの対面を決意する。
そしていよいよ、恭也たちの母が登場。
恭也マザコン説をしつこく提唱している私ですが、冒頭から恭也が、
「…念のため言っとくけど」
「幼少の頃のトラウマとか 捨てられて憎んでるとか 仲違いで埋まらない確執とか
そういったもんは一切ないからな?」
とマザコン説が全否定するような内容で念を押されてしまった。
そうは言うものの、やはりトラウマや確執が ないとは言い切れない。
恭也自身は長らく寄り付かず、新たに引っ越した今の住居にも訪れていなかったのだ。
夫婦の別居が決まった時、恭也は諦念を見せ、シニカルな言葉を母に投げていた。
やはり別れて暮らすことになったことは、母と息子に大きな遺恨を残した。
(この場面、恭也の父が後ろ姿だけ登場。推定40歳前後ながら かなり若い後ろ姿だ)
エリカに出会って姉が瞠目するほど変わった恭也は、母との関係も変えられるだろうか。
そして子は鎹(かすがい)ならぬ、嫁(候補)が鎹になって親子を復縁できるのかが見どころ。
エリカは恭也の家族に挨拶して、結婚へ一歩近づいたと舞い上がってますが、
少女漫画で相手の家族に会ったら結婚する説、は私も推したい説です。
いつか親に会った場合と会わなかった場合の結婚の有無を数字に出して検証したいですね。
この再会によって恭也はマザコンを克服できたのでしょうか(マザコン前提ですが)。
エリカに対する独占欲は強くなった気がしますね。
でも、ちょっと前からエリカにかなり甘いので、大きな変化もない。
言うなれば、親孝行な反抗期の息子ってところでしょうか。
口では色々と文句や毒を吐くが、行動は優しい。
そう、もはや恭也は腹黒ではなく裏腹王子なのです。もう黒要素はありません。
『6巻』はエリカが困った時には、そっと恭也が助けに来るというパターンが続く。
これは意図した共通のテーマなのかマンネリのワンパターンなのか分からないのが、作者の実力を見定められないところです。
裏腹王子の活動内容としては、
・エリカには簡単に言わない大事にしている想いを姉に言ったり、
・エリカをお守りするためといいながら、久々に母に会いに行ったり、
・浴衣姿のエリカに可愛いと言えない代わりに、警護役を買って出たり、
・メイド姿っぽいコスプレで接客するエリカに対する客の視線に耐え切れず、自分が執事にコスプレする。
などなど、言葉には言わないけれど彼女に甘々な活動がメインとなっています。
エリカが色々と察さない、鈍感な人で良かった。
恭也の真意を逐一 察してエリカが幸せに満たされたら本当に甘ったるい お話になってしまう。
ちなみにエリカが混雑する花火大会会場周辺でネックレスを失くすお話、
ネックレスがゴミ捨て場にあるというのは、さすがに無理があるのでは…?
劇的な効果(特に、あの恭也が汚れを厭わず探してくれる)を生み出すためとはいえ、
ゴミ捨て場周辺にいた数秒でゴミの中にネックレスが落ちるとは思えない。
(人混みの中でネックレスが持っていたかき氷カップの中に入ってしまって、それを捨てたってことなのかな…?)
親に挨拶するという一大イベントも終えた本書。
あと10巻、どうお話を繋げていくのか…。