八田 鮎子(はった あゆこ)
オオカミ少女と黒王子(おおかみしょうじょとくろおうじ)
第10巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
佐田くんとエリカが温泉旅行に行くことに! エリカはワクワクしながら準備を始めますが、佐田くんは何だか落ち着かない様子…。と言うのも、2人がお泊りするのはこれが初めてだったのです。そして、旅行当日! 2人は温泉街を観光し楽しいひと時を過ごすのでした。しかし旅館に帰り、夜も深まるにつれて、何だかドキドキムードに…。そして就寝のとき、エリカにとって意外な展開が待ち受けていました。果たして2人の関係はどうなるのか…? その他にも、神谷くんの恋物語やエリカ達が3年生になったお話を収録しています!
簡潔完結感想文
- 恭也との一泊旅行。平常心を装う2人だが内心はパニック。パニックに弱い恭也は何と…⁉
- 気まずい状態に陥ったが、友人たちのアドバイスで話し合うことが出来た2人。これも幸せ。
- 3年生進級。進路問題に直面したエリカは周囲への聞き込みで皆が夢を持ってることに焦り…。
オオカミ王子の皮を剥げば 中から小心者のチワワが顔を出した 10巻。
『9巻』のラストで、商店街の福引で温泉旅行宿泊券が当たり、
恭也(きょうや)と旅行に行くことを楽しみにしているエリカ。
無邪気に はしゃぐエリカだが、恭也(きょうや)は当然2人で過ごす夜のことが念頭にある。
そしてエリカも実は平然を装っているだけで、緊張と覚悟をもって旅行に臨んでいた…。
ヘタレ王子、恭也 炸裂!
据え膳食わぬは男の恥 といいますが、
据え膳を食う仕草を見せることが恭也の恥だったようです…。
私の読み方だと、エリカへの想いが『8巻』あたりから受動態から能動態へ変わった恭也。
これまでは エリカがデートに誘ってくれたり、まとわりついてきたり、
能動態の自分を出さなくても2人の関係は成立していた。
だが、品のない言い方だが、性行為に関しては経験値の高い恭也の方が能動的に、エリカをリードしなくてはいけなくなった。
が、恭也の経験値というのは受動態以外の行為をしたことのない、いわば「素人童貞(神谷・談)」みたいなもの。
自分の欲望を さらけ出すことが苦手な男が、果たして能動的に動けるのか…?
という描写が実は性行為そのものよりも恭也の成長としては重要な場面だった。
が、動けませんでしたね…。
夕食も終わり、布団も敷かれて、本当に据え膳状態のエリカがいるというのに、
恭也は、寝ましたよ。
わざわざエリカがいる方向とは違う向きで布団に入って、
「…疲れた ねみィ」
何コレ⁉ まだ いたしてないのにセックスレス夫婦みたいな対応。
酷い。意気地なし。ヘタレ。口だけ ドS。素人童貞。
そういえば『8巻』で、自室で一緒にいるエリカに情動を感じた時も、エリカを帰して、自分は勝手に寝ましたよね。
能動的に動く勇気が出ない時は、とりあえず一回、寝る。
恭也の生態に新たな項目が書き込まれましたね。
少なくとも『8巻』からは1ミリも成長していない恭也。
彼の成長は いつ訪れるのか…?
未遂、というよりも不戦敗に終わった一夜。
行為に至らなかったことで相手と自分自身を傷つけた2人。
一歩、関係を進めようとしたことで、これまでのように無邪気な関係ではいられなくなってしまった。
気軽に連絡も取れずに こじれかけていた関係の修復の きっかけになったのは友人たち。
エリカには手塚(てづか)とマリンが、
恭也には神谷(かみや)と健(たける)が、それぞれ相談に乗ってくれる。
手塚とマリンが活躍するのは久々ですね。
エリカの自分のこととしか思えない相談事に、都合よく気付かないまま乗ってくれる二人。
2年間もエリカと恭也の関係を見続けながらも、何も察しないのは興味がないのか何なのか…。
けど2人の、動かないで不満だけを言う女性側を お嬢様と批判するのは意外な視点で気持ちのいい回答でしたね。
2人は今巻の後半で3年生に進級する際も同じクラスに配置されるし、高待遇なんだか冷遇されているのか よく分からない。
男子会では恭也のプライドを保ったまま恭也に行動を促す神谷がナイスプレー。
彼がメインになって動く中盤の一編は、一片も興味がありませんでしたが、
恭也の友人としてのスタンスは大好きです。
恭也に こうやって包み隠さず物事を話せる友人がいるということは彼の人生にとって本当に得難いと思う。
この後のエリカにもそうだが、弱い部分を見せることで実は生真面目な恭也は どんどんと楽になっていくだろう。
肉体関係が2人の仲を進展させる一つの要素ではありますが、
今巻では未遂に終わることによって2人の仲が深まるという逆転構造になっている。
問題から目を逸らさず、しっかりと話し合える関係になったことが嬉しいですね。
顔を真っ赤にして恭也に問いただすエリカも可愛いし、
そして、そんなことを言わせてしまったことを恥じて口を封じ、
自分の本心を、自分がエリカをどれだけ大切に想っているかを顔を赤らめながら語る恭也に成長を感じた。
能動態・恭也の完成も間近ですね。
ちなみにセカンドチャンスは大事な男友達に潰されます。
実は神谷が健を誘う、伏線となる一言がちゃんとあるんですね。
そしてラストは3年生へ進級。
主に高校生が主人公のことが多い少女漫画は、どこまで描き切るかという問題を抱えている。
1つは恋愛をメインにして、進路などの問題を織り込まない。
進路に触れないために3年生進級前に物語が終わることが多い。
2つ目が高校の3年間を描き切る場合。
この場合は、3年生に突入したら進路で悩み、また恋愛との両立も難しくなる。
まさか本書が2つ目のルートに突入するとは夢にも思いませんでした。
進路や勉強といった問題に着手するとは。
進路のことなど全く考えてない主人公が、周囲に聞き込みをすると
みな具体的な夢があって焦りまくる、というのは少女漫画あるあるですね。
ただ触れ方が本書らしい。
夢を明確に持たなくても悲観する必要はない、という同じ年代の人の心が軽くなるような言葉が載っている。
そういえば担任の北村(きたむら)先生が妙な存在感(若くてインテリ風イケメン)があったけど、
最後まで特に活躍の場面がある訳じゃありませんでしたね。
冷淡に見えて生徒思いというスタンスが見えてきましたけど。