《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

既読の少女漫画70作品の中で、当て馬の逆転劇は2作品のみ。勝率は3%未満。

花にけだもの(3) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
花にけだもの(はなにけだもの)
第03巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

「大好き」。…でもこの思いは届かない
キューちゃんがスクールリングを交換したのは「豹」ではなくて、「千隼」だった!!!
この恋、いったいどうなるの?
「好きな人とスクールリングを交換すると永遠に結ばれる」というジンクスがある蓮高。キューが初めて恋に落ちた「豹」は200人の女子中199個のスクールリングを集めてしまう超プレーボーイ。キューは、その豹とスクールリングを交換する…そう心に決めていたのに、リング交換式当日、豹は現れなかった…。
「リングの交換の相手は俺だよ」そういって、キューを救ってくれた「千隼」。ついに千隼とリングを交換してしまったキュー。そして二人は学校公認のカップルになったけど!?
それぞれの一途すぎる思いが交錯する第3巻!「人を好きになること」がこんなに切なく難しいなんて知らなかった…。

簡潔完結感想文

  • 擬似結婚式で花嫁を別の男に奪われ呆然とする遅刻男。これが両想いまでの試練?
  • 偽装交際でヤラセ写真を撮るはずが、本気の恋情に変化。ずっと千隼のターン。
  • 奇天烈なヒーローに紳士的な真面目男子が敗北するのは少女漫画あるある です。

1巻まるまる回り道をするだけの 3巻。

少女漫画における3巻は三角関係の始まり説、がまた実証された形となった。

ただし読者には両想いが確定しているので、いまいち盛り上がりに欠ける。
もしかしたら両想いなのに、すれ違ってしまう恋愛をドラマチックに演出したつもりなのかもしれないが、
本人たちが釈明するべき場面で釈明せず、流されるままで、流れに抗おうとしない姿勢の方が目立つ。

そして そもそも、この すれ違い自体が、ヒロイン・久実(くみ)が流されたままだから起きた事態と言える。
泣くほど好きな人がいるのに、告白が公開処刑になりかけた自分の窮地を救ってくれた人の案に全乗っかりしている。
それが原因で、一層 好きな人から離れることになっても、自業自得としか思えない。

なぜ、あの場で助けてくれてありがとう、でも私は豹(ひょう)君が来るのを信じてる、と言えないのだろうか。

だから『3巻』は自分の不幸を救ってくれた男性に一時的に寄りかかっているだけに見える。
両想い前の大事な時期に、ヒロインを男に頼るだけの弱い者として描いているから、カタルシスも消失する。

確かに回り道することにも意味はあった。
恋愛経験値が低いヒロインに、他の男に寄り道をさせることでヒーローへの想いとの違いを確かめさせた。
そしてヒーローの方は、出来る限りのことをしてヒロインとの再会をもぎ取る誠実な愛を見せている。

その意図は分かるのだが、よくよく考えると不自然な話の流ればかりが目につく。
運命という川に流され、互いに対岸に流れ着いてしまった2人。
だけど携帯電話の電話番号を知らないから連絡が取れない、という すれ違いの根拠は薄弱すぎる。
『3巻』では少なくとも1週間以上の時間は流れているのだ。
何かアクションを起こすには十分な時間なのに、何もしなかった彼らがいる。

再読・熟読すると穴ばかりが目立つ残念な漫画であることを再確認させられる。

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ヒロイン気質の男性が多いのは少女漫画あるある。ヒロイン同士の恋愛だから盛り上がらないのか…?

の巻に意味があるとすれば、三角関係に参入する千隼(ちはや)の紳士録だろう。
どんな場面でも自分の気持ちを制御して、密かに静かに相手を想う彼の姿だけが輝く。
『3巻』は千隼の良さをアピールする千隼のターン。

千隼の良さが出過ぎている一方で、矛盾も出てくる。
それが、ほぼ全女子生徒が豹を好きという、バカみたいな設定。
そうなると こんなに格好良い千隼を本気で好きになる人がいないのが齟齬になるのだ。

一応 言い訳として、千隼はガードが固いから気軽に遊んでくれる豹にリングを渡した人もいることになっている。
ただ、こうやって言い訳で綻びを塞ぐと、別の綻びが目立つことになる。

それが これまで遊びで女性と付き合う豹もまた遊ばれていたのではないか、ということ。
女性にモテて仕方ないのかと思いきや、女性側からも豹は軽く遊ぶには適当な相手と見くびられていただけだった。
豹が必死でリングを集めても本当の愛が見当たらないのは、誰も彼を本気で愛さないからでもあった。

千隼という真摯な愛を知る男の前では、豹の恋愛なんて押しつけがましく映る。


だし 千隼に穴がないかと言えば、そうではない。

それが『2巻』のリング交換式での対処。

全校生徒の前で公開処刑になっていた久実を助けるために、千隼は動いた。
彼は久実がリングを交換する相手が自分だということにして、その場を収めた。

でも、擬似結婚式とか永遠の愛とか この学校のルールを久実に教えた側の千隼が、
豹のことを好きな久実とリング交換することを選んだのかが謎すぎる。
その場の久実の窮地を救ったのかもしれないが、結果的に2人を追い込んでいる。
久実の純情を、賢明な千隼がこのように踏みにじるようなことをするかな、という疑問が湧く。

そして もう一つ気になるのが、リングを交換したことで この学校のジンクスが壊れたこと。
実際に彼らがリングを交換した場面は割愛されている。
もしかしたら交換していないのかもしれない。
だが、全校生徒の前で交換式に2人で臨んだのは確かで、ジンクスが嘘で汚された。
少女漫画におけるジンクスをもっと大事に扱って欲しかった。


た大きな間違いをしているのは久実も同じ。
土壇場で強さを見せるのがヒロインなのに、なぜか ここでは流されるまま。
久実は、なぜ偽装交際に対して、千隼に千隼に迷惑をかけると気を遣うばかりで、豹に対する罪悪感などを訴えないのでしょうか。

豹が他の女性と一緒にいるのを見るだけで泣くぐらい恋に敏感になっている人が、
何も言い訳をせず豹を傷つけて、他の男性と一緒にいることを選ぶとは思えない。
相手と言葉を重ねる場面がすくないのに、愛情だけ募らせていく2人だから共感ができない。

ここで千隼に強く拒絶の姿勢を示せば、自分を苦しめずに済んだのに。

この時の久実の気持ちを全く割愛しているから、彼女が曖昧になってしまう。
そして結果的に千隼をいたずらに傷つけることになるのも、久実が意思を貫き通さないからなのだ。


ング交換者は学校側に千隼との交際を証明しなければならず、証拠写真の撮影のため千隼の家に向かう久実。

そこに現れたのは、千隼の3人の姉。
この3人の姉が、久実に特別な表情を見せる弟のためにお節介を焼き、久実が巻き込まれる。

なんと千隼の姉に媚薬を飲まされる久実(ただのビタミン剤だが、久実が暗示にかかったという設定)。

ってか、ビタミン剤と誘導だけなら、ここの久実の言動は、彼女が淫らな一面を勝手に引き出してるってこと??
作者がヒロインを汚して楽しいですか?
エロ漫画描きたいなら、適切な場所があるだろう、と憎々しい気持ちになる。

ただし、ここで一つ擁護するならば、これは千隼の試練だということ。
性欲を掻き立てられるような事態でも千隼は理性を失わなかった。
それは『3巻』ラストにも通じる彼の精神力の強さだと思う。
自分が我慢を強いられても、彼女の安寧を優先する。それが彼の愛なのだ。

なぜ、姉たちが千隼の事情(自宅でのラブラブ写真撮影)を知っているのかは説明がないが、隠し撮りによって、撮影は終了。
どういう手法で写真を撮影したのかも説明がない。
もう考えたら負けなんです。雰囲気を感じればそれでいいのです。


実と千隼の既成事実だけが示され、一方的に豹が苦しめられていく。

表現が性差別的かもしれないが、豹は ずっと女々しい。
もしくは子供っぽい。
ママを探し回る5歳児にしか見えなかったり。
実際、女性を快くさせる以外、彼に長所があるとも思えない。
身体も精神も薄っぺらいのだ。
それなのに「君とじゃなきゃ恋も愛もいらない 誰にもわたしたくない」と言われましても…。
そして豹の妄信は狂気を感じる。

豹は、無言で無視され続ける状態になっていることに落ち込んでいた。
しかし それでも竜生(たつき)の保育園の子供に勇気をもらって前向きになることで、改めて久実と向き合う。
なんか豹の方がヒロインって感じがしますよね。
ただでさえフェミニンなのに、グジグジしていて、あんまり王子感がない。

豹の必死さって、走ることで表現されることが多いなぁ。
豹が走り回るしかないのは、なんと久実の電話番号も知らないから!
衝撃の事実です。
どうりで『2巻』で直接、久実と連絡を取らないはずだわ。

でも ここで発表することか?
『2巻』のリング交換式前で描写した方が、豹の焦燥に重なったような気がするが。


実が豹に説明しないのは喉の調子が悪かったり、高熱が出て5日も学校を休んだりと引き延ばされる。
熱で何も考えられないし、連絡先を知らないからメールすらしない。

5日目にしてカンナが見舞いに来てくれた。
友達がいなかったカンナはどう対応していいいか分からず躊躇して5日間が経過してしまった。
(その割に出会って2日でWデートするような関係構築してたけどね…)
そのカンナの気持ちに感謝して、久実は5個中4つ目のクマのぬいぐるみをカンナに渡す。


実は5つ目のクマのぬいぐるみを千隼に渡す。

2回目のWデートの予定は、今度は千隼と2人きりで1日を過ごすことになった。
千隼はデートに久実が喜びそうな場所を選び、そして彼女の本心を引き出す。
そうして久実は、豹に会いたい自分の気持ちと向き合うことが出来た。

この時に千隼が海を選んだのは、彼が水属性の人だからだろうか。
バケツの水、雨、涙から久実を守ってきた水の守り人だもんね。

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1巻分の尺を稼いだので、恋の邪魔者は撤退。まぁ このまま引き下がるとは思えませんが。

どこまでも彼女の背中を押す応援団なのだ。
ま、前述の通り、この騒動の一因は千隼にもあると思うのだが…。

『2巻』のリング交換式前のように、彼女の手を取って「行くな」と言うべき場面だが、
千隼は彼女を困らせるようなことはしない人。

この日のお礼のように受け取ったクマを握りしめ彼は何を思うのか。
折角、果たされた念願のデートだというのに。

イケメン三銃士の1人で、むしろヒーローよりも常識的で素敵な人だったが、
三角関係になる前に、自分から舞台を降りてしまった。

久実にとっては、千隼という男性を経由して、豹への気持ちを確かめる回だったが、
多くの読者にとっては、千隼の方に心を奪われてしまったのではないか。

千隼が強すぎて、相対的に豹の良さが全く分からない結果となった。