《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

「花に」嵐。君をその舞台に立たせるわけにはいかない。だって君が悲しむだ「けだもの」。

花にけだもの(2) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
花にけだもの(はなにけだもの)
第02巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★(4点)
 

「好きがほしい」大切な君からの「好き」が
学園一のたらしで、女の子への「恋愛感情」を持たない男・豹に恋をしてしまったキュー。
自分の気持ちを意識するものの、どうやって豹に接したらいいか、全く分からずに苦悩する日々。この恋は幼稚園児が東大を受験するようなもの。ハイヒールでチョモランマに登るようなもの。
豹くんの好きはみんなが好きで、特別なんかなくて。
そんなこと全然分かっているつもりだったのに、苦しくてたまらなくなってしまったキュー。
そんなとき、新たにキューの前に「千隼」という男の子が現れる。彼の存在がキューの胸に深く入り込んで…。

簡潔完結感想文

  • 水、雨、涙、ヒロインの顔を濡らすものから守ってくれる第3の王子・千隼。
  • 文化祭はコスプレ回。自分の仕事を放棄して愛の逃避行をする男って素敵?
  • 愛のリングを交換して全校生徒の前での擬似結婚式。…のはずが公開処刑

人と違うことをすれば、それが個性になって注目される 2巻。

中学生または小学生、雑誌読者の年齢層にしか見えない高校1年生のヒロイン・久実(くみ)が、
色気をまき散らすイケメン同級生に溺愛される夢見たいな作品の『2巻』。

早くも2人の愛はピークに達し、学校イベントの擬似結婚式にまで至る。
が、出会って数時間で互いに惹かれた2人にドラマや歴史がないから興味が持てない。

特に女性関係が乱れているヒーロー・豹(ひょう)が久実を本気で好きなのかが どこまでも怪しい。

豹が言う久実の特別性は全て「目新しい」とか「物珍しい」いう言葉に置き換えられる。

例えば彼女が転校生であること。
(大雑把に言えば)田舎から出てきて久実は、港区青山では珍しい存在。
そして背の低さや お子様な体型も、一様にモデルのようなスタイルばかりの女子生徒の中では目立つ。

また、豹が久実を特別視するのは、彼女が自分に「キライ」と言ったからである。
これは理想の王子像を豹に託していた久実が、学校生活における豹の「タラシ」ぶりに幻滅して言った言葉だ。

でももう この時点で、久実は豹のことを好意的に見ているのでモブ生徒と変わらない。
久実は、豹を好きな199人の頭が空っぽな女子生徒と比べると、奥手だっただけの話。
たった1人そんな人がいたのなら 目新しく思うのは当たり前なのだが、
本書では それを「はじめての 恋」と呼ぶ。

それは久実の側も同じ。
彼女の恋は、豹に優しくしてくれた思い出を根拠にしている。

だが この『2巻』で久実に優しい男性キャラ・千隼(ちはや)が彼女の前に現れた。
彼が出てきたことによって私には久実が豹を好きになって、千隼を好きにならない違いが全く分からなくなった。
あるとすれば出会う順番が違ったことぐらい。
それは運命と言えば運命なのだが。

それでも総合的に見てタラシでセクハラ三昧の「けだもの」には、百年の恋も冷める。
それなのに久実は豹を妄信し、出会って6日で泣けるほど愛おしい。

恋愛の前提が弱いから、物語に没入できず、用意された展開が続くのを眺めるだけとなってしまう。


校から5日目、豹と出会ってから6日目。
豹が女の子たちに囲まれてるのは いつものことで、
見てたって全然 平気だと思っていたが、恋を自覚してから久実の涙は止まらない。

そうして泣いていれば助けに来るのがヒーロー。
久実を心配し、新しい制服を自分に最初に見せてと願いごとをして立ち去る。
非行を改めずヒロインを泣かせたヒーローが助けに来るのはマッチポンプである。

この時点では豹はまだ自分の周囲に女性をはべらせているが、
数日後に彼は「はじめての 恋」を見つけたから、それを止める。
色々と詰め込み過ぎだ。
展開の早さ や分かりやすさ は売りの一つなのかもしれないが、彼らの感情を全く追うことが出来ない。

本書は善や悪などがハッキリしている親切設計だが、あまりにも物事が単純化され過ぎていて、人の機微が入り込む余地がない。


デート(『1巻』)の翌日に登校してこない竜生(たつき)を心配して見舞いに行く久実。
(愛しのカンナさん とのデートをした緊張が続いて、まだお腹を下しているらしい)

彼女がたどり着いたのは、竜生の実家でもある保育園。
ちなみに普通の住宅地の普通の保育園に見えるが、場所は港区である。

そこで久実と千隼(ちはや)が初めて出会う。
目の前に現れた久実が、子供たちに水を掛けられてずぶ濡れなことを心配する千隼。
久実は自分のことよりも、子供を笑顔にすることを優先していた。

濡れたままの久実に千隼は自分の服を差し出す。

この場面、久実と豹の初めての出会いの場面と共通項が多い。
あの時は意味もなく豹が濡れており、半裸だった。
だが今回は久実が濡れていて、千隼が服を脱ぎ半裸になる。

言葉は鋭いが、千隼は人のことをちゃんと心配できる度量の広い人。
そして千隼は「水」から久実を守る役目を担っている。
『2巻』だけでも久実がバケツの水を被ったり、雨に降られたり、
目から涙が出たら、それから彼女を守るように行動する、水属性の人。


しい制服を豹に見せることが嬉しくてたまらなくて、始発で登校した久実。
密会場所は初めて出会った学校内の豹の隠れ家。

豹もまた近道をしてでも彼女に会いたくてたまらない。
しかし 制服姿を褒めたり、身体を密着してネクタイを結んだり(胸も揉んでいる)する姿は、
全て久実に好きと言わせるためのサービスのように映る。

実際、その通りであって、
久実に自分が好きか問うても、同じ「好き」ではないと彼女が頑なな態度を取ると彼は「豹変」する。
久実をソファに押し倒して「全然わかんねーよ」と興奮する。

これはWデートで久実が観覧車の中でパニックになったのに似ている。
『好きっていいなよ。』と水を向けても、全く言わない前代未聞の久実を理解できなくて頭が混乱したのか。


し倒している場面を教師に見られたから、文化祭実行委員に2人が選ばれる。
(教師にはイチャイチャとして処理される)

だが これまで文化祭には不参加で、今回も用事で抜け出す豹に代わって、雨の中、作業をする久実。
そんな彼女を発見し助けるのは水の守り人・千隼だった。
学校内で初対面。

ちなみに1年生の彼らが豹は文化祭不参加が恒例という認識だってことは、この学校は中高一貫校なのだろうか。
そんな説明や描写は一切ない。
作者の脳内設定を読者が補完してあげなければならない。
(『5巻』などの情報だと、豹は中学は別だと推察される。意味わからん。)

そこで再び千隼との交流が重ねられ、千隼が本来のデートするはずの相手「クマ女」の正体を知る。
そして久実もデートの相手が千隼であることを知った。


は用事を済ませ、学校に帰ってくるが、そこで久実が千隼といる場面を目撃する。
ここで豹が久実たちの前に現れないのは、なんでなんでしょう。
千隼と豹は中学生以来の知り合いらしいから、顔を出しても問題はない。
だが彼は隠れるようにして彼らを監視するだけ。
もしかして、この学校で女子生徒が自分以外の男子生徒と話すのを初めて見たのだろうか??

しかし帰還を久実に告げないのは身勝手である。
豹は自分の都合で動き、説明不足で相手を振り回している自分に気づいていない節がある。

だが久実は万が一の豹が戻ってきた時のために手紙を残していた。
この配慮に豹は、「ああもう参ったな キューちゃん(久実の愛称)が好きで たまんないよ」だそうだ。

これ以降、豹は更生する。
この場面が「はじめての 恋」の最後の一押しだったらしい。


実は文化祭に向けて実行委員としての仕事に専念する。
だが、助けが必要になった際に、女子生徒に声をかけても応えないどころか、突き飛ばす。

そんな彼女を学校のベスト3(豹・千隼・竜生)の男子が助ける。
分かりやすい構図ではあるが、安易で浅はか。
全体的に久実が特別に善良なのではなくて、モブ生徒が劣悪なだけではなかろうか。

ちなみに豹の手伝い方はコレである。

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イケメン無罪? いやいや おぞましい。久々に読むと頭が悪くなりそうな漫画だと思った。

気持ち悪い。人として壊れている人をヒーローにしないでほしい。

しかも この1ページ後に真面目な顔して豹が言うのは
「キューちゃんの『好き』とオレの『好き』が同じだって 一緒なんだって証明したいんだ」ですって…。

勝手にキスをして胸を触って顔をうずめる相手と「好き」が同じ方が問題だよ!
ねぇ、読者にもキャラを好きになって良かったって思わせるような疑似恋愛をさせてよ…。


化祭で豹が「本当に好きな子」とリングの交換を計画している噂が学校中を駆け巡る。
その前準備として、これまで収集した199個のリングを女生徒に返却しているらしい。
数字で築いた豹の地位を、生まれ変わるために放棄する。

ここでようやく この学校における「スクールリング」のジンクスの見返り部分が発表された。
何でも「好きな人とスクールリングを交換すると 永遠のカップルになれる」らしい。
なぜそれを『1巻』で言わないのか。

そして199/201人の女子生徒は豹のリングと交換する未来を期待して、自分のリングを豹に差し出していた。
豹がリングを集めたのは「永遠の愛を持つ このリングを たくさんあつめたら どうなるんだろう」
「何かが はじまるかもしれない」という自分の渇望を満たし得る物だと思ったから。
「でも リングはただ冷たく リングのまま」だった。

そんな彼を変えたのは久実。
「小さな体に色んなことをつめこんで ひとりで乗り越えようとして
 全然 オレのことなんか 好きになってくれな」いから、他の女性と違うらしい。
少なくとも199人とは違う、特別なひとり、「はじめての 恋」。

うーーーーん、豹も作品も空っぽである。

まるで これまでの女生徒の空虚のような言い分だが、
豹が女性に対して真摯に向き合わなかった結果でもあるのに。

読者の私は言いたい。
豹がどんなに綺麗な言葉を並べても、私の胸は満たされない。
それは借りてきた言葉のように、表層的なもので、そんな浅い設定で私は騙されない。
彼が100回、久実のことを好きだといっても、特別にはならないことだけは分かる。

更生後だというのに公開セクハラする男を私はヒーローと認めない。


うして迎えた文化祭当日。
デートクラブという下品極まりない出し物の目玉になる豹。
だが、彼は女生徒の予約を勝手にキャンセルして、久実を選ぶ。

描きたいことは分かるが、豹の自分勝手さと無責任さばかりが目立つ。
結局、今年も気分のままに不参加になっていることには変わりないじゃないか。

少女漫画における文化祭は80%の確率でコスプレ回になるのがお約束。
カンナ以外の主要キャラのコスプレを拝めて読者は眼福、といった感じか。

それにモテモテで学校内で息つく暇もない豹と久実が一緒に過ごすには、コスプレしかなかった。

そこで久実は、豹がリングを返却してることを知り、
そして交換式で自分のリングと交換することを願っていることを知る。
実質、両想いが完成しますが、
けれど まだ久実が豹に好きって言っていないので、両想いは持ち越されます。

そしてその舞台となるはずだったのがリング交換式だったのだが…。


一切そんな描写はないのに、「学校中の女からいじめられて」いる設定だけが独り歩きしているカンナ。

そんなカンナが竜生の一生懸命さに ほだされる場面は好きだった。
本当はお腹がいっぱいなのに、自分を助けてくれた竜生にラーメン一杯分の感謝を示している。
久実の場合も、こういう小さな描写を積み重ねれば良いのに、わざとらしい場面が続くから冷める。


の学校において「リング交換式」は擬似結婚式みたいなものらしい。なんじゃそりゃ。
「このイベントでリングを交換したふたりは 全校生徒学園公認のカップルになって
 外野はもう そのふたりには 誰も手ェ出せな」くなるという。

要するにリングさえ交換すれば、愛は永遠で、199人の女子生徒たちから逆恨みされることもないのだろう。
ただ この学校の苛烈な女生徒たちが、そんな不文律に縛られるとは思えないが…。

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水の守り人である千隼は、久実がこれ以上 涙で顔を濡らさないように、現実を教える。

会場に向かおうとする久実を千隼は心配する。
彼は豹が生まれ変わることを信じてない。
豹には恋愛感情がないと疑っているから豹と恋愛するには まず恋愛感情を教えなければならないと忠告する。
それがどれほど難しいか久実に教えるが、そんなことで彼女は止まらない。


強い気持ちでリング交換式に臨む久実だったが、豹は事情があって外出していた。
久実は その事情を知らないまま、体育館の壇上で30分以上、豹を待つ。
(ここで豹が直接 久実と連絡を取らないのは、電話番号を知らないからということが『3巻』で判明する。
 そういう大事な情報を書かないなんて情報の取捨選択を誤っているとしか思えない)

公開告白、擬似結婚式のはずの幸福なイベントは一変、公開処刑になってしまう。

久実を特別にするために人権を与えられなかったモブ生徒たちは次々に久実を口撃する。
選ばれた5人の登場人物以外、だいたい悪者。
こういう分かりやすい二分法は幼稚だとしか思えない。

そこに駆けつけるナイトは千隼。
ただし騒動の収め方が雑である。

久実の気持ちを知っていて、まるで彼女が千隼を好きと受け取られかねない言葉を発している。
次巻の展開のためなんだろうけど、千隼にしてはスマートじゃないのが気になる。