《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒール役に大暴れしてもらうことで、何とか主役カップルが まともに見える錯覚トリック。

蜜×蜜ドロップス(4) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
蜜×蜜ドロップス(みつ みつドロップス)
第04巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

千駿のワナを乗り越え、ハニーアンドマスターとして進級した柚留と可威。ところが、そこに待っていたのは顔良し、頭良し、なんでもできる可威の許嫁・茅架(かやか)が千駿の「HONEY」として九華科に転入してきた事実!しかも、柚留に宣戦布告。そのうえ、千駿がお互いの「HONEY」を交換しようと提案して!?

簡潔完結感想文

  • 愛されヒロインを快く思わない同性ライバル登場。この子を無自覚に傷つけるのはヒロイン⁉
  • 可威を愛する千駿と茅架を外道にして、相対的に柚留が良い子に見えてくるが 騙されないぞ。
  • 開催目的が不明の、誰も幸せにならない2度目のDROPゲーム。頑張った分だけご褒美が待つ。

ーローが自分の欲望を満たしていないから これは純愛!、なわけない 4巻。

男性から女性への酷い性暴力ばかりの本書ですが、
ヒーロー・可威(かい)が弁明できる道が一つだけ残されている。

それが決して自分の身体を触らせない、という点。
同意のないキスから始まり、何かと言っちゃヒロインの下半身を まさぐってきたヒーロー。

だが その一方で彼は、自分の快楽を相手に要求していない。
逆に柚留に愛撫させたり、または本当に性行為をすることも可威には可能だった。

それをしなかったのは、可威がヒロイン・柚留(ゆずる)を大事に想っていたから。
そう言えなくもない。

いやいや、騙されてはいけない。
行為の大小を問わず、性暴力は性暴力なのである。

以前も書いたが、可威をセクハラ野郎の立場に堕としてしまったのは作者の大失敗だと思う。
同意が成立する前の恋愛空白区に、どうエロ描写を入れるか、が作者の課題で、
そこで可威にセクハラ野郎と、柚留を助けるヒーローの2役を担ってもらったのだろう。

作者が いくら愛あっての行為と思いながら描いても、客観的に見れば性暴力でしかなかった。
最初に しっかりと客観性を保てなかったことが作者の未熟さだろう。


して いよいよ両想いという場面でもヒーロー・可威は煮え切らない。

これは自分が言いたい事だけを言って、
相手の欲しい言葉を言わない、という彼の青臭い真っ直ぐさの表現なんでしょうか。

次の『5巻』まで読むと可威にとってHONEYこそ一番大事なものだ、というのは分かるのだが、
それを相手に伝えずに自己満足に浸って、
同意もなく性暴力から関係を始めるから、もう理解不能な話になってしまった。

そして決定的な言葉を言わないから、なんだか可威が結婚詐欺師のような状態になっている。
女性を有頂天にさせるようなシチュエーションを作り出すが、
言質を取らせるような言葉や、具体的な約束はしない。
女性が持っているものを全て搾取して、
美味しい蜜を吸い終わったら、逃げ出しそうな卑怯さが漂う。

全てはヒロインの柚留を不安にさせるためなんだろうけど、
結局、柚留は可威に本音を聞き出せないまま、彼が自分から遠ざかるのを阻止するために、
身体をなげうったように見えてしまう。

出来るだけ先延ばしにした待望の場面だったのに、
気持ちが充分には満たされないまま、事態が進んでしまったのが残念。

ちょっとずつ作品や作者と波長が合わない。


して巻が進むほどに、不自然さが際立つ。

柚留は 何となく好かれているという印象だけで下半身を触らせている関係。
そして彼女は支配欲だけは強い男性に従順に従ってしまう。
そこに愛があるかもわからないのに。

初めての女性のライバル・茅架(かやか)には、可威に気にかけてもらうためだけに心臓病が課せられる。
少しでも柚留と可威に障害を増やすため、人を病気にしていく安易さを軽蔑する。

そして心臓病からの回復をアピールするための茅架の運動シーン。

彼女の強がりの表現でもあるんだろうけど、
後に登場する手術へ臨む彼女の経験を考えると、ちょっと整合性が取れていない気がしてならない。
とても不安の中で手術を経験した人の行動ではない。
心臓病設定は、茅架が作品に遅れて参戦するのと 早めの退場のために必要だったのだろうか。

彼女でもないのに彼女ヅラ。しかも男の権威を笠に着て自分まで偉くなった気でいる勘違い彼女。

そんなライバル・茅架が言う柚留の短所は いちいち的を得ているから、柚留に反論の余地はない。
柚留は、可威のHONEYとして役に立たないことの反省を口にするが、
それが改善された様子が全くない。

今回で2年生に進級し、柚留のHONEY就任から半年以上すぎている。
なのに基本的な事が出来ないまま、可威の近くにいる権利だけを有している状態。

そりゃ千駿(ちはや)も茅架も、彼女を いたぶりたくなりますよ、と彼らに共感してしまう。
読者の分身であるヒロインが無能なままで全く清々しさがない。

不自然さといえば、可威が茅架に自分からキスをした、という状況と その真相も変だ。

描写されているコマの、柚留側の視点からいえばキスしているようにしか見えないが、
それなら その後、1秒も満たない間に茅架が手で可威の顔を押さえている場面も見えるはずだ。
茅架の腕が動いたことを見ているだろうに。

柚留にショックを受けさせるためだけに、見える場面、見なかった場面が不自然に選別されていく。


校行事・スポーツテストの際に、千駿は可威とHONEYの交換を提案する。

ここで疑問に思うのが、だれもが この狭い世界でしか生きていない点。
もし可威が本気で柚留と一緒にいる事を望むのなら、その形式は学校外にも色々あるだろう。

可威が本気になれば、柚留がHONEYでなくなって、一般生徒に戻っても柚留と会う手段を作れるはず。
というか、本気ならば そのぐらい やってみせろ、と思う。
学費の問題で柚留をこの学校に縛っているが、柚留が公立校に転校するなどの手段は残されているし、
そこで学費の問題にぶつかるなら それも2人で乗り越えればいい。

HONEYがMASTERの恋人である例は多いが、HONEYじゃなくても恋人にはなれるはずだ。
柚留も含めて特権階級にしがみついている感じがいやだ。
生きる事を許された世界が狭すぎる。


学校内のどこでも発情する可威。
でも この頃になると、さすがに性暴力というよりは恋人同士のプレイには見えるようになっている。
何といっても柚留が この状況を望んでいるもの。

だがセクハラを全て帳消しにするのが、
柚留がスポーツテストで計れなかったタイムを一緒に計ってくれる、というのはダサい。

これは可威が柚留をちゃんと見てくれているという証明なのかもしれないが、
茅架とのキス問題や、可威の煮え切らない態度という問題を それで先送りにしてしまう展開が残念。

全ては柚留の頭の中が残念仕様だからいけない。
話し合う、情報を共有するといった基本的な事が、2人きりになると お互いに発情してしまい不可能になる。

ある意味で問題を解決できないのは2人の性欲が強すぎるから と言える。


留を良い子にするために、茅架の性格が どんどん歪んでいく。
茅架は本当に不憫なキャラクタだ。
本人も最初に登場した時は こんな展開が待ち受けているとは思ってなかっただろう。

そんな中、行われる2度目の「DROPゲーム」。
その目的も、誰も望まない結末が待っている事も知りながら、なぜ開催するのかが謎。

しかも ほとんどの生徒にとっては最弱生徒・鳥兜(とりかぶと)を標的としたイジメみたいになっている。
自分の学園生活の平穏を確保するために開催している趣味の悪いゲームと成り果てている。

柚留は相変わらず口だけで何も成長しない。

「バスケの練習めちゃめちゃ頑張るよ…!!」
と言っていた柚留だが、本番当日に、
「あたしバスケ ヘタなくせに なんで もっと練習しとかなかったんだろう」
と言い出す始末。
あんたは、本当に何事もやり遂げられない人間だよね…。


駿の計画で、鳥兜に協力助っ人(バスケ全国大会優勝者)を用意して勝ち抜けさせる。
ってか、そもそも無差別格闘バスケではあるものの、こういうMASTERとHONEYの連帯感すらない手法はアウトじゃないの。
こういう そもそもルールのない設定に抜け道を用意するのが生理的に許せない。

これで、この学年史上初めて 鳥兜以外の どこかのチームのHONEYDROPすることになった。

だが柚留は、茅架の体調などの背景を気遣って、彼女には先に勝ち抜けしてもらう。
それは可威も同じ気持ち。
なんて心の清らかな人たちでしょうか。
もう汚名を返上するのは、遅きに失しているけど。

試合前には茅架が倒れたという情報が届き、柚留は可威を茅架の元に送る。

こうして茅架が徹底的にヒールになることで、相対的に柚留が良い子に見えるように仕向けている。
これは千駿が悪い人になることで、可威が良い人に見えてきたのと同じ手法。
あんまり価値のない人を、周囲が悪人になることで立派な人に見せているだけ。

茅架という同性ライバルには徹底的に優しく接することで、男性からの好感度を上げる小悪魔テクニック。

して茅架が倒れたというのも千駿の計略。
茅架を保健室のベッドに手錠で繋ぎ、その鍵をブラの中に入れるという悪趣味な手法を取る。
予想に反して助けに来た可威に対して茅架は、その気持ちを繋ぎとめるために、可威に鍵を取らせる。

お得意の片手ブラ外しを披露しつつ、可威は茅架の手錠を外す。
そして茅架は可威・柚留組を不戦敗にするためハニートラップのように可威を引き留める。

千駿はまたもルールを改変し、連続して可威チームの試合をする。
前のDROPゲームの時といい、なんで千駿の要望ばかりが通るのかは謎です。
他の男子生徒が千駿の味方をしているのも、心の動きが分からないなぁ…。

でも卑怯な策略に負けずに、柚留は戦い切ったという初めての実績が出来る。
そして可威もまた、彼女のピンチに駆け付けることで男としての株が上がった。

色々と謀略が渦巻いていたゲームですが、ここでの一番の狙いは、この色欲カップルを少しでもまともに見せる事であろう。
ということは一番の策士は作者という事になる。


うして人並みの努力を果たして困難を乗り越えた末に、2人は結ばれる。

別に劇的な展開があった訳でもないし、気持ちが通じ合った訳でもないので、
勝利の喜びの勢いのまま、ベッドになだれ込んだだけ。
両想いというよりも、可威の我慢の限界がきた、という消極的な理由に見える。

上述の通り、可威は煮え切らず、
手放したくない、お前の全てを手に入れてぇ、というのが最上級の言葉。
柚留にとっては それでも満足みたいだが…。

性描写は長めで、これまでの淫靡さはなくなり、甘美さが強調されている。

一つになった後、可威は柚留に卒業後もHONEYであると告げる。
これは一種のプロポーズである。
可威は世界一のロマンチストなのだろうか。


そして2人が結ばれた現実を、茅架は その目で見てしまい 彼女は堕ちる。
一段落ついたと思ったが、波乱はまだまだ続くようだ。

それにしても柚留は茅架に彼女が傷つくような場面ばかりを見せている。
柚留のような人は、自分が傷ついたことばかり覚えているんだろうけど、
自分が それ以上に相手を傷つけていることには無自覚なんだろうなぁ。

まぁ 可威の部屋での情事を見られたのは さすがに予想外だったとは思うが。