小村 あゆみ(こむら あゆみ)
ミックスベジタブル
第2巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
「寿司屋が目的でオレとつきあったんだ」 寿司職人になりたくて、寿司屋の息子・隼人とつきあった花柚。でも、一緒にいることは、そんな目的を忘れるほど楽しかった。それなのに…。花柚の目的を知った隼人の反応は?
簡潔完結感想文
- 一番大事なのは彼ではなく彼の家柄。そのことが彼に露見した途端、彼が豹変して⁉
- 大事な人を守るために自分が犠牲になることを厭わない似た者同士の2人。回りくどい。
- 花柚の思い出の卵焼きの再現を試みる隼人。試行錯誤と試食を繰り返して料理漫画っぽい。
落下エネルギーだって 2人なら上昇する力に変えてみせる 2巻。
何の話かというと、この『2巻』で私が一番 驚いたシーン。こちら ↓ です。
何とこのシーン、上から飛び降りて落ちてくる彼女を下で受け止めるのではなく、上に押し返しているのだ。
…えっと、どんな力学が働いているんでしょうか?
少年漫画のような大変動きのあるシーンなんですが、
まさか少年漫画でしか見られないような救助方法まで出てくるとは思いませんでしたね。
私の脳内では枕ぐらいの大きさや重さならそんな芸当も出来そうですが、
羽毛布団ではもう押し返されるビジョンが浮かびます。
男の隼人(はやと)にとっては、落ちてくる花柚(はなゆ)の体重は羽みたいなもんだったんでしょうね…。
…と、いきなり揶揄するような感想文になってしまいましたが、
私はこの場面が『2巻』を象徴するようなシーンだと思います。
寿司職人という目標に向かっていた花柚が、
自分の置かれた立場に苦しみ、夢を諦めかけて、精神的に落ちていく。
そこに手を差し伸べたのが隼人であった、という構図に共通点を感じます。
ちなみに私は学校の授業風景と恋愛と料理、一番バランスよく配置されているのが『2巻』だと思います。
『1巻』の感想文でも書きましたが、私としては、もう少し高校生活をエンジョイしてほしかった。
さて冒頭、やや不自然な流れで花柚が隼人に近づいた目的が露見する。
『1巻』のラストの花柚の言動に落ち度はなかったと思うが、なぜか隼人は一足飛びに花柚の真意を理解する。
一足飛びというのも本書の序盤のキーワードのような気がしますね。
寿司職人になりたいから寿司屋の息子である隼人に近づいた。
この一足飛びとしか言いようのない思考、私にはついていけませんが、隼人はついていけた。
なぜ隼人は花柚が直接 言葉にしなくても彼女の思考が理解できたか。
それは隼人もまた同じ種類の人間だったからである。
そして それを知った隼人は突然 豹変する。
全体を通して読むと この豹変、意味ありましたかね。
インパクトはあったけど。
インスタ映えを狙っただけで味を重視していない料理というところでしょうか(無理な例え)。
まぁ、これも伏線というか、意味のある行動で、
次の回で花柚は隼人の言動の真意(花柚が自分を責めないために隼人が嫌われ役を演じた)を掴むのですが、
どちらにしろ花柚が傷ついているのだから、あまりスマートな方法とは言えませんね。
2人とも自分の夢のために相手と結婚するという壮大で迂遠な計画といい、スマートじゃないんですよ。
そして結局、結婚の計画が上手くいっても家業を継がないという結論は同じなんですけどね。
自分も家族も傷つけたくない、そこからの逃避の方法だったのでしょう。
そんなことは高校1年生の彼らにだって重々分かっているところだろう。
ではなぜアプローチの方法が限られているのか、が彼らの背景に問題として扱われる。
そして花柚の家庭の事情が明かされる。
家族に対しても歯に衣着せぬ言動をしている花柚が、なぜ家族に自分の夢を言えないか。
それは親の期待があること、そして大好きな弟の夢を応援するためであった。
花柚もまた大好きな人を守るために自分が役目を背負うことにしていたのだ。
花柚と隼人は思考が似た者同士ですね、ホントに。
そんな花柚の、半ば自分の夢を封印していく姿を見て、隼人は叱咤激励するのだが…。
恋愛面では、お互いの隠し持った私心が明らかになって一旦 全てがゼロになります。
かりそめの交際から始まって、隼人の人となりを知って惹かれ始めたところで手痛い仕打ちが待っていた。
傷つけられたと思った隼人は実は自分を守っていてくれており、
その優しさに気づいても、もう交際は終わってしまい、行き場のない想いだけが花柚の心に残る。
順序や思考としては滅茶苦茶な嫁入り計画であったが、
この辺りの花柚の苦しみに繋がるのはいいですね。
自分も初めは相手を騙して接近したのだから、相手に縋りつくことも出来ない。
ただのクラスメイトとして接しなければという新しい制約が花柚に出来てしまう。
なんだか生き辛い人である。
料理漫画としても、本領を発揮する『2巻』だと思う。
特に後半、花柚の思い出の味を再現する、ってのも料理漫画の醍醐味ですよね。
花柚は、生涯1回しか言ったことのないお寿司屋で(それで寿司職人を目指しているのだ…)、
寿司職人が出してくれた卵焼きの味を今でも追い求めている。
それを知った隼人は寿司屋の息子として、花柚のために数種類の卵焼きを作って、
徐々に彼女の思い出の味に近づけていくのだが…。
この回は構成も とても良いですね。
最初にベタな展開を消去しておいて、意外な結末に持っていく。
そして思い出の味が再現されたことに驚いた2人は手に手を取って、ある所に向かう。
この場面で、お話の舞台が高校からお店に代わったような気がしますね。
好きだったんですけどね、高校編。
もうちょっと色々な料理に挑戦している姿を見せて欲しかった。
こういう、学校での料理シーンは貴重ですね(物語の後半は少ないので)。
彼らは調理科なので一層 真剣なんでしょうけど、調理実習などの楽しい雰囲気が想起されます。
本書は もうちょっと学校シーンが上手くミックスされていればベリーナイスだったんですけどねぇ。
一方、驚いたのは、隼人がケーキを作ったことがないという事実。
ここは花柚が隼人にケーキ作りをレクチャーする場面なんだろうけど、
パティシエになりたいと口ばかりで、何の知識もない隼人には幻滅。
しかもケーキ屋も男一人だと入りにくいとか言ってるし。
あんた、口以外で動いたことあんの?と憤慨してしまった。
(花柚も上記の通り寿司屋に1回しか行ったことないし…)。
感想文最初のシーンといい『2巻』は動きのある絵が多いですね。
野球シーンもそう。
色々な動きにチャレンジしている姿勢は好感が持てます。
ただ気になったのは『1巻』よりも『2巻』の方が、
絵がセリフから浮いているなぁ、と思う場面が多かったところ。
無駄に格好をつけていたり、表情が大袈裟だったりするシーンが散見された(特に隼人)。