小村 あゆみ(こむら あゆみ)
ミックスベジタブル
第4巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
「お前のことホント頼りにしてるし信じてるし――」 寿司屋で修業を始めた花柚。今度はパティシエになりたい隼人を応援する番。なのに隼人の夢は…。恋人未満の2人の関係はどうなる? しかも超怖い松坂先生の意外な恋も発覚!?
簡潔完結感想文
- 隼人がパティシエを目指す理由を秘密にすることにショックを受ける花柚。なら料理対決だ!
- 花柚たちの周囲で恋の花咲くこともある。かつての先生と生徒も、今は一組の男女となった。
- 隼人を心から応援して隼人の夢の実現に環境を整える花柚。だが当の隼人は頑なでそっけなく…。
大好きな人たちを応援し続ける 過保護な 4巻。
主人公・花柚(はなゆ)の寿司職人への道筋がついたので、
次は隼人(はやと)のパティシエの夢の一歩を踏み出す番かな、と思っていたら
『4巻』は全体的にサブエピソードが多かった印象です。
最後の最後で ようやく本題に戻ってきました。
熱い物語や正面からぶつかってばかりだった『3巻』から一呼吸 置くという意味もあるのでしょう。
読み易い内容の反面、感想文として思いつくことも少なめです。
自分の次は隼人の番と意気込んでいるのは花柚も一緒で、
彼のことを様々な角度から応援し続けていく。
中には隼人の実家の寿司屋で働く お兄さんのような存在の寿司職人の恋を応援することが、
「大事な人に夢を反対されて傷ついている姿を 隼人に見せ続けることにならなくて よかった」
「いつか味わうことになるなら それまでは何も知らなくていい つらい思いなんか しなくていい」
と、隼人の精神面の心配を過剰にしている。
このところ隼人への本当の恋心を気づいた花柚ですが、これでは過保護なママ状態。
隼人ちゃま はつらい現実なんて知らなくていいざます。
身内が不幸になるところなんて 隼人ちゃま には見せなくていいざます。
寿司職人になるためだけに寿司屋の息子の隼人と結婚しようと画策していた花柚ですから、
思い込んだら、それしか考えられないとは思っていましたが、
まさか、好きになったら一途に、そして過保護になるとは思ってもみなかった。
なかなかに彼女の想いは重い。
まぁ、ハッキリ言って本題から脱線していく物語を何とか繋ぎとめるための
作者の言い訳にも聞こえなくはないんですが…。
そんな過保護な花柚の想いを知ってか知らずか、
隼人ちゃま は反抗期のような態度を取り続け、花柚をいたく傷つける。
花柚が過保護モード、感傷モードに入っている中での斬りつけるような拒否が多く見られました。
そんな中の一つが、隼人がなぜパティシエを目指すのかという根源的な問い。
その大事な質問にも隼人は「言いたくない」と拒否。
花柚は隼人のテリトリーに入れない自分を思い知らされ、涙を浮かべる。
しょうがないですよね、恋のスイッチが入って何もかもが感傷的なんですから。
まぁ、真相はとんでもなく下らないもので、隼人もそれを自覚しての「言いたくない」だった訳ですが…。
隼人も花柚を傷つけた自覚があるので、秘密を掛けて、とある勝負を花柚に持ちかける。
それが「大根のかつら剥き」対決。
この辺は少年漫画における料理漫画のような内容ですね。
花柚の勝負への意気込みと、隼人の得意分野での対決に焦りを感じる様子、そして上手に挿まれる技術解説。
そこに恋愛の要素が入ってくるのが少女漫画ならではですね。
隼人に勝ちたいではなく、隼人を知りたいという純粋な気持ちが原動力。
少々想いが強すぎますが、読者としては花柚を応援したくなる お話です。
花柚が主人公ですし、花柚が寿司屋で働きだしたので仕方がないとはいえ、
料理シーンや うんちくが寿司に偏っているのが やっぱり気になります。
しつこいようですが、学校のシーンをもっと盛り込んで欲しかったなぁ。
そんな学校関係のお話として登場してくるのが、担任の松坂先生と 隼人の寿司屋で働く サキさんの恋のお話。
サキさんも数年前、違う学校で松坂先生の生徒だったことが判明。
そしてサキさんは数年前から松坂先生に好意を持っていた。
あの頃から成長した自分、変わった2人の立場。
人の夢を応援するモードに入っている花柚は サキの恋も応援することを決意する。
なぜなら上記の通り、サキの夢が叶うことが隼人の見る世界をクリーンなものにするから。
サキのために動いているようで、隼人のために動いている花柚。
本当に結婚という目的のために隼人を利用していた頃と精神構造が変わっていませんね…。
もうこのエピソードは清々しいほどサブキャラのお話を横に広げた印象です。
厳しく凛々しい松坂先生が一人の女性として扱われる様子は楽しい場面ではありますが、
そこまでの興味が持てないというのも偽らざる本音ですね。
作中では『4巻』まで花柚たちには性別が分からない存在として描かれていた松坂先生。
これもそれほど興味のない問題ですが、確かに顔の長い感じとか、鼻が立派な感じが男性に見えなくもありませんね。
隼人親子といいサキさんといい、女将の戦略といい、
この寿司屋は どんどんホストクラブみたいになっていきますね。
群がってくる女性たちには ちゃんと大将の お寿司の味が伝わっているのでしょうか。
技術や味で勝負していない感じが、あんまり内容とそぐわない気もしますね。
気になるのは、お話の作り方として、
どの問題であっても、1回強い拒否を描いて、花柚たちを困惑させてから、
和解や解決に持ち込むという手法ですね。
これによって困難性が演出されて、花柚たちが自主的に動いてくれて物語はドラマチックになるんですが、
その拒否の姿勢が強すぎて、読者に不要な、そして不快な棘が刺さる一長一短な手法だと思います。
上述の隼人が寿司職人にならない理由での花柚の傷つけ方、
そして『3巻』での花柚がパティシエにならないと告げた父親がその典型ですね。
強い拒否がこれまでの関係性すらも壊しかねない衝撃を与えています。
しかも問題が解決すると、登場人物たちは そんなことがなかったように振舞っているから読者の心に棘だけが残る。
言葉が足りない人たちに花柚が傷ついていく物語になっているのが残念だ。