福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
モデル事務所「boom!」に所属するナカとウミ。「ジャンク」契約延長に成功した2人は、同じ会社のブランド「ノックス」のパーティに招待された。しかし、そこでナカが、デザイナーにドリンクをぶっ掛けてしまい大騒動に…!?
簡潔完結感想文
- 自分のためにも相手のためにも仕事仲間としてナカと接する海だったが、ナカの気持ちは…。
- トラブルを通じて仕事を獲得するナカの次の仕事は在学中の学園祭。極度に緊張するナカ。
- 学園祭。男性のペアが失踪し、ナカがランウェイを一人歩く状況に。その時に現れたのは…。
実は本書はカメラマン・堤 郁依(つつみ いくえ)を中心に回っている疑惑の3巻。
『3巻』では堤の関係者がぞろぞろ登場します。
話題の中心は『2巻』の海(うみ)に続いて、ナカが自分の中にある気持ちに戸惑うという内容。
海 → ナカ の順で想いに気づくのが、このカップルらしいですね。
客観的には晴れて両想いな訳ですが、とそうは簡単に話は転がらない。
この海 → ナカ の「→」の間に、ウミは一つの覚悟を決めてしまっていたから。
その覚悟は、ナカとは仕事仲間として全力で接すること。
自分のナカへの想いは、女性モデルとして働く間にも顔を出し、
自分を女性から一人の男性にしてしまう。
ウミとしての仕事を完璧にこなすために、海という男の気持ちは黙殺する。
それが海の覚悟。
そしてそれはナカのためでもある。
『2巻』の間ずっと問われていた、ナカはウミと一緒でなければ仕事が出来ないのか、
ナカの躍進を拒む最大の理由はウミへの依存なのではないか、
という問いのウミとしての答えでもある。
お互いの前へ飛ぶために、身軽になるべき、
だから海の方は「男として」ナカに触れないことを決めた。
これは、仕事かプライベートかという二者択一に陥りがちな問題に似ていますね。
自分の調整力を高めるのではなく、どちらかに専念しないと上手くいかないと思い込む。
更には思春期ならではの相手を想うからこその一方的な思い込みでもあります。
ウミ・ナカはまだ自分たちが両思いとは知らない状態ですが、
少女漫画では交際中でも勝手に相手の気持ちを慮(おもんぱか)って、
話し合うことなく相手の進路を決めてしまったり、
時には相手の幸せのためと身を引いて、別れを選んでしまったりしますよね。
今回も海は、ナカの方から募る想いに気づかないまま、
「仕事」というA.T.フィールドで自他の境界線を明確に示す。そんな微妙な関係性が続く中、ナカ独りでの仕事が舞い込む。
それがデザイナーの母校であり、海ナカが在学している学校の学園祭でのショーモデル。
オーディションだと連戦連敗のナカが仕事を取れるのは、
関係者にコップに入った液体をかける時だけ(笑)
ナカは男に水をかけると、その男から気に入られる秘薬でも混入しているのでしょうか。
言葉遊びとしては、男に冷や水を浴びせていますが、物語には火に油を注いでいる感じです。
慣れないウォーキングに悪戦苦闘するナカ。
更にショーのトリを飾る対決相手・杏珠(あず)にウミより可愛いと褒められて、なぜか逆上する。
ウミの名誉を守るために対決を制し、発言を撤回させようと燃える。
これが本当は堤のお気に入りとなったナカのことを快く思わない相手に火に油を注ぐ結果になる…。
初登場の杏珠は本書では珍しく育たなかったキャラですかね。
喋り言葉にカタカナが混じって、読みにくいのが痛手だったのか、
モデルとしての確かな実力よりも親のコネを使っているという悪事が前面に出てしまったからなのか、
癖のある登場人物たちの中で、数少ない仕事に関して直接的な妨害を加えた人だからか、
どうにもこの後の出番や活躍に恵まれないキャラでしたね。
可愛そうなことに最終『16巻』の表紙からも外れています。
本編の中では何とか仕事仲間の一員として認められてますが…。
ですので、私が勝手に命名した、『悩殺・八犬伝』の8人の仲間には入っておりません。
『3巻』で登場する8人のうち4人目の仲間はメンズモデルの秋山 千洋(あきやま ちひろ)。
初登場時には、後で仲間になるとは とても思わない地味な役割。
本書初のメンズモデルの割に、目が大きすぎて、体も華奢で小さく見えメンズモデルには見えません。
カメラマンの堤の方が表情も体型も雰囲気もモデルっぽい。
こういう一般人とモデルの差がきっちり描けていないところは、ずっと気になっているところ。
同じ初登場の杏珠に比べて、千洋は後半にとんでもなく優遇されています。
どちらかというと杏珠の方が『悩殺』世界にはマッチしているような気がするが、
こればかりは作者も制御不能の領域なんでしょうね。
千洋登場前に出てきた、こんな人いたっけ?というのが堤の幼なじみの板倉(いたくら)。
最初で最後の登場でしょうか。
すっかり千洋(ちひろ)に堤の相方のポジションを奪われましたね。
っていうか役割被るのなら、千洋に一任すれば良かったのに、と思わないでもない。
ショー本番では杏珠の悪巧みもあり、ナカにピンチが訪れる。
相手役を務めるはずだった千洋が現れず、
ショーのトリを一人で歩くよう要求されてしまう。
そんな高いハードルに身を固くして動けなくなってしまったナカの前に現れたのは謎の男。眼鏡を掛ければ別人、髪型を変えれば別人、それが漫画の約束。
(謎の男の件は、『4巻』でバレてましたね。こっちの秘密はバレてもいいから秘密だからでしょうか)
そういえば2人が男女モデルとしてランウェイを歩くのは初めてですよね。
ウミではなく海としての初共演。
初読時は何気なく読んでいましたが、再読時にはとんでもなくメモリアルな回だということを痛感しました。
今後、何度も回想シーンで使われそうな場面ですが、そこまで想起されることもなかったですね。
ナカとしてはウミとの仕事を想定しているからでしょうか。
お祭り騒ぎを通じて海とナカの想いも確定し、ますます次巻が楽しみなフィナーレになっている。
というか、これ以降はもういつでも漫画を終わらせられるような気がします。
残念なのは折角2人並んだショーの笑顔の一コマが、ちょっと変なこと。
手が大きすぎるのか、関節がぎこちないのか、足が大きく見えるのか、
なんだかバランスのおかしい大事な一コマになってしまっている。