福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第16巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
ファッションショーをすることが決まった森園祭。ナカとウミがモデル担当、苺と花楓に加え、堤や千洋たちも参加することになり、皆大張り切り! 一方、クラスの出し物の「執事&メイド喫茶」で、“本気”を出したウミがスゴい事に…☆ 大人気LOVE★コメディ、感動の最終巻!!
簡潔完結感想文
- 三つ巴の最終オーディション。これまでの歩みを思い出しながら、その像を写真に焼き付ける。
- 学園祭。8人の仲間と臨む最後のお祭り。コネと取引で超一流スタッフで送るショーが始まる。
- 3年後。堤と美羽の結婚式に参列する仲間たち。そして8(9)人の絆と活躍は新しい形に進む。
ラストだから色々と見せないところを見せちゃう 最終16巻。
表紙は「悩殺・八犬伝」の8人の仲間が全員集合です。
このメンバーには入れないけれど、学園祭や新企画には呼ばれている美羽(みはね)の妹・杏珠(あず)はコネ枠でしょうか。
最終的には正式メンバーの遊佐(ゆさ)や花楓(かえで)より杏珠の方が目立っていました。
余談ですが、9人の仲間だと名称はなんでしょうかね。
検索すると「指輪物語」や漫画「ワンピース(諸説あり)」が出てきます。
冒頭は、季節が進んで、
海(うみ)の女装モデル・ウミ騒動も一息ついた頃の、お礼参りのお話から。
思い出巡りをすると、最終回も近いんだなぁと思わされますよね。
お礼を言うのが苦手なウミがお礼を言っているだけで、胸に込み上げるものがありますね。
これは海の通過儀礼とも読めますね。
男女の性別を行き来していたモラトリアムな時期は終わりを告げて、
これからは大人として決意と覚悟を持って行動するのでしょう。
そう思うと、この以降の海のナカへの態度も優しくなっているような気がする。
照れ隠しに殴ったり、暴言を吐いたりしない大人の海。
それはもう海じゃない気がするのは、読者として調教されすぎでしょうか…。
大人になった海は、それまでなら恥ずかしくてしないようなことも出血大サービスで、いっぱい してくれます。
言葉もストレートだし、コスプレだってしてくれるし、甘い言葉も囁いてくれる。
海がナカにお礼を言う場面。
構図がかつて撮影したブランド・ジャンクのポスターと同じという点が秀逸ですね。
あの頃とは、顔も(作者の画力)関係性も変わった2人の、並んで手を繋ぐ姿は時の流れを感じさせます。
そして、「お礼」というキーワードが、『15巻』で陰ながら雑誌からウミ排除の動きを阻止してくれた、
千洋(ちひろ)と苺(いちご)への感謝へ繋がっていく構成も素晴らしい。
連載中で成長しているのは登場人物たちだけではない、作者もなんだ、と思わせられる箇所です。
海も、女性モデル・ウミとして何とか候補に入ったブランド「碧(へき)」のオーディション。
海は季節が変わって背も伸び日々成長していく。
ウミとしての限界は越えているかもしれないが、この場に立てたことが軌跡で奇跡。
ハッキリ言って記念受験といった感じでしょうか。
そして美羽は空気でしたね。
ウミが一度落選しているために、候補者を最低2人入れないと、
ナカがオーディションを経ないまま合格してしまうので、その人数合わせなのだろうと推測される。
彼氏の堤(つつみ)が、作品の中で存在感を嫌というほど見せているが、美羽は本編では微妙な存在でしたね。
年長組の三角関係のヒロインの役割は担っていましたが、有名モデルの割に空気が希薄。
総じて男性キャラクタの方が個性が強く目立ってましたね。
オーディションの結果、選ばれたのはナカ。
この前にナカと「碧」との繋がりを表したエピソードがもう一つ欲しかったですね。
ナカもまた本心から望んでいたことを描いたのは随分と前ですもんね。
学園祭は、最後のお祭り騒ぎですね。
些事ですが生徒会長の海の態度はあれは問題にならないのでしょうか。
最上級生の中学生編では許されていましたが、高校1年生にあんな口を叩かれたら、
男子生徒たちは、さすがにイラっときますよね。
学園祭の中では、「嫉妬」というキーワードで再び、
海とナカ、千洋と苺の2組の関係を描いている点が優れている。
苺と千洋の恋愛は、読者の方も連載や現実時間が進んだことで馴染んできた気がしますね。
『15巻』『16巻』は花・華、それ以前も嵐や雷といった、
キーワードで物語を包括することに作者はとても長けている。
アイデアの枯渇も見受けられるが、
破綻なくまとめ上げただけでも本当に大器という気がする。
そして、最後だからと描かれるのはナカの汚い恋心。
これまで自身の慢心によって、ナカの汚い心が描かれたことはあったが、
恋愛方面でのナカの心は純粋そのものだった。
しかし海と正式に恋人になって、どうしても湧き上がってしまう思いもある。
それが嫉妬。
それも好きという感情のバリエーションの一つかもしれない。
嫉妬を抱かないナカにやきもきする海からの、
嫉妬に悩むナカという連続攻撃(?)には参りました。
恋愛を主題にした漫画なら1巻分使って描くようなエピソードが、
コンパクトにまとまっているのが良いですね。
あくまで、今回のメインは学園祭のショーの成功なのです。
三年後、八犬伝 + おまけの杏珠で立ち上げたのはアートユニット「CHARMING JUNKIE」。
悩殺ジャンキーの英語訳ですね。
ここでタイトルを持ってくるか、と構成の上手さに舌を巻く。
ただ読切短編でブランド「ジャンク」を使ってしまったから、
ユニット名のインパクトが弱いし、被ってるなぁと思ってしまった。
「ジャンク」さえなければ、と思う一方、「ジャンク」から全ては始まったのだとも思う。
勝手な想像ですが、花楓(かえで)と苺(いちご)は伸び悩みそうな気もしますね。
そして夫婦や恋人がメンバーにいると、別れた時が気まずいのではと思う。
万が一にもそんなことがない、とは言い切れない。
3年後の海は父親そっくりに成長していますね。
女性モデルとして通用する体型の人が、男性モデルになって通用するのかなど、
ご都合主義的な おめでたさには色々と言いたいこともありますが、
何はともあれ大団円です。
全16巻の感想としては読切短編から、ここまでの長編作品になったことに感嘆する。
そして連載中、作者は間違いなく全力疾走しており、
分かりやすい中だるみがなかったことも称賛に値することだろう。
設定や作中のテンションの高さで読む人を選ぶ作品だと思うが、
個性的な面々との出会いは楽しく、間違いなく青春の香りがする。
私にとって傑作と人に薦める本ではないが、良作と太鼓判を押したい気持ちはある。
ただ読み返すと、同じことの繰り返しが目につき辟易することも確かだ。
特に海とナカの関係性の進展の無さ、深みを出せなかったことが残念。