福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第11巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
久々に二人揃ってオフを貰ったウミとナカ。千洋や実羽と一緒にドキドキのバレンタインデーを過ごした後、boom!の事務所に寄った二人の前に見知らぬ美少年が現れた! 彼の名は宇津木遊佐(うづきゆさ)。王子チックな見かけと裏腹に一癖ありそうで!?
簡潔完結感想文
- 男の子のワガママが許されるバレンタインデー。だが千洋の本当の願いは叶わず…。
- 所属事務所にメンズモデルが新加入。王子様な雰囲気とは逆に黒い噂がある男で…。
- ウミとナカが互いに弱みだとを知った遊佐は彼らを足掛かりにのし上がろうとする。
かつて自分が必要となくなった舞台へのリベンジに燃える 11巻。
ウミが一度降ろされたデザイナーに再度呼ばれたように、
ナカも降ろされたブランド「ジャンク」のオーディションに参加できることになった。
あの日からもう一度 動き出せる機会を与えられたことに燃える2人。
そんな頃、2人が所属する事務所に新加入した男性がいた。
名前は宇津木 遊佐(うづき ゆさ)15歳の高校1年生。
メンズモデルとして活躍する彼もまたリベンジの機会を窺っているようで…。
さぁ、8人の同志を集める「悩殺・八犬伝」もいよいよ最後の1人の登場です。
全16巻も残り1/3の登場で、遊佐はどこまで活躍できるでしょうか。
そしてこの遊佐もまた「八犬伝」男キャラの初登場の前例に漏れず、最初は悪印象の人である。
いや正確には、最初は好印象なんだけれど、徐々に悪印象に変わっていく人か。
今回のナカがオーディションに参加する「ジャンク」のモデルは男女一人ずつ。
遊佐もまたメンズモデルの候補として書類選考は残った。
これまでもメンズモデルとしては千洋(ちひろ)がいたけれど、
千洋がモデルとして誰かと共演したことはなかった。
どちらかというと「悩殺・八犬伝」の中では映像カメラマン担当だし。
千洋と海(うみ)は良き相談相手だし。
なので千洋がモデルだということを忘れがちだよね…。
そんな千洋は、海の計らいもあってバレンタインデーにウミナカと、好意を持つ美羽(みはね)の4人で過ごすことに。
バレンタインをすっかり忘れていた女性陣に千洋は「オレ達のワガママぜーんぶ聞いてもらう」ことにする。
これには女性陣から異論は出るものの、海からの暴力で、奉仕しますと屈するナカ。
切ない話なんです。
『悩殺』の中で数少ない失恋話なんです。
でも今回、そのお話に繋げるためとはいえ、
バレンタインデーは女性があげて当然のもの、
プレゼントがなければ男に奉仕する、という展開は牽強付会で、性差別的だなぁと思った。
ワガママの一環で行った「着せかえごっこ」でも肌や胸の露出の多い服を着せて、セクハラめいたことをする千洋(と海)。
前半は全てがギャグシーンなんだろうけど、いまいち楽しめません。
なんだか最近、私の中でフェミニスト警察が警戒を強化してますね。
長らく続いた表紙の海から服を脱がそうとする(「剥く」)企画も笑えてませんよ(『11巻』は海がいないけど…)。
ラストは恋人たちの日に、恋人にはなれない者の悲しみを湛える結末となった。
以前の千洋の告白に応える美羽。
その答えは、千洋が望むものではなかった。
数時間前に一緒に見た映画同様に、千洋は
「キミまであと数センチ…」というところまでは近づけるのだが、
それ以上は、近づけない。
千洋の中でも美羽に近づけるのは堤だけという思いがあるから。
再読すると千洋の失恋確定まで随分長くかかったなぁという印象ですね。
堤と、そして美羽にも振り回された形ですよね。
優しすぎる、自分以上に2人を大事にしすぎる千洋がいました。
そんな優しい千洋には感じなかったのに遊佐がメンズモデルであることに激しく嫉妬する海。
堤(つつみ)監督が元の鞘に収まりそうな気配を見せる中で、
遊佐はナカに手を出す、当て馬ポジションに収まります。
そして遊佐によって、揺さぶられる(ダジャレ?)2人の関係。
でもこれは何度目か、って感じ。
新キャラを投入しても、結局2人に起こることは一緒なんですね…。
しかも『10巻』で海はちゃんとナカに気持ちを伝えているにもかかわらず、
こんな簡単に不安定になるのは嫌だなぁ。
登場人物の中で唯一ナカだけが海のツンデレ・不器用な性格を理解していないんだろうけど、
バカな振りして同じことを繰り返す様子には辟易します(ナカと作者双方ともに)。
もちろん海も悪い。格好つけすぎだし、ナカの性格を理解していない。
いくら10代の子たちの話とはいえ、
物語も後半で、こういう安定しない関係性はいらないかな。
何のためにこれまでページを費やしてきたんだか。
そんな2人のすれ違いの中、ナカは偶然、遊佐の不穏な電話を聞いてしまう…。
困難に直面しながら2人が互いに相談しないで、自体が悪い方向に傾くという展開も何回目だろう…。
暴走するキャラも本書の魅力の一つなんだろうけど、
世界観から一歩引いて冷静に読んでしまうと、問題点も目立つなぁ。
海はちっとも成長していないし、
2人の教室でのキスを、生徒会の面々が証拠写真で大っぴらにするのも笑えない。
ナカが登校拒否して2度と学校来なくなる可能性だってあるだろう。
「イジり」が「イジメ」に肉薄している。
まだ明確にはなっていないが遊佐は過去、自分のモデルとしての限界を指摘され、
ならばその限界をコネを使ってのし上がっていくことを決めている様子。
その為ならばウミの存在を利用し、ウミにあると目される秘密も利用する。
ナカという弱みでウミに近づく遊佐。
またもやナカを守るために理由を明確にせず、距離を置こうとする海。
これも何回目だろう。
2人が奮闘する場面を描きたいのだろうけど、
一度不安にさせてから、誤解が解けて以前より好きになるという二流の恋愛漫画みたいな手法が続くなぁ…。
こんなん元に戻っただけじゃねーか、と海ならツッコむだろう。
モデル業界という要素を全部取り払ったら、嫉妬と仲直りのラリーばかりが続く
かなり退屈な恋愛漫画になるでしょうね…。
そしてナカも守られているばかりではない人。
遊佐に宣戦布告をして、彼の脅威からウミを守ろうとする。
普段はアホの子のナカが覚醒して、ウミさえ凌駕する力を発揮する場面は爽快ですね。
ただ、今回、遊佐との写真撮影時、ナカがポテンシャルを発揮し過ぎて、ペアを組む遊佐を圧倒してしまった。
このことが彼に過去のトラウマを発現させ、強硬な手段を使ってもこの業界を生き抜こうと考える一端となった。
もしこの場面、ナカがもう少し成長して、
自分以外のモデルや撮影の雰囲気を活かせるようになっていれば
遊佐にコンプレックスを感じさせないことも出来たかもしれない。
そう考えると、まだまだナカには成長の余地があるということか。