福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第13巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
日々成長する身体にジレンマを抱えつつも、ウミは“バレンタインのお返し”でナカとデートすることに☆ 一方、boom!にはウミ&ナカをモデルにした新たな企画書が届いていた。そこには堤や実羽、河本兄妹に加え、カメラマンとして千洋が、メイクには遊佐の名前が入っていて――!?
簡潔完結感想文
- 代替ホワイトデー。遊園地を楽しむ海とナカだったが、海の劣等感が爆発して…。
- 劣等感を湧き上がらせる象徴のような存在・遊佐。逃げるのではなく向き合う選択。
- 恐怖心と闘うための猛特訓。一日で見違えるように成長するのが十代の若者たち。
仲間と家族 総勢13人以上に秘密がバレたら、もうそれは秘密じゃなくなる13巻。
いよいよ8人の仲間を集める「悩殺・八犬伝」が勢ぞろいする仕事が舞い込む。
しかし悩みや恋愛関係のゴタゴタで順調とはいえない現場。
仲間を集める時にまず「恋愛禁止」を掲げるべきでしたね。
ある者は、自分の身体と向き合えず、劣等感で自分も周囲も傷つけてしまう(海・うみ)
ある者は、恋心に素直に向き合えず、否定することで平静さを保つ(遊佐・ゆさ)。
ある者は、失恋の痛みに向き合えず、視線を交わすこともしない(千洋・ちひろ)。
ある者は、初めての片想いに向き合えず、余計なおせっかいをしてしまう(苺・いちご)。
グループ「八犬伝」早くも解散の危機⁉
一番深刻なのは海。
女性モデル・ウミとして撮影に挑むが身体が膠着して撮影は中断。
メンズモデルである遊佐を意識し、
そしてナカへの恋心が増幅するにつれて、
いつまでも「女モデルは続けられないって思い始めてる」様子。
いよいよ心身ともに海のウミとしてのタイムリミットが迫ってきている。
そして今巻のラストでは、ウミの生命の危機と言っていい問題まで勃発。
いよいよクライマックスに向けて、最後の大きな花火が打ち上げられます。
長かった。長かったですね。
3歩進んで2歩下がるような物語に、ようやく明確な前進が待っているようです。
その原因となったのが、海が遊佐に自分の秘密をバラしてしまったから。
上述の通り、自分の限界と嫉妬、募る恋心に悩まされていた海は、
焦燥のあまり上半身裸で遊佐の前に出てしまう。
そしてナカに引き続き、海にも宣戦布告をされてしまう遊佐。
恋敵であり、羨望の肉体であり、ナカの美貌を引き出す遊佐は物語に便利な存在ですね。
これにて遊佐も「八犬伝」加入の要件をすべて満たしました。
嫌な奴だと思わせて良い奴であること、手に職を持つこと、そしてウミの秘密を知る者。
ただ、今までと同じように唐突な行動によってバラした秘密は、今までとは違う結果をもたらす。
なぜならクライマックスだからね。
これまで秘密の保持が出来ていたのは登場人物たちの口の堅さが要因ではありません。
作者の作為の有無、神様の気分次第でしかありません。
海が遊佐に嫉妬するのは、そこにコンプレックスがあるから。
ではコンプレックスは何かと問い続ければ、
ナカの隣に男モデルとして立ちたいという気持ちだろう。
ここで、また一つ女モデル・ウミの目標の先の、海自身の願いが明確になりました。
ただ、これまでも書いてきた通り、
続けて読むと同じ展開の繰り返しが散見されますね。
勢いはあるものの、引き出しは少ない。
初読や間隔を置いての読書だときにならにことが、
欠点としてまざまざと浮かび上がってきてしまいます。
特に、遊佐が揺さぶる海の感情という問題は、
全部『2巻』あたりから堤がやっているのではないか、と思えてしまう。
堤がもっと格好悪ければ、新キャラ・遊佐が巻き起こす問題に新鮮味が出てきたのだろうけれど、
堤は男性モデルと遜色のない体型をして、その時点での海のコンプレックスを全て引き出していた。
読み返すといまいち真意の分からない堤のナカへの興味や好意を含め、
遊佐でやろうとしていることは堤が既にやっている。
その意味では堤は偉大過ぎる存在だ。
堤が美羽(みはね)に恋心を戻したから、横恋慕の役割として遊佐が用意された。
作中でも自分の限界に悩んでいる遊佐だが、
作品としても誰かの代替品であるという現実が悲しすぎます。
メンズモデルでありながら堤と被らない毒所のポジションを築いた千洋(ちひろ)は凄いですね。
居るか居ないか分からない双子キャラという覚えやすさだけの花楓(かえで)とは格が違います。
引き出しの少なさ、同じ場面の繰り返しは海とナカの恋愛や関係性においても同じで、
初々しさが残っているのは良いことだが、あまり進展が見られないという歯がゆさも出てくる。
ギャグとはいえ暴力や暴言を吐いて、たまに胸キュンセリフを言えば丸く収まると思っている海と作者が苦手です。
こういうところを着実に成長して美貌も兼ね備えたナカに一回ガツンと否定してほしかったなぁ。
「悩殺ジャンキー 番外編ー黒の冬ー」…
だいじな親友で、恋人同士だった堤と美羽(みはね)が別れた。
美羽が好きな自分の好機ではないかと考えてしまう千洋は自己嫌悪も覚える…。
四部作の最終作ですね。
海ナカの恋愛が特殊な関係(ツンデレ・暴力などなど)なので、まともな恋愛をお送りしているシリーズ。
千洋が映像作品を作り始めるキッカケのお話でもあります。
モデルとして撮られること、カメラマンとして撮ること、
作品として何かを表現すること、それを客観的に見つめること、
それが成長の種であり、生きる喜びに繋がるのかもしれませんね。
しかし、メンズモデルでありながら映像作家としても頭角を現し始めるなんて、
映研所属の友人・ケンケンからしてみれば嫉妬の対象だろう。
また冬が黒く塗られてしまうかもしれません…。