呉 由姫(くれ ゆき)(原案:ルビー・バーティー)
金色のコルダ(きんいろのこるだ)
第7巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
学内コンクール、第2セレクションで2位に入賞してしまい、魔法に頼る自分に罪悪感を感じ始めた香穂子。一方、月森にも、香穂子がリリのヴァイオリン以外弾けないことを気付かれてしまい…!? 珠玉読み切りと男子5人の音楽科での素顔&柚木・火原の出会いを描いた特別編を併録!!
簡潔完結感想文
- 過度な期待と侮蔑の視線に香穂子のストレスが爆発。日野、音楽 辞めるってよ…。
- 音楽の園という異世界から帰還した香穂子。だが あの日のあの曲が香穂子を引き戻す。
- 妖精・リリの衝撃告白。物証であるヴァイオリンは消滅し、残されるの犯人の香穂子。
セレクションの度に何かが消えた「コルダ ミステリ劇場」、今回は第3の事件が起きる7巻。
これまで伴奏者、演奏者と姿をくらませてきたが、今回の第3セレクションでは楽器消失事件。
少し次巻『8巻』の内容にも触れてしまいますが、香穂子(かほこ)のヴァイオリンが消失することが判明。
奇しくも第3セレクションのテーマは「失われしもの」。
魔法のヴァイオリンを失っても、香穂子はコンクールに参加し続けるのか…。
と、衝撃的な事件の前に固められるのが、香穂子の音楽への姿勢。
楽器に不正をして皆と対等な演奏をすればするほど罪悪感にまみれる香穂子。
そして月森(つきもり)が真相に肉薄し、香穂子の音楽への姿勢に侮蔑の言葉を投げる。
その言葉に落ち込む香穂子は、まるで失恋したみたいですね。
落ち込む香穂子の姿に、寄り添ったり、わざと突き放したり、声を掛けられなかったり、4者4様の男子メンバーの様子も見て取れる。
読了してから読むと、ちょっと予言的内容だなと思いますね。
そして男子生徒が次々と主人公に声を掛ける展開は乙女ゲームっぽさを感じます。
更に前回、第2回のセレクションで普通科ながら2位という好成績を取ったことによって周囲の期待も膨らむ。
プレッシャーをコントロールするのも演奏者の技術、と月森に言われてしまいそうだが、素人の香穂子にその技術はなく、感情を爆発させてしまう。そして、疑惑のヴァイオリンをこの世界に引き込んだ妖精・リリに返上し、音楽科という異世界からの帰還を果たす。
異世界ファンタジーでも現実世界に帰る機会があったりしますが、本書は帰るのが最も楽な作品ですね。
楽器に触らない、音楽科に近寄らない、それだけでもうそこは普通の世界。
束の間、普通科の生徒として学校生活を満喫する香穂子。
だが巻き添えのように音楽世界に召喚された土浦(つちうら)は、香穂子の態度に怒りを禁じえない。
なぜなら音楽は香穂子との共通点であり接点だから。
たった2人の異世界人であったはずなのに…。
コンクール担当の金澤(かなざわ)先生に辞退を告げた帰り道、香穂子は校内で風に乗る「アヴェ・マリア」の旋律を聞く。
そうして、あの日湧き上がった感情の奔流と、自分の中の確かな気持ちを再確認させられる。…と楽器消失のお話が出る前に、香穂子の気持ちが固まっていることが重要なのですね。
音楽への愛がなければ、リリから発表があった時に香穂子は大いに動揺しただろう。
そこでリリの提案に乗って、コンクールの辞退、そしてこの世界からの退去を決めたはず。
だが、香穂子は自分の意志で、音楽への愛で、この世界に残ることを決めた。
楽器は失うかもしれないが、その愛は失われなかったのだ。
香穂子が自力で走り出す様子を丹念に、そして順序良く追った構成が良いですね。
そしてコンクールでは感情の乗せ方が左右される。
・月森 → 無感情だが、高い技術。
・冬海 → まだ恋を知らない?
・志水 → 描写がほぼないけどマイペース(のはず)。
・柚木 → 雑念のように香穂子のことを考えていたが好演奏。
・火原 → 香穂子の月森発言が雑念となりミス連発。
香穂子と土浦は『8巻』に続く、です。
そう、香穂子が壊れかけのヴァイオリンで演奏中の場面で『7巻』は終幕なのです。
この後の短編の存在が憎いです…。
「金色のコルダ 特別編~Andante~」…
火原と柚木の出会いの物語。
3年前から変わっていない柚木と、3年経っても大人っぽくなれない火原のお話。
「金色のコルダ 特別編~たまには女子トーク~」…
女性4人での姦(かしま)しいコンクール男子メンバー評。
けれど主要キャラの香穂子と冬海そっちのけで、主に天羽(あもう)さんと香穂子の伴奏者の森さんのトーク。
香穂子の一番の好み聞き出そうとしたり、何気に これまでで香穂子の恋愛に一番踏み込んだ瞬間かもしれない。
そして、それを廊下で聞いている男子たち。
男子の中で一人ルックスの落ちる人がいて「ないわー、あの人はない」などと言う展開にならなくて良かった。
「心日和恋模様」…
もうすぐ16歳の女子高生・ヒナは恋というものが分からないけれど、男性生徒に告白されて以降、恋を意識し始めて…。
うーん、目立った欠点もないけれど、長所もないという感じですね。
別の作家さん、しかも20ー30年前の作家さんの作品と言われても違和感がない。
ただこれは作者の画力が『7巻』発売時でも格段に向上していて、数年前の初出の時とは別人のよう、という意味でもある。