《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

漫画相対性理論。作品の人気が加速するほど、作中の時間経過はゆっくりになる。

お兄ちゃんと一緒 8 (花とゆめコミックス)
時計野 はり(とけいの はり)
お兄ちゃんと一緒(おにいちゃんといっしょ)
第8巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

正への気持ちもバレて、すっきりした感じの桜とは対照的に、戸惑いを隠せない正は、ちょっと挙動不審!? そんな中、鳴々と二人で話している桜を目撃した正は、無言で桜を連れ去り突然、頬にキスを…☆ 正、とうとうラブ宣言か!?

簡潔完結感想文

  • いつも飄々とした小塚先輩(兄)がストレスを溜め込んでいるらしい。その原因は?
  • 正にお見合いの話が持ち上がる。桜の願いと裏腹に正は見合いを受けると伝えて…。
  • 町内で桜に声を掛ける怪しげな男。写真をネタに桜を言いなりにしようと脅迫する。


時空が歪み始めて、何もかもがスローモーションになり始める8巻。

これまで現実時間と作中時間がリンクして、『8巻』の時点で連載開始から3年が経過して中学2年生だった主人公の桜(さくら)も高校2年生まで成長した。
12月号にはクリスマス、2月号にはバレンタイン、4月号には進級してきたが、本書は10月号の段階でまだ半袖で、そして作中内に出てくる雑誌は8月号の話題。
まだ多少なりとも時間が進んでいるのは救いですね。
完全に時間がループする「サザエさん時空」になってしまったら、兄の正(まさし)はずっと「お兄ちゃん」の立場に安住しようとするでしょう。

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新連載『俺だけの お兄ちゃんと ずっと一緒っス』
これは「少女漫画 高校3年生問題」(勝手に命名)を避けるためでしょうかね。
主人公が高校3年生になると進路の選択が人生の最重要問題になってしまって恋愛にかまけているばかりではいられなくなる。
進路の問題を前面に出すと作品が重くなり、それまでのテイストと作風が違ってしまう恐れもある。

なので、最近私が手にした作品の多くは卒業まで描く場合も高校3年生をほぼ省略するものがあったり、
その手前の高校2年生の段階で、恋愛が実って順調のままで物語を終わらせるものが多い。
完読してみると本書は前者のパターンでしたね。

あとは現在3年生の小塚(こづか)先輩たちのまで卒業させてしまうと登場人物が減るという問題もあるんでしょうか。
新入生の新キャラが出ないまま桜たちが2年生の生活が続いてしまったんで、今ある手駒で物語を構築しなければならない。
なので(人気キャラでもある)小塚先輩がいる内に物語を終わらせようという目論見ですかね。

まぁ、桜が年下の男の子に惚れられるパターンも見てみたかったですけどね。
「お姉ちゃん」とか「お姉さま」とか呼ばれる年長者・桜も面白いだろうなぁ。


という訳で、これまで以上に歩みの鈍い物語になっている。
正は相変わらず煮え切らないままで、各話の最後に桜を赤面させるようなことを言って終わりという水戸黄門パターンには陥っている。
普段のギャップこそ萌えなのかもしれませんが、私はイケメン風ふかしてる正はあまり好きではありません。

「こんなの いつも通りだと思うけど でも何かが 違っててくれたら とも 思ってしまう」
と、今巻収録のお話で桜がモノローグで呟いているけれど、本当、何かが違ってたらいいなという感じだ。

それぞれ自分の気持ちは相手に伝わっているけれど、一歩が踏み出せない じれったい状況が続きます。


そんな中、進展があったのは、中学時代に桜に告白第一号の片桐(かたぎり)くんのお話ですかね。
2,3年前は未遂に終わった頬へのキスをして桜を諦めることを宣言。
桜を巡るバトルで離脱したのは初めてじゃないでしょうか。
この後もあまりまともな恋愛描写はありませんが、作中では珍しい正式交際のカップルの誕生です。
お相手の園村(そのむら)さんにはもうちょっと活躍してほしかった気もしますが。


この『8巻』は正の小説家としての一面がピックアップされた巻かと思います。
新作小説の宣伝で本の雑誌『ダ・ウィンチ』の表紙になったり、とある文学賞をとったり、小説家仲間や取材相手の女性が登場したりと正の周囲は騒がしい。

中でも未成年者略取・誘拐となった桜が脅迫された事件は、変質者のお兄さんが登場。

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正との関係をネタに脅迫された桜は…。
押し入れに大量の見られたくない本を隠しているとか、ちょっとコンプレックスを こじらせて怖いお兄さんでしたね。
物語はブレるとは思いますが、正を巡る桜のライバルになっても面白かったのではないか。

逆にライバルにならなくて安堵したのは、新キャラの正のもとに取材に来た女性編集者。
何と彼女は桜の実母で、正の初恋の相手・文子(ふみこ)さんと瓜二つという設定。
また桜が悲しむのかとヒヤヒヤしていましたが、どうやら彼女もまた特殊な性向をお持ちのようで…。
桜の母を題材とした私小説を書いた正に、小説内から飛び出したような女性が現れるという趣向だったのだろうか。
この新キャラの女性は結果的にあまり効果を上げていなかったので、ここは既出の女性編集者・八代(やしろ)先輩にその役を担わせれば良かったのではと思ってしまうが。


…にしても、他の3人のお兄ちゃんの影がどんどん薄くなってきてるなぁ。
役割分担は出来ているんだけど、もっと桜に接近して活躍してほしかった。