呉 由姫(くれ ゆき)(原案:ルビー・バーティー)
金色のコルダ(きんいろのこるだ)
第17巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
離れていてもヴァイオリンを頑張ると約束をし、留学する月森を見送った香穂子。一方、土浦は香穂子に自分の想いを告げて!? そんな中、留学先での月森の演奏が日本で話題になり、自分との距離に自信を失う香穂子。やがて一時帰国した月森…香穂子との交錯する想いは!?
簡潔完結感想文
- 土浦の告白。ずっと逆ハーレム状態ではあったが人生初(?)の告白に香穂子は戸惑う。
- 再会。幸せの前は一度 不幸に落とすようなことが。これは少女漫画の鉄則ですので。
- フィナーレ。指揮者はタクトを下ろしてないような気がする完結9年後の読者の読み方。
続編があることを知って読むと色々と思うところのある 最終17巻。
ちなみに全17巻という数字、同じ原作者(コーエーの乙女ゲーム)の
『遙かなる時空の中で』も17巻で完結しているのは偶然の一致なんでしょうか。
最初から17巻分の契約ということも考えられます。
番外編などの収録が多いのも、最終回間際の駆け足も、
17巻分のページを過不足なく埋めるためだったと考えると、妙に納得がいってしまいます。
感想文はまずはそんな裏事情などを含めたメタ視点なしのものから書きます。
幕開けは土浦(つちうら)の告白。告白は、内容もですが場所も重要ですよね。
土浦は香穂子(かほこ)が初めて彼のピアノを聴いた馴染みの楽器店内で香穂子への想いを告げる。
あの時、香穂子に演奏を聴かれたことが土浦にとって音楽人生のもう一つの始まりともなった。
だからここで想いを聞いてもらう。
次の音楽人生の第一歩として。
以前も書いたかもしれませんが、月森(つきもり)が香穂子の道しるべならば、香穂子は土浦の伴走者ではないかと。
香穂子が音楽を選んだことが、ともに歩み続ける土浦にとっても 一つのきっかけになる。
香穂子の告白の返事は、はっきりしない。
快い返事ではないということを悟って、土浦が先回りして話を打ち切っている。
続編ありきでは別の考えもありますが、
そうでなくても作中に際立った悪人(柚木(ゆのき)は悪人ではない、はず)や、
悪感情を極力なくそうという制作側の方向性も感じますね。
それが作品の気品にも繋がっているように思いますし。
ここで香穂子が土浦にお断りすると今後どうしても角が立ちますからね。
これは当人同士はもちろん、読者の土浦ファンの心にも。
本来ライバルであるはずの月森と土浦の友情も、
悪感情を排除した結果、同志としての側面が強く出ている。
一つの結末に向かって話は進んでいるのだけれど、決定的な亀裂は描かないようにしている。
これは『14巻』の後夜祭のダンスも含め、やんわりと間接的にさり気なくお断りをしているのではないか。
もちろん「後夜祭のダンスお断り説」は私の読み方であるんですが。
傷つけない断り方をしているところを見ると香穂子は八方美人的なバランス感覚があるのかもしれない。
さすが乙女ゲームのヒロインといったところか。
ただ、その優しい世界が原因で、ライバルたちがどんどんと仲良しサークル化して、緊張感が失われたというデメリットもありますね。
誰が告白に動くかという静かで熱い戦いではなく、誰も動かないという ぬるま湯に浸かってしまった。
唯一、柚木が単独行動、隠密行動をしているかなという感じですね。続いては月森。
香穂子も3年生に進級し、多少つまづきながらも音楽の道を邁進していた。
そんな折、師事する先生の日本公演にゲスト出演するために月森が一時帰国し、
コンサートの他に、柚木・火原(ひはら)が進級した大学の文化祭で演奏をすることに。
香穂子は先んじて鑑賞した月森の演奏に圧倒され、そしてレベルの差を感じていた。
ちょうど自分の技術の拙さに落ち込んでいた香穂子は、
久々の再会の月森(約5‐6ヵ月ぶり?)を前にしても弱音ばかり吐いてしまい、それが月森の逆鱗に触れ…。多分、香穂子が、参加したコンクールの会場に現れない月森をそれでも信じたように、
月森も留学先で香穂子の言葉を信じていたのだろう。
例えそばにいなくても、相手の存在は確かに感じることが出来る。
月森にとっての音楽は香穂子が全てではないが、
音楽の道を進む希望や安らぎになっていたはず。
そんな彼女が再会早々、弱音を吐き、自身の努力を否定した。
そして、香穂子の弱音は月森に動揺と失望と拒絶を生み出す。
月森は香穂子の言葉によって再び2人の世界の断絶を感じたのかもしれない。
香穂子が音楽の道を歩まないのであれば、そこに同じ未来がないのであれば、
月森は香穂子を突き放さなければならない。
月森が居られるのは一つの世界しかないのだから。
月森にも拒絶され、音楽への前向きな気持ちを失いかける香穂子だったが、
彼の失望は香穂子が同じ世界にいると月森が自分を信じていてくれたからこそだと気づく。
そうして香穂子はまた独力で立ち直り、現在の香穂子が奏でる音を届ける。
その夜、満月が浮かぶ夜空の下、校舎から彼のヴァイオリンの音色が聴こえることに気づいた香穂子は彼の姿を探す。
屋上で月森を発見した香穂子は思わず後ろから彼を抱きしめる。
それは月森が留学前に香穂子を呼び止めた時とよく似ている。
香穂子の奏でる音を聞き、それを答えとし、彼女と同じ世界にいられることを確認した月森は、
香穂子の頬に触れ、香穂子に惹かれている自分の気持ちを伝える。
思いがけない言葉に香穂子は彼の指を握り、
二人の指は互いの手を掴み、そして初めて正面から抱き合うのだった…。
最上級の愛情表現は、手(指)の接触、そして抱擁でしたね。
ホント、妖精・リリが言う通り「ぶちゅっとしてしまえばいいの」に。
キスをしない少女漫画を久々に見ましたよ。
ってか、やっぱり消滅してなかったんだね、リリ。
良かった良かった。
リリと香穂子を結ぶのもまた音楽への愛なのですね。
しばらく姿を見せなかった理由は、『10巻』の感想でも書いた「子離れ」説でしょうか。
導入部こそリリや魔法が必要でしたが、後半は香穂子が本当に独力でヴァイオリンに向き合わないと彼女の成長になりませんもんね。
もし、リリがそばに居続けたら練習するたびに「ねぇ リリ、こんな感じの弾き方でいいのかな?」と聞き続けてしまう。
そして更には、そんな香穂子の姿は第三者からしてみれば中空を見つめて独り言を呟いているド痛い人でしかない。
万が一、男性陣に見られた時には百年の恋も冷めてしまう恐れがある。
妖精というメルヘンな設定が一気に メンヘラ に…。
さて、最終回近辺から作者や制作サイドには続編への構想が存在した説ではどうなるでしょう。
まずは土浦を代表とした香穂子に好意を持った男たちの処遇。
唯一まともな告白をした土浦にすら香穂子は曖昧な返事している。
これは、ここでフッてしまうと土浦ルートが永遠に閉ざされてしまう恐れがあったから回避したのではないか。
そして、ラストのキスもしないフィナーレ。
これが一番「大学生編」への布石っぽいですね。
キスなんてしたら既成事実が出来てしまいますからね。
ラストも月森から香穂子へは告白としか思えない言葉を掛けていますが、
ここでも香穂子が月森に想いを伝えてはいないんですよね。
表情としても、まさかと驚いて赤面しているけれど、喜んでいると確定する描写はない。
勿論、これまでの流れで香穂子の想いも月森にあるのは明白なのですが、
続編への決定的な瑕疵にはなっていない。
なので全員にチャンスは残されている。
その余地を残してるからこそ続編が生まれたのでしょうか。
もしそうなら、かなりの策士です。
まぁ続編でいきなり志水(しみず)ルートなどに突入しても、それはそれで困惑してしまいますが…。
取り敢えず、本書はフィナーレです。ブラヴォー!!