《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

われ鍋に綴じ蓋。つまりは お似合いってことさ。悪い意味でね。

キミのとなりで青春中。(7) (フラワーコミックス)
藤沢 志月(ふじさわ しづき)
キミのとなりで青春中。(きみのとなりでせいしゅんちゅう。)
第7巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

アメリカ行きを取りやめ日本に残ってくれた慶太と幸せな時間を過ごしていた美羽。けれど3年生になり、進路問題に直面した美羽は慶太やクラスメイトに置いていかれたように感じ、不安な気持ちを抑えられなくなっていく。そんな時、悩みを聞いてくれた転校生の芹沢に、美羽は次第に心を開いていくけれど…?

簡潔完結感想文

  • 幼なじみという関係に甘える美羽とは反対に、依存から脱却しようと試みる慶太。
  • …のはいいが、二人とも絶望的に言葉が足りない。キミのとなりでケンカ中 7巻。
  • 悪魔の囁きに弱った心を魅了される美羽、悪魔に囁く上級悪魔の慶太。うーん…。


物語も終盤になると作者が主人公の性格的欠点を否応なしに突いてくるよね、の7巻。

「純粋すぎて ムカつくよ」
今巻で、美羽(みう)が新キャラの男子生徒から投げつけられる言葉。
恋にこんがらがっても、行動が空回っっても、学習能力のないおバカさんでも、
作品内では慶太への愛、慶太からの愛を信じることで純粋性を保ってきた美羽に厳しい言葉が浴びせられます。


この巻から3年生に進級したことで、受験や進路という現実の重圧が皆にのしかかってくる。
自分の成績や志望とは無関係に慶太(けいた)と同じ学校名を書いた模試の結果は全てE判定の美羽。
そんな時、慶太が教師から志望校のランク上げを提案されているのを見て泣きっ面に蜂。
慶太に受験の相談をしようとするが、
「自分のことだろ? オレがどーとか関係ねーだろ 自分の意志で決めろよ」と一喝されてしまう。


そんな時、相談に乗ってくれたのが転入生の新キャラ・芹沢(せりざわ)くん。
その遊び人風の見た目とは裏腹に、美羽の言って欲しかった言葉をくれる芹沢に美羽は心を開く。
だが、芹沢は女癖が悪いとの黒い噂が飛び交っており…。

f:id:best_lilium222:20200528143747p:plainf:id:best_lilium222:20200528143800p:plain
白い芹沢と 黒い芹沢 どちらが本当の姿⁉
本書は主に美羽側を下げて↓ 二人の恋愛を上げる↑ 手法だからしょうがないけど、毎度の美羽と慶太のコミュニケーション不足は作品を台無しにしている。
確かに美羽は失敗しても慶太の優しさに包まれることで安堵してしまい成長していない。
交際が始まった『2巻』以降、それしか描かれていないといっても過言ではないから、
ここで慶太が美羽を千尋の谷に突き落とす、という手法を取るのも理解はできる。
その失敗をこれまで数巻に亘って実例を挙げていた紹介していたというなら作者の目論見は成功している(ワンパターンとか言わない)。


慶太によって徒に奈落に突き落とされただけの美羽は結局同じ失敗を重ねるだけで終わる。
美羽の恋愛の実例のように、転校生の芹沢の見た目に恐怖を覚えて下がった気持ちが↓ 芹沢の甘い言葉によって上がった↑ から、美羽は彼は良い人だと盲目的に信じ込む。
そこに友人の警告や、恋人の注意など入る余地がない。
『2巻』において「高額であやしさ満点のツボを絶対に買う」、
と慶太に予言された 美羽のお人よし具合は良くも悪くも彼女の変わらない性格なのだろう。


慶太との諍いのあとで夜の町をブラついていた美羽は芹沢に会う。
「感情が高ぶって まわらない思考回路」で誰もいない芹沢の自宅まで赴く美羽。

この時点で弁解の余地なし。有罪。
だが、慶太を貶めようと弁舌を振るう芹沢の誘導を、美羽は最後の最後で振り切り、慶太を信じる。
そして、その信頼関係こそが芹沢の破壊衝動の源だった…。

f:id:best_lilium222:20200528144012p:plain
慶太を信じる美羽に 芹沢は苛立つ

無事、芹沢宅から美羽を救い出した慶太は、これまでの態度と言葉の不足を謝罪する。
自分もまた美羽と違う進路を取ることが不安だったと本音を話す慶太。
そんな彼を見て「そこまで考えてくれてたんだ ずっと ずっと一緒にいる未来のために」と感動する美羽。


…って、これまでのパターンと同じやん。
慶太に愛されている自分を確認して安堵してるやん。
そして自分たちの歩幅で歩こう、信じようって、いつもと同じこと言ってるやん。


今回は彼氏として彼女を甘やかした結果、美羽の自主性が喪失したと考えた慶太はそこを修正したかったのだろう。
けれど、だからといって理由もなく美羽を見捨てる形を取るなんて言語道断。
ましてや美羽は母親に捨てられた過去があるのだ。
そういうことを考慮しない慶太と物語の構造に疑問を感じざるを得ない。

毎度、抱きしめて言い訳のように美羽のことを好きだというばかりの慶太も、二人で失敗を回避する学習能力というものがない。
美羽は諦めるとして、慶太の側も器の大きさが表現できていないから何が起きても表層的な恋愛描写に止まってしまっている。

そういえば芹沢にもまた家族の欠落・渇望がありましたね。
芹沢も血縁以上に大事な人を見つけられることが出来るのでしょうか。
次の話から早くも善人化していますけど。
何だかんだで純粋な、優しい世界なんですよね。


しかし内容と相まって『7巻』の表紙の美羽の顔、何か苛立ちますね。
芹沢くんの怒りに共感できそうな黒い私です…。