《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

特殊な環境の片想いを描いても 交際後は均質化していく罠。通称「少女漫画のジレンマ」。

キミのとなりで青春中。(2) (フラワーコミックス)
藤沢 志月(ふじさわ しづき)
キミのとなりで青春中。(きみのとなりでせいしゅんちゅう。)
第2巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

3年前――大好きな幼なじみ・慶太(けいた)に告白された美羽(みう)。
だけど、家族みたいに大切な彼を失いたくないあまり、冗談にして笑い飛ばしてしまう。 その後、気まずいまま別れた慶太と高校で再会した美羽は、再び彼に惹(ひ)かれていく。 そんな時、美羽の気持ちを偶然知ってしまった慶太は…!?
しづちゃんの青春LOVE連載、急展開の第2巻!!

簡潔完結感想文

  • ありったけの勇気を込めた告白。慶太はまだ自分を想っていてくれた。第1部完。
  • 幼なじみではなく、恋人としての自信も自覚もない美羽は慶太とすれ違うばかり。
  • もう幼なじみ設定あんまり関係ないよね。付き合いたての男女あるあるに移行。


恋人が幼なじみ だからって、最良の恋人になるとは限らない⁉ の2巻。

自分に告白してくれた男子・小林(こばやし)くんに、
「東原慶太(ひがしはらけいた)はもう柏木美羽(かしわぎみう)のこと幼なじみ以上には思えないって!!」言っていたと忠告されても、
「幼なじみ以上に思われなくても あたしが慶太を好きだから」
「慶太に好きだって言おうと思ってる」
と覚悟を決めた美羽。

だが、その会話を慶太本人に聞かれたことに動揺し思わず逃げ出してしまう。
屋上に逃げ込んだ美羽を追いかけてきた慶太に、美羽は不退転の覚悟をもって告白する。

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自分の気持ちに向き合う美羽
美羽の一世一代の告白に対して語られる慶太側の想い。
それは美羽が3年前に慶太に告白されたことをはぐらかしたために再会した慶太に想いを伝えるまで時間がかかったように、
慶太もまた3年前、渡米前に焦って告白したことを悔いて、その失敗から今度こそ美羽と適切な距離を置くことに専念していた。
少し回り道をしたけれど、ついに叶った両想い。
相手との距離が近すぎるがゆえに臆病だった二人は晴れて恋人同士になる…。


…なるのだが、屋上でキスを交わす二人の横には黒の背景で不吉なモノローグ。
「この完全な幸せの中で 一体どうしたら想像できただろう 君がずっと抱いていた 悲しい秘密の存在を…」。

幸せムードに水を差さないでよーー。
少女漫画のメインといえる両想いまでの第一部が終わったからといって、焦って読者の気を惹かすための次回予告なんてしなくていいのに。
「完全な幸せ」の象徴であるキスシーンにこんな言葉が重ねられたら興ざめです。無粋としか言いようがない。

しかも今巻では「悲しい秘密の存在」は秘されたまま語られず。
この後の自宅での2回目のキスシーンの後でも同じようなモノローグが挿まれます。
「この時 あたしは気づきもしなかった さわぐあたしたちの うしろで 密かに 慶太が表情を曇らせていたことに…」

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この2ページあとに重いモノローグ
匂わせますね。そして匂わせすぎて秘密の内容が大体分かっちゃうから困ります。
本書の内容や二人の性格、作者の作風などにマッチするとは思えない思い設定は、連載を続ける使命に燃えた作者のやる気の証なのでしょうか。
恋愛に憶病になった美羽側の家族問題はともかく慶太側の必然性はないと思われる。

やはり交際編こそ作者の真の技量が試されますね。
初期構想が尽き、手持ちの弾がない状態で物語の舵をどう切るか、底力の勝負ですね。

で、肝心の交際編ですが、ちょっと展開が凡庸かなと厳しい意見を述べたい。

所々で恋愛における幼なじみ から恋人に移行する際のの厄介さは出ているのですが、美羽の身勝手さばかりが悪目立ちする展開が多く、この二人でなくても成立してしまう物語になっていて残念。
特に美羽が空回り、失敗することによって美羽の気持ちを一度落として、そこへ慶太のフォローよって手が差し伸べられる展開が採られているために、美羽が空気の読めないおバカな子に変貌していて悲しい。
母親の代わりに家庭を回してきた経験や、告白までの成長が全部帳消しになっていると感じられるほどに身勝手で迷惑をかける人に成り果ててしまった。

また慶太自身も無邪気さが同居したお子様でもあるので、二人の関係性のレベルがとても低い。
都合の良い時だけ2人をニコイチの集合体として考える「幼なじみ」が多用される反面、
日常における幼なじみ感、2人がまとっているはずの空気があまり流れていない気がする。
あまり成熟した二人じゃないのなら、もっとコミカルな展開の連続で良かったのに、と作者のコメディ路線は好きな私は残念に思う。


今巻最後の遊園地編での美羽の失敗には本気で腹が立った。
独り勝手に自分の女子の中での立ち位置に悩んだり、慶太に相応しい女性ではないと自信を無くしたりするのに、自分の立ち振る舞いが慶太にどう思われるかは一切考慮しないのだ。
恋人としての特別感を演出するためのデートなのに、遊園地で会った同級生たちと一緒に行動するし、彼らとの会話が弾んで慶太を一切無視。
それで怒る慶太もやっぱりお子様だが、思い至らないで慶太に腹を立てる美羽を見て、夫婦喧嘩は犬も食わぬってか、と一応は波乱の展開なのになぜか冷淡な気持ちが生まれてしまった。

そして何より、この時点でお話の結末、解決が見えてしまうのが痛い。
どうせまた慶太が心の大きいところを見せて、美羽の欠点まで包み込んで終わりでしょ。
交際編が始まって三話連続同じことをされてもなぁ。二人の関係より漫画の内容が倦怠期だよーー。

遊園地編では『1巻』で美羽に告白してきた小林くんがバイトしており再登場。
お話の都合上か、午前中には終わる短時間の遊園地バイトお疲れ様です。


「キミのとなりで青春中。《番外編》 ー君においつきたいー」…
描かれるのは、3年前の渡米直前の告白までの慶太の想い。
成長期の違いもあり、幼なじみの美羽は頭一つ大きく、更に中学生になり男子が女子を好奇の目で見ており、その中には美羽も含まれていた。
母親の不義もあって美羽には恋愛が御法度だと分かっていながらも告白してしまった あの日…。
3年前の慶太の焦りは、今現在 美羽が感じる焦りと共通点が多いですね。
「オレの時計より美羽のほうが早く回ってる 全然 追いつけない」
今度は3年間の渡米生活の経験値の違いが慶太を大きくさせた。
美羽にはこれから精神的な成長をしてもらいたいものだが…。だが…。