藤沢 志月(ふじさわ しづき)
キミのとなりで青春中。(きみのとなりでせいしゅんちゅう。)
第8巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
GW(ゴールデンウィーク)の旅行先で、慶太と今まで以上にいい雰囲気になれた美羽。
そんな時、アメリカ旅行中の慶太の母・加世子が倒れたという知らせが入り、急きょロスに向かった慶太と美羽。
幸い加世子は無事だったけれど、慶太がUCLAに進学を希望していると知った美羽は…⁉
しづちゃんの幼なじみLOVE連載、絶対に見逃せない完結巻。
簡潔完結感想文
そして二人はいつまでも、いつまでも幸せに暮らしたとさ、の8巻。
同級生たちを受験のストレスから解放しようと慶太(けいた)が企画したキャンプ。
大成功で終わったキャンプから帰宅した途端、アメリカからの国際電話が不穏な知らせを告げる。
何とアメリカで暮らす慶太の母が倒れたという。
急いでアメリカに向かう慶太たちだったが…。
…たち?
なんで、美羽(みう)まで一緒にアメリカに行くの?とか思ってはいけないのでしょうね。
ちなみに慶太母はただの風邪というオチ。
加えて現実で作者までロスに行ったのは、人気連載(らしい)の ご褒美でしょうかね。
現地まで取材旅行に行ったから、作中でもまずは名所案内してから本題に突入。
今回は慶太の進路のお話。
この展開のために慶太の両親を一足先にアメリカに移住させたのかな?
でも正直、『5巻』の再放送ですか、と思ったのも事実。
慶太の昔からの進路希望が、見学に行った大学・UCLAであることを知った美羽。
慶太に問いただしても笑顔で否定するばかり。
だが同行者の冷静な指摘によって自分が慶太の将来を縛っていることを痛感する美羽は慶太に自分の正直な気持ちを伝える…。うーーん、最後ぐらいは美羽が独力で慶太の背中をバシッと押してもらいたかったなぁ。
生活力のある肝っ玉母さんみたいな人かと思いきや、きっちり依存型のヒロインをしている美羽に違和感がある。
1回目の失敗(『5巻』の転校騒ぎ)を教訓として、今度こそ違った形が取られるなら2回目の意味があるのに、
再放送になるばかりで、これまでの経験や流れが上手く活かされているとは思えなかった。
『5巻』からの時間経過が2人に成長を見せたか、というと そうも感じられないのだ。
2人の親友・アレックスが指摘する通り、
基本的に2人には「お互いのことを大事に想いすぎていて どちらも正直な気持ちを押し殺してしまう」関係性があるのだろう。
幼なじみの「意外とやっかいな」関係は描けていると思うが、この二人ならではの特別な関係が描けているかというと答えに窮してしまう。
そして読了しても、慶太の家族には血縁がないという設定にあまり必然性を感じられなかった。
湿気のない陽気な本書の中に重いテーマを持ち込んだ割に、それほど効果が上がっていないように思う。
上記のアレックスの言葉は、そのまま家族にも転用できるだろう。
近くて遠い存在というのは全編共通のテーマとして浮かび上がるが、いかんせん作風にマッチしていない。
中学生時代の渡米中、大学に入り浸っていた慶太と懇意にしていた教授が「(生みの)母親と同じ道をトレースすることで(中略)実の母の存在を感じようとしている」というのは説得力のある言葉だし、
その言葉を聞いた情にもろい美羽が、自分よりも優先する慶太の目標を応援する気持ちになれたのだろう。
が、『5巻』での転校騒動を『8巻』に持ってきて、慶太の大学の志望動機も、転校中に父親の職場に遊びに来ている内に興味を持った、という流れでも十分代用できる気がする。
実母の影を追っていては、遠くの親戚より近くの他人、血の繋がりよりも優先される身近で大切な人というテーマがブレる気もする。
そういえば美羽が実母と再会するというお話は用意されなかったですね。
幼い頃の慶太が実父に会った話も割愛されていたので、ここでは血の繋がりよりも大事な人との時間を描いたのでしょうか。
色んな騒動がありましたが、慶太の両親が慶太と再びアメリカで暮らせる状況になったのは良かったです。
5月辺りのキャンプ編・ロス編が終わったら、即、卒業式ですもの。
進学を望む高校3年生を少女漫画で描くのが難しいですよね。
『君に届け』ぐらい腰を据えて約10巻かけて描くならまだしも、勉強の描写続きではお話になりませんものね。
美羽も「かしこい大学」ではなく、バカな人でも通える大学に無事合格した様子。
作中で描かれていた3組の同級生カップルの中で違う大学に行くのは美羽と慶太だけみたいですね。卒業式の後の教室で美羽は慶太に言いたいことをまとめた手紙を読む。
物語のクライマックス、感動の最終回、なのですが…、
うーん、ちょっと文章がおバカかな?
中学1年生の時に渡米する慶太に綴った手紙ならまだしも、高校3年生の恋人に綴る言葉としては中身がない。
ここはもっともっと深い言葉を、感動を倍増させる言葉を選んで欲しかった。
慶太は感動したみたいだけど、私は予想以下の内容で拍子抜けしてしまいました。
これは各回のラストのモノローグなど他の文章にも言えることで、
「離れても 二人の未来がちゃんと つながってるって 強く 信じられるから」
など、ありきたりな文章で綺麗にまとめ過ぎて、毒にも薬にもならない感じの連続でしたね。
そして以前も書きましたが、通常のケンカ回と特別な展開(最終回など)との差が感じられない。
もっと深く美羽たちの心を表す言葉で、読者の心を深くえぐってほしかった。
ラストは推定4歳前後の、美羽と慶太の間に生まれた男の子(名前不明)がいる家でのお話。
祖父母となった2人の親たちと一緒に食卓を囲む、リビングダイニングの様子で幕が閉じられる。
めでたし、めでたし。