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最終章開幕、って まだ折り返し地点を 過ぎただけじゃないですかッ⁉

キミのとなりで青春中。(5) (フラワーコミックス)
藤沢 志月(ふじさわ しづき)
キミのとなりで青春中。(きみのとなりでせいしゅんちゅう。)
第5巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

三泊四日のスキー合宿中、突然乱入してきたアレックスの兄・マイケルとスキー勝負をすることになってしまった美羽(みう)。マイケルに慶太(けいた)との仲を認めてもらいたい一心で猛特訓していた美羽だけど、マイケルと吹雪の中 遭難してしまい…⁉ さらに慶太と美羽が遠距離恋愛になっちゃう⁉ピンチも発生で、ますます目が離せない超売れ作品第5巻です!

簡潔完結感想文

  • イエティと雪山で遭遇、じゃなくて遭難。体を寄せて温めあったら何と…。
  • 美羽のサプライズ、三度目の正直。不穏なラスト1ページから雰囲気が変。
  • 慶太の家族の秘密と再度の渡米。2人に試練の時が訪れ、出した答えは…。


最終回の前振りのような5巻。でも全8巻中の5巻なのです。

昨今のテレビドラマなら「最終章開幕」というキャッチフレーズで視聴者の獲得を狙いそうですね。
ただ本書の場合、この問題が終結しても最終回じゃないんですけど。
というか、この問題を最後に持ってこなかったのは何か理由があるんでしょうか。
本書や作者にあんまり長期的な構想があったとは思えませんから、行き当たりばったりなのかな?
個性的な登場人物も増えてコミカルな展開になりそうだったのに、急な路線変更で驚かされる。
もしかしたらアメリカ組は慶太を孤独にしないための前振りなのかもしれませんが。


そんなアメリカからの使者・マイケル(通称・イエティ)。
彼は慶太に片想いをしていたアレックスの兄で、妹の華麗な経歴を傷物にした恨みから慶太(けいた)にリベンジを望む。

スキー合宿も兼ねた修学旅行中に現れた彼だったが、ちょっとした手違いで美羽(みう)がイエティと勝負することに。
だが、その勝負の前に二人で雪山で遭難してしまう…。

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雪山で遭難する美羽とイエティ
雪山で動けなくなっても美羽は冷静で、イエティの怪我の処置までテキパキこなす。
更に精神的に弱くなったイエティを励まし、肉体的な消耗には身を寄せて温めあう。
さらには慶太より大きいイエティを抱えて下山まで敢行するのだから大したものだ。
全ては無事だったから言える無謀なことではありますが…。

この回では美羽の根性を表すというのは分かるのだが、根本的に間違っていることが気にかかる。
慶太に恨みのあるイエティが、慶太に代わって現れた美羽に勝負を挑むのも勝負の条件も変、そしてそれを受けて立つ美羽がもっと変だ。
全ては2人を雪山に遭難させるためのお膳立てなのは重々承知だが、論理性の無さに呆れてしまう。

無事に慶太に発見されてから、慶太はそれなりに美羽を責めるのだが、
「胸をはれる自分になりたいの…」と美羽に言われて、矛を収め、再び美羽を甘やかしてしまっている。
彼氏に売られたケンカまで買うことが逃げないことでもないし、スキーの一夜漬けが胸を張れる自分を作るとも思えない。

喧嘩するほど仲の良い間柄の美羽と慶太だが、美羽の中では格差交際みたいになっているんですかね。
気の置けない幼なじみの関係を振りかざしたり、急に自信を失ったり、美羽のスタンスが定まらないのが いつも気になる。


そして本書の悪い癖、予告で不安を増幅させる煽りが連発し、更には本当に深刻なお話に突入します。

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20話・21話の最終ページ 不安を煽ります。
なんと慶太は両親と血の繋がりが全くないことが判明。
これは慶太のことなら何でも知っていると思っていた美羽も知らなかった事実。
そしてだからこそ現時点では慶太本人よりも衝撃を受けているかもしれない状態になる。


実はこの問題は『2巻』から伏線を張っていて、その一環として、アレックス兄妹の義兄妹設定もあるのだろう。
美羽と慶太がそうであるように、麻里香と小林くん、アレックスとイエティも、そして慶太と両親も一番近くて一番遠い存在なのだ。
その人との関係をどこに定めるか、それが当人たちのキョリの問題。
アレックスたちをいたずらに恋愛関係にあてはめなかったのも、独自のキョリの取り方の例示の一つだろう。

更には父親の仕事の関係で一家は渡米することになるが、慶太父は慶太に残るよう指示する。
だが、慶太の様子は少し変で、美羽はそんな彼に声を掛ける。
どんな言葉が待っていようとも慶太の内心まで踏み込む勇気をもって美羽は慶太の言葉を待つ。
そして、美羽なりの考えで二人の適切なキョリを示すのだが…。

重い。重すぎますね。
以前も書きましたが、作品の共通テーマは見いだせるけど、それが作風にマッチしているとはあまり思えない。
そして美羽と慶太が内面まで踏み込んでも言葉が表面をなぞっているだけに思えて、深みや重みが感じられません。
この二人の関係性ならばもっと独自の場面が、もっと特別な言葉があるはず、と思ってしまいます。

私としてはバレンタイン回のような、かしましい言い合いが作品にマッチしていると思った。
キョリが近すぎて素直になれなくてツンデレ状態になってしまうけど、結局、「イチャラブ」に落ち着くというまったり展開で良いのになぁ。