《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

メイン読者は小中学生だから過激な描写には走れないが、妄想や作中作ならグレーゾーン。

GET LOVE!!(6) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
GET LOVE!! ~フィールドの王子さま~
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

サッカー部夏合宿も終わり、相楽(さがら)の誕生日がやってきた。相楽からお泊まり旅行に誘われた美樹(みき)は、「いよいよ…」とHな妄想でいっぱいになっちゃって?美樹と相楽の愛が最高に熱い夏山遭難・里帰り編の他、穂高告白編、あの伝説のぶっとびよみきり「妄想乙女」等収録。●収録作品/「GETLOVE!!~フィールドの王子さま~」GAME.22~25/「妄想乙女」

簡潔完結感想文

  • 少女漫画の山といえば遭難。お約束の展開から逃れようとして逃れられない2人が面白い。
  • お盆に田舎に帰る。巻末の展開といい、どうも名作漫画のパク…、オマージュな既視感。
  • 新学期。最強の新入部員が加入しクライマックスへ。女性を物として扱う展開がお好き?

女に妄想させておけばページは埋まる、の 6巻。

本編も、巻末の読切短編も作中作が過激だった。
これは作者がギリギリの線を狙ったのかな、と思う。
2004年前後の、過激でなければ生き残れなかっただろう「少女漫画」戦線で、
読者のことを考え、メインキャラを傷物・見世物にするわけにはいかない中で生み出した妥協案が、作中作ではないか。

読者は編集者のニーズに応えつつ、内容で勝負するという作者の矜持は最後まで保っている。
これをプロと言わずして何と言うのか。

作者の第一長編となった本書だが、
読切短編から始まって、短期連載・長期連載と作品の描き方が変わっていく中で、
その僥倖を活用すべく、柔軟に対応して内容を拡げていったこと、
そしてエロのラインを不用意に下劣にしないことなど、作者の対応力が光っている。

初めて連載を持った作家さんが まず超えるべきハードルは長編化で作品の質を維持できるか、だろう。
私はこういう新人作家さんならではの連載への情熱・熱量や成長を感じられる部分が大好きだ。
これまで読んできた作品の中でも、
長編化の機会を上手く活用できた人、できなかった人は明確に分かれており、
それが人気作家と それ以外の差であると思う。
毎度、結果を残さなければならない厳しい世界の中を生きているんだなぁ、と改めて漫画家さんを尊敬する。


巻に引き続き夏休みの合宿回。
サッカー部一行はランニングで山の上に来た。
だが少女漫画の山は遭難が鉄則。
やはり美樹と相楽は遭難してしまうが…。

どうせ遭難してしまうのが少女漫画の宿命なら、それまでにどれだけオリジナリティを出せるかが勝負。

そこからは お約束を絶対にしてしまうラブコメ、の始まりです。
お約束というのは定番になり得るだけの面白さやドキドキがあることを再確認する。

遭難は美樹が川に落ちるのを相楽が助けたことから始まる。
そうして体温の低下を濡れた服を脱ぎ2人で温め合う、というお約束になるのだが、
2人は恥じらいを優先してしまう。

やがて相楽が熱を出して、美樹が看病する。
ここで美樹が恥じらいを捨て相楽の服を脱がすことで、
相楽がどれだけ身を挺して自分を守っていたかを理解する、という水面下の相楽の努力が分かる仕組みが良い。

遭難回のマンネリを逆手に取りつつ、笑いと愛に転換していく技量が素晴らしい。


いてはお盆に田舎に帰る相楽一家に同行する美樹を描く。

こうして親族一同に挨拶したということは少女漫画では結婚一直線ですね。

それなのに どうして美樹が家族との帰省を「エッチのお誘い」と取るのかは謎です。
作中作で過激なシーンを描いたり、女性側の赤裸々な悩みを ぶしつけに描いたりする点は、やはり品を感じない。
エロ関連のシーンを入れることでページを埋めようとしているように見える。

そもそも相楽の父親と会うだけで緊張のシーンだと思うが、その場面はスルー。
ことごとく「大人」を排除した作品だと思わされる。

ちなみに「少女漫画あるある」としては、
少女漫画に出てくる車、上手に描けている方が少ない、ですかね。
作家やアシスタントの方々も少女漫画では車を上手く描くのは特に必要のないスキルなんでしょうね。

父親は登場しない代わりに、今は亡き相楽の母との対面シーンがある。
墓前で嘘はつけない、も少女漫画、というか人間のルールです。

相楽が母に伝える一言一句が、美樹と読者の胸に刺さる。


うして夏休み編が終わって、新学期。
そこから穂高がサッカー部に正式入部することになる。
穂高の加入によって、チーム全体、そして相楽のスキルアップとなる。
いよいよサッカー漫画として大詰めを迎えようとしている。

穂高も部員たちに歓迎され、1回戦は快勝。
そこに立ちはだかるのが、穂高を追放した学校・城南(じょうなん)大付属のサッカー部員たち。

出ました、性格悪い方のサッカープレイヤー。
元チームメイトは、穂高の過去を暴き、彼の行動は自分たちへの復讐だと吹き込む。

それを聞いた美樹は、穂高の怪我の真相に衝撃を受け、相楽は そんなことができる人間を信じられない。
彼は相手の襟を掴み、今にも殴りかかりそうになるが、実際に殴ったのは美樹。

そして美樹は相手校の選手と口論となり、いつの間にか城南との勝負で美樹のカラダが優勝賞品と化してしまう。

これは美樹の貞操の危機が相楽の潜在能力を引き出すためと分かっているが、
やはりオヤジ的な発想と思えてしまう。
美樹が自分を商品とされることに生理的に嫌悪していないように見えるのがダメなのか。

とはいえ、こうして城南との因縁ができて、負けられない理由も出来た。
穂高もこれで復讐ではなく美樹のためと心を切り替えるキッカケとなっただろう。
相楽も穂高も一心不乱に試合に集中できたとは言えるのだけど。

そういえば美樹って、大抵の初対面の人から容姿を一目で認められてますよね。
作中では美樹の美人設定を強く押し出している訳ではないが、
こういう反応から美樹の容姿は かなり良いことが伝わってくる。

著しい論理の飛躍が見られるが、勢いで読者が納得すれば それでいい。男は全員ケダモノだもの。

して負けられない相楽たちは無事 決勝戦に進出する。
この頃には穂高も部員たちを全面的に信頼している。
彼を更生させたのは相楽たち、本気でサッカーを好きな部員だろう。

そして穂高は相楽のことも認めている。
一度 大きな過ちを犯した自分は、男として相楽に絶対に勝てないと思い知っている。
だから決勝を前に美樹と決別の抱擁をしてもらった。

この三角関係(にもなってないけど)は、割とあっさりと終わりましたね。
これでは先輩方の茶々とあまり変わらない。
もっと穂高にしかできないトリックプレーが見られると思ったのに。

こうして万全な体制が整ったサッカー部だったが、
試合当日の朝、相楽は階段から落ちそうな子供を助けるために自分が犠牲になってしまう。

なんだか、あだち充さん『タッチ』を読んでいる気分。
というか全体的に(おそらく)作者世代の名作に影響を受けているんじゃないかと感じる。
まぁ、そうやって漫画文化が継承・発展していくんでしょうけど。

すごい場面で終わって、以下 次巻。

「妄想乙女 モウソウバージン」…
女子高生漫画家の藤波(ふじなみちひろちひろ は、
青年誌に豪田剛(ごうだつよし)の名で「エッチなまんが」を連載している。
彼女の創作力は、キスもしていない彼氏・泉(いずみ)くん との妄想。
漫画家であることも、モデルにしていることも秘密の交際は やがて破綻して…。

まさに作品自体が妄想で出来ていると言える。

泉くんがツンデレ的に優しいのは分かるが、
彼が ちひろ をどうして好きなのかが割愛されているから、
単に何をしても許されるヒロインになっているのが残念。
ページ数的に厳しいとは思うが、もうちょっと泉への描写が欲しかったところ。

そして担当編集者は色々な意味でアウト。
未成年じゃなくても、担当者に手を出す時点でプロではない。
これは作者の願望まじりの妄想⁉、とか考えるのは作者に失礼か。