椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第15巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★★(8点)
修学旅行でのキス未遂事件以来、どこかぎくしゃくしてしまう爽子と風早。あやねのことが気になり急接近するケント。龍からの告白を断った事で今までの関係が終わると感じる千鶴。6人それぞれの立ち位置が少しずつ変わり始める冬の始まり──。
簡潔完結感想文
スピンオフドラマが本編中に登場する15巻。本編どこ行ったのよ…。
学生時代最大のイベント修学旅行から帰ってきたというのに、どこか歯車のかみ合わない状況に陥る女友達3人の恋愛問題。
めでたく恋人になった『10巻』以降、幸せなムードに包まれていたのに、この巻は曇り空といった雰囲気になっている。少なからず危惧はしていたけれど、いよいよ爽子・吉田・矢野の恋模様3本柱が確定的になっていく。
吉田も矢野もそれぞれ好きですが、それはあくまで爽子主演の『君に届け』の登場人物としての好き。
端的に言えば2人の恋愛になぞ興味はない。
今巻の話も質としては決して低いものではなく、『君に届け』の世界観がちゃんとある。
けれど吉田や矢野がスピンオフの主演を務められるのは爽子と風早という主役が作り出した『君に届け』という強靭な土台の上に建っているからであって、彼女たちの力ではない。
主役としての力は足りなく思えてしまうのだ。
特に矢野ちんは『君に届け』がお送りする絶対的な恋愛観が欠ける。
付き合って別れてというコントロールされた恋愛が出来る人だから。
また途中参加なのでしょうがないですが私の中で健人は未だ新参者という感じが抜けなくて男女6人というよりも5人+1人なんですよね。
いつでも離脱可能な感じで。
それがまた矢野にアプローチするものだから偽物っぽさが倍増している。
矢野に本格的に接近する前に健人は軽い感じではあるものの爽子に告白している。
冗談を織り交ぜながら爽子に気を使わせないように、でも以前の自分に決着をつけるために言ったって感じですかね。
この爽子への想いも私はちゃんと読み取れなかったので違和感を覚えるし、矢野への接近も弱っている人に感応する博愛精神の賜物にも思えてしまう。
この辺りが「本物」に変わっていくならそこは読み所になると思いますが、健人には幸せが似合わないんですよねー。
本当に付き合ってた人いるんですかねー。
チャラ男風だけど恋愛下手という設定だったりしませんかね。
2年生以前を知らないのでそんな疑惑も浮かびます。
そんな健人と矢野よりは気になるのが吉田千鶴と龍。
2人の関係に変化が訪れることで、これまでのような関係性でいられない事に恐怖を覚える千鶴と、たとえそうなったとしても現状を打破したい龍。
爽子の場合は告白して全てを失うのを恐れていたけれど、千鶴の場合は告白されてそれを受け入れることで壊れてしまうものを恐れている。龍一家の辛い過去も明らかになり、それを追体験する事によって分かる千鶴の悩み。
あの日以前も、あの日以降もずっと横にいた存在は自分を特別だと思っていた。
千鶴に生まれるのは、彼女にも一方的だとは分かっていながらの裏切られたという感情でしょうか。
今のあやふやな関係が嫌なのであって、どのような形であれ決着が付けば元に戻りそうな二人である。
いつかの爽子の悩みじゃないけど、「早く大丈夫な所まで時間が過ぎればって思ってしまう」感じの悩みですかね。
これは千鶴の気持ちを無視するようだけど、いっそ家族になってしまえば、今の千鶴の抱える悩みは解消しそうだ。
しかしいつもの仏のような龍から一転、オスを感じる龍の迫り方はいいですね。気持ちが先走ってしまい、あまり千鶴の気持ちを考えてないようにも見えますが。
矢野には兄がいたんですね。
プロフィールにはあったかな? 父・兄共に顔出しは初ですよね。
自分の兄がいながら近所のお兄ちゃんに恋をする千鶴。
千鶴兄的には複雑な思いがあったりするんでしょうか。
龍に悩みが出来たから、龍の親友としての風早の立場がより明確になりましたね。
本心で話せる人が少なそうな龍にとって風早は貴重ですね。
風早くんにはもっと早く解決する問題がありそうな気がするけど…。
そういえば龍母が事故にあった際に、怒りに任せようとする千鶴をなだめたのは風早母だろうか。
風早一家・龍一家・千鶴一家とピンは本当に長い年月を過ごしてきたんですね。
過去をさかのぼると大河ドラマ的な感じになっていく。
こども風早と龍の出会い編なども見てみたい。