《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

あの日、行けなかった夏祭り。あの日、飼わなかった金魚。唐突に触りたくなった私の怪物。

となりの怪物くん(9) (デザートコミックス)
ろびこ
となりの怪物くん(となりのかいぶつくん)
第9巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★★(8点)
 

「いったい私たちは、何がしたくて付き合ったのだろう…」高校2年に進級した水谷雫と吉田華は、長いすれちがいの末に付き合い始めることになったが、雫はなかなか付き合った実感を得ることができない。そしてハルと何も変わりがないまま夏休み。ついに2人にも、そして周りにも、大変化が…⁉

簡潔完結感想文

  • 旅行の2日目。アウトレットモールで繰り広げられる鬼ごっこ。鬼は兄。
  • 夏祭り。恋が生まれたり、恋を終わらせたり。すべては夏の夜の夢。
  • 文化祭の準備に、進路の選択、家庭の事情。高校2年生の2学期は忙しい。


やっぱり本書は面白いと確信した9巻。この漫画の前半と後半で評価が変わっていく。

これはどう分析したらいいのでしょうか。
考えられるのは、
1.読者の私が登場人物たちに慣れた。
2.連載が進み作者の漫画スキルが上がった。
3.徐々に登場人物たちの角が取れ、読者に理解されやすくなった。
4.前記の複合的な効果、だろうか。

私は一度読了しているので、感想を書くにあたって好きな作品・良い作品だと知りながら、1・2巻を読んだ。
けれども序盤は作品に違和感を感じた。後半で感じた優しく温かい手触りがない。序盤はイガグリのような痛く鋭い感覚なのだ。
もちろん、それはある程度、作者が狙っていることだろう。でもそれ以上に触れずらいように思う。
主な原因としてハルの雰囲気がやっぱり違う。それに物理的な暴力描写が多すぎる。
また恋愛漫画としても2人には共感できない雰囲気があった。


だが、それがどうだろう。もはや何も置きなくても面白いし、何かが起きるたびに心が反応する。
そして登場人物が多ければ多いほど、収拾がつかなくなる一歩手前が面白い。

なので今巻のような10数人が入り乱れるキャンプ回や、文字通りお祭り騒ぎになる夏祭り回などは本書にうってつけの内容だ。
会話が入り乱れる、そしてその中に大事なモノが隠されたりしている。
つまりは少しも読み逃せない。


正式に交際を始めたハルとの関係性に変化がない現状を考える雫だが、雫の方は明確に変わっている。
自宅の庭の水がめで金魚を飼い始める雫。
小学生の頃、行けなかった夏祭り、あの時には欲しいと言えなかった金魚。雫にとって我慢の象徴ですね。
そして、寝ているハルに触りたくなる衝動。情動かな?
とにかく人に、物に感情を動かされている。
ハルとヤマケンくんの間でハルを選んだこと、後悔のない生き方をし続けている雫を立ち止まらせる人生の始まりだ。

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子供の頃に言えなかった言葉が言える。心が満たされているからだろうか。
雫とハルの変化を色々な人に見せてあげたい。
上記の雫と同じように、ハルも変わった。好きな人が出来て、クラスメイトに馴染んで、逃げ回ることを止めようとしている。
小学校の頃、クラスのペットが死んだことを悲しみもせず一人で帰った雫をそれとなくたしなめたあの時の先生、ハルがその手にぬくもりを感じる人が現れる前に逝ってしまったハルのおばさんに、それぞれ見て欲しい。
私もまさか1巻の読書時点ではこんな気持ちが自分に生まれるとは思わなかった。


弟・隆也の心境も上手に描かれている。
ハルといる姉・雫は自分の知っている「姉」ではない。
特に母の代わりにずっとそばにいてくれた雫だから、その思いはひとしおだろう。
そんな隆也は夏休みの宿題を放置している。姉に似てるのは外見だけか。
そして前巻読了すると分かる運命の場面。あの人とは初対面じゃないけど、ずっと覚えてたんだろうなー。


ヤマケンくんは再び塾で「となりのヤマケンくん」になれたものの、雫にとって共に勉学に励む友人としてしか扱われないため、彼女との関係を断ち切る。
んー、良いキャラだったのに、ここで途中退場でしょうか。でもみっちゃんと夏目ちゃんがまた顔を合わせたように何だか再登場の予感もします。
彼にはどこまでも諦めず、そしてどこまでも不憫なキャラでいて欲しい(笑)

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ササヤンのさらっとした告白。夏目ちゃん油断大敵からの遺憾の意。
そしてハルの兄・優山の意外な弱点が発覚する。
これは雫がやっても通じるのだろうか…。
彼の場合は何が原因ですかね。ハルみたいに社交性の問題ではないし、ヤマケンくんのプライドでもない、度胸ですかね。
それにしても優山を天敵だと思っている人は多いですね。それは自分が優位に立つということだから、ある意味、人の上に立つのに向いているのではないだろうか。山から下賎の者を見下す優れた人、それが優山。


ハルはギフト・才能に溢れた人だ。
それを持っていない人から羨望や嫉妬を受けてきた。本人が望んでいないのにも関わらず。
この辺りの悩みは夏目ちゃんに通じるかもしれませんね。
与えられたものが騒動を引き起こす。だから「持っている」自分が好きじゃない。
そして雫もそれを羨み、無自覚にハルを傷つける言動を取ってしまっている。
でも雫はたゆまぬ努力をし続けた人だから、それでも手の届かないものへの歯痒いさは伝わる。


ハルの実家問題が浮上して、これからまたハルが、その立場によって人に振り回される予感がする。
私が恐れるのは、これまで積み重ねてきた雫や周囲との関係をハルが一瞬で壊してしまうこと。
小学生のような心で、上手くいっている時はいいが、ストレスが溜まると全てを投げうってしまいそうだ。
ラストでは雫にも心の距離を感じる場面もあった。
今度は雫がハルに手を伸ばしても、その冷たさに手を引っ込めてしまうかもしれない。