《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

俺は人間以外の生き物は好きだ。でも人間は嫌い。だってあいつらみんな怪物だろ?

となりの怪物くん(10) (デザートコミックス)
ろびこ
となりの怪物くん(となりのかいぶつくん)
第10巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

「彼はいったいなんなんですか。なぜこんな所にいるんですか…。」長いすれちがいの末に付き合い始めることになった水谷雫と吉田春。なかなか付き合った実感を得ることができなかった雫…。だけど高2の夏休みにやっとハルと一緒にいるよさが実感できて順調な日々。でも、吉田家に何かあったらしく、今まで聞きたくても聞いてこなかったことが気になり始め…⁉

簡潔完結感想文

  • 怪物の父親登場。見た目は父の方が怪物。父というより「家」に問題ありそうだ。
  • 文化祭。同時並行で色々起こるこの漫画ならではの楽しさ。どこでも登場する兄。
  • 怪物は怪物に。堅物は堅物に。灰は灰に。全てが灰燼に化す、拒絶と滅びの呪文。


積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払う、全力拒絶の10巻。

もしかしたら本書は人間のエゴや醜さを描いた作品なのかもしれない。
いわば少女漫画版『MONSTER(浦沢直樹・著)』ですね。

私は今までハルこそが怪物で、彼の衝動的な行動に巻き込まれる人々の受難が描かれているのだと思っていた。
しかし本当は逆で、ハルに温かい手を差し伸べてきた者たちがハルの気持ちも考えずその手を勝手に振り払う。そのエゴこそが怪物の正体なのかもしれない。
卑屈さやコンプレックスが理由で自分の中に生まれた怪物を転嫁させるためにハルを責める。
ハルにとってこんな世界の住人達は、となりは全て怪物だ。
もちろんそれは雫も含めて。


今巻で雫はハルを拒絶するような言葉を吐く。
あれだけ自分を過去から解放してくれた、新しい価値観をくれたハルに向かって。
なぜならハルが自分よりもはるかに優秀で裕福で、望むものをすべて持っていたから。
それは本当はハル自身には関係ないにもかかわらず、だ。

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容姿や才能に恵まれた人は、それ以外の人の劣等感をかき立ててしまう。
ただ、ここで雫が間違えるのは、ちょっと不自然だと思う。
6,7巻あたりまでなら、このような一進一退の恋愛模様は行われていたけれど、正式に交際し、自分にとってハルが、ハルにとって自分がどのような存在かが分かった上で、逆恨みのように苛立ちをぶつけるのは唐突だ。

しかも吉田の「家」に巻き込まれ、ハルが出たくもないパーティーに無理をして出席してると雫も理解してる時にそんな事をいうとは思えない。
自分なりにハルが足掻いている時に、他者に不意に湧き上がった劣等感をぶつけられるのは理不尽。
本当にハルこそが自然体で、いつも彼我を比較して生きる人間こそが怪物のように思える。
しかもハルが信頼した兄・優山も雫も一度はハルに対して愛情を向けているのが残酷だ。
その手に温もりを感じたはずの手で拒絶されるハルの絶望たるやいかほどか。
ハルが行う見える暴力は非難されるが、周囲の人々の見えない暴力は許される。どれだけハルがその心に傷を負い、血を流したとしても…。

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自分の好きな人たちが切り捨てるような言葉で身体を引き裂く。それはハルだけの苦悩。
今巻から吉田父が顔出し初登場。見た目はササヤンの親かな?って思いますね。目がそんな感じだ。
優山とハルは母似の兄弟でしょうか。
その目といえばオマケ漫画などで、みっちゃんサングラスの謎が明かされています。
私はてっきりみっちゃんが目にコンプレックスを持っていて彼が意図的に隠しているのかと思いましたが、どうやら吉田父に目が似ているせいで「(優山・ハル)兄弟に嫌がられるので みっちゃんはあまり 素顔をさらせません」という理由らしい。
吉田兄弟に苦労してますね、みっちゃん。
まさかサングラスの下を透視した描きおろしイラストでみっちゃんの目が見られるとは思わなかった。夏目ちゃんはみっちゃんの目、見た事あるのだろうか。その目を直に見たらまた恋に落ちちゃったりして…。


吉田の家は政治家一家みたいですね。
父の女性問題からの復活をアピールするために用意された息子・優山の成人のパーティー
一家円満を対外的に示さなければならず、ハルもまたそのパーティーへの参加を要請される。
そのストレスを抱えている状態で、雫にまで一線を引かれるハル。
そしてハルは再び学校に現れなくなった…。というところで以下、続刊。

財閥とかならいざしらず、政治家はハルには最も向かない職業でしょうね。
ちなみにヤマケンくんの家は病院みたいですね。
家柄としてはいい勝負か。雫は自分で稼ぐでしょうけど。
ヤマケンくんと3バカトリオは本当に金持ちなんですね。
あちらの学校では「F4」とか呼ばれたりしてるんでしょうか。
あれ、男子校でしたっけ?
そうなると「あほフォー」が関の山かもしれないですね。


てっきり父こそがラスボスで、向かい合わなければならない者と思っていましたが、どうも父はそこまで憎むべき人ではなさそうですね。
色気が足りないことが原因かもしれないが、未成年の雫には手を出さない倫理観もあるし。
一方で雫の母には出したみたいですけど。母はファビュラスな衣装で身を包んでいました。


雫がハルと距離を置いた後に近づくのがヤマケンじゃなくて、兄・優山だったら更なる修羅場が期待できますね…。
努力しても手の届かない人、庇護すると思っていた対象が「家」では温情の対象になること、ハルへの複雑な思いを同じにする二人が衝動的に寄り添うあう…、という展開。
まぁ、そうならないための兄の純真設定なのかもしれないですけど。
そうなった時はハルは本物の怪物になるでしょうね。
拳じゃなくて刃物で血を見るかもしれない。
雫がおバカさんでハルの容姿にのみ惹かれていれば話は簡単だったのに。
その容姿は一生無くならない。そして他のギフトは凄いのか理解も出来ないので気にならない。
誰も苦しまない恋愛が出来たのだ。


表紙下のオマケ漫画では雫の弟・隆也の意外な告白がある。
12歳なんですね、隆也くん。8‐9歳のイメージでした。そしてその歳でネットで画像収集してるとかもう完全にエロ目的ですね。
そして何かと大島さんを連れまわす隆也くん。
恋愛方面では姉よりも積極的で聡明かもしれない。