池山田 剛（いけやまだ ごう）
小林が可愛すぎてツライっ!!（こばやしがかわいすぎてツライっ!!）
第02巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★☆（5点）
大好きな蒼の誰にも言えない秘密を知っためご！ それでも蒼への想いは募る中、男子と偽ったままでも蒼と少しずつ気持が通じ合っていく・・・。そしてまさかのキ、キ、キ、キス・・・？？の急展開！！ さらに十とめごの入れ替わりがついにばれちゃう？！ 先が気になりすぎてツライっ！！といきなり大人気！大反響のミラクルラブコメ第2巻！！
簡潔完結感想文
- 女性が苦手で失神してしまう男性が男装した私を好きになってくれたよ☆ あれっ…？？
- 彼女が抱きついたのは恋愛対象外の男性。すると好きな人は別にいるよ★ あれっ…？？
- 同日同時刻に恋に落ちた兄妹は、同日同時刻に秘密がバレる。2巻まではプロローグ。
運命の相手とは最短距離で恋に落ちる 2巻。
思い返してみれば池山田作品は どれも恋に落ちるのが早い。それが正ヒーローとの恋であるかは作品によるけれども、男性とあっという間に恋仲になるのは池山田作品の特徴だ。恋愛成就までに物語の全てを費やす作品がある一方で、池山田作品は その部分をマッハで駆け抜ける。そのスピード感が若い読者に受けている美点でもあるだろう。
前作『好きです鈴木くん!!』もそうだったけれど、作者の企みは両想い後に作動し始める。前作は両想い後に、ありふれた10代の初恋が大河ドラマのような出会いと別れを繰り返す物語になった。今回は両想いになった直後に自分が相手に付いていた嘘がバレて、それによってゼロ距離になったはずの2人の間に絶対に越えられない壁が出現する。好きになれば性別は関係ない。でも性別を意識した途端、二度と触れられなくなるというヒロイン・愛（めぐむ）の波乱万丈な恋が始まろうとしている。
女性が苦手な蒼（あおい）だから、もし愛が男装して男子校に潜入したりせず、蒼が彼女の双子の兄・十（みつる）と出会い、その遺伝子に惹かれていけば問題は無かった。男子校の神セブンの禁断の恋。（おそらく）掲載誌「Sho-Comi」初のBL作品として歴史に名を残したかもしれない。BLエンドは掲載時の2010年代前半では難しかったかもしれないけど、後半には それが可能な環境が整ったように思う。
もしくは蒼を巡って双子の兄妹が性別関係無しの争いをしても面白いかもしれない。
本書における企みは性別の問題なので、それがバレるまでは最短距離を進む。これは『鈴木くん!!』同様。恋愛感情は運命の恋という大雑把な言葉でまとめられる。特に本書は『2巻』終了時に まだ出会って6日目（ぐらい。少なくとも1週間以内）。そんな関係なのに もう性別の問題以外に恋愛感情を阻むものは存在せず、知らないとはいえ蒼から行動していることで両想いが成立している。この展開の早さを あっという間に呑み込める若い読者もいれば、そこまでの過程をじっくりと描いて欲しいを願う読者もいるだろう。そこは好みの問題か。テンションの高さや展開の早さなど池山田作品は好みが分かれそうな部分がたくさんある。
残念なのは『鈴木くん!!』は本当に その後のドラマに重きを置いているけれど、本書の場合、いつでも終わらせられるのに話を引っ張っているだけのように思える部分もある。また3回の連載ネタを基にしているという先入観があるからか、連載1回分での内容の重複が多いように思う。心情や設定を繰り返して説明しているか、男子校の神セブンのように特に本筋に関係ない設定で盛り上がっているかのように装うかという感じで散漫な印象を受ける。描きたい場面が まだまだ残っている前半よりも後半は特に その印象は強くなる。
今回、蒼と紫乃（しの）の関係性がハッキリしたことで、男女5人の恋愛相関図が2つのグループに きっかりと分かれてしまった。問題が残っているとはいえ愛と蒼は早くも両想い状態だし、十の関係性は『鈴木くん!!』同様の男1女2の三角関係で既視感がある。作者は自分の好きなキャラを これでもかと盛り込んだキャラが動かせて楽しいかもしれないが、池山田作品なのに恋の矢印が単純すぎるのは読者として落胆する部分である。特に2作連続 女1男2の標準的な三角関係が描かれないのは物足りなさを感じる。
愛は男装して出会った蒼に恋に落ち、1週間の入れ替わり期間が終わったら女性として蒼の前に立ち告白するつもりでいた。しかし蒼が女性が苦手なことを知る。それを知るきっかけになったのが発情した女教師に蒼が強引にキスされた、という とんでもない展開なのだけど、男子校で女性に近づかないようにしている蒼に「拒絶反応」を出すためには このぐらいしないと駄目なのだろう。
蒼は女性が50cm以内に近づくと動機とめまいと息切れの症状が出てしまう。『1巻』で愛が この学校で蒼に出会った時に彼の顔色が悪かったのは前日に女性（愛本人）に触ったため症状が出ていたからだった。
愛は自分が女性であることをカミングアウト出来ない状況になるが、男装して出会ったからこそ蒼に触れられる幸運も感じていた。この接触でも蒼が少女に悩まされないのは、彼の症状は彼の認識に起こるもので、本人が認知しなくても物質に触れたり体内に入れたりするだけで症状が出るアレルギー反応とは違うことを意味している。つまり女性であっても蒼が許容する存在は触れられるということで、それは愛の未来の明るさを意味している。
入れ替わり5日目。梓（あずさ）は自分を ときめかせた男子生徒の素性を探ろうとしたが、それが十が作り出した架空の生徒のため見つけられない。そして蒼が愛を女性だと知らないまま仲を深めていくのと反対に、梓は十が自分の恋した相手と知らず同性として敵対するばかり。
その十は初めて好きになった紫乃（しの）に好きな人がいると知り撃沈。それでも彼女といる時間は かけがえのないものに感じられる。そんな紫乃に願われて十は彼女の行きたい場所に同行することになる。その場所は、本来 十が通っている男子校。紫乃が会いたかったのは蒼だった。
紫乃が蒼に抱きつく様子を見てダブル失恋をする小林兄妹。しかし それは誤解で蒼と紫乃もまた兄妹だったのだ。彼らは事情があって、小学校の時に それぞれ親戚の家に引き取られ別々に暮らしているらしい。紫乃は兄と会いたいと願っているけれど、兄が紫乃を避けているようで、そこに蒼の眼帯の秘密も関係しているようだ。
ただ愛は蒼が紫乃を嫌っていないと訴える。それは彼らが同じラベンダーの香りを漂わせているから。蒼は紫乃が新しい家族とうまくいっているから、自分の存在が邪魔になると考えていた。けれど紫乃は大切な妹。そう言ってくれる。ただし蒼と紫乃は異父兄妹であることが紫乃から明かされる。それも別居と関係しているのだろう。
紫乃から見ると愛を見つめる兄の顔は優しい。それは妹の他に大切な人が出来た証拠だろう。それを実証するかのように愛は蒼から映画館デートに誘われる。デートと言う認識は愛の一方的なものだろうけど、蒼が愛と距離を縮めたいと思っているのは確か。
しかしデートの最中に別行動をした際に、愛は蒼に暴力を振るおうとしている他校の生徒に遭遇。眼帯をしている蒼の死角から攻撃しようとしている彼らを蒼と接触させないために愛は彼らの前に立ちはだかる。恐怖心に打ち克って何とか撃退した愛だったが、駆け付けた蒼は愛の無事を確認した後、愛と距離を置こうとする。だが愛は一方的な判断を許さない。先んじて彼の口を塞ぎ、自分が蒼と一緒にいたいことを訴える。すると今度は蒼が愛の口を塞ぐ。彼が塞いだのは手ではなく口で。つまりは彼は自分から愛にキスをしたのだった。このシーン、蒼の認識では愛は男性で、それでもキスをしたことから蒼が読者に同性愛者だと勘違いされても不思議ではない。作者としては男装しても隠し切れない惹かれ合う男女を描きたかったのかもしれないけれど。
愛が負った怪我の治療のために蒼は愛を自宅に連れていく。蒼は遠縁の親戚と2人暮らしで、同居人は仕事で遅く帰るため今は2人きり。降り出した雨に打たれたため、愛は風呂を借りる。そこで起こるのは当然 鉢合わせである。
同日同時刻、十は、梓が墓穴を掘った自分がハマっているのを発見する。その救出の際にカツラが取れてしまい、梓に男性だとバレてしまう。恋に落ちた時と同様に、偽っていた性別が同時にバレてしまう。
