
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
ついに120万部突破!!!!圧倒的No.1ラブコメ!! 蒼とめご、半径50cmに近づけない2人の距離が少しずつ近づいていく!! 一方の、十はついに紫乃に想いを告げる。その時、梓は・・・?!蒼の過去を知る新キャラの登場で奇跡の恋、その本当のストーリーが明かされる”高2編”がついにスタート!!!!
簡潔完結感想文
- 再び1週間の入れ替わり。初回は恋愛成就への一歩だったが、今回は失恋確定!?
- 困難な局面でも自分の足で立ち続けることが好意の原点。蒼は その場面なし??
- 高校2年生となり新章が始まったのに何も起こらない。膠着状態もしくは中弛み。
自分の中の悩みと戦っていることが躊躇になる 5巻。
『5巻』は どちらかというと双子の兄・十(みつる)の巻。そして妹・愛(めぐむ)がメインだった『3巻』と この『5巻』は対になっている気がした。『3巻』は愛が蒼(あおい)に自分の想いを伝えようと駆け出していたけれど、『5巻』では十が自分の想いを封じてでも紫乃(しの)のためになる行動を取るために走った。どちらも自分の中の怖気や葛藤と戦った上で走り出しており、告白する/しない ではなく、その結論を出すまでの過程が彼らを成長させている。


一方で作品そのものに逡巡がある印象を受けた。作者は ずっと作中に現実で起こった ある出来事を入れるか入れないかで悩んでいたようだけど、その悩みが作品をフラフラとさせているように思った。この先の作品の展開が不確定だから、結論を出さないまま、毒にも薬にもならないエピソードでページが埋まっている。そう思ってしまうほど新章が始まったはずの『5巻』後半は何も始まらない。これまでの池山田作品なら、絶対に描かないような何も起きないエピソードの連続に落胆が隠せない。奇跡とか運命、また この先の悲劇的な展開を予感させる演出の連続ばかりで辟易する。その無意味さは、作者が次の一手を考えあぐねているからではないかと考える。『萌えカレ!!』や『うわさの翠くん!!』は10巻以内で あれだけ内容が充実していたのに、『鈴木くん!!』で大きなドラマに着手して以降 どうも展開が もっさりしている(『鈴木くん!!』は成功例だと思うけど)。これが前作の悪影響なのか、作者の加齢による切れ味の喪失なのか判断が出来ない。
また男女5人の群像劇だったはずなのに、この『5巻』で紫乃が ほぼ出番終了となるのが残念。
彼女は他の4人を結びつける縁結びの位置にいる。しかし悪く言えば そうなるように生み出された存在である。例えば私が最も嫌悪するのが『3巻』の手話での告白。作者はヒロイン・愛に この告白方法をさせるために作品に手話を取り入れた。それなら十が紫乃に告白する時に使えばいいのに、紫乃は十の運命の相手ではないため、手話による告白が失敗してしまう。そこで本来、手話を用いない愛の蒼への告白に手話を流用した。この構造が私は歪だと思う。紫乃は作品世界に手話を持ち込むための作られた存在。
蒼の妹であり、十の初恋の相手であり、愛の同級生。そして梓(あずさ)とも因縁のある紫乃だけど、その誰とも疎遠というのが実情(蒼には失礼だけど)。特に紫乃と愛の関係性は弱すぎる。彼女たちの間に友情が芽生えるエピソードを なぜ作者は用意しなかったのだろう。ここからの紫乃はメイン格のキャラだと思っていたのに完全なるサブキャラへと転落する。
なぜなら紫乃は役目を終えたから。愛の手話の告白、十の最初の恋、それが描ければ彼女は もう用済み。最初から そういう便利なキャラだったのだ。これまでの作者なら一度フェイドアウトしても、実は このために配置していた、という企みがあることが多かったけれど、紫乃に関しては本当にサブキャラのまま。この使い捨てた感じが本当に嫌で、紫乃の扱いの悪さによって『3巻』の手話での告白も作為めいて見えて好きになれない。実際、序盤以外で手話に関する描写は無いに等しい。
紫乃のキスを目撃してしまった十は、真相を確かめるために愛との入れ替わりを再提案。愛は期間中に十の学校では体育祭があり、蒼の雄姿が見られると聞いて交渉が成立する。
早速、紫乃に話を聞くと相手は前の学校の教育実習生だという。個人指導をしてもらった生徒の人気の先生と偶然 再会してデートした。キスは転んだ紫乃を助ける途中で偶然 唇が触れただけ。意図的ではなかったけれど、紫乃の好きな人は その男性だった。初恋終了のお知らせが出るけど、同時に出番的に紫乃終了のお知らせでもある。
十は相手の所属と名前を聞き、調査に乗り出し、色仕掛けで彼の本性を暴こうとする。しかし相手は誠実な男性だと判明。2人が両想いであることを知った十だったが、諦めたくなくて自分の素性を明かし彼女にトライする。しかし紫乃は その二重の告白を冗談だと笑い、十と恋が出来たら こんなに恋に悩む必要はなかったと、悲痛な想いが涙となって溢れる。紫乃の泣く姿は彼女が激情を抱えている証拠。その想いに十は2人の両想いを知る自分が取るべき行動を決める。
紫乃のためになるのは、彼女の片想いを悲恋として終わらせ自分の方を振り向かすことではなく、両想いにさせて彼女に笑顔になってもらうこと。紫乃の好きなところを伝えて彼女の自信に変えて、両想いを見届ける。相手の男性に自分の初恋の子だと男であることを隠さずに紫乃の幸福を約束させる。紫乃が相手を想って激しく泣いたように、帰り道 十も涙が止まらない。そんな十の背筋の伸びた強がりを梓は見届けていた。これで どうカップルが成立するのかが確定した。
ただ初めて激しい感情を知った十の心は簡単に次の恋に動かない。辛い恋を経験し、乗り越えようとする十は梓の目に魅力的に映る。梓は不器用に勝負を挑んで十を励まそうとする。
男装した愛は交際後、初めて一緒の学園生活を送れることに喜んでいたけれど、蒼はケダモノだらけの男子校に自分の彼女が身を置くことに安心できない。それを知っても愛は蒼に守られる学校生活を満喫する。目当ての体育祭はテンション高く、コミカルに描かれる。その際、女性が苦手な蒼が保ちたいパーソナルスペースが50センチから40センチに縮小していることが判明する。いつかゼロ距離になれる期待が愛の中に生まれる。
半年後、高校2年生になった小林兄妹。失恋を機に切った十の髪は再び伸び、恋を知った愛は どんどん女性らしく花開く。
新年度は新キャラの追加。待望の三角関係を予感させる男性キャラだけど、恋の相手が確定している状態で当て馬にもならなそう。この謎の男性キャラが蒼の過去を教えてくれる予感があるけれど、それが明らかになるのは随分と先のこと。


交際から半年以上が経過してから愛は紫乃に彼女の兄・蒼との交際を発表する。そもそも愛と紫乃の関係性が薄いので、この報告にあまり意味が生まれないのが残念。半年が経過しているので2人の距離は30センチまで縮んでいる。ヤキモチを焼いたり、バイトの給料で愛にヘアアクセサリーを買ったりと彼の方の愛への気持ちは確実に募っている。愛の存在が蒼の成長の原動力になっている。
しかし それ以上 距離が縮まらないのは心の問題だと蒼は理解している。けれど愛に拒絶されることの恐怖も膨らんでいるから話せないまま時が過ぎていく。
半年後も梓は十に勝負をけしかけることで関わりを持ち続ける。そして十は梓と関わることで彼女の芯の強さを理解し始める。
