吉住 渉(よしずみ わたる)
ちとせetc.(ちとせエトセトラ)
第3巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
駿と付き合うことにしたちとせだけど、本当に幸翔を忘れられるの? 迷いながらも駿の強引さに、押し切られていくちとせ。さらに幸翔も動き出して…。穏やかだった祭部に、嵐が巻き起こる予感!?
簡潔完結感想文
- 切り裂きジャケット。カッター女がちとせに切りかかる。一体なぜ、誰が⁉
- ユキからの告白。最大の盛り上がりの告白シーンも疑問の嵐。なぜ、いつ⁉
- 清綾とユキの過去。一生の罪悪感が彼らを結んでいる。本当にそうなのか?
設定における違和感や嫌悪感は『2巻』で書いたので、それを乗り越えた上での感想を書きたいと思います。
この文章を読んでいる人を不快にしないためにも出来るだけ批判的な感想は控えめに、したいのだけれど…。
特異な前提条件を飲みこめばなかなか楽しい作品だ。
本書で好感をもったのは毎回連載1話分の終りには次への興味を引き立てる事件や出来事が用意されている点だ。
例えば本書1話目の最後のページはカッターを手に持った女性がちとせに切りかかる、という衝撃の内容から始まる。
著者の作品には珍しい官能的な場面の次は刃傷沙汰だ。
怪我をした人はいるものの幸い薬局の商品で手当てできる軽傷で終わった。
犯人はなんと赤石の元セフレの女性・成実と判明し、彼女に話を聞く赤石。
成実が語った動機は、ちとせへの逆恨みだった。
どうやら赤石に未練が生まれたらしい。
うーん、ついこの間まで中学生だった男子に「本気になっ」た19か20歳(現在21歳?)の女性という設定は性別を入れ替えたら犯罪的でしかない。女性だから許さる、のか?
それは男女平等なの?
成実こそ関係を深めた事から赤石に情が湧いたのだろう。
という事はちとせもそうなる…⁉
ちとせにとってユキは困った時に現れるヒーローなのですね。
これで赤石と付き合うなんて愚行をしていなければ、ちとせの一進一退の辛い恋に共感できるんだけどなぁ。続く回でも衝撃展開の連続。
この刃傷沙汰で感情を爆発させたのは清綾。
ちとせや成実への嫉妬を隠さない言葉を赤石にぶつけます。
今までもユキと清綾は浮気を許容したり決して順調とは思えない描写はあったものの、まさか他に想う人がいたなんて。
ただここは赤石の冷静な言葉を支持したい。
「多少の浮気は公認ってやり方(略)巻き込まれて傷つく奴もいるってことは覚えとけよ」。
本当にそうだ。よく言った赤石。
だけどこれは登場人物、ひいては作品全体をブーメランとして切り裂く言葉だ。
誰も彼もが浮ついた心で動いている。
本書では誰が一番悪いのでしょうか。
どうもその起点は清綾たちにあるように思える。
赤石の初恋をしっかりと清綾が受け入れていれば、本書は1巻の段階でハッピーエンドだったのだ。
4人が当てつけのような恋愛をして自他を苦しめる事もなかったのだ。
クリスマスの頃、ユキはちとせに告白する。
いきなり、そして身勝手に。もう何が何だか。
折角の告白シーンなのに心の動きが追えないから「理性なんてどっか行っちゃう」ちとせはともかく読者の感情はどこにも行けない。
そしてちとせを本当に好きになったと告げ清綾に別れを提案するユキだったが、清綾に拒否される。
その出来事を知って困惑するちとせに清綾からお呼びがかかる。直接対決の修羅場であるが、その前に語られるユキと清綾の5年前の出来事。
「難しい手術が必要な厄介な病気にかかって 大きな病院に入院し」ていた清綾とユキ、そして岬という3人の同級生の話。
2人は岬に隠れて付き合っていたが、岬の手術の当日にその事が露見してしまった。
更には岬はそのまま帰らぬ人になった事で2人は激しい罪悪感に襲われる。
その出来事の後でどんな事が起きても関係を壊さない事が2人の約束になった。
だから自分は赤石を、ユキはちとせを諦めなきゃならない。
2人、いや3人の「絆」のために…。
現時点でも反論したい気持ちや違和感は山ほどあるが、それはまた次巻で。
一体作者はこの作品を通じて何を描きたいのだろう。
主要な登場人物4人それぞれに枷を与えているのは分かる。
上京までした初恋を諦めなければならないちとせ、同じく好きな人を諦めた赤石、過去に縛られて生きなければならないユキと清綾。
そして4人が一番大切な人ではなく、二番目に大切な人と交際している点も共通点だろう。
そして自己欺瞞の恋は誰かを傷つけているという点も。
失恋や裏切りなど辛い過去から逃避するために、手近な相手と交際しても破綻するよ、という年長者からの教訓だろうか。
「赤石駿特別編」…
赤石と女性遍歴のお話。
全巻読了すると赤石に関しては完全に恋愛素人である。
手は早いが心の動きが鈍いのかもしれない。
ちなみにユキに成績優秀設定が乗っかりました。
医者を目指しているんですね。
それがただのエリート描写ではないことは今巻の内容を読んだ後なら分かります。