小玉 ユキ(こだま ゆき)
月影ベイベ(つきかげべいべ)
第1巻評価:★★★★☆(9点)
総合評価:★★★★☆(9点)
伝統芸能”おわら”を守り継ぐ、情緒溢れる地方の町に、東京から転校してきた少女・蛍子。地元の少年・光は、誰もいないはずの教室で、蛍子のある姿を見たことで彼女と奇妙な関係に。さらに、驚きの展開が待ち受けて…⁉
簡潔完結感想文
- 東京からの転校生・蛍子がなぜか教室で一人おわらを踊る、その姿に魅了された光。
- 光が子供の頃から懐いていた叔父が蛍子の姿を見るなり硬直。ただならぬ関係か…⁉
- 狭い町で噂にならないようにおじと蛍子の隠れ蓑になるために偽装交際を始める光。
好きな漫画家さんとほぼ同義だと思うが、信頼している作家さんは誰にでもいると思われる。
私にとって本書の作者・小玉ユキさんはその一人。
簡単な言葉でいうと作家性の高い漫画家さんだと思う。
どうやっても作品が面白くなる、理性と感性の持ち主(と思わせてくれる)。
読者にとって一生ついていきます!と思わせるありがたい存在です。
ちなみに私は、いくえみ綾さんとか、河原和音さんとか、1タイトルしか読んでいないけど咲坂伊緒さんを同じカテゴリーで考えております。
本書の舞台は「おわら風の盆」で有名な富山県八尾地区。
伝統芸能「おわら」が大好きでたまらない男子高校生・光(ひかる)が風邪でしばらく学校を休んでいる最中にクラスに転校生・蛍子(ほたるこ)がやって来ていた。
近寄りがたい雰囲気で周囲を拒絶するようにして、「おわら」にも興味を示さない蛍子。
体育祭の出し物として踊る「おわら」の体育館での練習も休むような蛍子だったが、彼女は誰もいない教室でもれてくる音に合わせてきれいに踊っていた。
その場面を目撃したことから光は蛍子の踊りが気になって仕方がないが…。物語の連続性が美しいですね。
まるでおわらの踊りのように、などと陳腐な誉め言葉を添えて。
光が風邪で休んでいる間に登場する蛍子、蛍子の踊りをただ一人知っている光、「おわらバカ」の光は蛍子の踊りを絶賛する、その言葉を聞いて涙を浮かべる蛍子、涙とともに降り出す雨、2人で並ぶ雨宿り、傘の所持を思い出す蛍子、蛍子は風邪気味の光を案じて一つの傘に入ることを提案する、途中で光のおじ・円(まどか)の経営する店に入ると明らかに意味深長な視線を交わし続ける円と蛍子。
第一話は本当に流れるような動きですね。全てに無駄な動作がない所も好きです。
1巻の時点で光の蛍子への想いはゼロではないと言い切れないものの、やはり蛍子への興味は「おわらバカ」としておわらの実力を見込んでいることの方がずっと大きいだろう。
そして彼女の恋に関してはおじへの嫉妬の感情はまるでなく、おじから確かに感じられる「恋愛」の匂いに驚いているのだ。
景観が守られている美しい町並みだが、その一方で狭い町ならではの閉鎖性、噂の通信速度は5G並みなのだろう。
偽装交際も私利私欲ではなく、おじの名誉を守りたい一心での行動だ。
本命の隠れ蓑として恋人を偽装するのは少女漫画ではよくある展開だが、本書では本当に事実の隠蔽のみを目的としている。
騙すのも特定の個人ではなく、学校や町民など集団に対しての効力を期待しているのだ。
ここからは妄想ですので読み飛ばして下さい。
この年になるまで恋愛なんて頭になかった光が、蛍子の登場によっておじへの秘めた感情に気づく、というBL展開も面白かったかもしれませんね。
光と蛍子は、よくケンカする良いライバルになりそうだ(笑)
妄想終わり。
ただし光は蛍子の踊りに惚れ込む一人として彼女への助力は惜しまない。
笠で他者の視線を遮ったり、図書室で探した本に載っていた呼吸法を伝授したり、かなり親切だ。
この描写は光の性格的特徴の描写でもありますね。
「おわらバカ」で基本的に優しい。例え、蛍子がクラスメイトから敬遠されていても気にせず接し続ける大らかな性格。
そして実際、蛍子は光から教わった呼吸で踊りを少し取り戻す。
この一連の騒動によって、同級生公認のカップルになっていく。
それは光の狙い通りではあるのだが…。
まだまだ語られていないことばかりの物語。
女子高生と40代(?)のおじさんとの秘密の関係とは…。
現代の物語である本書も古い町並みが残るせいか、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
パソコンは登場するが携帯電話は(ほとんど)出てこない。
そして踊りを含め、作者の画力によって支えられた人物の動きがセクシーです。
高校生らしい細い体型ながらも光の動きや肉体には逞しさを感じる。
二次元だけど彼の持つ「厚み」をちゃんと感じるのが凄い。
蛍子も物を食べる仕草、表情が色っぽい。
彼女のそんな要素が、年の離れた男性との恋愛も噂されてしまう恐れがあるのだろう。
おじの円の広くなった額もセクシーだ。
こちらもまた枯れてはいない感じが危険なのだろう。
1巻の表紙も蛍子だし。一体主人公は光なのか蛍子なのか迷っていたのですが、「このマンガがすごい」の作者のインタビューによると光みたいですね。
『少女漫画分析』をしている私にとって、主人公が誰なのか、その人が告白するのか、告白されるのか、は重要な問題ですから。