森下 suu(もりした すう)
日々蝶々(ひびちょうちょう)
第9巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
少し距離をおく──。2人で話して決めたこと。両想いなのに、苦しくて。幸せなのに、切なくて。でも、そこから抜けだしたい──! 思い出のお祭りの夜、2人の思いがぶつかりあう第9巻。
簡潔完結感想文
- 距離を置きたい。ずっと川澄と話さない日々。もしかしてこのまま…。
- 花火大会。1年ぶり2回目。デート見守り隊。本書で一番コミカル回?
- 強くなりたい。黄色い感性の中生きる私たちは似た者同士。ご教授を。
これまでの8巻分の会話量を足してもこの巻に届かないと思うぐらい対話する9巻。
序盤は不穏だ。
クラスでの川澄との自由な会話の自重を求められる中、空手にのめり込んでいく川澄との関係に悩んでいたすいれんは遂に川澄に自分のため込んだ想いをぶつける。
今まで衝突するほどの会話もなかった二人だから、解決方法も手探り。お互い少し距離を置いて自分たちのペースで考えようとするのだが…。
二人が微妙な関係になると現れる「やなやつ」後平。
傷口に塩を塗るような発言ばかりするが、内省ばかりしそうな二人にどっちもどっちと言ってくれているようでもある。
言いたいことだけ言ってすぐ帰るんなら来るなよ、と私が川澄だったら思っちゃうけど。
二人の関係の距離の置いたのに、教室の席順は近づいてしまう二人。
このまま自然消滅していきそうなほどか弱い輝きを頼りにして時間の経過を待つすいれんだったが、その内面は覚悟に満ちていた。
この頃になると本当にすいれんの変わっていく様子が手にとってわかる。
友人たちとの会話量がグッと増えて、高校からの友人・ゆりちゃんとも確かな友情が感じられる。
めぐなちゃんは今一歩かな。
そんなヤキモキする関係も、川澄が授業中すいれんに渡した一枚のメモによって変化が訪れる。
「祭り 一緒に行こう」。
1年前にすいれんが勇気を出して誘ったあのお祭りに今回は微妙な関係の中でも川澄が誘い出す。
1年前と同じ場所に行く事で、違う箇所を幾つも発見するすいれん。
まず自分たちの関係が違う。
交わす言葉の多さが違う。
気持ちの通じ合い方、風通しの良さが違う。
すいれんの足の痛みばかりを妙に気にする川澄が違う。
それもこれも失敗を含めた1年間の経験があったからだ。
「会わない間どうだった?」と聞きたい事を聞くすいれんに「カッコ悪いけど さみしかった」と顔を赤らめながら答える川澄。この時点でもう大丈夫だね、と胸をなでおろす。
ただ川澄の「電話くれたら会いに行ったのに」というのは自分本位でたしなめたいところ。
ケータイに電話するのと家に電話するのは心構えが違うでしょ。
現にこの次の回ですいれんは同じ声の川澄兄と混同して赤っ恥かいてるんだぞ。
夏休みのバイト代でケータイ買いなさいよ。
にしても川澄兄は謎の威圧感を放つ不気味な存在だ。
ただ弟である川澄も友人である後平も、すいれんに川澄兄・壱と似たものを感じているらしい。
つまりすいれんに惹かれる男たちは、壱の残像を追っているのか? それだけ好きなのか?
「俺、柴石さんの好きなところ分かったっす 俺の大好きな兄ちゃんに似てるっす」とブラコン丸出しの川澄(主人公なのに名前が行方不明)で言われたら、すいれんは嬉しいだろうか。
嬉しくないね。
そうしてまた二人で会うようになったすいれんたち。
改めて自分たちを互いに知るために自分の好きな事をするデートを決行した二人。
だが出た結論は「全然趣味合わねっすね」。
すいれんが作った手作りのメロンパンも「苦手っす」と言い放つ川澄。
しかしそこに不快さはない。
こうやって言いたい事を言える関係性が二人に成立したという証拠でもある。
その同じ日の出来事として友人・ゆりちゃんの初デートに尾行する回は本書の中でも一番コミカルな回だ。
私は長期連載になってきた少女漫画が物語を拡張させるためだけに描く友人の恋模様があまり好きではないのですが、この回は面白かった。
1回限りだし、すいれんたちもずっと登場しているし。
ゆりちゃんの緊張や不安に比べるとすいれんカップルはもうベテランの域ですね。
川澄なんて映画館ですいれんの横で熟睡してるし。
すいれんの勇気も垣間見れるし、ニコイチが当たり前になった川澄たちも見られるし読み所の多い回だ。
いつまでも友人・あやちゃんを中心に守られてばかりの自分を変えようとするすいれんが頼るのは、この世で一番やなやつ後平。
ここでもマスターっぷりを発揮する後平だが、すいれんと手を触れあった時に何か特別な感情が生まれたように見える。やっぱりそこが貴様のポジションか、と思うが役に徹する役者魂を見た気分でもある。
にしても、すいれんが後平を相談相手に選んだ理由が、やなやつを克服する事と、異性から日常的に黄色い声を浴びていて、それを軽くいなしているから見習いたい、というのが笑える。
こりゃ川澄には相談相手が務まらないはずだ(笑)