《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

御曹司という社会的地位が通用しない場所で暴かれる未熟さ。新展開、オレの嫁になるな。

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(7) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

大々人気!!前巻は発売即緊急大量重版!!勢いが止まらないオレ様年下男子とのJK結婚ラブ! ひなたの幼なじみにして初恋の人(!?)航の登場で、前とひなたの恋に嵐が吹き荒れる!! 婚約者VS初恋の人、恋のバトル白熱です!!

簡潔完結感想文

  • 劣等感を劣情に変換して彼女を征服しようとする思春期ヒーロー。
  • 過去の初恋が自分のものにならないなら、現在の自由を奪う偏執狂。
  • 彼女を泣かせ続ける可能性を消去するために関係性を清算する!?

女の全てを手に入れられないのなら 彼女の全てが もういらない、の 7巻。

この島編はヒーロー・前(ぜん)の彼女の親族への挨拶と、ヒエラルキーの違う社会との摩擦を描く。これは ひなた にとって前の母親と初めて会った『3巻』の試練と対を成す内容だろう。ひなた の両親は娘が玉の輿に乗れる可能性に舞い上がっているが、ひなた の祖母は この結婚話の初めての反対勢力となっている。そして前にとって「場違い」である この島での日々は彼に多大なストレスを与えていく…。

ひなた が上流階級に受け入れられなかったように、前は庶民の暮らしと混じり合わない。

これまでの話は前の強さに基づいて描かれていたが、今回は彼の弱さに焦点が当たっている。もう何度目か分からない恋愛バトルは一緒だが、前の新しい面にクローズアップしているので読書時における感触が違う。これまで私も思う所のあった前の根拠のない自信が崩壊し、彼は自分の未熟さを思い知らされている。
序盤でヒロインの ひなた が上流階級の常識や生活に戸惑ったように、今回 前は舞台となる島=大財閥と無関係な場所で自分の愚かさと未熟さを思い知らされる。珍しく劣等感に苛まれ、そして自爆によって自己嫌悪も爆発させる。慣れない環境は前にストレスを与え、そして そのストレスで彼はメンタルを病んでいく。そして鬱状態となった彼は一つの大きな判断を誤る。当人たちには全く そんな つもりはないだろうが、これは都会人への島民からのイジメや差別のようにも思えた。上流階級で庶民が異物であったように、庶民には上流階級は肌に合わない。前は一刻も早く この島を出て、心のケアをした方が良いかもしれない。都会に帰って、また根拠のない自信で俺様ヒーローになって、ひなた を呼び戻せば万事解決、か?

この夏休みの島編で、前は完璧なヒーロではなくなった。読者の中には それを残念に思う人もいるだろうが、私は彼に親近感を覚えた。そして前が弱った時、彼が判断を誤った時、ひなた がヒロインとして本領を発揮するという展開も楽しく読めた。彼らは2人とも未熟で、何度も間違えるけれど、気持ちが重なって2人になった時は無敵であることが描かれて読後感が良い。
ただラストのエロネタだけは無くても良かった。ひなた が前を受け入れるという姿勢の表現なのだろうが、場所を選ばず、そして同じ巻で同じような「するする詐欺」を何回もするのは、読者の受けはいいかもしれないが、作品の価値を下げる。


はずっと ひなた を絶対に諦めないことで愛の強さを示していた。少々 強引でもライバルや悪漢から ひなた を力づくで奪い、そして自分のモノにする。それが年下身長低めの俺様ヒーローである前という人だった。

そもそも日本一の大財閥の後継者である前は多大な重圧の中にいるが、それを努力でカバーして自律してきたからこそ彼は自分に自信を持てるのだろう。その努力と ひなた への愛で彼は誰に対しても負けん気を発揮した。自分より優秀で ひなた の本来の婚約者である兄・創(そう)に対しても一歩も引かず、トップアイドルの新(あらた)とはライバル関係でありながら ひなた を救うためにタッグを組み5万人の観客の前で見事にパフォーマンスを成功した。

そんな強気と自信によって押せ押せのムードの中で生きてきた前だが、今回 訪問中の ひなた の祖母が住まう島では、親の威光や社会的な努力や実績が一切 通用しない。そこで浮かび上がるのは裸の自分。財産や学力ではなく生命力や魅力、精神力など本来のポテンシャルで人間の大きさが決まる。ひなた が この島で生き生きとしているのは慣れ親しんだ場所というだけでなく、彼女の本来の力が引き出されているからだ。その笑顔で誰からも愛され、そして底なしの元気を見せる。今回ひなた の方が前よりも強いのは、伸び伸びと力を発揮できるからなのだろう。

今回のライバル・航(こう)もまた この島の住人で自分の持つ力を完全に発揮している。都会育ちの前は環境に適応できていなく、不利な状況と言えよう。だから前は本書で初めて敗北を喫する。ひなた が航を選んだということではないが、前は ひなた の中の航は特別な存在であることに打ちのめされるし、そして自分にとって この島が不慣れで力が発揮できないように、ひなた を上流階級に連れていくことが彼女の精神を消耗させ、ひなた の笑顔を奪うと考え始める。

そうして彼は彼女のために身を引く、というヒーローが やりがちな交際相手の気持ちを無視した行動に出る。プライドが高いからこそメンタルの崩壊した前は脆(もろ)い。前を閉鎖的な島に連れて来た時点で祖母や航の勝ちは確定していたと言えよう。もしかしたら『7巻』ラストの朝、祖母や航が理由をつけて ひなた を足止めしていれば、2人の交際はバッドエンドに終わったかもしれない。そう考えると航と祖母が前のメンタルを続けざまに攻撃したのはエグい。都会ほど陰湿ではないが、間違いなく島という閉鎖性の中でのイジメに見える。

ラストで前は ひなた から性行為に誘われて、メンタルを立ち直らせることが出来るのか!?


気の至り、というか、性欲の昂りで ひなた を傷つけてしまった前。ひなた が安心を求めるのは2歳年上の幼なじみ・航の腕の中。

ひなた は前の心が見えなくなるが、それでは ダメだと自分から距離を縮めようと彼を夏祭りに誘う。やはり島にいる彼女は いつもより強い。前は自分が要求に折れたふりをして付き合うが、結局 祭りの会場で航が合流して ご機嫌斜め。そして彼に対抗意識を燃やすが失敗する。前は自分の蛮行の根本的な原因が分かっていない。

しかも航と一緒に花火を見ることを強く拒み、ひなた を抱えて航の前から立ち去る。だが これは ひなた が慣れない下駄に足を痛めていることを察知したからだった。これで『6巻』と同じ失敗を繰り返さないことが表された。失敗は成功の元である。
そんな前の優しさに触れて ひなた は彼に手を伸ばすが、前は激しく拒絶する。普通、逆じゃない?と思う場面だが、前は自分が理性を失い、ひなた を再度 傷つけてしまうことを ひどく恐れていた。だから彼女に触れないようにすることで彼女を守ろうとしたのだった。しかし ひなた は臆病になった前の手を取り、彼を安心させようと包み込む。

こうして再び ひなた に触れられるようになった前だが、彼は独占欲も再燃させ、ひなた の初恋の相手が航なのかを問い質す。昔の恋愛を聞くなんてマナー違反だが お子様には その辺の機微は分からないのだろう。
そして航が2人の前に現れると、彼が ひなた に触れることを絶対に許さない。うわぁー、女性を自分の所有物みたいに扱うの。ないわー。ってか自分のライバル意識を全開にして失礼な態度で相手に接するのも感じが悪い。やっぱり少しも感情をコントロール出来ていない。


日、ひなた は前を呼び出し、前の初恋の相手の問いに正直に答える。確かに航は ひなた の初恋の相手。だが今は前に恋をしていると自分の胸の内を伝える。それを聞いた前は冷静で、自分にとっての初恋の相手が ひなた であることを伝える。そして2人が初恋同士でないことが不安を増幅させるという幼稚な考えも彼女に伝え、ひなた は前の望むように航を遠ざけると宣言する。

だが宣言通り航を避け続ける ひなた を見て、前は ひなた が笑えなくなっていることに気づく。一方、航には前による思想の支配によって ひなた が彼女らしくいられないと考え、本来の彼女を取り戻すため ひなた を奪い去る。
幼い頃に見たように2人で流星群を見て、航は ひなた に想いを告げようとする。さすがに ひなた も告白の雰囲気を察して その場をやり過ごそうとするが、ひなた が原因で崖下に落ちてしまい、その上、雨が降り出したため2人は近くの小屋に避難する。

そこで航は言えずに終わった告白を再度 仕切り直し、ひなた が自分にとっての告白だと伝える。これで2人は少女漫画、特に「Sho-Comi」のような低年齢向けの雑誌の中では一番 貴いとされる初恋同士となり、その成就は運命と言ってもいいだろう。

航は告白の勢いのまま ひなた とキスをしようとするが、その直前で彼は倒れる。崖下に落ちた時に酷い怪我をしていたのだ。
もし航が倒れなければキスは達成されていたのだろうか。ひなた は『2巻』で前と「死ぬまで 俺以外の奴とキスをするな」という約束を交わしているため、誰ともキスできない状態。破ったら前は荒れ狂い、相手にも ひなた にも暴力を振るいそうで怖いなぁ…。


然の事態に混乱する ひなた は心の中で思わず前に助けを求める。だが それは虫のよすぎる話と思い当たる。キスの他にも航とは もう会わないという直前の約束を破って男性と2人で密室にいる。だが やはりピンチにヒーローは現れる。
そうして2つで1つのハートを形成するペンダントで愛を再確認した2人は あっという間に仲直り。前は自分より身体の大きい航を背負って近くの家まで歩き始める。えっ、まず前が村に助けを呼びに行けばいいんじゃね、とか思ってはいけない。彼らは いつだって合理的な判断なんて出来ない人種なのだ。こうして前の活躍によって航の怪我は適切に処置される。ピンチと努力があるから幼稚な前もヒーローになれるのである。


日、航は前に お礼を言いに来る。そこで2人はキャッチボールを始める。そこで投げ合うのは本音の言葉。お互いに ひなた を譲らないことを再確認してキャッチボールは激しさを増す。これは新編における球技大会のサッカーと同じ種類だろう(『4巻』)。男には球技で真剣勝負をしなければならない時があるらしい。

そして航は前が自分のことしか考えられないという性格的欠点と、その証拠として ひなた が泣いていることを指摘する。もしかして前の愚かさは全て このシーンのための前振りだったのだろうか。それなら作者の手腕は私の見込みより格段にレベルが高いことになる。新編と同じように見せかけて、今回は派手なパフォーマンスや展開ではなく、徐々に前の内面の未熟さを浮かび上がらせている。

前から自信や傲慢を消失させ、その上 メンタルをえぐるような言葉を投げつければ、彼は壊れる。

は航に何も言い返すことが出来ず、その上、前に会社から至急のメールと帰還の要望が届き、彼は自分を悩ませる この場所から ひなた と一緒に逃亡することを考える。ってか前は会社の業務に携わってたんかい!と新事実に驚く。これまでは立派な跡取りになるための勉強と研鑽を積んでいることは描かれていたが、早くも仕事をしているとは知らなかった(描かれてないしね…)。

だが ひなた の祖母から、実際に一緒に住んだ條森の屋敷は冷たく、2人の結婚後は ひなた が その冷たさの中で暮らしていくことを危惧していることを伝えられる。その冷たさは前が これまで味わってきたもの。だから自分の存在が ひなた から無邪気な笑顔を奪うことが容易に想像できた。だから彼は独りで帰郷することを選ぶ。
その選択は ひなた のことを本当に想ってのこと。だが一人での決断が彼女をまた泣かせることに前は気づかない。いつだって彼は半人前だ。


そらく前は婚約の解消も視野に入れているから前は島での最後の一日に ひなた とデートをして思い出を作る。
航の指摘とは裏腹に、ひなた は前のスマホの中に保存されている自分の写真が笑っていることに気づくのだが、そんな彼女の胸中を前は知らない。そして今度は前と初めての2ショット写真を撮り、また思い出を一つ増やしていく。

そして ひなた は前を この島の廃墟になり始めている教会へ連れていく(危険だよ★)。そこは彼女の一番のお気に入りの場所。今回は主導権が ひなた にあるからか、いつもの教会で結婚の約束をするのではなく、ここで性行為に至ろうとする(罰当たりな)。だが今回、前が理性を失うのではなく、理性が顔を出したため、またも「するする詐欺」に終わる。彼は自分では ひなた を幸せに出来ないとネガティブモードを発動していた。だから行為を中断し、ひなた は ずっと笑ってくれと願いを託し、その場を去っていく。

そして永遠に ひなた を想うことを誓ってくれた前は彼女の前から姿を消そうとしていた。


朝、前は ひなた に黙って島を出発する。残されたメモで前の決意を知った ひなた は船着き場へと走る。途中で ひなた は転んでしまうが彼女は立ち上がり、靴を脱ぎ捨て一心不乱に前の胸に飛び込む。

前は ひなた の無茶な行動を叱責するが、ひなた の怒りが数倍強く、前は平手打ちされる。こうして互いの胸の内を打ち明け、そして互いに成長と覚悟を示し、2人は仲直りする。この辺の仲直りの描写は毎回 変わらない。でも今回の ひなた の涙の100倍 笑ってみせる、という言葉は とても良かった。

もしかしたらヒロインよりも失敗ばかりの御曹司ヒーロー。強いのは劣情だけ!?

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(6) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

60万部突破の大人気結婚ラブ第6巻は、緊迫の急展開! 新のファンに逆恨みから刺されてしまったひなたの安否は・・・!? 前の一途な想いが奇跡を起こす? そして、前とひなた、2人の恋が一歩先へと進む新章開幕!! ひなたの幼なじみ男子登場で波乱必至!!お見逃し無く!

簡潔完結感想文

  • 刺されても好きな人。意外にも簡単に、ダイヤモンドは砕けちゃう!
  • 騒動と騒動の幕間は、疑似結婚式かエロいことをして埋めるのが お約束。
  • ヒーローに幼なじみがいるのなら、ヒロインにも当然いるものです、わ。

キャンダルで心身が摩耗したので、田舎で隠遁生活、の 6巻。

これまでテレビでの婚約発表、そしてCM出演、男性トップアイドルとのスキャンダルと世間の注目を集め続けた ひなた と前(ぜん)のカップル。ついに2人はアイドル・新(あらた)を踏み台にして東京ドームで5万人の観客の前に立つところまで来た。自分たちの恋愛を世間に公表するカップルYouTuberみたいな足跡を残す2人だが、アイドルを利用した報いなのか ひなた が包丁で刺されるという大事件が起こる。私は心配よりも失笑した部類の人間なので、ある意味で楽しく読んでいるが、ここまで お話の規模がエスカレートしていくと、最後は どちらかが死ぬぐらいしか選択肢がなくなる。

作者も2人が世間の注目を集め続けることで起こるリスク(悲劇の拡大)を恐れてか、刺傷事件を最後に お話のスケールは小さくなっていく。恋愛のピークを『3巻』とするならば、話のスケールは この『6巻』がピークと言えるだろう。短期連載3話と その後の連載決定直後から全速力で飛翔した物語は、ここから静かに滑空し続ける。そして ここからが劇薬とも言える荒唐無稽な展開に頼らないで読者を どう楽しませられるかという作者の本当の腕の見せ所となる。まぁ ここまでくるとリアルな低年齢読者たちは ひなた と前のカップルが騒動を繰り広げているだけで喜んでくれるだろう。少女漫画は「初速」が命。「あらすじ」の情報によると1巻辺り10万部以上売れた作品だから しばらくは連載は安泰だろう。実際に『6巻』を折り返し地点にして物語は まだ半分 残っている。


だし『5巻』でも指摘したが長期連載の弊害として、ひなた と前の成長の無さが気になってくる。特に前は ひなた を好きすぎる余り子供っぽさが隠せず、その反面、劣情を催し続け、ひなた が入院してようが、彼女の祖母宅だろうが、彼女の身体を まさぐり続ける。今回は それが2人の距離を生んでいて、話をスムーズに流れさせる作者の構成力に感心もしたが、すぐに ひなた と結婚もしくはエロいことを目標にしてしまう極端な前が嫌いになりそうである。このところ彼が将来に向けた勉強をしているシーンが無いのも気になる。口ばかりで中身の伴わない男性に見えてきてしまっている。
これは本書の連載時は2022年の改正前の民法が適用されるので、高校2年生の新はともかく、18・19歳のライバルたちは ひなた と今すぐにでも結婚が出来る年齢だということも影響しているのだろうか。前が強く望むのは ひなた を嫁にすること。自分が それが可能になるまで2年あるから、その間に ひなた が誰かと結婚する可能性があり、だからこそ彼は ひなた と疑似結婚式や結婚の約束を繰り返す。「オレの嫁になれよ」というよりも「オレは夫になりたい」というヒーローの前のめりの結婚願望が失敗の根本にある気がする。

逆に良かったのは3度目の女1男2の三角関係。構図も新しい当て馬が入り込む隙が出来る流れが新の時と全く同じで目新しさは皆無かと思ったが、おそらく今回の三角関係は新ではなく、『3巻』の女2男1の三角関係だった聖奈(せな)の時と対称性を帯びるものだと思われる。

『6巻』の中盤から始まる、夏休みの ひなた の祖母の住まう島での出来事で ひなた の幼なじみが存在するという。その人物の名は岩谷 航(いわたに こう)と言い、前は彼が ひなた の好きな人だと島の子供たちに聞かされて動揺して三角関係が始まる。

創・新・航とライバルは全員 年長。だからこそ前は焦燥するのだろうが、かえって幼稚さが際立つ。

航は、前の幼なじみ・聖奈と対になる存在だろう。この島への帰省は、幼なじみの聖奈、そして前の母親の反対を何とか翻そうとした ひなた の頑張りを描いた『3巻』と立場を逆にしている。今回は幼なじみポジションが航、そして親族の反対勢力として ひなた の祖母が配置される。ということは頑張るのは前の出番なのだが、彼は幼稚さから空回りし失敗し続けている。もしかしたら ひなた よりも視野が狭くて、彼女をフォロー出来ない情けない存在かもしれない。優秀だったはずなのに どんどん性欲ばかりが強くなっている。この感じは同じく「Sho-Comi」で中学生ヒーローだった、くまがい杏子さん『放課後オレンジ』の翼(よく)を連想した。彼もまた童顔で背はヒロインよりも小さいけれど思春期男子の性欲が爆発している。

ひなた の不完全さより、前の方が重傷のように思え、彼が どう汚名を返上していくのかを見届けたい。


イドル・新と ひなた のスキャンダルは東京ドーム公演の宣伝の一環だったと聴衆を納得させられたはずだが、それを鵜呑みに出来ない熱心な(あるいは狂信的な)新のファンから ひなた は刺されてしまう。

作中では『2巻』の前に記憶喪失を もたらした交通事故に続いて2度目の病院送りである。前の次は ひなた。交互に不幸が起きれば話のネタは尽きないか。そういえば ひなた が芸能界に入った後、前も東京ドームで踊ったしなぁ…(遠い目)。

意識を失い三途の川を渡りそうになる ひなた だったが、その世界でも前がヒーローとして彼女の死のピンチを救う。こうして3日間の意識不明の状態から ひなた は回復する。前も3日間寝ないで ひなた の病床の横にい続けてくれたが、最後には力尽きて眠る。
ひなた が目覚めたことを知った前は力強く彼女を抱きしめ(傷口が…)、大粒の涙を流して生還を喜ぶ。ここでの「この腕の中は 奇跡で あふれているんだね」というモノローグは、水瀬藍さんっぽい。というかSho-Comiクオリティなのかな。


その3日後には ひなた は車椅子での移動が可能になり回復は順調。だが一方で壊れてしまった物もある。それが『2巻』で前から贈られた、愛の象徴の指輪。ひなた の左手の薬指に輝いていた指輪だが、一番 大きなハート形にカットされた宝石部分が死傷事件の騒動で真っ二つに割れた。『5巻』で刺された際に ひなた の指から指輪が抜け落ちた描写はあるが、いつ割れたのかは不明。騒動で人が集まって踏まれてしまったのか。私は宝石が割れるって、ガラスじゃあるまいし、などと前の贈った指輪が安物なのではないかと疑ったが、たとえダイヤモンドでも踏んだら割れることもあるらしい。私の方が庶民の浅知恵だった。


院中の ひなた を前は甲斐甲斐しく看護する。着替えを持ってきたり清拭をしたり。作者は清拭を2人のエロチックなイチャラブに利用したかったのだろう。ひなた は傷口の醜さを前に見られたくないが、どんな ひなた も前は宝物だと言ってくれる。一生 残ってしまうような傷かもしれないが、刺されることが重要で その後は刺されたことを思い出すことも、傷口が話題になることも一切ない。その辺はザ・少女漫画展開である。

そして前は割れてしまった宝石を再利用し、2人で1つのハートになるペンダントを作っていた。自分にとって特別な指輪だったということを、前が気づいて気遣ってくれたことに ひなた は涙を流す。本来の宝石部分のハートよりも一回り以上 大きいハートが完成するのは2人の愛の成長を示しているのだろうか。そして そのペンダントトップの裏側には相手の名前が彫られており、今まで以上に相手が傍にいるような感覚が得られる。ひなた は誕生日に相手の大きな愛に気づいた。

実質的な婚約指輪が割れたということは まだまだ結婚は先で、連載が終わらないという宣言?

れからの日々、ひなた はリハビリに励む。その中でアイドル・新が見舞いに来る。新は事件後、自宅に軟禁された状態で この日も監視の目を抜け出してきたという。一切、描写はないが二股騒動のスキャンダルがあれほどマスコミに騒がれたのだから、アイドルのファンによる凶行はマスコミが注目しただろう。新は ひなた が傷ついた心労と責任感で少し痩せたようだ。彼は深々と頭を下げ ひなた に謝罪する。だが ひなた は逆にアイドルとして新はファンを安心させて と彼を思い遣る。そんな ひなた に新は抱きつき、傷が残ったらという条件付きで、責任を取って嫁にもらう、と言ってくれるのだった。新としては精一杯 恋心を忍ばせた告白だが、その言葉を ひなた が深く考えるより前に前が登場し、自分の所有を主張する。

ひなた は新の告白を責任感からだと思うだけ。やはり新は告白することがない当て馬のようだ。けれどフラれることがないから、いつまでも  ひなた を想い続けるトップアイドル、という地位も手に入れられる。こういう点が作品の中で新だけが この作品で永遠の当て馬でいられる部分である。


1つの大きな騒動が終わって暇になると、前は ひなた を教会に連れて行くのが お約束。この教会の訪問は2回目だし、短期連載終了の3話でハワイの結婚式場で ひなた と疑似結婚式みたいなことをしていた(『1巻』)。暇だと、永遠の愛を誓うか、性行為に及ぼうとするかの二択しかない。今回は ひなた の傷のこともあるので前者が選ばれた。次はまた「するする詐欺」かな…?

驚くことに この2人だけの結婚式もまた「するする詐欺」だった。ウェディングドレスを着て前を待ち構えていたのは ひなた の祖母。ひなた が婚約したと知って心配で様子を見に、田舎から出てきたという(入院中の祖母からの手紙が伏線だったか)。そして祖母は ひなた が幸せかどうか條森(じょうもり)の屋敷で一緒に暮らして確かめてみると言い出す。これ まさか ひざまずいて丁寧に挨拶をした前に惚れて同居生活をしたい 老いらくの恋、ではあるまい…。


3週間後の同居生活では ひなた は退院して歩き出している。
ひなた は祖母に條森家での生活、そして前の隣にいられる この場所が自分の居場所だと認めてもらいたくて、パーティーで上手く振る舞おうとする。だが失敗の連続で祖母には ここの生活が合っていないと田舎に帰ることを提案されてしまう。前は それに反対せず、今度は逆に前が ひなた と一緒にいるところを見せることで自分の想いの大きさを伝えようと意気込む。

でも今回の ひなた の失敗の最大の要因は靴の高すぎるヒールである。前は それを贈って自慢げだが、ひなた の苦痛に無反応だった。このパーティーで ひなた が この靴を履く必要性はあったので、前がすべきことは彼女の足の痛みを見抜き、フォローすることではないか。しかも少し前まで車椅子生活が続き、足の筋力は弱っているはずだ。前は それが出来ていないのに、彼女を可愛いと溺愛するばかりで、自分のミスを考えもしない。甘くて強めな言葉を吐くだけのヒーロー業だけじゃなくて、もう少しスマートな生き方を前に望む。これでは いつまで経ってもバカな御曹司のままだ。


がて始まる夏休み、ひなた は前と祖母の家のある島に帰省する。前は祖母に認めてもらおうと必死。だが ひなた の初恋の人が島にいることを知り、その彼に年齢も身長もピンチの時の動作も負けて前は劣等感に苛まれる。
そして その劣等感と焦燥感を前は劣情に変換させる。エロい場面はリアル読者には刺さるんだろうけど、前の未熟さの象徴みたいで好きじゃない。気持ちをコントロール出来ないから どこでも発情しているだけである。それは愛や恋とは少し違う。ちなみに さすがに この時には ひなた のお腹には傷跡が残っている。これが いつまで残っているかをチェックしていこうと思う。

前の劣等感は、ひなた を助けようとする自分の横を駆け抜け、今回ひなた のヒーローとなったのが航だったから。そして ひなた は航に抱えられて忘れかけていた初恋を思い出すのだが、これは忘れかけていたというか後付けの初恋でしょ…とツッコまずにいられない。
航は ひなた の2歳上。ということは前の3つ上で年齢は19歳ということか。前の兄・創(そう)と同じぐらいの年齢だが創よりも童顔で子供っぽく見える(身長などのスタイルは前より良いが)。

彼らは7年ぶりの再会。ひなた は航が大きくなったと驚くばかりだが、航の方は ひなた の美しさに赤面している。ひなた に近づく男は誰であれ敵意を隠さない前は、航にも自分が彼女の婚約者だと開口一番 牽制する。だが この島のヒーローポジションは航が握っていて、前は自分の力が全く上手く発揮できない。屋敷や学校の外だと財閥パワーが発揮されずに無力なのか…?

そんな前の焦燥は再び劣情に変換され、前は ひなた を自分のものにすることだけを目的に彼女の身体を まさぐる。その暴力的で一方的な行為に ひなた は恐怖し、涙と絶叫で彼を拒絶する。こうして出来た心の隙間に入るのが航である。うーん、この辺は新と同じ展開で、しかも2回連続の女1男2の三角関係だから既視感が半端ない。