《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

同日同時刻に動き出した双子の兄妹の恋は、交差しないで並行のままだからツライっ!!

小林が可愛すぎてツライっ!!(1) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

十(みつる)と愛(めぐむ)は双子の兄妹。積極的で女子にモテモテの十とヲタクで二次元ラブな愛。対照的な2人が、とある理由で入れ替わって、お互いの学校に通うことに・・・。愛が向かった十の学校は、なんと超ヤンキー学校!! 不良に襲われピンチに陥った愛が出会ったのは、眼帯をした謎の男の子で・・・?! 一方の十もイジメを助けたのをきっかけに耳の聞こえない女の子と出会って・・・。『好きです鈴木くん!!』池山田剛の大人気!大反響のミラクルラブコメ第1巻! 奇跡の恋の物語がはじまる!!

簡潔完結感想文

  • 一気に全15巻 読んでしまうほど面白い。けれど過去作よりテクニックを感じられない。
  • 同じ人に2度助けられて/2度助けて 運命が補強される。障害は嘘をついている性別!?
  • 2つの運命の恋が動き始めた裏で実は始まっていた「小林が格好よすぎてツライっ!!」

作って魂入れず、の 1巻。

全15巻を一気読みしてしまうぐらい、ストーリーテラーの才能を発揮していると思うけれど、私には過去作ほど作者の魂が入っていない作品に思えた。過去作は作者の試みとか企みがあって、失礼ながら「Sho-Comi」という低年齢向けの雑誌には勿体ないぐらいの話の組み立て方に感心してきた。全18巻となった前作『好きです鈴木くん!!』は少女漫画世界の大河ドラマをやろうとしていて大長編になるのも無理はなかった。本書は全15巻と2025年現在でも作者の作品の中で2番目に長い作品となっているけれど、果たして この長さが必要だったのか疑問。この「水増し感」は作者では珍しい感触だった。本書は大ヒットした曲の次にリリースされた曲みたいな作者のネームバリューだけで売れた作品のように思う。

過去作の要素を一つ増やして面白くなるはずなのに、今一つ。4人の群像劇だった『好きです鈴木くん』から1人増員して5人になっているし、ヒロインの男装だった『うわさの翠くん!!』から男性主人公の女装を加えた男女2人の学校潜入になっている。『萌えカレ!!』のような三角関係要素もある。なのに今一つ。

それは本書の主人公である双子の兄妹の世界が交差せず並行しているからではないか。双子の兄妹が1週間 変装して入れ替わって学校生活を送ったことで始まる物語なのだけど、その入れ替わりが終了以降も双子の世界は1つにまとまらず、別々の恋愛エピソードとして交互に紹介されるだけ。主人公たちは双子なので絶対に恋愛関係になり得ない。『1巻』ラストで相関図っぽい1ページがあるけれど、この内の1つの矢印が消滅してしまうことで主要キャラが5人いる作品は2と3の関係に分かれてしまう。
五角関係には絶対にならないのが盛り上がらない原因かもしれない。また少女漫画読者としてはヒロインが いかにモテるかを楽しみにしている部分があるのに、そこに着手するのが遅いし、男性主人公側の多角関係も早々に崩壊してしまう。恋の矢印が入り組むことがないためエピソードも直線的にならざるを得ない。そのためダラダラと事実だけが紹介されている気持ちになった。

恋の矢印が全く交差していないから、一つ途切れると彼らの関係は2つに分かれる

これは本書が元々3回の連載用のアイデアを基にした作品だから発展性に乏しいのだろうか。そこに4年に亘る前作の長期連載から何とかモチベーションを上げるためにキャラに作者の趣味を付与して、自分が描いていて楽しい作品にしようとした。作者は それが許されるだけの売上や実績があるので、周囲も何も言えないのだろう。
ただ これは『好きです鈴木くん!!』で作中作を描いた時のような自己満足を感じた。これまでのように読者へのサービスに徹するのではなく自家発電のために作品を使っている節が読者の癇に障るのではないだろうか。これまで作者の作品を愛読していた人が本書や前作の後半で冷めた感情を持ってしまうのも致し方なしか。
これまでは作者の作品の特徴だと思っていた中二的な要素やオタク要素が読者の我慢の限界を超えた。その時々の自分の「萌え」を作品に落とし込んでいる作者だけど、今回はあまりにもニッチな趣味すぎたのか。作家生活が10年を越えようとする中で、イタすぎる大人になりつつあるのが今回 読者をドン引きさせた要因の一つだろう。

普通なら ここから人気の凋落の始まりとなるけれど、作者は本書完結から10年が経過しても「Sho-Comi」の人気作家として君臨している。この後に どんな作品を描いていったのか しっかりと見届けたい。


林 十(みつる)と愛(めぐむ)は双子の兄妹。十は剣道の地区大会で優勝するほどの腕前だが軟派で不特定多数の恋を楽しんでいる。愛は歴女で2次元への憧ればかりを募らせている。そんな2人が本当の恋に出会う話。

一卵性双生児じゃないのに顔がそっくり背も同じ。Sho-Comiヒーローは背が低め

ある日、愛は歩道橋の階段から落ちそうになるところを男性に抱えられて助けられる。お礼を言おうとして顔を向けたら口と口が当たってしまい、その状況に逃亡してしまう。覚えているのはラベンダーの香りだけ。その夜、愛は十から1週間 入れ替わり生活を打診された。歴史のテストで赤点を取ったことによる補習を終わらせるために、歴史が得意な愛に補習と小テストの合格を依頼する。

男性に苦手意識のある愛は拒否したのだが、翌朝、十が愛の制服を着て愛の通う学校に行ってしまったため、愛は十の通う男子校に行かざるを得なくなる。しかも十の自由奔放な行動で先輩から目を付けられ大ピンチ。先輩から逃亡する際に出会ったのがラベンダーの香りを漂わす男子生徒だった。

愛にとって本書の中で異性は蒼だけ。女1男2の三角関係は望めそうにありません

は愛の女友達から疑われることなく、共学ライフを満喫。愛の学校には人気モデルで この学校の理事長の娘の徳川 梓(とくがわ あずさ)がいた。早速 彼女の連絡先を知りたいと欲を出した十だったが、すぐに性格の悪い梓の裏の顔を知ってしまう。梓が一人の女子生徒をイジめている場面に遭遇した十は、梓を性格ブスと一刀両断する。その助けた女子生徒に十は恋に落ちる。ピンチを助けたことでヒーローの資格が生まれたと言える。

しかし その相手は一言も発さないまま十に背を向けてしまう。十は、その女子生徒・竹中 紫乃(たけなか しの)が耳が聴こえない人だと遅れて知る。紫乃は唇の動きで相手の会話を理解できるけれど、こちらから発声による会話は出来ない。そんな紫乃とコミュニケーションを取るために十は手話を学び始める。

紫乃が十に自分のことを説明しようとしなかったのは、十を梓の嫌がらせに巻き込みたくなかったから。仲良くなって被害が及ぶぐらいなら最初から仲良くならない方が良いと紫乃は考えていた。そんな紫乃が喋れないことでトラブルに巻き込まれたのを十が助ける。2回目のヒーロー行動である。十は自分の誤解を手話を使って謝罪する。それに紫乃も手話で感謝を示し、2人のコミュニケーションは成立する。

双子の入れ替わりだけだと物語が単純になるので、相手役に色々と設定を盛り込む

は自分を助けてくれたヒーローである、真田 蒼(さなだ あおい)に お礼が言いたいけれど、助けられたのは女性の姿をしていた自分で、男子校にいるはずのない存在。またも愛は先輩に絡まれ、そこから大乱闘に巻き込まれそうになるが蒼の登場によって愛はピンチを救われる。彼も2回目のヒーロー行動をしている。愛は蒼に冷たい言葉で接せられても心臓は高鳴る。そして蒼は愛を見捨てておけないように見える。

2人が それぞれに恋をした紫乃と蒼の間には何らかの接点があることが匂わせられる。同じ日に恋に落ちた双子は それぞれの恋を一番に応援する存在となる。


2日目も愛は蒼と接点を持ち、彼にますます惹かれ、彼の方も男装している愛が女性に見えたり恋愛対象として意識している節が見える。

一方、十は入れ替わりが終わった時に愛に害が及ばないように梓との関係を考えなくてはならなかった。そして梓に目を付けられている紫乃もまた守るべき相手。また愛の友達たちは、十が梓からのイジメに自分が巻き込まれるリスクや不安を乗り越えて接してくれる。紫乃を含めて梓の脅威を物ともしない者同士で交流が始まる。

十は梓から水を掛けられ、服やカツラが乾くまで男子生徒として行動。その途中で梓と遭遇してしまい、そこで梓から反抗的な一派を懲らしめる手駒としてスカウトを受ける。だが本人である十は当然 拒否。その際に梓に制裁を加え、その接近で彼女が男性に慣れていないことを見抜く。相手の緊張感が手に取るように分かるのは、十のプレイボーイ設定があるからだろう。

そこで昨日、恋を知ったばかりの十は梓に恋の素晴らしさを説く。梓にとって親身に そして同等以上に物を言われるのは初めての経験。だから梓は その男子生徒のことが気になって仕方なくなる。