池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
4人は同じ中学に入学した新入生。入学式当日、屋上でドラマのセリフを演じる爽歌を見て、目が離せなくなる輝。爽歌と仲良く話す輝の姿に胸を痛めるちひろ。そんなちひろを見て、ドキドキしてしまった忍…。知らず知らずのうちに動き始めた4人の恋。中学から始まる数年間に渡る壮大な恋物語が、今始まる!!
簡潔完結感想文
恋愛成就のその後の物語が描きたいので、そこまでは進行が駆け足、の 1巻。
中学入学から高校卒業の少し先まで、年齢的に ほぼティーンエイジャーの時代を網羅した作品。英語では13歳のthirteenから19歳のnineteenまでが語尾にteenが付くから、この7年間がティーンエイジャーの時期となる。
本書は最初に、13歳で同じ学校で出会った2人が、15歳で別れることになり、17歳になっても相手の面影を探すという大枠が1ページ目から語られる。なので作者が描きたいドラマは両想いのその先にある。直近の2作品のように2人の男性から どちらを選ぶかということが主題になっている訳ではなく、デビュー長編の『GET LOVE!!』のように紆余曲折ある交際模様がメインとなっている。その意味では原点回帰した作品で、立て続けに連載をヒットさせて作者が力量を付けたことによって挑める内容となっている。連載当初から かなりの長期連載を望める立ち会になったことで初めて、このような数年に亘る物語は許される。売り上げが見込め、壮大な構想が空中分解しないと出版社側から判断されて初めて可能になる試みであろう。
後述する新たな挑戦となった四角関係やダブルヒロイン体勢の他に、このローティーンからミドル、ハイとティーンエイジャーの成長を細やかに描くという点が挑戦的で、数年の時間の幅があることで、まるで「朝の連続テレビ小説」や「大河ドラマ」のような壮大な内容が生まれる。
ティーンエイジャーの期間は心身が大きく成長する時期と重なる。例えばヒーローは13歳時点では147cmの身長が最終的に180cmまで伸びる。少女漫画のちびっ子ヒーローは最終回で急に背が伸びたりする場合が多いが、本書はヒーローの身長を時間経過とともに変えている。実際、再読してみると小さい!と思うほど幼く見える。それだけ彼らは物語の中で成長し、成熟したということだ。
そして肉体的な変化だけでなく精神的な成長も丹念に描く。背は小さいが器の大きいヒーローとは逆にヒロインは身体的な成長は ほぼ終わっているが気が小さい。臆病で弱虫で自己肯定感が低い。そんな彼女が成長していく過程を丁寧に描くけるかで作者の力量が試されることになるだろう。
そして恋愛面では物語が数年に亘ることによって人を好きになり、それが愛に変わっていく様子まで描き切ることが可能になる。その数年は気持ちの繋がりから身体の繋がりを求める性の目覚めなど、思春期の男女の変化や成長と重なる部分があり、読者にとって ちょっと大人びた、または等身大のバイブルになったことだろう。教科書的ではなく実践的な、時に少し下品な内容でも知りたいことが描かれているから読者に受けるのも当然のように思う。
本書は、2002年のデビューから2024年現在でも第一線で活躍する作者の現時点においての最長作品となっている。作者の能力と体力と気力がマッチした頃だからこそ生まれた作品となっている。
これまで2作前の『萌えカレ!!』と、1作前の『うわさの翠くん!!』で女1男2の三角関係に焦点を合わせた作者が、ダブルヒロイン体制を導入し、これまでより一角多い、女2男2の四角関係に挑んだ作品。
過去作でも作者の作品の女性は強かったが、本書は その要素を更に色濃くしているように見えた。『萌えカレ!!』では どちらの男性を選ぶかの選択権はヒロインにあって、時に悲痛な道を選びながらも、ヒロインが自分と向き合って生き様を決めた。その様子は低年齢向けの少女誌とは思えないほど女性の自立を描いている印象を受けた。続く『うわさの翠くん!!』でも同じで、この作品では男女が同等の能力を発揮していた。とても漫画的ではあるものの、女性は男性に憧れるだけの存在ではなく、同じフィールドに立って活躍でき得る存在なのだと性差を消滅させる試みがあったように思う。
それを受けた本書では男女が同等どころか、女性の方が強く輝いている作品だった。ヒーローの方が彼女の輝きに負けないように努力を重ねているようなシーンが心に残った。
ただ作者がシンデレラヒロインを描くのが楽しくなってしまったのかな、とカップルの描写のバランスが不均衡な部分も感じた。これまでヒーローとスポーツは池山田作品で切っても切れないもので、本書でもヒーローはバスケットボールに打ち込むのだが、その描写はヒロインの活躍より見劣りする。カップルの双方が一生懸命なことが作品に清々しさを与えていたが、本書の場合、ヒーローがバスケに打ち込む姿が不足していたように思う。
またダブルヒロイン体勢を狙いながらも明らかに一方のヒロインに描写が偏っているのも気になった。それを防ぐため、演劇や芸能の道に進んだヒロインほど華やいだものではなくても、もう一方のヒロインにも自分の道を悩みながら選ぶ描写が欲しかった。ダブルヒロイン体勢でも、明らかにメインとサブがいるように見えたのは残念だった。メインがドラマティックに生きているのに、サブの方は恋愛以外で自分の道を切り拓くような描写がなくて、2人の女性の対比もあって旧態依然として見えてしまった。
過去2作の『萌えカレ!!』と『うわさの翠くん!!』は甲乙つけがたい男性2人を描きたいという作者の願望、そして好きなアニメからの影響が感じられた。おそらく時期的に「ガンダムSEED」や「コードギアス 反逆のルルーシュ」の影響が強かったと思われる。
そして本書でダブルヒロイン体勢を選んだのは、作者本人も認めている通り連載開始直前まで放送していた「マクロスF(フロンティア)」の影響が強い。ただし「マクロスF」の一方のヒロインが好きすぎて、本書も そのキャラから生まれた方を贔屓してしまったように思う。そもそもの作者の偏愛が上述のバランスの不均衡を生み出す要因となってしまっている。
ちなみに連載の途中で「マクロスF」は2作の劇場版で完結したのだが、その2作目の公開まで大騒ぎしていた作者が、2作目の感想を一切 言及しないことに私は笑ってしまった。ブログなど他媒体では発信しているのかもしれないが、単行本の おまけ ではノータッチを決め込んだことが作者の意思表明に思えた。ちなみにヒーローの容姿の変化は「天元突破グレンラガン」が影響しているらしい。言われてみれば確かに その要素もある。本当に換骨奪胎が上手い作家である。作者に好きなアニメがある限り、その愛を構想のエネルギーに変換して、新しい作品を生み出せるのだろう。2024年現在も作品を生み出し続けている作者が、何に影響されて新作を作っているのかチェックしていきたい。
中学1年生になった鈴木 輝(すずき ひかる)は幼なじみの伊藤(いとう)ちひろ と一緒に入学式に向かう。ちひろ は同級生の憧れの的。でも恋を知らない輝にとって ちひろ は世話焼きの姉みたいな存在。一方、少し早く大人になっている ちひろ の方は輝のことを もう「弟」だとは思っていない。
その中学の新入学生の中には もう1人、鈴木がいた。それが鈴木 忍(すずき しのぶ)。彼は金持ち、成績優秀、スポーツ万能。だけど性格はワガママで最悪。なのに女子生徒にはモテモテという存在。この時点では取り囲む女子生徒たちよりも背の低い忍の どこを彼女たちが好きなのかは分からないので説明が欲しかったところ。
最後に登場するのがヒロインの星野 爽歌(ほしの さやか)。中学生活に不安を抱えていた彼女が忍にぶつかってしまい、忍から「ブスは道の端 歩け」と言われてしまう。その落胆を救ってくれたのが輝で、彼は忍側の落ち度を きちんと指摘する。ここから輝と忍の因縁が始まり、ネバーエンディングな喧嘩も ここから始まる。それを仲裁するのは ちひろ。これが4人の出会いとなった。
けれど内気な爽歌は助けてくれた輝にお礼を言うことも出来ずに屋上へ逃亡する。その後に輝が校内を探検して屋上に出た時、屋上にいた爽歌の演技を目撃する。演劇は内気な爽歌が唯一 没頭できるものだったのだ。
輝は爽歌の演技に圧倒され、そして彼女の笑顔に釘付けになる。こうして輝にとって爽歌は初めての異性。そんな幼なじみの表情を窓から見た ちひろ は輝の変化を発見し、切ない表情を浮かべる。その ちひろ の寂しげな顔に魅了されるのが忍だった。
1話で四角関係の大枠が完成し、最後に のちに爽歌が天才女優と称されることが記される。
爽歌が演技に没頭していることは輝しか知らない。彼女の両親は勉強における好成績と将来を重要視しており、爽歌は自分を出せない。そんな中で輝が爽歌の演技を褒めてくれたことで彼女の中で輝は強く印象に残った。
輝、ちひろ、そして爽歌は同じクラス。ちひろ は爽歌に話しかけ、正反対の2人の交流が始まる。だが爽歌は自分から ちひろ に距離を詰められず ぼっち で お昼ご飯を食べることになる。精神的な落ち込みに対して手を差し伸べてくれるのは輝。彼女に度胸を付けようと試行錯誤を繰り返すことで2人の距離は縮まる。輝が爽歌を初めて同級生を異性として認識するように、爽歌も自分を救ってくれる言葉を掛けてくれる輝に好意を持ち始める。
輝は すぐにバスケットボール部に入部。そこには忍や、マネージャーとして ちひろ もいた。ちひろ がマネージャーになったのは輝を支えたいという気持ちだからだろうか。そして忍が入部したのは ちひろ目当てだった。しかし ちひろ は幼なじみの輝の変化を察知しており、彼が爽歌に特別な感情を抱いていることに本人よりも早く気づく。
学校の創立祭が近づき、輝たちのクラスは演劇を行うことになる。くじ引きで主役は ちひろ。輝は大道具、爽歌は衣装係になる。その準備中も輝と爽歌は お互いを特別だという気持ちが盛り上がるが、爽歌は放課後、ちひろ が輝の制服を抱きしめている場面を見てしまい、自分たちが三角関係であることを知る。
爽歌に目撃されたと知った ちひろ は これが演劇の練習だと誤魔化す。それは ちひろ の優しさ。彼女は輝の背中を後押しするように、爽歌が傷つかないようにアドリブで対処したのだった。そこから2人の演技の練習が始まり、その様子を目撃した担任であり演劇部の顧問は爽歌の素質を見い出す。
創立祭当日、ちひろ は高熱で倒れてしまう。主役の降板危機に際して担任は爽歌を主役に指名する。全ての台詞を覚えている彼女なら主役が務まると考えたのだ。
病院に運ばれた ちひろ を看病するのは輝。責任感の強い ちひろ は自分を責めるが、その負い目を軽減するように輝は ちひろ に声を掛ける。爽に対してもそうだが、こういう人間性が女性に好意を抱かせるのだろう。
輝はクラスメイトからの連絡で爽歌が主役を務めることを知る。彼女を心配する様子の輝に、ちひろ は自分は大丈夫だからと強引に輝を学校に向かわせる。ずっと ちひろ は切ない幼なじみである。輝は学校に向かう前に、ちゃんと ちひろ の身体を心配してくれた。病室に残った ちひろ は やはり彼が好きでたまらないと涙を流す。その言葉を廊下で聞いてしまう忍もまた、誰かを想う その人を好きになってしまった。
描写が少なくても判官びいきの読者は自然と ちひろ も忍も好きになってしまっている。表面上は気が強いけど本当は純情というキャラを描かせたら作者の右に出る者は いないかもしれない。
爽歌はプレッシャーのあまり舞台となる体育館から逃亡していた。そこに まるで行く手を阻むような困難に立ち向かいながら輝が登場する。
上手くいかないことばかり考え、恐怖に震える爽歌を輝は抱きしめ落ち着かせる。そして爽歌が絶対に劇に出たくないなら一緒に逃げてやるとも言う。けれど演じることが好きならば挑戦するべきだと輝は言う。劇が失敗しても自分だけは絶対に笑わない、それで爽歌を嫌いにならないと彼女の心配を緩和する。なぜなら自分は爽歌を大好きだから。
こうして爽歌は輝から勇気をもらって舞台に立つ。のちに伝説となる彼女の初舞台が始まる。