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ヒッタイト帝国ミステリ シリーズ第2弾は後宮内連続殺人事件『姫は浅い池にぷかり』

天は赤い河のほとり(15) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第15巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

ナキアの側近・ウルヒに捕らえられてしまったユーリ。カイルの側近・ルサファがナキアに操られていたのだ。カイルはユーリを救うため、ナキアと全面対決する姿勢だが…!?

簡潔完結感想文

  • 自分だけではなくカイルも巻き込みかねない陰湿なイジメにユーリが覚醒して正論で論破。
  • ナキア皇太后が誰かを操る計画を事前に把握し、当然 自分が狙われると思っていたら…。
  • 王宮2回目の殺人事件は連続殺人。今回の容疑者もユーリ。犯人が分からないなら炙り出す。

宮内におけるカイルはセイフティーネットに徹する、の 15巻。

『14巻』で この時代の この世界に生きると決心してカイルの側にいる人生を望むユーリ。しかし どう生きるかは明確でも、何の背景もない自分だからユーリは将来像を描けない。カイルはユーリを正妃にと考えているけれど、彼の考えをユーリは知らず自分は側室でいられればいいと背伸びを考えない。
ここまでカイルはユーリの意思に任せて自分の願望を何とか呑み込んできたけれど、今回もユーリが心から望むまで正妃のことは口にしない。ユーリを縛って周囲を強引に納得させての正妃は国が乱れることを聡明なカイルは理解しているのだろう。そしてカイルからはユーリへの愛や執着を見せないことを不安の種として利用している。

考えてみると『14巻』後半からのユーリは高校卒業後の進路問題にも似ている気がする。この世界に来て3回目の春が到来したので日本で過ごしていても丁度 進路を考え始める時期だろう。そうなるとナキア皇太后によって後宮に女性が集められたのはレベルの高い予備校に入ってしまった戸惑いや焦燥感、または初めての芸能オーディションに挑んだ心境のように見えてくる。

当初、ユーリは場の空気に呑まれる。地味で平凡な私は こんな世界で生きていくのなんて無理ッ!と これまでのアドバンテージを都合よく忘れて弱気になってしまう。それでも自分なんかと すぐに諦めてしまう か弱いユーリとは今日で お別れッ!とばかりに立ち上がって、ここからは自分の意思で正妃になるまでが描かれるはずだ。『15巻』では雰囲気に呑まれていたユーリは、カイルにも危険が及びかねない事態に怒りを覚えて芯の強さを発揮する。妃候補はユーリを輝かせてくれる比較対象でしかない。

そもそも戦場で指揮を執るほどに成長したユーリに、後宮内の日本の学校のイジメレベルの嫌がらせをしても格の違いしか感じない。ただしこれはユーリが愛に溺れたり増長したりしないための試練の側面もある。もしかしたら あのままカイルと愛欲の日々を送っていたら皇帝を骨抜きにした悪女として語られていたかもしれない。以前も書いたけれど、どうもナキア皇太后の考える悪だくみはユーリを立派な正妃にするための修行にしか見えない。上述の日本の受験生の例えで言うならば、お陰で初めての彼氏に浮かれがちな高校3年生前後のユーリが緊張感を持って人生を考えるようになりました と言ったところか。

嫉妬を正直に吐露しているようで、相談内容は相手が嫉妬を覚えそうな自慢エピ

して今回もウルヒが側にいるからかナキア皇太后の奸計は冴えている。
王宮内での殺人事件は『10巻』の『服は赤い血でベットリ』に続いて2回目だけど、今回は連続殺人と規模が大きくなっている。犯人当てのミステリではないので残った3人の姫たちの中からユーリが推理によって犯人を名指しする場面はなく事件は大雑把に起こり、大雑把に終わる。

ただユーリがナキアの魔力によって操られた者に狙われるだろうというミスリードから直接ではなく間接的にユーリの息の根を止めようとする流れが良かった。また後宮内の事件には手を出せない、手を出すことでユーリの正妃としての資質の欠如を認めざるを得なくなるカイルが最後の最後でユーリのための特別待遇を発揮するのも良かった。カイルの魔力発動は『2巻』以来2回目か。その前の もう一つの特別待遇であるユーリにだけ寝顔を見せるカイルというのも、読者の承認欲求を満たすエピソードだ。カイルには過去の愛や性があるけれど、その「さかのぼり嫉妬」を払拭するエピソードがあればユーリの心は落ち着くだろう。

更には一連の殺人事件が終わったと見せかけて、という二段構えがラストで判明して唸った。ナキアの悪だくみが工夫されていればいるほど作品も輝く


ーリはイシュタルとしての自分にしか自信が持てないので、平和な時の戦いの女神は不要なものと卑下して考えてしまう。

そんなユーリの相談相手になるのは『9巻』の隠し子騒動でカイルの心変わりに苦しめられた姫。ユーリは無自覚に自虐風自慢をしてしまい、カイルの寝顔を自分以外 誰も知らないことを知る。ユーリだけがカイルと一緒に寝ることを許された人なのだ。そんなカイルの初めてや特別を感じてユーリは安心し、余裕を取り戻す。

イジメは止まらないが、寝所の毒の弱いサソリは日本の学校で言えば上履きに画鋲だろうか。ユーリは自分をターゲットにしながらカイルも危険に巻き込む姫たちの頭の悪い計画に怒り心頭に発する。怒りのスイッチはカイルのことで入る。自分がカイルにとって安らぐ存在ならば その場所を守るのがユーリの役目。ユーリは悪戯で使用されたサソリを投げつけ、姫たちに主君の存在分からせるため大声を出して後宮の下らない争いに終止符を打つ。


キア皇太后は人を操る「黒い水」を7人の正妃候補の誰かに飲ませることを計画する。またユーリに不本意な状況にするため元老院(バンクス)は後宮の女同士の争いを一つ高い視点から見渡していたアッシリア王女を正妃に推薦した場面が挿入される。

カイル・ユーリはナキア皇太后の計画を察知し、ナキアの真の狙いがユーリを殺す刺客を送り込むことだと推理するが、誰が操られるかは不明のまま。
だが事件は警戒していたユーリではなく王妃候補がサソリの毒によって殺されることで発覚する。サソリから連想されるのはユーリが被害者となった姫にサソリを投げつけた場面。続けざまに第2の殺人事件が起こり、この時の絞殺にユーリの私物が使われていることが判明する。連続殺人で誰もが注意深く生活をする中、一人の姫の怪しい動きを見つけたユーリは単独行動をして、そして失敗する。久しぶりの こういう展開である。


倒させられたユーリが目覚めると自分の上に死体があった。こうなって初めてユーリはナキアの狙いを理解する。皇族殺しは斬首。ナキアは それをユーリに適用しようとしているのだ。

第3の被害者はナキアの姪で、バビロニア王族の血筋を引いている者。国際問題に発展し戦争の火種になりかねない一触即発の状況が生まれる。ナキアは国際問題にするためにバビロニアから人を招いていた。これで自国で黙って幕引きを図ることは出来なくなり、事件の正式な解決が待たれる。そして この世界は指紋など科学捜査はある訳もなく、だからこそ状況や心証だけで犯人にされかねない。客観的に見てユーリには動機がある。またもや殺人事件の容疑者にされたユーリ。ユーリがサソリに刺されたと聞いて薬草を持参する民衆は、ユーリが2回も容疑者になっていることで失望しないのだろうか…。

ナキア皇太后は計画通りに事が運んでご満悦。でも自分が関わった証拠となる黒い水の回収をウルヒが進言しても放置するところが甘い。

ウルヒ「皇太后様が勝利を確信したら それは失敗フラグですよ、ババア」

イルはユーリを容疑者にした事で連続殺人は終わると考えていたが第4の事件が起こる。この事件がユーリのアリバイを証明してしまい、ナキアの計画は早くも破綻する。第4の事件は黒い水とは無関係の事件で、ナキアが黒い水を回収してもしなくても起こるべくして起きてしまう事件。

手詰まりとなった事件でユーリはカイルの魔力の使用を考える。カイルが魔力を使える設定をユーリや作品が覚えていたことに驚く。けれどカイルは、「人を治めるには人の力を使え」という母の教えで人外の力である魔力の行使を制限していた。これは間接的にカイルの母がナキアを愚者だと言っているようなものだ。


疑者は3人の姫。ユーリは その3人の姫とナキアを一堂に集め、犯人の動機でもある嫉妬を一身に受けるためカイルとのイチャラブを見せつける。それだけで簡単に犯人は動き出す。ナキアが犯人を選んだのではなく、魔力がユーリを一番 憎む者を選んだったのだ。

犯人は人質を取り周囲の者を制止させる。犯人の父親が娘は何かに憑りつかれていると考えてカイルの魔力で正気に戻して欲しいと懇願する。話の都合なのだろうけど、なぜ ここで正気に戻すという言葉が出るのか、そしてカイルの魔力を頼るのかが いまいち説明できていない。

ここでカイルは改めて魔力を制限していることを伝え、この言葉でナキアはカイルの母親に諭された過去を思い出す。ナキアにとってカイルの母親は器の大きさで勝てなかった人なのだろう。

犯人にはユーリが近づき、自分を殺したいのなら人質と自分を交換するように説得。人質の安全を確保してからユーリは武力で制圧。続いて犯人の中から黒い水を吐き出させようとするが、ナキアの一声で犯人は豹変。憎しみの余りユーリ共々 高所から落ちようとする。そこで やむなくカイルが魔力を発動し、その流れで犯人の中から黒い水が出て一件落着、…しない。