和泉 かねよし(いずみ かねよし)
そんなんじゃねえよ
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
史上最強の美形双子・哲&烈。悲運にも(?)そんな彼らに溺愛される妹・静は、彼氏いない歴16年!一方で哲と烈は超モテモテなのに、なぜか静にしか愛を感じない筋金入りのシスコンである。ひとつ屋根の下、弱肉強食の思春期ライフを送る3人だが、「静・養女説」が浮上して?待望の第1巻。
簡潔完結感想文
- 1人の妹に2人の兄。妹と血が繋がっていないことが証明できれば俺たちは結婚できる!
- 作者の本領が発揮されるのは、イケメン描写ではなく「癖のある人図鑑」の あるある。
- 勢いはいいが、全体的に行き当たりばったりの展開で深い設定や人間描写は感じられず。
どうしても昔の男の影がチラついてしまう 1巻。
その男とは、作者による前長編『ダウト!!』の男たちである。
本書のイケメン双子・烈(れつ)と哲(てつ)の中に、
『ダウト!!』のキャラ・曹(そう)と雄一郎(ゆういちろう)が見え隠れする。
本書は どうにも前作の焼き直しの匂いが強い。
前作では中盤から出てきて、読者に それなりに人気を博したであろう三角関係を、
今回は最初から用意して長期連載に望んだだけに見える。
このイケメン双子は、前作のイケメン2人の転生した姿であろう。
前作では既にカップル成立した後に、1人が割って入ることで三角関係を成立させていたが、
今回は、最初からフェアな戦いを用意してのリベンジマッチといった様相だ。
前作『ダウト!!』の連載終了の3か月後からスタートした本書。
最終巻である『9巻』の あとがき で、
作者自身が「そもそも このマンガは時間に余裕がないスタートだった」と語っている通り、
連載前に十分に話を練る時間がままに本書の連載が始まったことが分かる。
だから作風も『ダウト!!』で作者が確立したスタイルのままである。
前作のファンには今回も満足のいく面白さだろう。
悪く言えば、成長した点がないので目新しい部分がまるでない。
設定だけをガチガチに固めて、内面の描写が不足しているのも前作と同じ。
イケメンを装飾する言葉は、美形、美形、美形。
この言葉を使うことで彼らの人物像への説明を放棄している。
そして作者にとっては美形は横暴なものらしい。
ここも前作と同じで、時に暴力で彼らは自分の敵を ねじ伏せる。
今回はイケメン双子2人に加え、彼らとヒロインの母も美形。
美形は問題解決能力にも優れているらしく、
ヒロインを巡る問題は美形の家族が、多少 強引に解決してくるというのが『1巻』のテンプレ展開。
そんな美形集団の中に、まがい物がいるのも前作と同じ。
前作では努力で自分を「美形」の域にまで高めたヒロインだったが、
今回は まだ自分が美形の国の住人であることに気づいていない、蛹状態のヒロイン。
どちらも生来、美形の国にいる訳ではないことが彼女たちに自信を持たせず、
唯我独尊の彼、彼らに振り回されつつ、愛されるというのがヒロインの基本的な姿勢である。
そして作者の真骨頂が、癖のある、迷惑な国の住人の描写であろう。
男女問わず、イタい人が続々と登場する。
この狡猾に自分をプロデュースする、自己愛の強い人たちの描写が秀逸。
ハッキリ言って、美形ぐらいしか特徴のない双子の兄達よりも
しっかりと人物造形がされていると思う。
これはイタい人たちにはモデルがいるからなのか、それとも作者の人間観察が発揮されているからなのか。
その人たちに対してヒロインは、
美形の国の住人のようにバッサリ一刀両断できないから、彼らに振り回され続けてしまう。
中盤までは耐えるヒロインであるが、
最後の最後に堪忍袋の緒が切れて、和泉作品のヒロインらしい逆ギレと、
真の(芯の)強さを発揮する、というのがお約束の展開。
終盤まで溜めたストレスが一気に解放されることが読者のカタルシスにも繋がる。
最後にイタい彼らの問題点を炙り出すことによって、
それが実際的な恋愛の教訓・アドバイスに繋がったりしていく。
また前作と共通する点と言えば、ヒロインの純潔と、ヒーローの奔放な性であろう。
今回のイケメン双子は「妹 命」と言いながらも、
決して愛することはない女性たちとの遊びにも興じている。
この設定は烈なら分かるが、哲にも適応されていることに違和感を持つ。
一番好きな人が戸籍上の妹だから、やる瀬なく他の女性を求めたという解釈もできるが、
彼らは割とフランクに性欲を発散している。
これも美形の特権かもしれないが、少女漫画のヒーローとしては言動不一致に思う。
前作の展開を踏まえると、性経験のない男性は女性に迫ることも許されない。
男はDTを捨ててこそ一人前、みたいな一方的な価値観があるなぁ。
前作との違いを見せるためにも、純愛を貫き通しても良かったのではないか。
本書は、読者に ちょっとずつ真相(っぽいもの)を小出しにすることで飽きさせない工夫をしている。
『1巻』の謎としては兄妹の中で誰が養子か、という問題が議題になるが、
全巻完読してから読むと、ちょっとずつ整合性の取れない部分が見て取れる。
これは作者が がっちりとプロットを固めずに、
連載中の流れの中で結末や真相を用意したからだと思われる。
本格的な謎解きのような、アッと驚く真相は期待できないが、
その分、最後まで物語の柔軟性は高いままなので、展開を楽しめる。
まぁ、読者にとっても彼らにとっても、
「妹」と結婚できるかどうかが問題なのであって、
彼らが妹を愛することが出来ない訳ではないから、正直あまり興味が持てない問題ではある。
本書の舞台はシングルマザーの母と双子の兄・列と哲、
そしてヒロインである静(しずか)ら家族4人が暮らす間宮(まみや)家。
間宮ブラザーズは美形双子で有名だが、妹への愛が重すぎる兄たちとしても有名。
一方で、妹の静は性格も見た目も平凡女子。
平凡な女子が2人のイケメンからモテる、という少女漫画の願望を詰め込んだ作品である。
ギャグをふんだんに盛り込んでいるものの、基本はかなり古典的な構図なのだ。
静が「彼氏をつくれないのは この兄達以上の男をみつけられないからなのかも…」と思うのと同様に、
兄達は彼女がいたとしても「どんな いい女がいたって 俺もお前も静か以外には…」「愛情を持てねーんだよ」という。
(ただし上述の通り、愛情は持てなくても女性は抱けるのが この双子)
兄達がこんなにも妹への愛を過剰にするのは、
彼らが 自分たちは妹とは十中八九、血が繋がっていないと考えているからである。
その根拠は彼らが幼い頃の記憶には妹が家にいた覚えがないから。
妹であって妹でないと思っているから、彼らは静にストレートな、異性に対する愛を表現できるのだ。
静は、自分が兄と血縁がない可能性を間接的に、そして強制的に知らされる。
1話のラストは、静が、兄との関係を巡る周囲の騒音を自分の力でかき消してから、
全てを知っている母が登場し、この血縁騒動は幕引きとなる。
これによって静は2人の兄と血が繋がっていることに安心する。
だが もちろん、そんなことはない。
まだまだ続く波乱を予感させて1話は終わる。
前作と唯一違うのは、最初から長編を想定している点。
人物の描写とは薄いが、魅力的な謎を残していて なかなか面白い1話である。
続く2話では、静が学校内の生徒から告白されて、交際を始めようとすることで騒動が起きる。
相手は静を自分と同じレベルの小市民だと思って、交際を試みるが、
静は やはりダイヤの原石で、その精神も外見も美しい、という静の魅力を語る個人回となる。
それにしても少女漫画のヒロインは、
屋上から落ちる危機に、川に落ちてみたり、色々な所から落ちそうになりますね。
分かりやすいピンチに、分かりやすい救助が期待できるんでしょうけど。
3話では烈回。
彼らの良い所を示すのがイントロダクションとしての役割だろう。
何かを隠している母親を兄・烈は問い詰めるが、
その答えを、母に次のテストで1番取るぐらいの本気さを見せれば、と条件を出される。
この話では烈の良い所を出しながら、中盤に兄妹3人の絆が描かれ、
そして終盤では おいしい所を攫って行くのが哲となる。
さて、こうして3話にて、静ではなく、哲と烈のどちらかが養子という事実が判明する。
これは面白い位相の ずらし方ですね。
双子と思っても不思議ではないほど似ている兄に、
似てない妹という設定なのに、実際は兄のどちらかが血が繋がってないという。
まだ真相はすべて明らかになっていないが、意外な事実である。
少女漫画的には、静が養子なのが定石だろう。
その方がヒロインの孤独が浮かび上がるし、それが特別性に繋がる。
しかし、2人の兄の内 どちらかは確実に血の繋がりがあるという事になる。
そして それは2人の内 どちらかは妹にシスコン以上の感情を持っているということでもある。
どちらにしろ2人は結婚してもいいとぐらい思っているのだもの。
静以外が養子というのは意外な事実であるが、
これによって世界が一段と狭くなった気もする。
美形が、無自覚な美形に惹かれる、というナルシシズムも感じる。
ギャグで空気を軽くしたり、誤魔化したりしているが、
考えれば考えるほど かなり歪な世界なのである。
続いての4話目は また厄介な女性キャラが登場。
この女性は この家の実情を知る母の知人の娘という設定。
彼女と仲良くなることで、養子問題に探りを入れられると思っている兄達。
彼らはホストのように彼女に従順になることで、情報を得ようと必死。
そして それは彼女を精神的に満足させることで、静に類が及ばないようにすることでもあった。
兄達は妹と離れるつもりはないが、妹もまた兄と離れられない事を思い知っていく。
兄が自分のために我慢している事を知った静は、
単独行動で、彼女の家に行き、そして そこで真実を知る手掛かりを見つけてしまう。
これも面白い展開ですね。
通常なら、真相を最後に知るであろうヒロインが まず手掛かりを入手する。
でも、その事を兄達に告げることは、自分たちの関係に終止符が打たれること。
だから兄達は、静が口を開くのを阻止する。
このままの関係でい続けること、それが現時点の彼らの願いであり、共通の答えなのだ。
こういう気配りをもって、静は兄達に確かに愛されていることを知る。
誰もが恋に落ちる準備が万端で、お互いに相思相愛は約束されている。
残る問題は実の兄妹ではないという確証を得ることだけ。
三角関係でありながら、どちらと恋に落ちるかは、そんなに問題ではないのだ。