《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインのピンチに助けに現れるのは必ず男性キャラだから、新キャラの性別は男性…⁉

天は赤い河のほとり(18) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第18巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

カイルの機転によって、ユーリはラムセスの手から救出される。そして、ユーリから子どもができたことを告げられ、喜ぶカイルだったが、早くもナキアの手が…!?

簡潔完結感想文

  • 功を焦って通算5度目(?)、ラムセス2回目の誘拐事件発生。軍部トップの単独行動は無理がない?
  • この問題が避けては通れない女性のキャリア設計の難しさ。それを気にしないラムセスの家族設計。
  • 勝手に不安を抱いて それが解消されると その高低差で幸福量が多く感じる。そして その逆も然り…。

て馬は本懐を遂げないからこそ輝く、の 18巻。

『18巻』はユーリの単独行動、イケメンによる誘拐と性暴力のコンボ、ピンチ脱出とカイルとの蜜月という起こることは既視感の否めない内容。しかしユーリの心情や体調が違うことが物語に新しい風を吹かせている。

ユーリは自分の将来像が定まったことで その実現に向けて動いているからこそ結果を求めすぎている状態。そして『1巻』から変わらずユーリが欲を出すと失敗するのが恒例。ましてや単独行動なら尚更。『1巻』から比べれば遥かに高くなったユーリの地位だけど、偉いはずの彼女が失敗するために単独行動をする変な展開となっている。

ユーリの二股を疑うレベルで出会う2人。近衛長官になればラムセスに会える!

そこから発生する おそらく通算5度目のユーリ誘拐事件だけど今回が以前と違うのは女性を誘拐した男性が必ず働く性暴力の阻止が これまでとは違う形で起こった。※ネタバレ になるけれど それがユーリの妊娠である。今回の誘拐犯・ラムセスは少々強引なところもあるけれど基本的に惚れたユーリには優しくて妊娠が分かると自分の性欲を抑え、素直にユーリを祝福してくれる。誘拐から解放されるキッカケもラムセスの優しさだったし、ラムセスは本当にユーリを最優先してくれる(だからこそユーリが その優しさを利用した悪女に見える…)。
しかもラムセスがカイルの子を認知して その上で家族を築こうと提案してくれたのには笑った。終生のライバルであるカイルの才能を認めているから第一子は才能に恵まれると喜びながら、第二子は自分との子を望むラムセスの大らかな考え方は これまでで一番 彼に好感を持つところだ。ラムセスとなら連れ子問題など絶対に起きない家庭が築けるだろう。

さて本書における性暴力は「するする詐欺」に終わるのが通例になっていて読者の危機感は薄れている。ただ今回はユーリを助けるのはカイルじゃない。これまではギリギリのところでカイルが登場する場合が多かったので、今回ユーリを助けたのは新しい男性キャラだったのではないか と推測できる。それはユーリの胎内に宿った新しい命。つまりユーリとカイルの子供である。まだ外側からは胎内で動いているか感知できないほどの小さな存在だけど、ユーリのピンチに際し 体内から つわり として信号を出し、それがユーリを性暴力から救ったと言えるのではないか。

少女漫画ヒロインのピンチを助けるのは いつも男性キャラの役目。ならば この新しい命の性別は男性なのではないか。それが生まれる前から分かった、ような気がした…。


たユーリはカイルと同じ視点の高さで彼の隣にいることを望んでいる、紀元前14世紀の21世紀的な考え方を持つ3400年ほど時代を先取りした女性である(夕梨(ゆうり)は1995年まで日本にいたけれど)。

『14巻』から日本の社会ならば高校卒業後の進路に迷っていたユーリだけど、今回の妊娠は女性が社会進出する上でのキャリア形成の難しさを表しているようにも思えた。最終的な目標のために早めの実績が求められる競争社会に入ることを決めたユーリだけど、どうしても女性は男性と同じように いつでも十全に力を発揮できるとは限らない。公私どちらを優先するか、または両立できるか、妊娠・出産後に元の目標を目指すことが出来るのかなど様々な悩みが想像できる。

ただしユーリは異邦人であるから、この時代に生きるカイルとの子供を授かったことが自分の存在の肯定に思えて、これまで以上に心安らぐ日々を送っている。そしてカイルとしても やや落ち着きがなく どこにでも飛び出して行ってしまうユーリを合法的に籠の中の鳥に出来ることで優しい愛情を注ぐことが出来ている。

しかし その平穏な日々が長く続かないのが この作品。カイルの悩みと不安の種は尽きることがない。


属国・ウガリットとの誤解を解けないままエジプト軍と接触することになったユーリ。しかもエジプト軍を率いるのがラムセスだと知り小細工は通用しないと悩みは深くなる。ここで ちょっと疑問なのはユーリがラムセスの指揮官としての有能さを分かっているか問題。これまでユーリはラムセスと戦場で遭遇したことはない(はず)。恋愛面で積極的な彼しか知らないのではなかったか。

ユーリは防衛線を築くまでに必要な5日間を死守しなければならない。そんな時ユーリは城内に駐留していたヒッタイト軍のために娼婦が集められていることを知る。前代未聞の女性の近衛長官となったユーリは いつでも戦場で女性目線を忘れない。そのことが娼婦にも伝わり、娼婦たちは自分たちがエジプトの軍営で商売をして骨抜きと足止めをすると事実上の協力を提案してくれる。以前も戦地でユーリの助けになってくれたのは同じ女性だった。
そしてユーリも娼婦たちに同行し、現地で闇に紛れてエジプト軍の馬を逃がす計画を立てる。


こから久々にユーリが単独行動をしてピンチが到来。ラムセスを警戒する余りリスクを冒して成果を求めた結果 ラムセスと遭遇してしまう。分散して行動した方が効率がいいとはいえ、身分が高くなったユーリに単独行動をさせるのは ご都合主義か。

ユーリと遭遇したラムセスは敵軍の中に飛び込んできたユーリを精神的に拘束できる状態にあった。ラムセスは軍営にユーリがいる意味を理解しながらも彼女の計画を阻止するようよりも ほしいままにすることに価値を置く。ユーリは目先の領土争いや手柄よりもラムセスにとって重要な存在なのだ。

ラムセスにユーリが連れ去られた現場を目撃した娼婦によってルサファたちが駆けつけ、ラムセスに刃を向ける。この時の会話でラムセスはユーリがなぜ前線にいるかを理解し、ルサファの剣幕で彼が同類であることを知る。最強の当て馬は察しが良くなければ務まらない。
しかし完全に数で劣るためルサファたちは撤退せざるを得なくなり、ユーリはラムセスに連れ去られる。


ムセスは久々にユーリの身体に触れ、彼女が女として花開いていることを認める。もう助けは望めず万事休す、というところでユーリの体調に異変が起こる。それが つわり であることを男性のラムセスから指摘されて ようやくユーリは妊娠に思い当たる。これも鈍感ヒロインの一種なのか。

ユーリの妊娠をラムセスは祝福し、そして認知する! 自分の子として育てるからエジプトで暮らそうとユーリに提案する。大局が見えているラムセスはウガリット侵攻自体が無意味で敗北必至であると考えていた。だから馬の不足を理由に退却する。


イルはウガリットに到着早々 ユーリがエジプト軍に捕らえられたことを知る。そういえばマリ皇子が亡きザナンザのようにカイルの近衛長官になるという案はなかったのだろうか。まだ10代であろうと推測されるけれど、それにしてもマリ皇子は中々の無能に描かれている。
捕らえたのがラムセスだと知ったカイルは彼の思考を読み、どうにかユーリのエジプト行きを阻止しようとする。

ラムセスもまたカイルは必死に追ってくると分かっていた。実際 両軍は すぐに接触し、領土を巡る戦争ではなく女性を巡る男の戦いが始まる。ラムセスが どうしても自分を手放さないと知るとユーリはラムセスの人の良さを利用する。なかなか あざとく図太い女性だ。

ユーリを前にすると男性は2人とも理性を捨て ただの男になってしまう。互いに剣を抜き今度こそ直接対決が始まるかに見えたが、ルサファがラムセスを牽制し、彼に撤退を選択させる。ラムセスが敗走した形になるが、カイルは自分との違いは権限だと冷静に見極めていた。

読者の承認欲求の器が決壊し、快楽物質の脳汁が止まらない場面

ーリはカイルに妊娠のことを どう告げればいいか悩む。近衛長官は正妃へと続く道なのに、その途上で妊娠が発覚して実績が作れない。再会後 カイルが性行為を求めてきた際、ユーリは妊娠を告げ、カイルの反応を知る前にキャリアを放り出しても生みたいという意思を告げる。
不安にさせてからの緊張の緩和は胸キュンの基本構造。カイルは心からユーリの妊娠を祝福する。そしてユーリは妊娠が この世界との関わりをもたらすと感じていた。

だが同時にカイルは皇帝として冷静な判断をし、妊娠を臣下に伝えると同時に秘匿するように厳命する。それはナキア皇太后が妊娠を知ることでのリスクを考えてのことだった。けれど どこにでも現れるウルヒによって妊娠は すぐに伝わってしまう。そうでなければ作品として つまらない。


イルは早くも子を慈しみ、ユーリを安産のため後方に下がらせる。
首都から離れた街で穏やかな時間にユーリも心から安堵する。臣下たちは この真綿でくるむような愛情がカイルが本来ユーリに施したかったものだと理解する。本書で最も穏やかな日々だけれど不安の後に幸福が来るように、幸福の後には悲しみが待っている…。

ウルヒがウガリットの街でユーリの妊娠の噂を流し公然の事実とする。それによってユーリは街中の人々から祝福されるが それはカイルの誤算でもあった。だから祝福という民衆の熱狂をコントロール不可の狂乱にしてユーリを害しようとするウルヒの考えを呼んだかのように密かに海路による移動を採るが いつまでもカイルの不安は消えない…。