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少女漫画と小説の感想ブログです

戦場に必要とされるイケメンと、平時に利用される準イケメン・ルサファの災難

天は赤い河のほとり(17) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第17巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

『黒い水』を使ってルサファを操り、ユーリを誘拐するナキア皇后の計画は失敗した。ユーリを取り戻したカイルは彼女を皇妃にすると宣言する!!だが、ユーリが皇妃になるためには近衛長官を務め上げる事が条件となってしまう。大役に戸惑うユーリを待つ陰謀とは…!?

簡潔完結感想文

  • 未成年者誘拐の執行猶予中だったルサファが今度は性犯罪で逮捕。この者の罪を天に委ねる。
  • ユーリの機転(と周囲の見て見ぬふり)で生還したルサファは、直後に死亡フラグを補強する。
  • どこにでも設置されるナキア皇太后の陥穽。でも いつも通りユーリを輝かせる踏み台である。

イルの手を離れて自力で大空を舞う 17巻。

『17巻』は幕間(まくあい)の印象が強い。それはユーリの個人の成長を描くために、カイルとの場面が極端に少ないからだろう。『16巻』で近衛長官になること、そして その先の正妃になることを決意したユーリ。そして『17巻』では正妃の先の皇妃(タワナアンナ)にならなければ現タワナアンナであるナキア皇太后を その地位から落とせないことを理解し そこに自分が至ることを決意する。これでユーリとカイルの2つの視線は完全に同じ方向、同じ場所を見つめていることになった。

ユーリが皇妃の地位を目指すのは個人の欲望ではなくカイルの夢の実現のため

この2つの決意の どちらにも関わっているのがルサファである。少女漫画は動き続ける恋心が描かれることが生命線と言える。『16巻』でユーリを正妃にする自分の願いを口にしたカイルと、『18巻』で改めて自分の隣にユーリを欲するラムセスという二大イケメンが作品を支えている。この2つの大きな動きの間の『17巻』はルサファが場繋ぎとして活用されているように思えた。

悲しいかなルサファは準イケメン、準当て馬と言わざるを得ない。高値安定状態に突入したユーリとカイルの関係性だがユーリの独り立ちエピソードにカイルは一緒にいられないし、ラムセスの登場は まだ早い。そこでルサファにユーリに恋する男性の役回りが回ってくる。
カイルの助力なしにユーリが自分の力で待ち受ける事態(ナキア皇太后による罠)を打開することが近衛長官、ひいてはタワナアンナの器を見せつける機会となる。そこにルサファのピンチが利用され、彼をユーリが助けることでルサファの恋心は補強されていくという連鎖的な動きが発生する。そして二大イケメンの溺愛と執着の裏でルサファの恋心も育ち、そして それが死亡フラグにしか見えないという不吉さをはらんでいく。

『17巻』の恋心はルサファが繋いだが、その役目はラムセスに掻っ攫われてしまう予感で終わる。所詮 場繋ぎに過ぎないのが準当て馬の辛いところだ。二大イケメンが同じような俺様タイプなので、ルサファの誠実さや優しさが好きという読者も一定数いるだろう。


ーリはエジプト戦では皇帝・カイルの近衛長官として戦場に立つ。この布陣は完璧に見えるが、ルサファが部隊長から降格して練度が足りない部分もある。

カイルが正妃候補だったアッシリア王女を送り届けるため一時 国を離れる。その前にルサファをユーリの副官に就け、能力のあるルサファの活用とユーリの護衛の強化という一石二鳥を実現する。でも弓兵隊だったルサファに直接的な護衛能力があるのか疑問だ。

しかし このカイルの采配にナキア皇太后は狙いを定めた。ルサファに性犯罪を捏造し、実質 執行猶予中だった彼の犯罪に過酷な刑を提案する。これは戦場でユーリが死ぬ確率を高めるための計画だった。カイルが不在のため最高権力者はタワナアンナで、近衛長官のユーリの声は届かない。久しぶりのユーリとナキアの直接対決である。

ルサファの武力と絶対に過ちを犯さない精神力を信頼するカイルの任命

サファが受ける「炎夏の秤(えんかのはかり)」は縛り付けられた容疑者が5日間生き抜くか自力で脱出すれば無罪、絶命すれば有罪という紀元前の世界らしい乱暴なシステム。
季節は夏で飲まず食わずでは5日間 生き延びることは無理。実質の死刑と聞き、ユーリは取り消しを求めようとするがカイルが不在では身動きが取れない。ナキアが自分の命を狙うために無実の人が巻き込まれることにユーリは抵抗する。自分でルサファを脱獄させようとするが、自分の行動がカイルの汚点に繋がると諭され拙速な行動を反省する。

せめてもの願いでユーリは執行に立ち会い、物に当たり ルサファに別れのキスをする錯乱による行動を見せる。最後にルサファに必ず戻るようにと強い命令を出して彼を大地に残す。


行の日からユーリは自分も飲まず食わずを続け願掛けとする。執行から3日後にカイルが戻り中止をナキアに命じたところに、ルサファが生還したという情報が入る。これはナキアにとってカイルの強権発動よりも予想外の結末で、ルサファの無実が公に認められてしまう誤算となった。

ルサファの生還には裏があり、執行日のユーリの謎の行動がルサファの生還に役立ったのだ。ただ脱出方法の謎は解けたけれど、ユーリの仕込みは執行に立ち会った者が目撃しているだろうに、その場面を都合よくカットし、不問にしているのは ご都合主義に思える。そもそも物を壊さなくてもユーリが それを先に口に含んでいた、でいいような気もするけど。読者に脱出の希望を開示するフェアな精神によるものなのか。

折角 生還したのにルサファは「不可侵」のユーリからのキスで一層の忠誠を誓い、自分で死亡フラグを立てているのが気になる。


回のナキアの企みはユーリに彼女に代わって自分がタワナアンナになるという決意を固めさせる。ただ近衛長官としての功績が正妃に必要な条件であってもカイルと同じ視点に立っているユーリは無用な戦争は仕掛けたりせず、功を焦ることはない。

そこへ前線指揮官に着任したカイルの弟、マリ・ピアシュシュリ皇子が消息不明になったという情報が舞い込み軍を動かさざるを得なくなり、ユーリが前線に立つことになる。以前は永遠の別れを念頭に別々の戦場に立った2人だが、今度は一緒にいるためにユーリを危険に晒すことになりカイルの胸は またも痛み出す。ちなみにマリ皇子の初登場はエジプトへ婿入りする候補者選びの『7巻』だろうけど、存在感が薄かった。


境の要衝である藩属国・ウガリットに到着したユーリは もぬけの殻となった村の様子を目にする。次々に異常事態を目にしてウガリット国王や王宮に異変が起きたことだけが分かる。

この異変にユーリは落ち着いて対処し、僅かな手掛かりから煙のように消えた村人の居場所を割り出し事情を聞く。村人は国王からの布令でヒッタイト帝国が残酷な存在だと教えられ難を逃れるために村を放棄した。そして国王はマリ皇子の率いた軍を城に閉じ込め、城の周囲に毒ヘビを放って引きこもり状態になってしまった という。

そこに今度はユーリを城に招待するメッセージが届く。毒ヘビの障害を越えなければ明日の日暮れにはマリ皇子が処刑されてしまう。だがユーリが入城するまでに犠牲を出せば、ヒッタイト帝国が残虐だという国王の思い込みを補強してしまう。そこでユーリは鷹のシムシェックを使い食物連鎖を利用する。このためにシムシェックを飼っていたのか。シムシェックの最初で最後の活躍でないことを祈る…。


ーリは誤解を解くために入城し、軟禁状態だったマリ皇子を解放する。そこに国王が登場し、いきなりユーリに剣を振りかざす。温厚な名君だという評判だった国王は すさんだ様子で彼が口にするのはヒッタイト帝国への恨みだった。国王は愛を注いだ娘を正妃候補として差し出したのに殺されたと思い込んでいた。

しかし『14巻』の7人の正妃候補の中にウガリットの王女はいなかった。同時に第三者の証言で王女がヒッタイト帝国に向けて出発したのも事実だった。ウガリット側は王女がカイルに殺されたという正式な書簡を受け取っていた。ただし差出人はナキア皇太后だった。

ウガリットの混乱が収まらない内にエジプト軍がラムセスの指揮で進軍を開始する。ラムセスはユーリが指揮を取っていることを知り本気で彼女を奪いに来るのだった…。