
藍川 さき(あいかわ さき)
ケダモノ彼氏(ケダモノかれし)
第12巻評価:★☆(3点)
総合評価:★★☆(5点)
義弟の圭太と家族に戻ると決意したものの、圭太がアルバイト先の女子と仲良くなっていくのを目の当たりにして苦しい思いが募っていってしまうひまり。テンションが上がらないまま、京都へ修学旅行に! そこで黒田に会ってしまって!?
簡潔完結感想文
- 解決したくないから問題に真正面から ぶつからない。それを読まされる読者。
- 読者が予想したグダグダ展開が、予想と少しも違うことなく繰り広げられるだけ。
- 相手の意思を尊重することなく、自分だけが切ないと思い込むヒロイン様の恋愛。
切なさを感じているのはヒロインだけ、の 12巻。
失速、という言葉しか浮かばない。再読して面白い作品もあれば、そうでない作品もある。本書は後者である。本当に中身が無さすぎて5分で読んでしまえるような内容だった。作品として最後の別離期間であれば もう少し切ない状況にして欲しいものだけど、どうも本書の場合、ヒロインの ひまり が一人で悲嘆しているようにしか見えないのが問題で、自業自得という言葉が頭から離れない。
そして根本的な問題として ひまり の大賀見(おおがみ)に対する愛情が薄情とも言える展開であることが挙げられるだろう。これが最後の一波乱なのであれば、2人は望まない別れをしていなければならないところなのに、ひまり は関係性がバレた父親の一言で あっという間に大賀見との別れを選んでしまった。そこまで10巻ほど積み上げてきた彼への愛情を世間体と言う彼女の価値観で相殺できるような大きさにしてしまった。これは ここまで読んできた読者への裏切りでもあり、読者は一気に ひまり を嫌いになり、それが今回の悲嘆のモノローグを一層 陳腐化させている。
ひまり を独善から救う、間違いを指摘し叱ってくれる「親友」というポジションが必要だったのに、悲しいかな ひまり には女友達がいない。本書で登場する女性キャラは名前を覚える必要もない、ひまり の恋を切なく演出してくれるライバルたちだけ。
これは作品の性質上、秘密の恋愛が必須なのと、ひまり が男性たちからチヤホヤされることを最優先にしてしまった結果だろう。絶対に口を割らない親友が用意できれば もう少し ひまり の愚かさは軽減できただろう。しかし作品内に そんな人はいないから、ひまり は主観でしか物事を捉えられず、彼女の幼稚な思考は垂れ流されてしまった。


また疑問なのは、両想い前に あれこれ動いていた大賀見は今こそ戸籍を抜ければいいのに ひまり を最優先するという理由から何のアクションも起こさない。ひまり はともかく、大賀見にとって ひまり への恋心は小学校時代から持ち続けてきたもので、その途中で親同士の再婚によって その恋が禁忌のものになってしまった。最初から許されない恋をした訳ではないのだから、どんな手段を取っても未来を模索するべきだ。大賀見も そう思ったから中盤は あれこれ動いていたはずだ。なのに ここにきて諦める方向で動くから、大賀見の ひまり への愛情も矮小化してしまう。
これは作品側の自爆としか言い様がない。なんで わざわざ終盤で2人の愛情の大きさを読者が疑うような展開にしてしまったのか。完全に作者は匙加減を間違えている。
全力を尽くしても上手くいかない恋なら応援したいけど、中途半端としか言えない態度で蛇行を繰り返すだけの2人の様子は もう飽きた。作者も結論を先延ばしにすることに苦心しているのは分かる。それでも この終盤(黒田が当て馬になってから)は無かった方が良かったと思わざるを得ない。前半 面白かった部分を後半の つまらない部分で希釈してしまい、誰かに薦めたり絶対にしない部類の作品になってしまった。
この期に及んで自分で世間体を最優先したのに被害者ぶる ひまり は黒田(くろだ)に慰められる。大賀見は ひまり の気持ちを優先して現状を受け入れているが、一度は母親との暮らしを選択した人とは思えない現状優先で、いかにも作り物めいた別れに見えて仕方がない。
ひまり に大賀見に似たところのある黒田がいるように、大賀見には ひまり に似た年上の後輩バイトの女性が現れる。彼女と急速に接近し、わざわざ家に来るような事態を用意して ひまり の心を荒れさせる。ひまり は いつも自分の決断に後悔するばかりで初期の頃から何も変わっていない。事態は動いているが内容が変わらないから既視感が多すぎる。自分の選択に責任を持てない ひまり ばかりが強調されていく。
大賀見が年上女性と仲良くしていることを知った佐伯(さえき)は お節介を焼いて彼らの経緯を確かめる。それは彼らに距離が出来たことを意味し、佐伯が当て馬に復活しても おかしくない状況なのだけど、彼はカムバックしない。もう3度目だし、その椅子には黒田がいるし。佐伯は ひまり に対しても友人として助言を送る。本来なら ひまり の女友達の役割だろうけど、ひまりさん には恋を相談できるような女友達がいない。


そんな状況の中、関西方面への修学旅行が始まる。大賀見と別行動をすると彼のことを考えなくて済むと思う ひまり だが、土産物店で大賀見が女性用の小物を買っているのを目撃してしまいショックを受ける。再度、現実逃避するために その場から離れる途中で黒田に遭遇する。彼の学校も同じ日程で京都にいた。同じグループの女性たちに懇願されて黒田たちの男性グループと一緒に行動することになった ひまり。世間体と同じく、女友達からの願いは ひまり の行動を決定させる要素である。
黒田のことも避けていた ひまり は気まずさを感じるが、黒田は素直に ひまり から避けられている現状を淋しいと言葉にする。
その夜、別のクラスの男子が ひまり たちの女子生徒部屋に遊びに来て、そこに大賀見も登場する。消灯時間になり見回りの教師を一緒の布団に入って やり過ごすというイベントが発生する。しかし ひまり の期待と裏腹に一緒に隠れた男子生徒は大賀見ではなかった。ひまり は『4巻』の旅行回での大賀見との同衾を思い出し涙する。教師が去った後、ひまり の涙を見た大賀見は男子生徒が ひまり に何かをしたと勘違いして怒りを露わにする。ひまり には それが自分への想いのように思えた。
翌日も黒田たちのグル-プと一緒に京都散策をして、途中で黒田は ひまり とグループを抜け出す。そして仕方なく黒田と行動を共にするが、ひまり は黒田といながら別の男を思い浮かべる。それが分かっていても黒田は ひまり を諦めず…。
