《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

縁あって義姉弟という家族になった2人が、意志を持って新しい家庭を作る

ケダモノ彼氏 13 (マーガレットコミックスDIGITAL)
藍川 さき(あいかわ さき)
ケダモノ彼氏(ケダモノかれし)
第13巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

もう圭太と戻れないかもしれないけどやっぱり好き! と自分の気持ちを再確認したひまりは黒田の告白を断って、圭太を呼び出し想いを伝える。なにがあっても一緒にいると決意した2人は、ついに両親に話すことに…! だけどやっぱり反対されてしまって!? 義姉弟の同居ラブ、完結!!

簡潔完結感想文

  • 作中の時間は ずっと一定で流れているのに進展のないタイムループ作品を読んでる気分。
  • 『8巻』の次は最終『13巻』を読めば全て理解可能。不必要な迂回は ただの遠回り。
  • 最終巻だから正論や読者の気持ちを ぶっちゃけるキャラたち。それ言ったら終わり…。

待たせいたしました、お待たせし過ぎたかもしれません、の 最終13巻。

長すぎた物語も ようやくハッピーエンドを迎える。いきなりネタバレになるけれど、本書のラストがベタな結婚式のシーンになのは、2人が家が別々になっても、長い時間が経過しても、その愛を貫き通したという証明になるからだと思った。親同士の再婚によって義姉弟になった2人だが、自分たち(主に大賀見(おおがみ)が、だけど)で将来で結ばれるための道を模索して それを結婚エンドという形で達成した。そこが良かった。また月2の連載ながら最後まで少しも絵が崩れなかったことは本当に凄い。偏見ですが私は「マーガレット」掲載作品は、作画に割く時間が無くて どんどん顔が溶けていく傾向にあると思っているので、本書の顔面保持力には驚かされた。その分、内容が薄くなっていたような気がしますが…。

特に『8巻』で両想いが達成され、両親への関係性の告白が延期になってからは蛇足としか言いようのないターンが続いた。本書はタイムループ作品ではないが、何度も同じ問題に直面し、しかも問題が改善しない様子に駄作タイムループモノを読ませられている気分になった。

結局『8巻』までに大賀見が提示していた解決策を実行するだけ という展開も、連載を ただ延長していたことを実証していた。しかも その徒労を増幅させるのは、交際に反対していた両親(特に母親)が、2人は血が繋がっていないのだから交際は問題ないと言い出した点だった。そんなの読者の誰もが分かっていたことで、やはり母親に言うか言わないかの問題しか残っていなかったことが強調され、不必要なターンが繰り広げられていたと思い知るばかりだった。この他にも最終回付近だからか各キャラの悪いところ(主に ひまり)が並べられており、作者も思うところがあったのかな、と邪推してしまった。これまでキャラに好き放題させておいて、最終巻だと作中の人物に欠点をチクリと言わせるのは、ちょっとした少女漫画あるある のように思う。

最終回も近いので読者の気持ちを大賀見が代弁する。ここが一番のカタルシスかも!?

『8巻』の次は『13巻』を読んで問題がない。本書に関しては不必要なタイムループから読者が抜け出すために、読み飛ばしのスキップは許される行為だと思う。そういう作品で、そうしたのは作品側だ。以前も書いたけれど、黒田(くろだ)の登場を全て消去した上で、全9巻にまとめるのが本書の最適な長さだと言える。そうすれば作品の、そして嫌悪感しか湧かない ひまり の評価も少し変わっていたはずである。

長編に相応しいだけの終盤が用意できないのであれば作品を長引かせるべきではなかった。おそらく まだまだ駆け出しの作家で権限のない作者は連載の継続に意見を言えなかっただろうから、それを決定した編集部側が責任を持つべきだったのだろう。長引かせるのであれば、それに見合うだけの展開を用意してあげるべきだった。それなのに おそらく当初の予定から変わらない結末を、読者が駆け足だと思うスピードで描いてしまったから肩透かしを食らった気分になってしまった。

作者に責任があるとすれば連載延長期間で2人の恋心に高まりを感じさせることが出来なかった点だろう。大賀見は かなり早い段階で正統派ヒーローとして完成してしまったし、ひまり は一途を維持したものの意志がブレブレ。この最終巻にしてもモノローグで一般的なことを言っているだけで ひまり の言葉ではないように思えた。もうちょっと引っ掛かりのある言葉選びが出来ると また印象も違うのではないか。
この後もコンスタントに作品を発表している作家さんだから(おそらく)今後は問題点が改善しているはずだ。まさか ひまり と同じように成長がない、ということは あるまい。


者による「あとがき」には ひまり がビッチに見えないように配慮したことが書かれていたが、蛇足が始まる『8巻』以後に登場する女性ライバル2人の処理が きちんと描かれないのも一つの配慮なのかと思った。つまり本書は女性が振られる場面がない、という読者への配慮がされているのではないか、という考えだ。

登場した女性ライバルは、遊園地にWデートに行った女子生徒と、大賀見のバイト先の年上女性。この2人は ひまり の心を波立たせるのに必要だったけど、彼女たちが振られるところは描かれない。特に前者は どうして諦めたのかが いまいち不明で、そもそも意味不明なWデートのためだけに描かれたキャラだった。この人に加えて序盤と中盤に登場した大賀見の元カノと同じく、大賀見が自分以外の女性を好きだと思い知って自主的に撤退していく。これは間接的に、ひまり という存在によって誰かが直接的に傷つけられることがないようにする、という配慮でもあるだろう。ひまり は戦わずに、そして逆恨みされずに作品の頂点に立ち続ける。そして大賀見も ひまり と出会ってからは特定の女性と関係を結ばず一途さを貫いている。

最後のバイト先の年上女性も大賀見をハッキリと好きだとは描写されておらず、どちらかと言うと ひまり を忘れたくて大賀見が彼女に甘え、利用した。だから この人に関しては大賀見が関係性を清算するだけで振られるのとは また違う対応のような気がする。


田は自分なら大賀見と同じ状況でも別れを選んだりしない、と気持ちの強さを表明する。しかし この直前に ひまり は大賀見への気持ちを再確認していたため、黒田の一世一代の告白にも少しも揺れない。ここは連載を通して貫かれていた部分で、ひまり は大賀見への気持ちに気づいてからは佐伯(さえき)にも黒田にも寄りかかっていない。だから一途だとは思うのだけど、その大賀見を傷つける最大の加害者となっているのが問題だ。
また大賀見は ひまり の意思を尊重したのであって、気持ちが弱いと判断することは出来ない。むしろ あの場面で大賀見を切り捨てられる ひまり の薄情さが問題なのだと思う。


て馬の最後の告白を断った ひまり は大賀見を鴨川の ほとり に呼び出して話を切り出す。ひまり の想いに対して一度は遅いと切り捨て背を向けた大賀見だったが、キスをして彼女への想いを表現する。この場面、ひまり が何も言わず大賀見にフォローしてもらったら最悪だったが、何とか ひまり の自発的な行動が見えて安堵した。

大賀見は ひまり の自分勝手に合わせて忘れようとしているのに「振り回される俺の気持ち考えたことあんのかよ」とブチ切れるが正論すぎて笑ってしまった。また、ひまり の方も自分から完全に手放した場所に戻る自分の都合の良さを「いつも自分のことばっかり考えて守って 圭太(けいた・大賀見のこと)くんの気持ち 全然 考えてなかった」と反省の弁を述べる。最終回近くに作品やキャラの欠点を正直に列挙して、作者も思うところがあったことを表明しようという試みなのだろうか。一連のひまり の行動は彼女を嫌いになれる十分な根拠だと思うが、交際後の一時的な別離を経て2人の愛はエターナルになる。けどモノローグで感動や愛の特別性を演出しているが、一般的な言葉が並んでいるだけで感動に至らない。ましてや ひまり の恋心なんて読者は信用できない。

ひまり お嬢も自分の欠点を理解し反省しているんで もう責めねぇでやって くれやせんか…

ちなみに ひまり が目撃した大賀見が買った女性物の土産は義母への物だと判明する。また大賀見のバイト先の年上女性のことは ひまり に似た代替品として考えただけで、大賀見は地元に帰った後ちゃんと断るという。もしかしたら黒田に少しも寄りかからなかった ひまり より、ちょっとだけ大賀見の方が気持ちの揺れは大きかったのではないか。


うして ひまり の心境は両想いになった『8巻』のクリスマスの夜に戻り、両親に自分たちの関係を認めてもらおうとする。『8巻』を読んだ後は この『13巻』まで飛ばしても全く問題ないだろう。黒田も既に登場しているし、彼の恋心だけ補填できれば、読み飛ばしは可能である。

両想いになったので、残りの修学旅行の日程を2人で回る。グループの人たちなどに嘘をついて自分だけ幸せを満喫する。こういう ひまり の自己本位なところが読者は嫌いなんだと思うよ☆ 制服で観光すると他者の目が気になるので、着物レンタルをする2人。ひまり のモノローグは陶酔感 丸出しで苦手だ。


学旅行が終わり、帰宅早々、ひまり は ずっと言えなかった自分たちの関係を聞いてもらおうと話し合いの機会を設けてもらう。やっと2人が協力して物事に着手している。

恋愛関係を知らないのは母親だけ。しかし話を聞いた母親は ひまり の恋愛感情を一時の思い込みだと断定し軽視する。この母娘は人の気持ちを軽んじるところが似ているのか。この話で家族関係が崩壊することを恐れてか父親も話を切り上げる。

時間を置いて今度は大賀見が父親に話をするが、真剣さは伝わらない。だが同じ空間で聞いていた母親は、父親に言われたことで ひまり と別れを選び、それでも別れられなかったことを間接的に知る。


じく ひまり も母親と亡き実父のことを聞くことで、母に若き日の恋愛感情を思い出してもらおうとする。実の両親の出会いは中学校。中学2年生から付き合い、そのまま結婚に至った。交際期間が長かったが、大学時代に一度 環境が違うようになり、そこで お互いの大切さを再確認した。その勢いのまま大学卒業と同時に結婚するのだが、その時、母親は親から若すぎること、狭い世界で生きていることを指摘され再考を促された。そこで自分たちの愛情が伝わらない もどかしさを感じた母親は、今 娘に同じ台詞を言ったことに気づかされる。

2人の子供たちは、絶対にダメだと頭ごなしに否定してこない親たちに悩んでいた。親たちは時間の経過が思い込みが解けていくと考えているから長期戦というか自然放置を最善策だとしている。問題に対処できない もどかしさを抱えながら、大賀見は今の家を再度 出ることを考えていた。自分たちに恋愛感情がある限り同居は親の気持ちが休まらない。そういう広い視野を大賀見は持てている。

不安になる ひまり に大賀見は一緒にいるための別離だと言い聞かせる。そして大賀見は再び一緒に暮らすのは自分たちが自活して責任を取れる立場になった時だと考えていた。それは新しい家庭を自分たちが築く時なのだろう。


の後すぐに母親により、子供世代の恋心を親が勝手に決めつけることの反省が述べ、母親は あっさりと2人の交際を認める。ここで親同士の再婚に巻き込まれただけ、という当たり前の理由で母親が2人の関係を許すから、読者の徒労感を増幅させている。

高校生らしい交際を条件に2人は認められる。最初に反対したはずの父親は母親の意向に従うと言い出し、彼の考えは無かったことになる。ちなみに母親は何も気づいていなかったようだ。
大賀見は ひまり の亡き父親を倫理観に据えて、誠実な交際を誓い、すぐに大賀見は再び母親と暮らすことになる。

そして一気に時間が飛び、2人の結婚式のシーンとなる(作者の あとがき によると大学卒業の頃。ひまり の両親と同じタイミングのようだ)。高校時代の友人たちは2人の交際を最後まで知らなかったようだ。ちなみに黒田は結婚式には参列していないが その時の写真が送られている(誰から送られたのか。まさか ひまり のデリカシーゼロ行動ではあるまい…)。イトコへの気持ちを長らく保持していた黒田が ひまり への気持ちを忘れられるのは いつになるのだろうか。少女漫画界の当て馬の呪いでヒロインを好きでい続けなきゃ ならなかったけど、この結婚による完結で佐伯と共に次の恋愛が解禁になったと言えるだろう(佐伯は相手に振られながら恋愛はしていると思うけど)

縁あって一時 義理の家族になった2人は本当の家族になる、ということが描けるので、ベタな結婚式エンドにも意味があると思う。