白石 ユキ(しらいし ユキ)
はにかむハニー
第09巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
甘々たっぷり 誕生日編&修学旅行編。熊谷くん&蜜のバースデーを一気にお祝い▽な・な・なんと…熊谷くんからプロポーズ!? 熊谷くんのバースデーに向けてはりきる蜜だけど、雨に打たれてまさかの発熱! 目覚めた時には、誕生日当日が終わる寸前で…TT だけど心配した熊谷くんが家まで来てくれて…? なにも用意できなかったけど、蜜からの精一杯のプレゼントに熊谷くんは…? さらに誕生日のリベンジに久しぶりのデートに出かけた先で、熊谷くんからのサプライズが!! クライマックス間近▽ 第9巻!
簡潔完結感想文
- 学校イベントを利用する時だけ2人は高校生に戻る。青春も友情も かりそめ。
- 最終学年の前後は1年目にやらなかった誕生回&修学旅行回とイベント尽くし。
- 最後の当て馬は最初の当て馬。しかし最強ではないという中途半端な中王子。
1年目に登場しなかったイベントを急いで詰め込む 9巻。
『9巻』は2人の誕生回と蜜(みつ)の復学や進級、そして修学旅行回と学校に焦点が当てられる。でも どうにもイチャイチャしてたら入れるタイミングを逃したイベントたち、という感じが しなくもない。元々の設定が どうなっているかわからないけど誕生日は年度末に急いで設定したように見えるし、修学旅行も高校2年生中に行くタイミングを逃したから3年生で消化しようという印象を受ける。蜜と熊谷(くまがや)が それぞれの両親に挨拶するのを1巻中に まとめたようにイベントを抱き合わせて単独では弱いエピソードを補強しているのではないか。
そこで思ったのが、これは白泉社作品とは逆だ、ということ。白泉社作品は鈍感ヒロインのせいで恋愛が停滞する最初の1年は季節イベントで乗り切る。学校イベントも含め、その月に起こる出来事でネタを作り、恋愛は絶対に動かさないが、その分 学校生活を楽しく送る様子が描かれ、その中でキャラも自然に増えていく。長い長い日常回を一緒に過ごすことで読者も いつの間にかキャラたちに愛着を抱くようになるという副次的な効果もある。
本書は2年目突入前後に1年目みたいなことを やり出した。『3巻』以降の交際編は長すぎる春になりつつあり、これまで読者を釣っていたエロ描写も打ち止め。早々に恋愛は動いたが これ以上 描くことが無くなり最後の最後に学校イベントに頼り始めた。
でも これまで学校のシーンは多くなく、蜜には大切にしている様子のない友人が一人いるだけ。熊谷のクラス内での立場の変化も描かないまま3年生になりクラス替えが起こってしまった。そんな思い入れのない学校の様子を最後に描いても面白いとは思えなかった。熊谷に友達が出来るって本書の中では大事な転換点なのに、それを しれっと終わらせるところに私は作者と気が合わないと思った。
かつてコミュ障だから天然(という設定)でエロシーンを提供していた熊谷は蜜を大事にすることを決めて暴走しなくなってしまい、キス以上のエロいことを自重しているように見える(そして相変わらず人に見られるスリルを感じる場面だけ蜜にスキンシップをしている)。この熊谷の反応の変化は「俺様ヒーロー」の変化と同じ。最初は乱暴で強引なことをしていた俺様ヒーローは、中盤以降 とても常識人になって最終盤なんて ただの一般人となる。そういう個性が丸くなってヒーローが均質化するのは長編作品の宿命なのだろうか。


本書の欠点は最強のエピソードを中盤に放出してしまったこと、ではないか。
例えば本書で最強の当て馬と言えば渚(なぎさ)なのだが、彼のことを当て馬の中の一人として処理してしまったのは惜しい。例えば最後に渚が出てくれば、蜜の過去や熊谷にも言えない秘密を知る最強の理解者として熊谷を苦しめる最後の刺客になったはずだ。けれど渚の特異な立ち位置を作者本人が理解していないから単純なエピソードとして消化してしまった。最後に、最初の当て馬である中王子(なかおうじ)を持ってくるのも悪くないけど、弱い。せめて これまでのスルーとは違い中王子の告白を蜜が正面から受け止めてくれれば と思う。
そして最強のエピソードであるストーカー編も中盤で消化してしまった。ストーカーは最終盤に登場してもらって、それを2人で乗り越えて(身体的に)結ばれるという展開の方が やっぱり しっくり来たのではないか。少女漫画で大切なトラウマ問題を終えてしまった交際模様は、消化試合に見える。
連載の先行きが保証されていないから、という理由もあるだろうが、どうしてもトランプにおいて最強の手札から出していったら後半がジリ貧になった負け戦になっていないだろうか。
そして蜜の描き方にも不満を覚える。前半は もっと蜜が熊谷をコントロールする場面があって主導権を握る場面もあったのに、いつの間にかに蜜は熊谷に甘えるだけの存在に成り果てている。熊谷が成長したのかもしれないが、蜜だけは現状維持に見える。序盤はストーカーに負けない心身の強さを目指していたからクラスでの孤立にも負けない、という健気さが見られたが、恋愛脳が発動し、彼以外はいらないという悪い無敵感が出てしまい、クラスメイトとの交流を断ってしまった。そもそも蜜はクラス内で女子生徒に目を付けられていたことを悩んでいるだけで友達が出来ないことに悩んでいない。結局 熊谷とクラスが別になったことしか落ち込んでいないのだ。
特にストーカー事件前後からヒロインは他者の都合に巻き込まれるのが お仕事、という感じで話を進めている印象を受ける。その時(『6巻』)でも書いたが、ストーカーに対して蜜の成長を見せる場面が欲しかった。それ以降の蜜は辛い状況ではあるが、自分で何かを突破しようという気概が見られない。ヒロインの成長が止まってしまって見えるのも中盤以降の作品の盛り上がらなさの原因なのではないだろうか。
バレンタイン後に初めて蜜は3学期の登校をする。会えない日々の中で熊谷の甘えは加速しているのだが、蜜は切実な現実に直面する。それが補習。ここまで休学扱いになっていた蜜だが進級するためには補習を受ける必要がある。また2人は会えない時を過ごす。
それでも蜜は3月3日の熊谷の誕生日を目標に補習を乗り切る。だが誕生日が2日後に迫ってもプレゼント選びが難航。しかも突然の冷たい雨に打たれ蜜は風邪を引いて倒れてしまう。父親の体調不良の次は蜜。蜜の風邪回は『2巻』で見た。そもそも蜜は これまでバイトをしていて傘代の100円を節約するほど困窮しているとは思えない。
蜜が目を覚ますと丸一日以上寝ていて熊谷の誕生日は あと1時間強しか残されていなかった。誕生日を上手く演出できなかったから熊谷に失望されたと落ち込み連絡が取れない。まず謝ろうか、と自己憐憫に喝を入れたい。


その落ち込みを回復してくれるのが当然 熊谷。蜜はマスクをして熊谷に対応しているが、雨に打たれた風邪なら彼女の言うようなウィルスは あまり関係ないだろう。せめて熊谷の誕生日の記念にと、蜜は肩たたき券や弁当作り券などを熊谷に奉仕する内容を書いたチケットを贈る。空欄の1枚は熊谷が「なんでも言うことを聞く券」となる。
続いての4月1日は蜜の誕生日(作中で一度も言及していないから彼らの誕生日を後半にまとめてしまおう ということなのか)。
この日は久しぶりのデートとなる(『7巻』のクリスマス遊園地デート依頼か?)。季節に合わせて お花見デートを楽しむ2人。
街中で2人はシルバーアクセ教室を見かけ参加して、蜜の提案で お互い自分の作ったアクセを相手への誕生日プレゼントにすることになる。初めての体験で売り物と見まがうほどの指輪を作る2人。作家の熊谷はともかく蜜は それほど器用ではないという設定ではないのか。この指輪は2人のプロポーズごっこに必要で、そのために登場させたようだ。
アクセサリといえば父親に破壊されたクリスマスプレゼントののネックレスは この蜜の誕生日から蜜の首元に復活している(それ以前は ない、はず)。
高校3年生に進級した2人だがクラスが分かれてしまう。プチ遠距離恋愛の後にクラスが分かれたから なんだ、という話で精一杯 蜜を不安にさせているが、カードの切り方が下手でジリ貧な展開にしか見えない。
蜜は中王子(なかおうじ)と同じクラスで彼から ちょっかいを かけられているため、女子生徒から反感を買ってしまう。その孤立も熊谷が癒やしてくれる。相変わらず公園や学校内など人に見られそうな場面の方が熊谷は積極的にキスをしているように見える。
2年生の時に やらなかったからか、3年生で修学旅行回が始まる。この修学旅行の前後は、中王子が蜜の邪魔をするという役を担う。どうやら1年ぶりの当て馬復活らしい。
また蜜と熊谷、それぞれに新しいクラスでの友達が出来るが、残り少ない作品にとって必要な登場だったのか微妙なところ。新しい友達は何もしない蜜に代わって蜜の願いを叶えるために存在する。いよいよ蜜は自分では何もしなくなったなぁ…。
修学旅行先は沖縄で、海で遊ぶための水着を選ぶ。蜜の水着姿を男性客に見られたくなくて熊谷は自分も更衣室に入る。そこで蜜の髪の毛が熊谷の制服のボタンに絡まってしまい2人は密着状態、というのが わざとらしい胸キュン場面(前も髪の毛が絡んで、ってなかった?)。ただ人の視線をカットするために入った更衣室なので、人に見られるのが大好きな熊谷は更衣室では何もしない。
そして修学旅行本番。蜜は中王子の過剰な干渉によって熊谷と一緒に居ることが出来ない。しかも中王子に声を掛け続けられる蜜を、女子生徒たちが逆恨みする。蜜にエビ(甲殻類?)アレルギーが あると知った女子生徒たちは、蜜を呼び出し、材料にエビが使われていることを知らせずに お菓子を食べさせようとする。それを寸前のところで熊谷が発見し、蜜に彼女たちの悪意を伝えずに、眼光一つで退散させる。
アレルギー症状を甘く見た嫌な展開である。作中で注意喚起をして欲しいと思っていたところに、中王子が騒動を聞いて、彼女たちに注意と警告をする。こうして中王子もまたヒーローになり、再度 彼に当て馬フラグが成立する。