《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

綿菓子並にフワフワしているヒロインが たった1日で固めた将来像はマシュマロ並

はにかむハニー(10) (フラワーコミックス)
白石 ユキ(しらいし ユキ)
はにかむハニー
第10巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

殿堂入りカップルの恋、最高ハッピーに完結。蜜と熊谷くんの将来の夢…そして、2人の未来へ―! 波乱の修学旅行後編! 蜜と熊谷くんがカヤック体験で転覆!? 休憩ポイントの木陰では、水着姿での密着に…(////) そして物語は2人の将来の話に…。進路に悩む蜜だけど、熊谷くんの実家の動物病院のお手伝いを始めたことで自分のやりたいことに気がついて…? 受験に向けてなかなか会えない日々が続いた中、奇跡が起こって…▽2人の結末を見届けて!

簡潔完結感想文

  • 名ばかりの友達に恩返しすることなく自分だけ楽しんだ修学旅行。中王子は??
  • これまで勉強してこなかったヒロインが挑む大学受験。それ本当に自分の夢??
  • 交際を認めてないまま父親が同棲を容認。色々と卒業しないのでカタルシスなし。

遠に熊谷くんにイタズラされちゃう私! の 最終10巻。

まず思うのが修学旅行編いる?? ということ。高校最大の学校イベントを消化したかったのかもしれないけど、進路のことなど山積みの最終盤に当て馬を中途半端に復活させて、蜜(みつ)に都合のいいばかりの友達を登場させているだけ。修学旅行編で伝わってきたのは、蜜は周囲の事情に巻き込まれる一方で、周囲に助けられて生きているという彼女の自発的な行動の無さだった。序盤以外は蜜に動きが見られなかったのが非常に残念。

蜜が高校生活に何の思い入れもないのは明白で彼女は最愛の熊谷(くまがや)が居れば それでいい。しかも修学旅行は描き、卒業式は描かない。修学旅行後は急に進路の話になり、慌ただしく進路が発表され、そして いつの間にかに次のステージに進む。卒業式を描かず色々なことに区切りが付かないままなのが読者として心残りになる(後述)。
せめて蜜が修学旅行で友達から受けた施しを返す場面を描いて欲しかった。それもないまま蜜が恩恵だけ受けるから ただ周囲に守られるだけの存在で終わってしまっている。高校卒業したら絶対 この友達と連絡を取らないだろうなぁという感じを受ける本当に薄い友情をありがとう!

また熊谷の学校生活も高校3年生では問題が無いように描かれるが、2年時のクラスメイトが彼を本当に理解したかは不明のまま。周囲が熊谷への偏見や誤解を解くチャンスは何回かあったと思うが、それを描かないまま2人の物語に没入していく。世界が広がらなかった。

これ以降、作中で蜜が その友達たちに会うシーンは皆無。熊谷の言葉が虚しい

残り その1:熊谷と蜜の父親の関係性が改善しないまま
熊谷は蜜の父親に自分の存在を認めてもらおうと正月に蜜の実家に向かったが(『7巻』)、父親が過労と病気になり熊谷が話をする機会は持てないまま。このまま父親の自滅という形で蜜は熊谷との交際に戻るのだが、男性同士の関係性は改善していない。

熊谷が自分を認めてもらうまで頑張るターンなのに、その活躍は空振りに終わる。それなのにラストで同棲を実現するために熊谷は父親を説得しているという既成事実だけが語られていてモヤモヤする。熊谷が父親に手紙を送り続けたとか、遠距離恋愛中に蜜に内緒で父と接触していたとか、あの入院直後に決着が付いていれば こんな気持ちにはならなかった。なぜ放置したのか、作者のセンスを疑う。


残り その2:「するする詐欺」が詐欺で終わる
最終『10巻』になって蜜が急に性行為に躊躇し始めたと思ったら、純潔が同棲の実現な条件になったからだと分かり、悪い意味で腑に落ちた。かなり早い段階で熊谷は ただのエロキャラで性欲を剥き出しにしていたし、蜜は淫らな夢を見たりして準備万端。なのに最終巻になっても「完遂」しないことに不満を覚える。

上述の卒業式もそうだが一つの到達点として存在する性行為なのに、散々 それを匂わせておいて達成しないから中途半端な印象を受ける。いわゆる同居モノ作品では高校生の内の性行為禁止が出されるのは まだ分かる。だが連載中は違ったが、2025年の読書時には成人年齢に達している年齢である彼らの性行為を親族が禁止するのは無理がある。それなら同棲そのものを認めなければいい。しかも2人がルールを貞操を守らなさそう、という印象を受ける終わり方で色々とモヤモヤする。

これまで性行為に至るタイミングは 幾らでもあったのに結局しない。エロで釣っていた作品が真面目ぶるんじゃねーデスよ、と言いたい。これは蜜をいつまでも清純で幼稚に描きたいという願望からなのだろうか。最後まで、したいけど出来ない という蜜の巻き込まれ型ヒロインを体現するための理不尽なルールのように思えてならない。


残り その3:中王子(なかおうじ)をはじめとした当て馬のの恋心
これは修学旅行編不要論と ほぼ同じ。最初の当て馬を最後の当て馬にするのかと思ったが、中王子は邪魔こそすれど告白はしない。本当に何のために再登場したのかが分からない人で、ちょっとした波風起こしマシンとしてだけ利用される。

中王子も含めて本書には3人の当て馬が登場したが結局 誰一人 蜜に告白する人はいなかった。全員サイレント失恋をして その上、蜜のことを大事に想い続ける。ヒロインの気持ちを濁らせないのが最近の風潮なのかもしれないが、それなら当て馬からモテるというイベントを割愛すればいい。モテる、という読者の承認欲求を満たすための現象は欲しいが、振る、という勿体ないことはしたくない。だから当て馬には告白する機会すら与えない。特に中王子は素直になれないイジメっ子体質の可愛げのある人なのに、蜜にとっては意地悪な義母みたいな存在でしかない。もうちょっと中王子に人権を与えてやっても良いのではないか。

以上 3つの気になる点を挙げてきたけれど、本書には区切りがない という共通点が浮かび上がってきた。両家の親族に認められて婚約状態になる区切りもないし、高校を卒業した区切りもない。性行為まで無事に終えたという到達点もないし、当て馬は頑張ることも許されない。

作品に初期の天然エロシチュエーションが受けたけれど、長編としての大きな視野や狙いはなく、だらだらと全10巻まで到達した作品、というのが私の感想です。


が苦手な中王子(なかおうじ)によって、クラスが違う熊谷と一緒に参加するはずのアクティビティがダメになった蜜。だが数少ない女友達が中王子を排除したり、蜜にアクティビティの参加権を譲ってくれたりする。他者の事情に巻き込まれ、他者に助けられる。さすが少女漫画ヒロインである。
権利を譲って貰って存分に満喫してから自分が幸せなことに罪悪感を覚える蜜。そういう配慮や考えに瞬時に至らないのが自己中心的と言えよう。上述の通り、せめて蜜が友達に お礼を言うシーンぐらい欲しいところ。


学旅行が終わると高校3年生は受験生と呼ばれる立場となる。これまで試験勉強シーンや成績に関わる描写が一切ないのに本書も2人に進路を考えさせる。

蜜は夢がいっぱいあり過ぎて一つに絞り切れない。未だに小学生並みに なんにでもなれると思っているようだ。そんな自分を蜜は綿菓子だと喩える。

熊谷はハンドメイド作家として活動するかと思いきや獣医大学を受験する予定。両親が動物病院を経営しているので それを手伝いたいという。作家としての活動は それに並行する形で継続する予定。
ある日、熊谷は動物病院の手伝いをする予定だったが体調を崩してしまう。それを知った蜜は熊谷の代行として病院の雑務を手伝うことになる。ここで熊谷の母親の獣医の仕事を間近に接して蜜は夢を持つのだが、全ての病気や怪我を治せるわけではないという現実を見させることを基点にしているのが良かった。ただ ゆるふわ の蜜に生物と向き合うことが出来るかは怪しいところ。

この時の母親との会話で蜜は、熊谷が親の願望に合わせる形で将来を決めていることを知る。そして彼の部屋から獣医学部受験の参考書の他に教育学部の大学案内を発見する。熊谷は保育士という夢も抱えていた。子供に怖がられて不向きな職業だと分かっているが、『1巻』の保育園での活動を通して、自分の好きな分野とのマッチングを感じたらしい。作中の行動の中から夢を決めるのはヒロインの役割だが、本書では それは熊谷側のパターンとなる。さすが男ヒロインだ。

その話を聞いた蜜は尻込みする熊谷を応援する。そして彼の気掛かりである親を助けるための獣医への道は蜜が引き継ぐ。熊谷の母親に相談して その日のうちに その気になったようだ。熊谷は1年以上時間をかけて夢を固めたというのに、蜜は たった1日の雑務と雑談で即断即決する(浅はかとも言う)。
蜜に得意分野はなく、唯一 趣味として描かれていたハンドメイドも技術は熊谷の足元にも及ばない。だから作中に夢のヒントはなく、急ごしらえで夢を捏造する。たった1日で意見を固めているが、これも綿菓子並の薄弱な意思に見える。

蜜はヒロインに ありがちなバカ属性を付与されていないので学力は操作可能。セーフ

路が決まり、受験勉強一色になり早くも年が明ける。
熊谷に連絡を取るのも気が引ける蜜は気分転換に外出する。そこで やっていた設定が一切ないSNSを久々に更新すると即座に、これまでの登場人物たちが反応してくれる(同級生たちも受験生だろうに…)。既存の登場人物を登場させるためだけのSNSだ。

蜜のいる場所に熊谷が現れるのはSNSを見たから かと思ったが ただの偶然。蜜は彼に甘えてしまいそうになるのを自制するが、熊谷は『9巻』の誕生日プレゼントとして渡した願いを叶えるチケットを使って「少しの間 俺に甘えること」と蜜に命令を下す。最終回までに忘れずにチケットを使ったのは良かったが、こんな内容で いいのだろうか。それこそ結婚とか何も書かれていないチケットだからこそ無限の夢を叶えるために使ってもいいのに。番外編のアクセサリといい小道具の使い方が上手いとは思えない。

この場所は『1巻』2話で蜜が熊谷との距離を縮めた場所。そこから連載は長い期間を経て、もう一度 ここに戻ってくるという構成は良い。2人も自分たちの関係が大きく変わり、かけがえのない存在になったことを再確認する。


情をフルチャージして2人は それぞれ大学受験に向かう。違う大学を受験しているが、そのことに関する逡巡や不安は割愛される。

結果は2人とも無事合格。この日、蜜は新作のハンドメイド作品を熊谷から合格祝いとして貰っているが、蜜は こういう恋人特権の横流しは好きじゃなかったような気がするのだけど。他の人と同じく正規品を購入することが蜜の推し活ではなかったのか。

蜜の大学の合格発表の日、熊谷は あるマンションの一室に蜜を連れていく。そこは春から熊谷が住む部屋。合格してすぐに契約したのだろう。そして熊谷は蜜が新しい住まいを決める前に この部屋を見せたかった。なぜなら熊谷は この部屋に蜜と一緒に住もうと考えていたから。熊谷は親族反対派の蜜の父親とイトコのマキには先に根回しをしていた。

春からは違う大学に通うため会える時間が減ってしまう。だから少しでも同じ時間を過ごすための場所が必要だと熊谷は考えていた。それを達成する条件が「大学卒業するまでは清く正しい おつき合いを」すること。2人は貞操を守れば何をしてもいいとスキンシップに興じる。少女漫画らしく一気に結婚式シーンには飛ばず、性行為禁止の同棲で物語は終わる。

「番外編 1」…
誕生日プレゼントとして交換したハンドメイドの指輪を巡るエピソード。そういえば本書ではネックレスと指輪が登場したが、本編では登場以来それに言及していない。少女漫画においてアクセサリは愛の象徴で、壊れたり紛失したりすると連動して恋愛に波乱が起きる。けれど本書ではプレゼントされた その日の内に父親にネックレスを破壊されたぐらいで、蜜が それらを大事に撫でたりする場面は皆無と言っていい。意外と淡白な人なのかもしれない。

「番外編 2」…
お題:チョコフォンデュでエロくして下さい。

「番外編 3」…
熊谷が蜜と出会うまでを描くエピソードゼロ。なぜ熊谷は蜜に「森のくまさん」のように勇気を出して話し掛けたのか、という動機が補強される。初出は連載開始直後なのに収録は最終巻。ページ数の関係なのだろうが、この後回しはガッカリ。せめて序盤の巻に収録してくれればいいのに。