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少女漫画と小説の感想ブログです

正月休みに自宅で寛いでいたら「過労」で倒れる父親は、最強最低の溺愛者

はにかむハニー(8) (フラワーコミックス)
白石 ユキ(しらいし ユキ)
はにかむハニー
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

離れた距離の分、あふれる「大好き」! 蜜パパの入院にともない、しばらく実家に滞在することになった蜜。プチ遠恋状態になってしまった2人だけど、ビデオ通話でプチリモート同棲をしてラブラブ健在! 不安な気持ちを押し殺していた蜜だったけど、離れていても熊谷くんはしっかり気付いて「どんな時でも俺がいるって忘れないで」と言ってくれて…。そんな時、蜜の地元の友達が熊谷くんに宣戦布告! 思わず熊谷くんは新幹線に飛び乗って―!? プチ遠恋からサプライズバレンタインまで▽ 読みごたえたっぷり第8巻!

簡潔完結感想文

  • 試練の遠距離恋愛、ではなく、遠恋での胸キュンエピソード集を紹介してるだけ。
  • 当て馬の性別詐称、蜜に想いは秘密のまま、など親族反対という再放送中の再放送。
  • 2人ともヤル気まんまん なんだけど なぜか しない。せめて その理由を描いてよ…。

気をネタにする患者本人と作者、 8巻。

『8巻』は遠距離恋愛編。交際相手である蜜(みつ)の親族の反対と家族問題に干渉しようとする熊谷(くまがや)は やっぱり男ヒロインと言っていい。
少女漫画のクライマックスと言えば相手の家族問題または遠距離恋愛危機 と相場が決まっているが本書の場合は それが同時に到来する。これぞ最終回直前のネタだと思うが、この問題解決の後もダラダラと作品は続く。肝心の遠距離恋愛シーンも、どこかから引っ張り出してきた、辛い遠距離恋愛中に愛を感じた瞬間のエピソードを 寄せ集めただけに見えた。蜜や熊谷ならではの物語の描写、というのが少ないように思う。

勢いで突っ走るのがSho-Comi作品だけど、病気をネタのために消化する内容に違和感

どうして ここが最終回ではないのか、どうして2人は性行為に至らないのか。目的地が不明のままの作品は この2つの疑問を残したまま。前者は まだ分かる。『8巻』で2人は高校2年生の2月を迎えており、連載が好評のため このまま高校時代を描き切ろうということなのだろう。もし2人の設定が高校1年生なら もしかしたら この辺での幕引きが考えられたかもしれない。

問題は後者である。今回のラストで遠距離恋愛が終わり、2人は互いに触れられる喜びを改めて知る。しかも日付はバレンタインデー。恋人たちが結ばれるに格好の日であるが、本書は その展開を選ばない。こういう時の理由としてヒロインの覚悟が整わないからが挙げられるが、本書の場合は それはない。蜜はエロい夢を見て自分が熊谷と結ばれたい欲求を抱えていることを自覚している。
これまでも邪魔者が出てくるから「未遂」に終わっていたのだから、邪魔者が出ない限り、しない理由はない。なのに しない。もし しないのであれば明確な理由が欲しい。例えば今回なら熊谷は まだ蜜の父親から交際を認めてもらっていないので、その中途半端な自分では蜜に手を出せない、という熊谷の誠実さを表すことは出来るだろう。でも そういう理由すら作品は作ってくれない。
作品にとって奥の手だから まだ そのカードを切りたくないのが本音で、その理由だけで本書は しない。


距離恋愛のキッカケとなった父親の病気の使い方も首を傾げるものだった。
今回のタイトルにもしたけど、正月休みに過労で倒れる、という意味不明な始まりから、いきなり父親の体内に腫瘍を こさえる唐突な展開となる。遠距離恋愛にするために父親に病気になってもらうが、病状は重すぎないように調整する。大事なのは先が見えないこと、という作為が透け透けである。

蜜が遠距離恋愛を終える理由も最低で、父親は蜜と離れたくないがために演技をして蜜の関心を買おうとしていた。病気を心配する蜜の真摯な気持ちを利用した最低の手段で、世界で最も許されない演技だろう。これは父親に嫌われながらも ずっと蜜と父親の間を取り持とうとしていた熊谷も呆れる行動だろう。蜜も本当に父親のことを嫌いになっても おかしくないのだが、それまでの父親への反発心はどこへやら、この件は後を引かない。

作品も父親も1か月以上の遠距離恋愛を達成したら、病気を作品のネタとして利用するという最低の振る舞いをした。こういう善悪や倫理を考えられない作品を私は好きにならない。せめて蜜は父親と絶交寸前になり、焦った父親が2人の交際を許すなど罪に対する罰や償いがあるべきだ。しかし本書は父親の軽いイタズラとして処理される。

そもそも蜜の親族の反対、というのがイトコのマキと同じ状況なのに、その再放送の中に当て馬という再放送が始まった時には絶望を覚えた。今回の当て馬に性別以外の新しい部分はない。しかも また蜜には その人の恋心は伝わらないまま恋のライバルたちが静かに火花を散らす、という『5巻』の渚(なぎさ)で見たパターンで終わる。ヒロインに優しいだけの世界になった本書は面白さが激減している。
熊谷が男ヒロインになっているけど、蜜がヒロインとして成長しているのかが描けていない。


事の無理が祟って過労で倒れて入院した父親は、今回の入院で以前 検診で見つかった腫瘍を取ることになった。蜜は父親の病状にショックを受け動揺するが、父親は娘の心配を軽減させてくれる。男性たちに支えられて蜜がある。
けど正月休みに家で休んでいた父親が過労、というのは話に無理がある。腫瘍(病気)を重いものにしたくない、でも入院させたいという作為が見えすぎている。

父の病院に母親も付き添うことになり、実家で夜を過ごす2人。そこで蜜は熊谷に、父親に寄り添いたいという意思を告げる。手術は1か月以内を予定しており、腫瘍が悪性だった場合、治療が長引くかもしれない。父親の病状によっては蜜は転校を選ぶかもしれない、という。
この蜜の決断も熊谷は応援する。相手の親族問題に対処している期間は無敵なんて、やっぱり熊谷は男ヒロインである。同時に熊谷は大人のように すぐに割り切れない自分を自覚しており、駅で別れるまで蜜を抱きしめ続ける。そして やっぱり邪魔する者がいないと「するする詐欺」は始まらない。


遠距離恋愛が始まる。作中でも言及しているが、以前も熊谷と1か月ぐらい会えない日々があったけど(『4巻』の武術修行の時か?)、今回は先が見えない取り敢えず1か月の遠恋、という状況が違うらしい。蜜が違うと思うのだから違うのだ。でも、どっかから仕入れた遠距離恋愛における胸キュンエピソードを蜜と熊谷がお送りする、という再現ドラマのような感覚になる。キャラと読者を喜ばすシーンとの間に隙間がある。

蜜の実家暮らしで現れるのが新しい当て馬・才原 樹(さいはら いつき)。樹はイケメンに見える女性。でも樹は蜜を友達以上に想っているようで、蜜の彼氏である熊谷の存在に反対だし、蜜を存分に甘えさせてあげる。
樹が男性だと知らない熊谷は、偶然 蜜が お酒を誤飲してしまい、偶然 繋がっているビデオ通話で女性同士のイチャつきを勘違いする。だから熊谷は学校終了後、新幹線に乗り込み、樹から蜜を守ろうと独占欲を爆発させる。

熊谷が その人の蜜に向ける特別な視線で恋心に気づくエピソード丸々 渚で見たヤツ

樹は熊谷に、蜜のことを信じられないから起こした行動だと嫌味を言う。そこから蜜を お姫様にする2人の静かなバトルが始まる。熊谷は樹の、蜜への友達以上の感情に気づいていた。うーん、当て馬登場も、蜜のことを密かに想うことに熊谷が気づくのも『5巻』の渚(なぎさ)で見たなぁ。

熊谷が ここに来たのは樹の友達という関係に隠れたセクハラを卑怯だと感じたから。樹は自分を誤魔化そうとしても、熊谷にとって樹は完全にライバルなのだ。そうやって同じ土俵に立たせる熊谷の公明正大さが心地良い。こうして今回も蜜が自覚しないまま恋のライバル同士の戦いは終息する。


始から入院していた父親は、バレンタイン前には自宅に帰っていた。だが病気は大事に至らず順調な経過を見せる父親は浮かない様子。父親のことが心配で蜜は、バレンタインに直接 熊谷にチョコを渡すつもりの予定をキャンセルする。
熊谷は蜜から配達されるチョコを楽しみにしていたが、当日、蜜がサプライズで現れる。父親は自分が元気がないと蜜が ずっと傍に居てくれると思って演技をしていたのだ。熊谷を頭ごなしに反対するとか、病気や娘の心配を自己の利益に誘導するとか最低な人間である。作中で、やっぱり父親は父親という蜜の見えていなかった部分で株を上げていたのに台無しだ。

こうしてプチ遠距離恋愛は終了する。ここからは久々の するする詐欺。遠恋が終了し、蜜の心の準備や欲求も整っており、何の問題もないけど、なぜか しない。これで少なくとも3回目。今回は邪魔者が入らないが、年始から続いていた蜜の緊張が熊谷の存在により解け、情緒が不安定になり泣いてしまい、プラトニックに抱きしめ合うだけで終わる。

「番外編」…
実は身長差カップルな2人だが、本書は それを前面に押し出していない。この番外編では身長差のあるカップルの苦労とイチャラブを見せている。