
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
冷酷非情の『狼陛下』珀黎翔の臨時花嫁役となった夕鈴の前に、正妃の第一候補・氾紅珠が現れる。家柄、容姿、教養と、妃としての完璧な条件を備えた紅珠は、陛下に憧れ急接近する。可憐な美少女・紅珠に対する陛下の態度に複雑な感情を抱く夕鈴は、思いの丈を陛下に——。
簡潔完結感想文
- 夫と意見が分かれると自説に拘る お嫁さんは騙されたことに気づかない間抜け。
- ライバルキャラっぽい人も そのヒロイン力で魅了すれば、ほら皆 お友達だよ☆
- 里帰りで夕鈴を大切に思う2人の男性が火花を散らす。無自覚ヒロインは蚊帳の外。
2つの三角関係が見え隠れする 3巻。
新キャラを続々と投入して作品の幅を広げる試みが続く。巻き込まれ型ヒロインの夕鈴(ゆうりん)だから、またも少々性格が強引な人たちが集まって、彼らの思惑に踊らされる。その踊る様子も陛下には可愛く思えるようだ。
この『3巻』では初めて「お出掛け回」がある。これは今後も作品がワンパターンになりそうな時に発生するイベントで、作中で場所が移動することで物語に新鮮な空気が送り込まれる。当然、新しい土地には新しいキャラも登場するので、マンネリは一層 解消されていく。夕鈴たち2人の関係が代わり映えしないから、新キャラやイベントに頼るのは白泉社の伝統的な序盤の技法と言えよう。
そして おそらく『3巻』を読んだ時点の内容と感想が全19巻の全てだろう。この後は新キャラゲストが王宮に来るか、または お出掛け回で別の場所に赴くかの繰り返し。ここまで読んで面白かった人の期待に作品は ちゃんと応えてくれるし、ここまで読んで味気なかった人には これ以上 深みは感じられないと思われる。
少女漫画の『3巻』と言えば三角関係の『3巻』だと私は勝手に思っているけれど、本書では2つの三角関係が成立しかけるが、結局 成立しないのが溺愛モノの本書らしい構成である。基本的に本書は夕鈴に優しいので、『3巻』で夕鈴が老獪な策略にハマったことは彼女は気がつかないし、三角関係も誤解だったり、夕鈴が無自覚のまま終わったりと彼女の前で誰かが悲しむようなことはない。
それは作品が夕鈴に甘いというよりも、作者が読者に優しい物語を心掛けているからだろう。本書は三角関係もトラウマも深く足を踏み入れない。ちょっと その雰囲気を味わう程度にして、基本的には それぞれにマイペースな夫婦のスイートな日常が繰り広げられる。だから内容なんて なくてもいいのだ…。


三角関係の1つ目が初の女性キャラ・紅珠(こうじゅ)によって、陛下を巡る女2男1の三角関係となる。通常ならライバルキャラの出現によって鈍感ヒロインが自分の恋心の輪郭に気づくという話の流れになるが、バイト妃という特殊な立場ゆえに恋愛フラグを全て自分で相殺するような夕鈴だから何も進展しない。作者としては恋愛感情の自覚は引っ張るだけ引っ張りたいのだろう。
だから女性ライバルに対しても、陛下の意向を伝えて諦めさせようとするだけで、そこに自分の意見や願望を滲ませない。そして年下の紅珠をピンチから助けることによって、夕鈴自身がヒーローになり、彼女から頼れる お姉様として慕われる。こうして1つ目の三角関係は成立しそうで成立しない。
2つ目は夕鈴とは幼なじみの間柄である男性・几鍔(きがく)との女1男2の三角関係。どちらかと言えば読者が望んでいるのは こちらの三角関係だろう。特に夕鈴が無自覚のまま2人の素敵な男性が彼女を大事に思っているというパートは少女漫画を読む楽しみの一つ。この三角関係の顛末は次巻に持ち越しなのだけど、ネタバレすると自然消滅していく。これもまた夕鈴や読者の気持ちを濁らせないためだろう。
このように三角関係における後腐れや負の感情を発生させずに上手く処理しているからこそ本書は どこを切り取っても面白く、同時に どこを切り取っても金太郎飴みたいに同じ内容が続いていく。どちらの感想が重視されるからは読者次第。
狼陛下が花嫁を寵愛していることが知れ渡り、王宮内での夕鈴の利用価値が上がり、今度は夕鈴に刺客ではなく貢ぎ物が送り込まれる。貢ぎ物を現金換算するものの、思い上がったり。、贅沢に固執しないのが夕鈴の良いところなのだろう。
態度を変えた代表格が名門・氾(はん)家。『1巻』で次々に刺客の内、一つは氾家の関係者によるもの。
そして これまで通り、固有キャラと夕鈴も個人的な接点を持つことになる。しかし堅物の人物を想像していた夕鈴の予想は裏切られ、氾大臣は毒気を抜かれるような雰囲気。人物像に手のひらを返すのは夕鈴も同じで警戒心は霧散し、好感を抱く。
だが それが「夫婦」の間で氾大臣に対する評価の違いとなり、陛下から見れば夕鈴は懐柔されてしまったと考える。夕鈴は氾大臣から陛下が臣下に心を開けない人間だと聞かされたため、陛下のそのような態度が悲しく思える。
陛下と意見が違うことが露呈すると、自説に拘るのが夕鈴。それを証明しようとして またもトラブルに巻き込まれる。そのトラブルから夕鈴を身を挺して守ったのが氾大臣で、人を見極める力は夕鈴に軍配が上がったかに思われた。最後に夕鈴は氾大臣と陛下が似ていると評するが、だからこそ陛下は氾大臣が信用ならない。そして実際は氾大臣の自作自演であることが判明し、夕鈴は人が良いだけで人を見る目がないことが判明した。
続いても氾家から新キャラが登場して、夕鈴を足掛かりに陛下の信頼を得ようとする氾大臣は娘の紅珠(こうじゅ)を、まずは妃の友人にしようと送り込んできた。この紅珠は正妃候補の一人。夕鈴を使って、陛下の寵愛を娘にスライドさせようという魂胆もあるのだろう。
夕鈴は紅珠の外見に見惚れてしまい、またもペースを氾家側に握られる。でも初の女性キャラだが陛下の心は揺るがない。
揺れるのは夕鈴の心。妃としての素養が申し分ない紅珠に対し、庶民に近い自分のバイトの身分を思い知らされる。そして陛下と紅珠の仲を誤解して逃亡するが、陛下は紅珠よりも夕鈴を優先することで決着が付く。
それでも夕鈴は紅珠が陛下に興味を強く示していることを知り心配は絶えない。そんな紅珠にも優しく手を差し伸べようとする夕鈴と、紅珠の登場の裏には氾家の思惑があると考えている陛下の間に またも意見の対立が起きる。
ただ陛下が氾家側を拒絶する意思は夕鈴にも分かるので、彼女は紅珠に陛下との謁見は難しいことを伝え、紅珠に諦めてもらおうとする。その押し問答の中で夕鈴は川に落ち、溺れかけるが、そこにヒーローが登場し彼女を救出する。どうやら気になって様子を見に来たらしいが、陛下は それほど暇な人ではないだろうに…。
陛下は紅珠を叱責しようとするが、夕鈴は自分の責任だと彼の矛を収めさせる。こうして外見や家柄ではなく人柄で紅珠を圧倒した夕鈴、という お手本のような展開となる。そして後腐れを残さないためにも14歳と まだ若い紅珠は陛下に本気に惚れたのではなく、自分が欲した物を全て手に入れる、という お嬢様育ち故の欲深さが原因ということで処理される。だから最後には紅珠の興味は夕鈴 > 陛下となり、本当に友人ポジションに落ち着く。
バイト妃に任命されてから初めて夕鈴に休暇が出され、里帰りをするところに陛下がお忍びで同行する。
これまでの王宮という陛下側のフィールドから下町という夕鈴のフィールドで話が展開して、夕鈴の人となりを陛下が知るターンになっている。ただし夕鈴は妃バイトではなく、下女として王宮に入っているという設定で、陛下は上司役。まるで一般市民のデートのような半日を過ごす。
夕鈴の家族に挨拶することで、少女漫画的には婚約が成立する かと思いきや、家の中から出てきたのは弟の青慎(せいしん)と幼なじみの商人の息子・几鍔(きがく)だった。夕鈴の父親は更なる借金によって逃亡したという。これは おそらく下級とはいえ役人の父親は陛下の顔を知らない訳がなく、陛下の登場で話が大混乱するからだろう。まだまだ そのターンではないのだ。


女性ライバルの次は当て馬っぽい人の登場である。
几鍔に弱みを見せたくない夕鈴だが、陛下は あまり空気を読まないから、夕鈴は王宮内と同じぐらい気を揉むことになる。やはり男女が一緒に里帰りすることに意味が出てしまうのだ。
そして夕鈴は無自覚だが、陛下は几鍔の夕鈴に対する執着と愛着を嗅ぎ取ったようだ。それは几鍔の側も同じ。陛下の存在に ただならぬものを感じた彼は幼なじみで大事な夕鈴が騙されていないか心配でたまらない。
里帰り2日目は陛下と別々に行動する。夕鈴が単独で向かったのは行きつけだった下町の ご飯屋。顔を出したいけど知り合いが多すぎるため陛下は連れてこれない。
一方、陛下は夕鈴の弟・青慎と行動し、そこに几鍔が加わり、ヒロインの与り知らないところで男だけのバトル、という状況が始まる。…かと思いきや、几鍔が夕鈴の悪口を言い、それを陛下がポジティブに捉えるという平和的な会話で終わる。溺愛陛下にとっては お嫁さんの情報は何でも興味深いのだろう。
しかし几鍔は この時の対面で謎の男の素性を一層 怪しむことになり、夕鈴のバイトの内容に探りを入れる…。
「特別編」…
夕鈴が李順に粗相をしてしまい、夕鈴はクビの危機を迎える。しかし李順が仕事に対して夕鈴の査定をしていただけだった。いつの間にかに姑ポジションにいる李順も夕鈴を人柄や仕事面では認めているのだ。
