《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

僕は、妹に恋をする男を排除できるなら人生をキミに捧ぐ という困った兄(本物)。

兄に愛されすぎて困ってます(10) (フラワーコミックス)
夜神 里奈(やがみ りな)
兄に愛されすぎて困ってます(あににあいされすぎてこまってます)
第10巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

兄こま史上、最大の波乱とピンチ到来! 血のつながらない兄妹のせとかとはるか。2人の秘密の恋は熱を増すばかり・・・。だけど、2人の関係が学校でバレてしまい・・!? そんな時、せとかの学校に教育実習生としてやってきた新たな兄系イケメン・矢高北斗。彼の正体とは・・・!?

簡潔完結感想文

  • 兄系イケメンの最後の使者は、兄。そして彼は唯一の交際に反対する親族。
  • どんな誹謗中傷も一身に受けることで せとか は最初で最後の成長を遂げる。
  • 妹を溺愛する嫉妬深い兄は北斗へ移譲し、はるか は物分かりの良い恋人に。

しい兄もまたヒーローの踏み台、の 10巻。

『10巻』ではヒロイン・せとか の本物の兄が登場する。兄系イケメンが次々に登場してきた本書だが、最後は兄系イケメンではなく、ただの兄であった。

面白いと思ったのは この本物の兄・北斗(ほくと)が かつての はるか と似ている点。はるか は10数年間、「妹」であった せとか に本来は持ってはいけない感情を持っていて、それが1年ほど前に血が繋がらないことが判明し、自分の感情が禁じられたものではなくなった。だから せとか に10数年分の愛情を一気に注ぎ込もうとして暴走していた。せとか に近づく男を容赦なく排除しようとしたし、彼女に対して積極的な好意とセクハラを繰り返すことで せとか の気持ちを自分に向かせようと必死になっていた。

そして それは北斗も同じ。彼もまた10数年間 会えないままの「妹」に感情を募らせていた。いつか会えた時のために毎年クリスマスには妹の分のプレゼントも養父母に お願いして揃えてもらい、その再会を心待ちにしてきた。そして今回、偶然にも北斗が教育実習生として出向いた学校内に本物の妹がいた。だから北斗は妹に対して出来る限りのことをしようと決意する。今の彼女を不幸にするような、彼女に近づく男=はるか を容赦なく排除しようとしたのだ。そういえば作品初期では せとか は自分の恋愛事情に はるか が介入し、下心のある男性たちを排除していることを知らなかったが、北斗もまた妹に秘密にしたまま はるか の排除をしている。

兄系イケメンを多く排除してきた はるか が今回は「本物の兄」から排除される側となる。

うして初期型はるか と北斗の類似性が浮かび上がるが、同時に それは初期型はるか と現在の はるか の違いを鮮明にしている。
そして はるか が格好つけるような格好悪いシーンではなく、こうやって間接的に比較することによって はるか の誠実さが浮かび上がる様子は面白かった。今回はセクハラめいたこともしないし。

今の はるか は「無敵の番犬」として暴力行為も辞さなかった彼ではない。せとか と ずっと一緒にいるために、今は別々に暮らして彼女を養えるだけの能力を身につけようとしているし、彼女が抱える問題に口を出さない。特に後者は この『10巻』で はるか が見せた新たなスタンスだった。これまでなら せとか の何もかもに口を出して介入してきた はるか だが、せとか が自分でやると決めたことは彼女に一任する。これは はるか が せとか を「妹」として守るばかりでなく、人間として同等の立場に見ているという視点の変化でもあるのではないだろうか。
今回が異性が関わる恋愛沙汰じゃないことが はるか に冷静さの維持を可能にしているのかもしれないが、2人が それぞれに成長と我慢をすることで新しい関係を築いている点が良かった。それに ここで成長しなければ せとか は一生 成長が見られなかっただろう。高嶺(たかね)との婚約騒動でも無力だった せとか が成長した姿が見られて良かった。本当にラストチャンスでした。


て少々 可哀想なのが北斗である。彼は結局、はるか が脱却した過保護で過干渉な「兄」という立場を そのまま引き継いでいる。間違いなく本物の兄なのに、登場が遅いせいもあり はるか よりも一段下の能力であるかのような描かれ方になって、兄系イケメンの中で あまり優秀な人には見えない。なにより容姿とか頭脳とかではなく、器の大きさで はるか に負けていることが嫌というほどハッキリと描かれている。

そんな北斗は病弱という設定。彼の心臓は弱く、大人になるまで生きられないと言われていた。はるか そして高嶺とプラスの能力を付加し続けてきたから、今度はマイナス方向にという感じなのだろうか。何だか青木琴美さんの『僕は妹に恋をする』『僕の初恋をキミに捧ぐ』の2作品を混ぜたような話になってきたと思った。

『9巻』の感想文で描いた通り、本書において せとか の両親が交際に反対するという展開は最初から回避が約束されていた。しかし北斗は その回避の外側にいるので、せとか の真の親族として「兄」との交際を反対したという展開も工夫が凝らされていると思った点だ。それによって浮かび上がるのが北斗の矮小さというのが残念ではあったが、小舅(こじゅうと)として はるか に嫌がらせをし、返り討ちに遭うことで彼らの恋愛の到達点を描けたのではないか。

高嶺の立ち位置変更(本物の兄→最強の当て馬)以降はダラダラと続いている印象ばかりだった本書だが、この北斗のターンは なかなか丁寧に作られていると素直に思えた。


とか の学校に教育実習生の矢高 北斗(やたか ほくと)が やって来る。大学では物理専攻らしい。
彼が わざわざ教職課程を取っているのは「妹」を探すため。でも教育実習は1校だけだし、1校につき赴任は最長7年あって(千葉県)、とても効率が良い捜索方法とは言えないと思うのだけど…。せとか が高校生の間に学校内で会うための設定でしかないのだろうけれど。

せとか と北斗の出会いは図書室。転んだ せとか の下敷きに北斗がなる。通常なら これでヒーローの資格をゲットして新たな当て馬になるところだが、北斗は本物の兄なので そうはならなかった。この際、北斗が怪我をしているけど、もしかして はるか じゃなくて せとか が男性たちに流血させる運命を課しているのか!?
そして北斗は この女子生徒が自分が6歳(ぐらい)の時に生き別れた実妹だということを知る。


と暮らしていた頃から身体の弱い自分が嫌いだったが、せとか は北斗に生きる理由を与えてくれた。だが限られた時間を精一杯生きるはずの北斗よりも先に両親が事故死して、兄妹はバラバラで暮らすことになってしまった。

せとか を発見し、彼女の幸せを見届けた今、北斗は生き続ける理由を失いかけた と言えよう。しかし北斗は、せとか が女子生徒に血が繋がっていないとはいえ一緒に暮らしていた はるか と交際しているという噂が立つ。そして人気のあった はるか に恋をしていた女子生徒たちから せとか は実際に糾弾されることになる。
この場面に遭遇した北斗は妹の「幸せ」が、もう一人の「兄」にあることを知る。


斗が はるか に会うのは彼の学校の文化祭の日。
その前に せとか命の はるか のヒーローショーがある。成績優秀で学校のNo.1である はるか から、ただ一人 愛される せとか、という分かりやすい夢を再確認している。もし会場に はるかファンの元の高校の生徒が来ていたら、噂は本物となり せとか は学校内で居場所が無くなるだろう。過剰に秘密にする必要性はないが、はるか の行動が軽率なのは否めない。

はるか の前で北斗は戸籍を持ち出し、自分が本物の せとか の兄だということを証明する。戸籍で兄妹に血の繋がりがないことが証明された1話とは逆である。そして北斗は学校内での噂を持ち出し、はるか に別れを望む。当然、はるか は拒否するが、成人している北斗は弁護士を立てて親権を争う覚悟があることを告げる。せとか を家族に迎えることを今の義理の両親も賛成しているらしい。
この北斗の行動は妹を思ってのことだが、妹が望んだことではない。


とか は学校内を駆け巡る自分のゴシップを一人で受け止めていた。はるか と仲の良い千夏(ちなつ)にも学校の現状は口止めしていた。

学校内で せとか の様子を見聞きしている北斗は兄と名乗らないまま、教育実習生として せとか を助けるため交際相手との別れを勧めるが、今の せとか は無敵。はるか が将来を見据えて頑張ってくれていることを今の彼女は知っている。

そして はるか も、これまでなら「無敵の番犬」として せとか を傷つける者を手当たり次第に攻撃していた。でも せとか が何も言わないのなら自分は せとか の領分に入るべきではないと今の はるか は考えることが出来る。そこに交際初期とは違う2人の関係性を見ることが出来る。
はるか からヤンキーという個性は消滅しているが、相手のことを考えられたり尊重できるのは はるか の確かな成長だろう。そして いつまでも「兄」が手を引いていては せとか が成長しない。高嶺の婚約騒動でも動かなかった彼女だから、これが成長のラストチャンスなのだ。


れども嫌がらせ は親友の みゆーにまで及んでいた。そこで彼女は みゆーを守るために距離を置く。いよいよ学校内で孤立しても せとか が笑っていられるのは、やはり はるか の存在があるからだろう。

そして せとか というヒロインを聖女にするため、今回もモブの女子生徒が悪女となる。嫌がらせに屈しない せとか を直接的に階段から突き落とすことで満足を得ようとしたのだ。
北斗は その事実に動揺し、ますます自分が兄として せとかを守らなければと視野が狭くなる。しかし そんな北斗の思考は はるか と比べると圧倒的に独善だと言えよう。こうして はるか が この作品世界のNo.1の能力で、兄系イケメンの中で誰にも負けないことが証明された。

最終回までで一度でも せとか を好きだと思えるシーンがあって良かった。ギリギリ。

いよいよ せとか を今の自分の家に引き取ることを考えた北斗だが、病室で せとか と はるか の会話を聞き、考えを改める。せとか が はるか を どれだけ真剣に好きか、そのために今 彼女が悲しみを堪えて笑顔でいることを北斗は知る。彼らの確かな愛情と信頼感を知った。

自分が守るために見つけだしたかった妹だが、彼女は もう自分の庇護なんて必要ないほどに強くなっていた。だから北斗は せとか への執着を止める。そして妹を守るために ある行動に出る…。