夜神 里奈(やがみ りな)
兄に愛されすぎて困ってます(あににあいされすぎてこまってます)
第01巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
カッコよくて 優しくて でもちょっと口の悪い 自慢のお兄。だけど私たち ホントの兄妹じゃなかった。そしてお兄から 突然のキス! なんかのジョーダンだと思ったよ。けどお兄の目は真剣で…。このドキドキをどうすればいい? 兄妹なのに こんなに愛されてどうしたらいい?「17歳、キスとジレンマ」「制服でヴァニラ・キス」の夜神里奈が贈る、ヤンデレ兄に愛されまくりな兄妹ラブ! 兄系イケメンだらけの愛されストーリー、開幕です!
簡潔完結感想文
- 兄妹間の禁断の恋という重苦しさと一緒に現実感も取り払って、娯楽作品を追求。
- 妹状態でも好きになった兄だから血縁問題がクリアしたら溺愛という名の洗脳を。
- 1歳違いでも精神年齢は10歳ぐらい違う、おバカでナイスバディという男性の理想。
作中で結ばれる2人が、実写化という現実でも結ばれたことが一番のミラクル、の 1巻。
前作『制服でヴァニラ・キス』がイケメンを大量投入することで人気を得たため、本書では最初からイケメンの投入が推測される。1話の見開きの扉絵に描かれているのはヒロインの他に4人のキャラクタ。その内の3人はイケメンで彼らに愛されすぎて困るという、全然 困っていない物語が簡単に予想できる。実際その通りになり、兄との交際前後からイケメンが2人の仲に介入してきて、それによって2人の距離が近づいたり離れたりする物語が紡がれていく。
題名から分かる通り本書は「兄妹モノ」だけれど、特徴的なのは当事者たちは自分たちが本物の兄妹ではないということが1話から明らかになる点だろう。いきなりネタバレを冒頭に持ってくる構成が斬新だ。
これによって自分たちが相手に抱く感情に不必要に悩まなくてよくなり、読者も結局 血は繋がっていないんでしょというメタ的な視点による冷静な読み方をしなくて済む。最初から倫理的に問題がない恋愛だから、誰よりも近い存在との同居ラブという少女漫画的に おいしい部分だけが残る。結局、終盤は「兄妹モノ」っぽい重苦しさが漂っていた気がするが、読者の生理的嫌悪は最小限にするという試みは成功している。
基本的に作品も登場人物も頭の悪い作品である。
次々に現れる兄系イケメンに、幼稚だけれどスタイル抜群のヒロインが愛されるということの連続で、頭からっぽにして読むのが正解なのだろう。2000年代中盤までのような過激すぎる性的描写は少ないものの、基本的に女性が男性にスキンシップを求められるという性的搾取が読み取れる。この手の作品を読んでいて思うが、毎度 少女漫画読者は こういう女性の描かれ方に疑問を持たないのだろうか。
本書には典型的なイケメン無罪の治外法権や、実際や本人の意識はともかく周囲から兄妹だと思われている2人の禁断の恋愛っぽい側面や、妹を溺愛するあまり彼女に近づく異性を絶対に許さない心の狭い兄による数々の暴力的な行動などの問題があるが、私が一番 気になるのは やっぱりヒロインの描かれ方。
兄をはじめとして出てくる男たちに知性で劣るから、彼らに言いくるめられ続ける。その後の ちょっとHなピンチも作品のスパイスなのだろうけれど、画面上はヒロインは15歳の高校生だが、5歳の子供を言葉巧みに操って猥褻なことをさせようとする構図に見えて嫌悪感が生まれる。知性や思考力がないから、結局 兄の溺愛や求愛もグルーミングにも見えてしまう。たとえ血は繋がっていなくても家族でもある兄の好意に応えたい、兄の望む自分でありたいとするような幼いからこその心の動きがあるのではないか。特に兄が妹に近づく異性を排除し続ける前半は洗脳っぽい部分が否めない。
このような幼いヒロインは、少女漫画的に彼女が困惑し続ければ それだけで話が成立するから便利なのだろうが、私の好きなタイプの恋愛ではない。「Sho-Comi」という掲載誌に合わせた作者の計算なのかもしれないが、愛されヒロイン以外にも作風に幅が欲しい。でも本書でベストセラー・実写映像化などの僥倖に恵まれたから、自身も編集部も同じ路線をとってしまうのだろうか…。
気になるのは、どんどんキャラの黒目の比率が上がってきている点。線自体はシャープなのに、目だけが昭和の作品のように見えて違和感が増す(↑の画像の妹・せとか の泣き顔とか)。変な美的感覚になってしまったのだろうか。
もともと仲のよかった橘(たちばな)家の兄妹のはるか と せとか。高校1年生のせとか の学校行事でパスポートを申請する必要があり、両親は娘が戸籍に触れる前に2人の兄妹に真実を話すことにした。それが彼ら兄妹に血の繋がりはないということ。
衝撃の事実を知った妹・せとか は心が乱れ、大好きな兄の胸に飛び込み泣き叫ぶ。だが その一方で兄・はるか は大好きな せとか が本当の妹ではないことを嬉しく思っていた。はるかは自分たちの血縁関係が明らかになる前からせとかに恋をしており、結婚まで考えていた。だから「妹」への好意にストッパーをかけなくていい今の状況は渡りに船。しかし視界が開けたことによって妹のことしか考えられなくなってしまっているから、自分と世界を遮断するためにヘッドホンを使用している。
せとか は兄妹ではない知った日から はるか の態度が冷たくなったことを悩んでいるのだが、その態度は せとか に手を出してしまわないようにする はるか の自己防衛の意識からだった。しかし はるか は、せとか を遠ざける一方で、せとか に近づく男性の存在を絶対に許さない。自分の好意を出せないから、相手に八つ当たりする状態で こじらせている。元々 はるか は血気盛んな人間のようで、気に入らない相手には暴力的な威嚇を繰り返す。そんな はるか の性格を表現する格好つけた通学場面が ことごとく格好悪い。よく言えば溺愛だが、悪く言えば狂気である。
序盤は妹が無自覚に愛されることに読者の承認欲求は満たされるのだろう。
せとか は はるか が兄でなくても、これまで通りスキンシップ多めの交流をする。こうやって無自覚に自分を誘惑する せとか に はるか は我慢の限界となりキスをしてしまう。1話でのキスは低年齢向け雑誌ならではの展開。そして私の基準では1話でキスする作品に名作はない。
はるか にキスされて驚く せとか。それを彼女は はるか の冗談だと受け取る。キスはしたけど状況が変わらないというリセット機能の発動は、話を進めたくない作品側としても便利なのだろう。
そして せとか は絶交という子供じみた言葉で はるか に抵抗する。そうやって はるか と距離を置いた せとか だが、学校内で自分に好意を持つ者に乱暴されそうになり、そこに はるか がヒーローとして駆けつける。分かりやすい悪人と分かりやすいヒーロー展開だが、直前に布石を打っているから登場に理由が付いているのが良かった。それにしても はるか は自分の欲望を周囲に八つ当たりすることで発散しているのだろうか、というぐらい暴れる。
絶対悪の暴力に対して はるか が身を挺して自分を守ったことで せとか は絶交を解く。そうして距離が縮まるとセクハラ攻撃が始まる。少女誌ってどうしてこういう展開ばかりなのだろうか。
いつまでも自分を兄としてしか考えない せとか に対して はるか は告白する。だが再び せとか は それを冗談で済ませようとする。せとかが受け入れたら物語が終わってしまうので、拒絶し続けなければならないのだろう。その一方で2回目の告白によって せとか は完全に はるか を異性として意識し始めている。
その上、両親が自宅に不在で3日間で2人きりの生活が始まる。この状況に はるか と向き合いたくない せとか は親友宅に逃亡する。ヒロインは逃げるのが お仕事です☆
せとか は親友にも兄との恋愛事情は言えないので、兄離れをすると宣言してカモフラージュする。そこで親友は合コンのセッティングを提案する。
その夜、電話口で はるか の声を聞くと いつも以上にセクシーに響く。せとか も兄の声に欲情しているように見える。それを感じ取ったのか はるか も攻勢に出て甘い言葉を囁く。その口撃に絶えられなくて電話を放り投げる せとか だったが、通話を切らなかったため はるか に合コン情報を与えるという展開になる。色々と言いたいことのある作品だが、はるか のヒーロー的登場は きちんと理由があるのが面白い。
合コン場所は遊園地。合コンというよりダブルデートのような雰囲気になる。せとか の相手は前作『制服でヴァニラ・キス』の登場人物の七瀬 拓海(ななせ たくみ)が美丘 千秋(みおか ちあき)という名門学校の男性。そして新たな男性キャラに会うと彼らを魅了してしまうのがヒロイン。千秋は、はるかの友人・千夏(ちなつ)の兄。本書において兄属性の人は妹・せとか に弱い。
距離感をグイグイ詰めてくる千秋に対する せとか の必死の抵抗を千秋はスルー。そして知らない異性に緊張する せとか に自分が兄になると千秋は言い、せとか は その設定に乗る。もちろん千秋は せとか との接点を維持するため妥協点を探って兄妹設定を使っているだけ。知性に劣る「妹」は「兄」にとって簡単に手玉に取れる人間なのである。
せとか のドジからハプニングが起こり、理由が生まれて2人は抱き合う展開となる。それを尾行していた はるか が目撃して激怒して暴力を振るうまでが本書の お決まりのパターンである。はるか が成長したら暴力は封印されるのだろうか。
こうして はるか は せとか を奪還し、強制的に自宅に連れ帰り、告白の返事を迫る。
千秋という即席の兄によって、せとか が はるか への恋心を自覚するだけなら良いのだが、結局 千秋は せとか にベタ惚れというお決まりの展開へと続く。「妹」は最強というのが本書の もう一つの お約束なのだ。