《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

笑顔は世界の共通言語。クールな君の笑顔が見たければ、まず私が君に笑いかければ良い。

制服でヴァニラ・キス(1) (フラワーコミックス)
夜神 里奈(やがみ りな)
制服でヴァニラ・キス(せいふくでヴァニラ・キス)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★(4点)
 

主人公心愛が、電車でいつも見かける きれいな男子。彼の名は東雲万里…。美しい容姿にして秀才の彼は、誰もが認める完璧王子だけど、超絶人嫌い!!!! 絶対に笑わない不機嫌ボーイだけど、そんな彼が、笑ったら…。恋に落ちるのは一瞬。でも、彼の心に届くまでは、千里の道より…いや、万里の道より遠い!?

簡潔完結感想文

  • 1巻の王道路線で人気が出たため、2巻からは売れ線を追求した作品。結果は支離滅裂★
  • ヒロインがピンチになれば助けに駆けつけ、有頂天になれば天狗の鼻を折るヒーロー。
  • Sho-Comiらしい精神年齢の低いヒロインも気になるが、完璧男子の一貫性の無さも相当。

者人気を追求し続けたら、伏線が ほとんど回収されない作品に成り果てた、 1巻。

『1巻』は正統派、王道すぎるといってもいい少女漫画的な展開が続く。画面が常に綺麗で、この作風のまま恋愛が成就したら派手さはないが誰もが共感できる恋物語になっていただろう。
…が、どうやら連載の延長が決まった『2巻』の後半から本書は大きく動く。悪い方に…。
テレビ番組でも そういうことがあるが、ずっと人に見てもらうための王道のメソッドというものがある。それを導入すれば多くの人にとって楽しい内容になるが、その反面、初期からのファンは、オリジナリティの消失に落胆する。本書はまさにそれである。ほぼ2人だけの物語に、作品内では当て馬キャラが幅を利かせ、そして作品外では編集者の意向が強く反映された。

外見も心も美しい完璧男子との純愛だったはずが…。万里は境遇から病人には優しいのか。

連載の延長は少女漫画には多い連載形態である。こういう場合、作者は最早いつでも畳める物語の どの部分を延長し、話を膨らませるかというアドリブ勝負になる。アイデアが空っぽのところから、どれだけ話を面白く出来るかというのは作者本来の実力が試され、ここで成功した人たちが後の人気作家になっていく。逆もまた然り。

作者の場は この作品後に新連載があり、その後の活躍もあるので一定以上の成功を見せたと言えよう。ただ私は本書の話の膨らませ方に光るものを感じられなかった。そして何よりも残念なのは、連載継続に編集者側の意向が強く出ているという点であった。編集者も自分が担当する作家さんの飛躍を願ってアイデアを出し、時に方向性を矯正するのは分かるが、本書は それが強く出過ぎているように思う。『2巻』から一気に7人もの男性キャラを追加してイケメンパラダイス状態にしたり、仮想敵として設定されたヒーローの義母をフェイドアウトさせ、既視感満載の当て馬との三角関係を いつまでも引っ張ったりと路線変更がエグイ。それによって初期に漂っていた本書特有の甘い香りを、チェーン店の既存の匂いに変えてしまったように思う。
編集者側の意向に従うというのはプロの世界では よくあるのだろうが、本書の場合、意味のない展開を許してしまった作者の弱さを感じた。もうちょっと編集者側の意向と自分の本来描きたかったであろう物語を融合させられなかったか。まぁ意向に従ったから、今の活躍があると思えば黒歴史という訳でもないのかもしれないが。


かに編集者側のテコ入れ/連載継続策は、想定された読者たち(10代前半)の受けは良かったのだろうと推測される。読者の興味を惹くような展開が用意され、『1巻』時点での予想から大きく結末が変更され、ある意味では先の読めない物語になった。

ただ それは結果的に支離滅裂さを招いたとも言える。上述の通り、問題がどんどんスライドしていって、当初 恋愛の障害になるだろうと予想された設定は使われないまま、ただただ読者にとって心地良さを追求しただけで、甘さばかりの深みのない話が出来上がった。この甘さはリアルタイムで追う読者には夢物語として通用するかもしれないが、連載が完結し、単純に1つの長編として見た時に、どこを褒めて良いやら、という状態になっている。

また大きな流れ以外にも、細かい瑕疵がある。胸キュン場面のためにキャラが非合理的な行動を取っている場面が気になることが多かった。特に本書のヒーロー・万里(ばんり)は沈着冷静で賢いはずなのに、彼が前言を撤回しまくってヒロインとイチャつく場面には疑問を感じずにはいられなかった。
こういう点も、熱狂的な読者には アバタもエクボで万里がバグっていることさえ可愛く見えるのかもしれない。だが私には万里の言動に一貫性を感じられないばかりで、完璧王子と名高い彼の完璧さを描けていないように見えた。

この辺の細かい話の作り方も次回作では改善されているのだろうか。作者の真価は そこで分かる。

(右)から僅か4ページで嫌悪していた行為をする完璧男子。朝令暮改のスピード感が10代には受ける!?

6時30分の電車に乗る、同じ学校の違う科の生徒が気になるヒロインの森永 心愛(もりなが ここあ)。その生徒は特進科の東雲 万里(しののめ ばんり)。通称・完璧王子で、特進科でも常に成績はトップ。そして中学の時、空手で全国大会出場。類まれなる美形なのだが人嫌いという噂がある。そんな高嶺の花である万里に、特に個性がある訳でもない心愛が挑む、という お話。

心愛は、万里の無表情、または怒った姿しか見たことがないから彼の笑った顔を見てみたいと願っていた。
それが叶うのが ある日の帰りの電車。そこで心愛は眠ってしまい、気づいたら万里の膝枕で寝ていた。平謝りして電車を降りる心愛だったが、その駅のホームで男性たちに絡まれる。そのピンチを救うのが空手の実力者・万里という分かりやすいヒーローものの第1話である。

心愛は守られるだけじゃなく、最初は震えていたが、勇気を持って男性たちを抑え込み、万里だけでも逃がそうとする。ヒーローとヒロインの逆転である。そんな一生懸命な彼女に心が動かされ、万里は本気で狼藉者を叩きのめす。

万里が電車から降りて心愛を追ったのは、彼女が電車内に落としたヘアゴムを届けてくれたから。表情は乏しいが、心までは凍っていないということなのだろう。
謝罪と感謝を述べる笑顔の心愛に、万里は心を奪われ、妖艶に笑う。それが、心愛の恋心をさらに加速させる。笑顔が見たければ、まずこちらが笑顔で彼に接するべし。心愛が笑えば万里も笑うのだ。この笑顔の連鎖は好きだなぁ。

こうして明日から万里に挨拶することを許され、彼女は万里にアタックは続く…。

素直すぎる心愛の笑顔が万里の心を溶かしていく。邪魔者のいない2人だけの距離感が好きだったのだけど…。

は覚えられたものの、万里は人に興味が薄い。朝の電車でも挨拶だけで終わり、彼と会話をする訳でもない日々が続く。この難攻不落感は心愛の頑張り所だったのだが…。

万里は小学校からエスカレーター式の名門男子校に通っていたが、高校進学時に違う学校を選んだらしい。それには とある理由があるらしい。
人嫌いの上に潔癖症の万里は、人の差し出したタオルなどを触りたくない。だが、心愛が居眠りをする万里に掛けたカーディガンの匂いは嫌悪の対象にならない。もはや万里は本能レベルで心愛を受け入れていると言えよう。

心愛の匂いは甘い物がスキで よく作るから、彼女の服からはバニラの匂いがするというもの。それを万里は「悪くない」と評する。ここ、書名は「ヴァニラ」なのに 「バニラ」と表記しているのが気になる。どちらかに統一して欲しい。


の日の帰り道、万里はカーディガンのお礼をすると、心愛をカフェに誘う。万里と一緒にいる上にオシャレな店に連れてこられて、心愛は緊張する。

カフェ内でデザートを食べさせ合うカップルを見て「恥さらしだな」と言っていた万里が話の流れで心愛にイチゴを食べさせるという謎の展開は理解不能。イケメンに食べさせてもらう心愛が周囲に羨ましがられるとか、彼女が有頂天になった所を、現実が襲うという展開のために必要なのは分かるが、早くも万里がキャラ崩壊していて、難攻不落感が激減している。下手をすればクールな万里は少しも動かないから、動かす方も苦労するのだろう。けれど説明できない心の動きで人を動かしても強引さばかりが目立つだけだ。

その店には万里の義理の母親・アキもいた。義母は万里のクラスメイト・月見里(やまなし)に連れてこられたらしいが、彼がどうやって万里の足取りを追ったとか、そういう細かいことは描かれていない。伏線なんて張らなくても、若い読者は脳内補完してくれる、という読者への信頼なのだろうか…。
ちなみに このクラスメイト・月見里は当て馬っぽく見えるが、特に活躍することもない。『2巻』からは当て馬は別の人間が担当することになる。月見里の役割は完璧にアクセサリー。彼もまたレベルの高い男子生徒で、その彼と一緒にいる心愛は他生徒から羨ましがられる、という小道具に過ぎない。心愛は自覚がないとはいえ、本書は男性を自分の価値を高める道具に使っている。その辺もまた薄っぺらいのである。


見里がアキを連れ回したことに万里は怒りを隠さない。なぜならアキは心臓が悪いらしく発作が起こる可能性があるのだ。そして万里は彼女のために病院に一番近い、現在の学校を選んだ。そして万里はアキに心愛が恋人だと誤解され、必要以上に強く否定する。この辺の万里の動揺が伏線になると思っていた頃が私にもありましたよ…。

万里の強すぎる言葉が心愛を傷つけた。だからアキを病院に送り届ける万里に、自分が戻ってくるまで待つように言われたが、心愛は1人で帰路につく。そんな彼女を息を切らして万里は追いかける。その万里の必死さに心愛は期待を持ってしまう。しかし そんな自分を律するように、万里に好きでもない女性に期待を持たせないで、と婉曲に伝えると、万里は こういう気持ちになるのは「君が初めてだからな」という。少しも優しくないのに、ふとした時の表情や感情、思いがけない行動に心愛は好きが深まる。
心愛が万里を好きになるのは理解できるが、根本的に優しい万里が、なぜ他の女性を蛇蝎の如く嫌うのかが説明できていない。万里は無条件に心愛に優しければ それでOKという ご都合主義に見えてしまう。


2人の距離を急速に縮めるのは学校イベント・3日間の林間学校。特進科も合同で、林間学校での告白成功率は約8割という情報が心愛を告白に誘導する。

初日の山登りに実用性重視した格好をした心愛。周囲は自分が どう可愛く見えるかという見た目重視であることを知り、心愛は自分の失敗に気づく。それでも心愛が、完璧王子に選ばれるから読者の自己承認欲求は高まるばかり。こうしてヒロインは男性を見た目で好きになるが、ヒーローの方は女性の見た目を気にしてはいけない、というダブルスタンダードが生まれる。可愛く見える努力を放棄することも美徳のようだ。

なぜなら心愛は心が美しいから問題ないのだ。生徒にぶつかって倒れても、その人を守ろうとする聖女の心愛。心愛が生徒を守るために怪我をしたにもかかわらず、その生徒から服が汚れたとお叱りを受ける。
そんなピンチに駆け付けるのが万里である。自分の後方で起きた事も全て見ていたかのような口ぶりで心愛を庇い、相手を叱咤する。

こうして足を怪我した心愛を万里がおんぶし、2人で下山する。特進科の女性の特権意識・差別意識が凄い。こういう彼女たちの嫌な面を承知しているから万里は周囲の女性に冷たいのだろうか…。


2日目。万里は食事を一緒の席でするが、同時に心愛に足が痛むなら帰れ、と冷たい言葉を投げ掛ける。心愛を喜ばすのも悲しますのも万里の特権である。

この言葉の真意を説明してくれるのが月見里。彼が言うには、義母が病弱だから、万里は女性に対して過剰なほど安静にさせようとするという。そして万里を名前で呼ぶことを許可されているのは心愛ぐらいだという。こうして心愛は自分が特別だと有頂天になりそうになるが、それは転落の始まりでもある。

再度 万里が冷たい言葉を掛け、心愛は彼に背を向けるため走って離れる。それが足の痛みを誘発し、楽しみにしていたキャンプファイアーの参加も許されない(自業自得すぎるが…)。

しようとした告白も出来ず、ただ傍観者になるだけと落ち込む心愛は、宿泊施設内に万里を見つけ…。


里も足を痛めている心愛に気づき、彼女と一緒に施設内からキャンプファイアーを眺める。その際の会話で万里の言葉は心配過剰からくるものだと分かり、彼の温かい心に心愛の悲しみは氷解する。そして親切な彼に笑顔で感謝を述べる。
本書では笑顔は最強の武器。心愛の笑顔に、万里も笑顔で返す。

フォークダンスが始まり、万里は心愛に踊るか と提案する。ここは、あれだけ怪我のことを気にしていた万里とは一貫しない行動である。万里が言葉足らずなのは分かるのだが、こういう配慮の足りない行動はさせてはいけないだろうに。

案の定、心愛は転び、倒れた拍子に2人はキスをしてしまうのだが…⁉ 倒れても流血する訳でも痛みを感じる訳でもなく、少女漫画特有の謎の物理法則によって、ただただ甘いキスとなるのが不思議でならない。

気まずいまま、万里が立ち去ろうとする時、心愛は彼を追いかけ告白する。また足を痛めそうなことを…、と心愛の軽率さが目に余る。ちょっとずつ色んな所に疑問が生まれ、物語に上手く没入できない。


「制服でヴァニラ・キス 番外編」…
入学初日の心愛は、その電車で万里を初めて見る。心愛が万里を好きになるエピソードで、見た目から惹かれたが、彼の心根が優しいから好きになったという話にシフトしている。しかし6時半の電車に乗り、彼らは何時に学校に着くのだろうか。ラッシュを避けることで毎回 会話が出来る状況にしているのだろうが、万里が どうしてこの時間の電車に乗っているかなど、作者は考えていなさそうである。その辺が作品の浅さに直結しているような気がする。