《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

告白してくれたのがイケメンだから お断りできないヒロインは、ビッチ確定で よろしくて?

POWER!!(8) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
POWER!!(パワー!!)
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

いろんな意味で超キケンな強化合宿が始まった――!! 千晴(ちはる)と由良(ゆら)、2人のイケメンと同室になってしまった香(きょう)。2泊3日といえども、なんだか危ない予感が満載で……!? しかも、うっかり毒キノコを食べトリップしちゃった香は、なんと由良の前で千晴に愛の告白を――!? 香と千晴の禁断の愛(!?)を陰ながら応援する浜谷(はまや)の勘違い大暴走も見逃せない!! ますますパワー炸裂の第8巻!!

簡潔完結感想文

  • 普通の恋愛漫画になっちゃいそうな雰囲気に、3/4の確率で浜谷の暴走を投入。
  • お節介天使だと思っていた由良は単純な当て馬。今後の精神のバランスが心配。
  • いつも自分の欲望に正直な香は少年誌のドタバタラブコメの主人公みたいだ。

いだけで やっちまった感がある(作者)終盤戦の 8巻。

「一体なにが描きたかったのか、それすらわからなくな」っている作者は色々と匙加減を間違えている気がする。ドタバタラブコメにはなっているものの、笑いのために犠牲になった要素も大きい。

その一つがヒロイン・香(きょう)だろう。男子寮に潜入した男装ヒロインだったが今では その罪悪感も薄れ、好きな人と四六時中 同じ空間にいることを満喫している。更に由良(ゆら)という新イケメンにも ほいほいとトキめいたりして尻軽な部分を露呈している。勢いに任せて少女漫画の大切な要素まで捨ててしまっている。せっかく大事な巻なのに、これでいいのかと唖然とした。

『8巻』では恋愛のためなら何でもやる、という香の自分勝手な姿勢がよく出ていた。この姿勢は どこか既視感があると思ったが、おそらく『うる星やつら』の諸星 あたる だろう。ちゃんと漫画やアニメを見たことが無いのでイメージなのだが、20世紀の少年誌のラブコメの主人公は自分の「好き」に忠実に生きているような気がする。
それでも あたる のような人が嫌われないのは、彼に嘘がないからだろう。目の前の女性を すぐに好きになってしまうのも、ちょっとスケベなことをしたいのも彼が本心から動いているから。そこに一種の爽やかさが生まれる。

けれど香は どうだ。香は そもそも嘘をついて物語に登場している。そんな自分の立場をわきまえず、彼女はイケメンと一緒にいられることに酔いしれる。その軽薄さに私は幻滅した。自分の嘘が せっかく進展した千晴(ちはる)との恋愛の生涯になることに悩んだりすれば応援できるのだが、香は自分の欲望を優先する。両想いになった千晴が思慮深く、現状は周囲からの認識が男同士である以上、つきあうことは考えられない、と自他の安全の為に言っているのに、あろうことか彼を脅迫して千晴とデートをしようとする。

千晴は背負わなくてもいい秘密を背負ってくれた恩人である(『4巻』)。彼がいるから平穏に暮らしていけているのに、恩を仇で返すような行動に失望する。作者は そういう間違えてはいけない一線を不用意に越えてしまうことが多いように思う。それは作者が物語をコントロールできていないからに他ならない。

当初は同レベルだったはずなのに、香の頭が空っぽになって、相対的に千晴が常識人になる。

た恋愛的な決着でも香のズルさを感じた。
三角関係状態になった由良ではなく千晴を選ぶという重要な選択も香は相手任せにしているのが気になった。由良に自分の都合の良い言葉を言ってもらうことで、香は人の気持ちに応えないという勇気を持たずにいられる。

そもそも由良に香への恋愛感情を抱かせるのも私は納得がいかない。一連の問題行動で彼が欲しかったのは本物の友情であって恋愛感情ではない。そして ここで由良が香との特別な関係を失うことは彼の精神の不安定さを再発させてしまう恐れがある。せっかく命を懸けて、ダラダラと由良の心を救ったのに、彼にまた信じている人が自分の欲しい程度の感情をくれない、という悲しみを与えているのが展開として よく分からない。由良編を通して作者は何を描いてきたのか分かっていない。

そして千晴に対しても香は自分から告白しない。香の性格から当たって砕ける方が良いのに、作品は千晴に告白を言わせてしまう。こうなると、香って作品内で何か自分から行動しただろうか、と疑問に思う。男子寮に入るのも父親の強権だったし、千晴に性別がバレるのも第三者の暴露だった。そして今回の告白も相手に言わせ、この後の部活仲間への秘密の露呈も不可抗力であって自分発信ではない。

デートとか自分のしたいことは相手が嫌がっても決行しようとするのに、自分に勇気が必要なことは流されるままでいる香を好きになれない。それもこれも作者が香に愛情をもって行動させないからだと思う。勢いだけで描いてたら、主人公が読者から愛されなくなってしまった。


のところ疎(おろそ)かになっていた部活描写が復活し、合宿が行われる。香は1人で千晴と由良の間で揺れるヒロインごっこを楽しんでいる。というか いつの間にかに由良が香に告白したことになっているが、『7巻』のアレは告白だったのか。

1日目の描写の大半は山の中と、毒キノコによるトリップの描写が占める。由良と同室で初めて眠る問題とか、温泉ハプニングとか全くない。

2日目も再び理由をつけて山に放り込まれる一同。少女漫画で山に入ることは遭難を意味して、サバイバルが始まる。この合宿で由良が千晴に喝を入れ、香との関係を明確にさせようとする。この由良の お節介で2人きりになって少しずつ踏み込んだ話が出来るようになる。…のだが浜谷の暴走によって三角関係の維持となってしまう。

しかも千晴が香と由良との事故チューを目撃してしまい、さらに不機嫌になる。香もヒロインらしく落ち込めばいいのに、イケメンとのキスが満更でもない様子。ギャグとはいえ愛が濁っていくような展開は止めて欲しい。


うして由良の騒動が集結し、恋愛問題に再び着手してから1巻以上を消費しても素直になれない千晴。

一方で香は由良との関係に決着をつける。最後まで由良という良物件を逃したくない香だったが、由良の方が香の返事を代弁してくれ、2人は友達に戻っていく。由良は明るく振る舞っているが、少なからず香に好意を抱いていたようだ。これで再び彼の精神が不安定になるような気もするが、その辺は描かれない。でも もしかしたら この世界に自分の思い通りにならない余地があることが、由良がこの世界を楽しめる理由になるのではないか。

その後も香と千晴は素直になれないが、少しずつ歩み寄って、千晴は初めて香に「好き」という言葉を発する。その彼の言葉を聞いたら香も それに乗っかる。うーん、香には苦し紛れでも逆ギレでもいいから千晴には自分から想いを伝えて欲しかった。

リスクを計算して2人の男を天秤にかけるリアルな描写。でも少女漫画で これはない。

の日から香に春が訪れる。実際の季節は冬なのに春の陽気に香の頭は お花畑満開。そして作中に何回か描かれている異性や好きな相手と同室で暮らしているという現実に緊張するというパターンとなる。

だが千晴は香と つきあう気はないという。これは彼の不誠実さの表れではなく、男子寮の同室で暮らす「男子生徒」の香と つきあうには問題が多すぎる、という千晴の現実的な判断である。
だが男女交際をしたい香は千晴の主導権を握り、デートを約束させてしまう。この場面、嘘をついているのは自分なのに千晴を脅迫するのは笑えない展開。どこまでも自分勝手な人だとしか思えない。

別々に家を出て待ち合わせる際、香は一計を案じて「女装」をして千晴の前に現れる。千晴が照れた表情を見せたことに香は満足するが、その恰好では言い訳が出来ない千晴は香を男装させようとする。

そこで入った洋服店で浜谷(はまや)に遭遇してしまう。浜谷には香は千晴の「妹」として乗り切ろうとするが、女装した香を浜谷が気に入ってしまいドタバタラブコメが始まる…。今更、新キャラを投入させられないのか、これまでギャグの被害者ポジションだった浜谷が暴走して物語を回し始めている。作者もまさか浜谷が脇役のNo.1になるとは思わなかっただろう。