清野 静流(せいの しずる)
POWER!!(パワー!!)
第09巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
千晴(ちはる)とのデートで、女装(!?)して現れた香(きょう)だったが、浜谷(はまや)に見つかり大騒動――!! とっさに千晴の「妹・香子(きょうこ)」として紹介された香に、浜谷は本気でロックオン状態になってしまい……!? さらには、みんなの天敵・艶華(つやか)先輩のブラックな提案により、なぜか恐怖の王様ゲームをするハメに。そして、ついに香が一番恐れていた事態が発生してしまう!! クライマックスに向け、ますますパワーアップの第9巻!!
簡潔完結感想文
- 2人で出掛けて危機一髪。なのに次号で出掛けようとするバカヒロイン。
- 由良に恋心を芽生えさせたのに それを彼に撤回させる意味不明の作者。
- 許す/許される 構図が変な勝負だけど、最後までPOWER!!で押し切る。
腹を抱えるほど おかしいのではなく、単純に頭がおかしい 9巻。
遂に女バレしてしまう『9巻』。本来ならヒロイン・香(きょう)が精神的に辛い展開なのだが、全く彼女を応援したいという気持ちが湧いてこない。むしろ一番 辛いのは彼女を愛し、その秘密を共有する千晴(ちはる)ではないか。身勝手なヒロインに苦労するのが清野作品のヒーローである。
少女漫画における男装するヒロインで女バレが辛いのは確かな目的や自分の意思がある人だけ。香には それがない。そもそも雑な男装の始まりだったし、イケメンに目移りするような軽薄な香は自分の状況を楽しんでいた。それは千晴に恋をして、そして両想いになってからは一層 加速し、もう男装する罪悪感など微塵も感じていない。女バレする直前も、千晴と一緒に恋人らしいことをすることに浮かれるばかりで、彼に迷惑やストレスを与えていることを考慮しない軽率な言動が目立つ。
彼女にハッキリした意思がないから女バレという事態に香に切実さはないし、自分の愚行を説明するような具体的な言葉を持てていない。
こうして読者が香を好ましく思わない状況で女バレのエピソードが始まっても少しも共感できない。そもそも女バレしたのも香に油断があったからで、彼女が浮かれていたことが原因だ。勢いのある作風が作者の持ち味なのだろうが、細かい配慮が全くないのが気になる。せめて女バレが香に非がない状況にすればいいのに、恋愛お花畑状態となっている香の自業自得で目も当てられない。
何と言っても最大の疑問は香が部活にカムバックする条件を、彼女自身が提示すること。1人の部員の身勝手な行動で部員たちが空中分解しそうなのに、どうして その原因である香が交渉する権利があるのか全く分からない。これも勢いに任せるばかりで倫理観や正義が歪んでしまっている事例である。どうして絶対的権力を持つキャプテンから条件を提示させなかったのだろうか。彼の発言なら香に反感を抱く部員たちも黙らせられる流れが出来るのに、香が自分から条件を出し、そして最初から卑怯な手を用意していることで香への信頼感が下がるだけである。
香は無謀な条件を出して「女だから」という不利があっても彼らと対戦して納得させたいはずなのに、部員に対して、自分を信頼している人(由良(ゆら)や千晴)に対して、小道具で痛めつけたり暴力を振るったりしてまで勝とうとする。これは部活への執念などではなく、人を出し抜いても勝とうとする醜悪な精神によるものだ。力負けすることを前提にしているから香は小道具を最初から用意している。
そして これによって作品は香は「女だから」普通の方法では勝てないという女性は男性に屈するものという構図を提示してしまっている。男女の体力差はあって当然だけど、序盤は それを無視して香を男子バスケ部で活躍させていた。漫画だから成立した世界観なのに結局 女である香は卑劣な手段を使って ようやく男性に並べるという現実を持ち出したのが納得いかない。
途中から何が描きたいのか分からなくなっている作者だが、最後の最後まで大事な塩梅を間違えている。それは物語を台無しにさせるような取り返しのつかない失敗である。連載を継続させるために途中で暴走して よく分からないエピソードで話を迷子にしてしまう悪癖は変わらないみたいだ。今後、私が作者の作品を読むことは あるのだろうか。そして その作品では少しでも成長がみられるのだろうか。
前巻に引き続き浜谷(はまや)が「女装」した香が名乗る「千晴の妹」に恋をして暴走する。そこにキャプテンが登場したり、久々に艶華(つやか)先輩が登場したり、男女バスケ部員での騒動になる。
艶華先輩は、香の「女装」を見知っているから自称・千晴の妹が香であることを一発で見抜き、千晴たちが今回の事態は2人が恋仲になったから起きた、ということまで推理する。
まだまだコンプライアンスが甘かった00年代まで許されていた少女漫画内での飲酒があって、バスケ部員5人は王様ゲームで盛り上がる。艶華だけは冷静で、彼女はまだ香を女子バスケ部に入部させる野望を捨てていないため、香と千晴の交際が公になればいいと思っている。そこで彼らを王様権限で強制的にキスさせて、そこから問題が表面化して男装の発覚を早めようと考える。この作品は特に女性が私利私欲で動いていて読んでられない。ラストのオチも いつも通りで、そうすればオチがつくと思っている安直な考えが嫌だ。
っていうか浜谷は特別編で彼女を用意してもらっといて暴走するのが残念すぎる。香もイケメンなら誰でもいいし、浜谷も綺麗な女性なら誰でもいいという感じが この作品の低俗さを表している。浜谷は まだギャグとして消化できるが香はヒロインだから失望を禁じ得ない。
2人で出掛けるリスクがあっても、香は恋愛の真似事がしたい。だから千晴に再度 出掛ける提案をする。香が ここまでアホなヒロインだとは思わなかった。
上手くいかない香の恋愛の相談相手は全てを知っている由良。ここにきて作者は由良の恋心をなかったことにする。香の心を軽くするための由良なりの思い遣りのような気がするけど、どちらの設定でも由良が可哀想。こうするなら最初から由良に恋心があるなんて匂わせなければ いいのに。この辺も塩梅を間違えている。
そして香は由良に現状の幸福を教えられる。好きな人と四六時中一緒にいられることは恵まれていると人から言われて初めて気づく頭が空っぽな人間なのである。
だが香が いつもの着替え場所が使えず男子バスケ部の部室で着替えている際に、千晴が入ってきて香の存在に驚く。香がサラシを巻き直している間に他の部員がやってきて、千晴の抵抗虚しく、香の胸の膨らみを目撃する。そして部員たちに香が女性であることが発覚してしまう。
香は一言 謝罪をして部室を飛び出す。逃げるのがヒロインの仕事とはいえ、現実逃避も甚だしい。最初に謝っただけ香にしては偉いと思うべきか。
千晴は香を追おうと焦るばかりで他の部員たちに上手く説明できない。そこに由良が現れ、辛口なことを言いながらも部員たちに冷静さを取り戻させる。こういう時、全知全能の由良は便利な存在である。
本人の意思はどうであれ部活仲間を騙していた香は もう学校には帰れないと街を彷徨う。千晴に女バレした時と同じような展開ですね。そもそも香の男装の経緯が無理矢理なので、香が全ての責任を背負えない、背負う必要のない構造になってしまっている。それが香を中途半端な存在にしている気がする。
香は1回目の家出で寝る場所にも苦労した経験からか、すぐに土木作業員として働くことで生活拠点を確保しようとする。男子バスケ部員として練習を重ねてきたからか香は体力に自信があり、即戦力となる。果たして作品は香を女として描きたいのか、男性に負けない存在として描きたいのかが不明瞭だ。そして ここで出会うのが『純愛特攻隊長!』の平田(ひらた)である。この時 20代中盤ぐらいか。っていうか こんな登場が10ページにも満たないキャラを拾い上げて、作品として膨らませたことに驚く。
千晴は香を捜しに時間を割く。だが一方で部員たちに香に対する反感や、事情を知っていた千晴への反発があり、部内はバラバラになる。それを まとめるのはキャプテン。千晴が発見され事情を聞くまで問題を棚上げする。1週間 経ってもバスケ部員は香の消息を掴めない(学校は寮生活の生徒が1週間 登校しなくても騒ぎ出さない)。
一方、香も逃げ回る自分への疑問が頂点に達し、バスケ部員たちと向き合う決心が固まる。もちろん千晴に会いたいという愛しさも大きい。
香は部活に戻る。その際に着用しているのは平田から餞別で贈られた特攻服である。「純愛特攻バスケ部員」の完成である。この時、土下座をして謝罪する香が「恥を忍んで戻ってきた」と言うが、これって言葉の使い方 正しいのだろうか。香が謝るのは当然で、悪いのも香で、恥ずかしく思うことが間違いな気がしてならない。
そして謝罪している方から条件を出し、勝負を挑むのも奇妙な話である。その条件が、ここにいるバスケ部員24名をボールを持った香が突破して、ゴール出来たら不問。カットされたら退部というもの。いやいや、それが難問であることは分かるが、お前から言うなとしか思えない。何で自分が許される条件を自分で提示してんだよ。問題の本質や、かけた迷惑の大きさ分かってんのかよ!と、私がモブ部員なら言いたい。
香を心配する千晴は男女の差もあることを心配するが、香は それを乗り越えようとする。キャプテンの鶴の一声で、変な条件を部員全員に半強制的に承諾させ、勝負が始まる。
小道具や卑怯な手段を使いながら香は部員たちを次々に抜き去る。それに対して香を快く思わない部員側もラフプレーに走るが、どれだけ殴られても香は倒れない。この辺は由良を信じてもらおうとした時と同じ展開である。最後の相手が千晴かと思ったが、彼は蹴られて、文字通り一蹴される。まともな人が被害者となる可哀想な作品である。
「HAMER!! 2 ーPOWER!!番外編ー」…
誰も祝ってくれない浜谷(はまや)の誕生日。しかし その日に恋人の小園(こぞの)がドイツから1日だけ戻ってくる…。
交際後、初めて恋人に会うのに自分の欲望を優先する浜谷は確かに「自分勝手」と言われても仕方がない。本書は そういう人たちの集まりで、そうでなくては作品内で生き残れないのだろう。でも本編での行動もあって、浜谷の純愛も濁ってしまっている。作品がキャラを貶めるばかりで気が滅入る。