清野 静流(せいの しずる)
POWER!!(パワー!!)
第10巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
部員のみんなにハダカを見られ、ついに女だってバレちゃった――!! 香(きょう)はみんなを裏切った罪悪感から姿を消していたが、ケジメをつけるためバスケ部に戻ってきた!! だが、“男”として認められた(!?)矢先、思わぬ事件が!! なんと、聖修学園教師陣と「香の退学」をかけバスケ対決をすることになってしまい……。香の命運をかけたこの勝負、いったいどうなっちゃうの――!? 香と千晴(ちはる)の初めてのラブラブ旅行(!?)を描いた「POWER!!―番外編―」も収録した、超デラックスな最終巻!!
簡潔完結感想文
- 嘘をついても卑怯な手を使っても、バスケしたから部員の不満が綺麗に消失。
- 「学校側」の事務処理のための女バレと意味不明な対決。これで転性が完了。
- 憧れの女子の制服を着用したのに再び転校の危機!? アメリカ編には続かない…。
バスケットボールって素晴らしいスポーツだ、の 最終10巻。
まさか『1巻』から読み続けた読者は こんなクライマックスの展開を予想していなかっただろう。女子生徒の男装による男子寮潜入という まともな設定だと思わせて、全然違う方向になった本書。読者が あれれ??と思ったのは『4巻』辺りだろうが、そこまで買い進めた読者は、コンコルド効果で途中で買うのを止めるという英断が出来ない状態になっていたであろう。
特にヒロイン・香(きょう)の自分勝手さに歯止めが利かなくなっているのは読者の無念であろう。最後の最後まで香は笑わせてくれて、「…そ-やってねっ 自分の都合 中心に動いてればいーさ」などと言い出して、お前が言うなと全員にツッコまれ待ちをしている。予想外の連載の継続で登場人物たちがキャラ変することが多かったが、一番 キャラがブレていたのは香だろう。巻き込まれ型ヒロインから暴走ヒロインへの変貌を遂げて、好感度を捨てて作品の犠牲になった。本来の性別を取り戻した最終回でも壊れたキャラまでは直らず、ガサツな言動が残ってしまっている。
作者が女性だからか女性の扱いが容赦なく、女性キャラは自分の欲望のまま動いている人が多かったように思う。
そんな中、変わらなかったのはヒーロー・千晴(ちはる)とバスケ部キャプテンだろうか。彼らは比較的 初期状態のまま作品内に存在出来ており、彼らから許されることで香は この世界で何も失うことなく青春を継続できている。
あっ、でも千晴と言えば『1巻』では中学時代には恋愛と部活の両立が無理だと恋愛することを諦めていたのに、香との恋愛には その葛藤もなく受け入れている。部活への執念も消えているし、その点では彼もまた作品の犠牲になっているのか。
このように様々な点で 行き当たりばったりの展開と、一貫性のなさが露呈している。読書中は それなりに楽しいが、読んだ後に何も残らない作品の典型である。
作者が本当に意図していたか とても怪しいが、作品内における「バスケットボール」の立ち位置は徹頭徹尾 変わらなかったように思う。
香と千晴は初対面から何度も喧嘩をしてきたが、その仲直りの証として一緒にバスケをするという手段が採られていた。
作品におけるバスケは平和・和解の印なのである。なので この最終巻で2つのバスケを用いた勝負が描かれるのも必然のように思えた。バスケを理由に転校させられた香が、バスケを通して男子部員との友情を築く。そして嘘をついていた彼らに対してバスケ勝負が香の禊となる。
香が嘘をついていたのは部員に対してだけでなく学校側にも同様である。だから香と彼女を守ろうとするバスケ部員は「学校側」と戦う必要があった。そして校長をはじめとする学校側の事務処理を担う者たちと戦うことで初めて、香の学籍を男から女へと「転性」することが出来るのである。
一緒にバスケをすれば これまでの嘘や不和は一瞬で消失し、問題にしない。それが本書で唯一 徹底していたルールなのではないか。
実際に香が本来の性別を取り戻すには学校側の理解が必要なので、とんでも展開とは言え、その問題をバスケで解決したのは良い手段だったように思う。
二度と読み返すことはないでしょうが、独特の個性を持った作品であることは間違いはない。
自分の嘘なのに、自分で勝負を けしかけるという香と男子バスケ部員の訳の分からない勝負は続く。この勝負はボールを持った香がバスケ部員24人にボールを取られずにゴールしたら勝ち。ここまで23人を抜いた香のの最後の相手はキャプテンとなる。香の勝利かと思われたがキャプテンが一枚上手。敗北した香は潔く部活を去ることになる。卑怯な勝負をした時点で自分は負けていた。
こうして体育館を去る香だったが、その背中に千晴が声を掛ける。自分勝手な香に怒りをぶつけて、そして香の帰還に安堵を示す。キャプテンも香を呼び止め、香のバスケ部の在籍を認める。なぜか他部員も それに賛同する。こういて男子バスケ部の総意が固まる。香に不満を持っていた部員もいるはずなのだが、上述の通り、本書ではバスケには心を一つにする作用がある。
香が女性であることを男子バスケ部内で秘匿するつもりはないらしい。そこで学校側に掛け合おうとした時、その学校側が体育館に現れる。どうやら王様の耳がロバ方式で、男子バスケ部員が女である秘密が漏れたようだ。下される香への処分は退学。校長はバスケ部の活動内容と生活態度を疑問視していて厳しい。
そこで再び香の退学をかけた奇妙なバスケ対決が始まる。男子バスケ部側の選手は、固有名を持つ5人。バスケ部は主戦力を投入した形だが、予想に反して学校側の一方的な試合運びとなり、男子バスケ部は窮地に立たされる。…からの滅茶苦茶な展開で劇的な逆転勝利。何を見せられてんだか。
こうして香の退学処分は免れ、女に戻ることだけを厳命される。これが考え得る最高の平和的な解決であろう。
女に戻ったからには当然、香は男子寮を出ることになる。家なき子の香の新しい住まいは艶華(つやか)先輩の家。
最後の夜、香は千晴と散歩に出る。そこで至って普通の態度の千晴に香はキレる。香は香なりに、今まで以上に距離が出来てしまうことが不安だったらしい。「女に戻ることより」千晴と「一緒にいる時間ほうが大事」という割に、千晴と交際後は女を出しまくっていた香。ヒロイン失格の彼女が綺麗事を言っても何も響かない。そんな彼女を上手くコントロールするのは千晴の役目。これからも彼は じゃじゃ馬をならさなければならない。この人の どこがいーんだか、という少女漫画失格の好感度の低いヒロインである。
そして香は、憧れだった女子生徒用の制服で登校する。これは香の当初の夢が叶っていて嬉しくなる。だが迷惑なキャラは作品にまだまだ存在し、騒がしい日々は続きそうである。しかも強引な転入で始まった本書は、再び転入危機で終わる。何もかも1話の続きで、ネバーエンディングな感じが心地よい。
「POWER!! ー番外編ー」…
女子生徒になって1か月。香は千晴と同室でない生活に まだ慣れない。そして女に戻った香は女子バスケ部に入った訳ではないらしい。
そして晴れて「男女」の恋人になったのに千晴との関係性に変化はない。そんな時に香が福引で宿泊券をゲットするという古典少女漫画的な展開となる。お泊りが深い意味で「男女」の仲になることを意味することを遅れて理解した香。そうなると空回って失敗するという いつものパターンとなる。この作品に限らず こういう失敗回って読者は見飽きているのに、どうしてやるのだろうか。
当然のように今回は「するする詐欺」で終わるのだが、香のピンチに千晴が駆けつける前に、香がピンチを乗り切る展開は面白かった。さすが暴れ馬。そして千晴からのプレゼントも冒頭の怠惰な香の新生活とリンクしていて大変 良かった。連載の締切に追われなければ このクオリティの お話が作れるのか!?と驚いた。