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少女漫画と小説の感想ブログです

自称・悟り系男子の中身は、親友の彼女を奪略しても悪びれない俺様ヒーロー。

藤原くんはだいたい正しい(8) (フラワーコミックス)
ヒナチ なお
藤原くんはだいたい正しい(ふじわらくんはだいたいただしい)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ついに、両想いまでカウントダウン!?「バレンタインにチョコが欲しい」と藤原(ふじわら)に言われ、やっぱり藤原くんが好きだと自分の気持ちに気付いたヒツジ。藤原にチョコを渡して想いを伝えようとするけれど、バレンタイン当日は、女子に囲まれる藤原になかなか近づけず――?? ゆるキャラ女子×悟り系男子のLOVEレッスン、第8巻♪

簡潔完結感想文

  • 元カレとの別れから2か月の冷却期間を置いたからビッチ回避で恋愛解禁。
  • カレンも白滝も ただの恋愛の障害に過ぎず、役目を果たしたら退場状態。
  • 2人の関係を揺るがすためだけの最後の新キャラ。最後に交際後の一騒動。

しかして謝るってことを知らないの!? の 8巻。

いよいよカップル誕生となる幸福な一冊で、これまで以上に糖度の高い内容となっている。
でも甘いと言うより2人とも甘やかされているよね、というのが私の正直な感想。両想いの場面はドラマチックな演出がされているのだけど、彼らが この恋愛で互いに色々な人を傷つけた、という自覚に欠けたまま幸せになっている印象を受けてしまい心から喜べない。

そう思うのは本書には謝罪が足りないからではないだろうか。ヒツジも藤原(ふじわら)も周囲に対して謝ったことがあるだろうか。思い返してみても その場面が思い浮かばない。いや、ヒツジは『4巻』でカレンに軽く謝っていたか。でも あれはカレンの仲直りの提案に乗っただけで、彼女から ちゃんと謝る勇気を持っている訳ではない。自分がカレンに嘘をついたこと、彼女を出し抜いて藤原に告白したことを ちゃんと謝っていない。

それは白滝(しろたき)との交際も同じ。何度も彼の心を傷つけているのだが、その別れの場面でもヒツジは白滝の優しさで謝罪ではなく感謝の言葉を述べるだけに止まっている。彼を不安にさせた罪を全く理解しないまま、自分の中で素敵な恋愛だったと消化して、綺麗にお別れしている。その一方で まるで失恋したかのような心境で周囲に気を遣われるという被害者面が気になる。


と罰のバランスが崩壊しているのは藤原側も同じ。白滝という唯一無二の親友の彼女であったヒツジを奪いにかかりながら、彼は自分の行動を詫びることはない。それどころか白滝に逐一 ヒツジとの進展を報告している。ここまで自分勝手になれる人の どこがいいんだかよく分からない。

ヒツジが「着ぐるみちゃん」として愛されている割に、その「中の人」である本人は学校のトップ2に甘やかされる野生の肉食獣だった。それと同じように紹介文では「悟り系男子」と書かれる藤原は あたおか男子、または後発的な俺様ヒーローなのではないだろうか。弟というトラウマがあった時は全ての物事と距離を取っていたので、その分 視界が広くなり、物事を的確に把握することが出来た。それが藤原の悟りの力なのだろう。だがヒツジに出会ってトラウマが払拭され、藤原本来の素顔が浮かび上がると、欲望に忠実な、周囲への迷惑を顧みないワガママな人格が顔を出したように思える。

そして主に白滝に対して遠慮のない行動を始める。そうして白滝からヒツジを奪った後も藤原は以前と変わらず白滝に接し、なんと自分たちの交際の進展を彼に報告する。頭がおかしすぎる。

傷つけても嘘をついても奪略しても なぜか壊れない友情。迷惑なカップルとしか思えない。

白滝がヒツジと2か月ほど距離を取り、その後も以前のようには話さなくなるのは交際後の男女として自然だ。それに あまり白滝にヒツジの周囲を うろつかれると彼に未練があるように見えてしまうし、本書の場合、ヒツジたちの身勝手さが浮かび上がってしまう。だから彼は物語から退場させられた状態となる。序盤は三角(白滝)、四角(カレン)と登場人物が増えたはずの作品なのだけど、その後は1人また1人脱落することで、結局 ヒツジと藤原の2人だけの世界になっていく。物語の到達地点が、こんな狭い世界なのが とても残念だった。

この空白の2か月での藤原と白滝の関係性も一切 描かれない。白滝は藤原に怒りを覚えても絶交してもいい立場だと思うが、それすらも2か月間で漂白されて、彼らの友情は不思議と継続している。繰り返しになるが、男性同士の友情に背景が無いので、とても作為的に見える。
ヒツジとカレンの友情も、藤原と白滝の友情も とても薄っぺらい。薄い割に裏切られても壊れないという不思議な友情だから、ヒツジたち加害者は自分から謝る必要がない。

ヒツジも藤原も あまり正しくない行動をしているのに、それが許される世界。その世界の中で2人が幸せになっても、少なくとも私は、それほど嬉しくない。やっぱり作者は訳アリ男子とヒロインの恋愛を描くだけで、彼らを取り巻く世界までは描けていない。その部分が引っ掛かり再読して評価を一段下げたぐらい この作品の奥行きの無さには呆れてしまった。

「だいたい正しい」とされてきた藤原が間違い続けるという彼の青臭さや青春を描く、という裏のテーマがあるようでないのが本書である。交際後はヒツジにとって藤原は「だいたい正しい」地位になり、彼のことを盲目的に信仰しているように見えた。この恋愛を通して2人とも まるで成長しておらず、結局2人にとって心地の良い世界に安住しているのが残念である。


リスマスに白滝と別れ、2月になってもヒツジは自分を取り戻せない。と言っても私にはヒツジが何に悩んでいるのかが全く分からない。藤原への気持ちが明白なのに「自分の気持ちって なんでこんな難しんだろう」などと言っている時点で好きになれない。これは すぐに藤原に寄りかかるとヒツジがビッチに見えるから作品的に空白期間を置いているだけ。悩んでいる振りなどしなくていいのに、ここでもヒツジは自分を良い人間だと偽る。そういう誤魔化しをやめて、彼女は成長するのに、いつまでも自分は清純派だと思いたいらしい。

2月の行事はバレンタイン。この日、岩田(いわた)の発案で生徒会が主催して全校生徒に菓子を配るイベントが行われることになる。

事前準備でヒツジは菓子作りに集中し過ぎて、気づいたら放課後に藤原と2人きりになっていた(不自然)。自分のミスに手を貸してくれた藤原にお礼をしようとするヒツジだが、藤原が欲しいのはヒツジの心。それが彼女を困らせることは明白だから藤原は それを強くは望まない。白滝といい男性たちは常にヒツジの心に配慮してくれている。

この作業で2か月ほど接触した形跡の無かったヒツジと白滝が会話を交わす。白滝の優しさによってヒツジは彼と普通に話せる。自分の罪に対する罰を受けずに、誰も失わないヒロイン様である。カレンも白滝もヒツジの被害者と言えるのに彼女に優しい。
ここでも白滝に対して今 自分は好きな人がいないというヒツジの態度が わざとらしい。白滝はヒツジの心に気づいているからこそ自分から身を引く別れを選んだのだ。そんな彼にまで嘘をついて表面上は誠実な恋をしていた恋人でいようとするヒツジが嫌いだ。しかも その後にすぐに藤原を思い浮かべながら本命用の菓子を作るのには呆れるばかり。

こうしてヒツジは改めて藤原への好意に気づくのだが、そこまで2か月を要する必要性が全くない。

ヒツジが迷うのは自分の罪を清算できていないから。いまだに清純派気取ってんじゃねーよ。

レンタインデー当日は忙しすぎて、ヒツジは藤原に渡そうと思って作った菓子を渡せないまま。さらに生徒会としての活動中に菓子を潰れてしまい意気消沈。

ようやく藤原と2人きりになれたのは、日が沈んでからの片付け作業中。そこで藤原はヒツジのために彼女が欲しがっていたミニバルーンを確保してくれていたことを知る。『6巻』の修学旅行前後のアクセサリの一件と同じである。藤原はヒツジのポケットに菓子が まだあることを確認した安堵する。そんな彼の様子を見てヒツジの中から好きが溢れてしまう。彼女の告白は こういうタイミングで起こる。
こうして2人はバレンタインに両想いとなる。


れから10日。2人の間に変化はない。ただし それはヒツジ側の認識で、藤原はヒツジを彼女として扱い、交際が始まっていた。藤原はヒツジが望めば自分の主義も変えていく。これ、白滝でもやってましたよね。作品全体としてヒツジが変わったという描写はなく、彼女の理想通りに男性が動き、甘えさせてくれるという甘ったれた作品のように思えてならない。

しかも藤原は白滝に自分たちの関係を逐一 報告することになる。藤原は白滝を裏切る形になっているのに、どうして そういうことが出来るのか。意味不明なカップルで、白滝が不憫すぎる。2人が幼なじみとか中学時代は一緒に汗を流した部活仲間だったとか、それぞれの家庭での寂しさを互いの存在で救われたとか、こういう特殊な友情が成立できる背景を ちゃんと用意してくれていればいいが 何もないのに、何でも話す。その不自然さが ずっと気になる。


度が変わり2人は3年生になり同じクラスとなった。

そして年度が変わると出てくるのが新キャラである。生徒会の仕事量に対して人手が足りない時、ヒツジが学校内で見かけた親切そうな1年生・有馬 桜(ありま さくら)を召喚する。だが彼女はヒツジ以上に使えない人間で仕事を増やすばかり。そして かつてのカレンのようにライバルキャラの雰囲気をとても醸し出している人間である。

1話だけ順調な交際の様子を描いて、すぐに恋愛の障害を用意する。といっても美人という設定の桜を使って、そんな彼女より学校のNo.1に選ばれる平凡なヒツジという幸せを描いているのだけれど。

しかし桜が藤原を脅迫している模様が描かれ、藤原はヒツジに何かを隠し、そして桜と密会としていた。その心配事に加えて、ヒツジと藤原の交際がSNS上で噂になってしまった。そして その犯人は…。