こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第06巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
茜に「苺はどこになるの?」と訊かれた詩春。松永さんの友人・及川に連れられて、苺狩りに行くことになって!? そんな中、詩春の勉強を松永さんが見てくれることに☆ いつもより近い近い距離に、何故かドキドキが止まらない詩春! さらに思いがけないアクシデントも発生して…!?
簡潔完結感想文
- 松永以外の人との お出掛けシリーズで双子の成長と世界の広がりを描く。
- 2歳児も自分よりも小さい命のに触れると、その子を庇護する存在となる。
- ヒロインの知らない所で三角関係が成立し、男性が火花を散らす夢の設定。
三角関係の始まりと、終わりの始まり、の 6巻。
おそらく『5巻』から中盤以降、作者が意識的に描いているのは双子たちの世界の広がりだろう。例えば『5巻』では双子が、親代わりの松永(まつなが)不在の場面で、詩春(しはる)と一緒に彼女の友達である梨生(りお)に初めて会った。松永は子育てが不得手で、自分が彼らから必要とされているか悩んでいる節があるが、何だかんだで双子は松永に甘えているし頼っている場面が随所に見られる。そんな松永抜きで双子が詩春と一緒に誰かと どこかに出掛けるシリーズが始まっているように思う。『6巻』では その第二弾で及川(おいかわ)との外出が描かれ、面識はあるが全く愛着はないであろう及川を人見知りするようなこともなく無事に一日 過ごしている(もちろん詩春と一緒にいるからだが)。
そして今回の巻末では とある人に会いに行く場面で終わる。この人物が誰かは後に分かるのだが、その人に会っても怯えたり泣いたりしないのは、その前の お出掛けと よく知らない人と会うの予行演習があったからではないか。おそらく その人は自分を見て双子が目の前で泣くいたりしたら精神的なショックが大きかっただろう。自分の身に起こった不幸を今以上に呪うかもしれない。それを回避できたのは この お出掛けシリーズが効いているからではないか。作者が そういう お話作りを意図的にしているのなら、本当に よく考えている。
そして作品内における変化は世界の広がりだけではない。加えて時間の流れも描かれている。これも『5巻』からの話で、松永との暮らし=彼の兄の失踪=兄の妻である双子の母親の死去から1年が経過して、双子も周囲も時間の経過による変化がもたらされている。これはメタ的に言えば連載開始から1年が経過し、白泉社の季節イベントのノルマを達成し、時間のループから抜け出したから可能な展開でもある。
時間の経過の1つが伸びた髪の毛である。今回 双子の弟・葵(あおい)の髪が長くなったため切る お話が出てきた。赤ちゃんは1歳を過ぎると初めて髪を切るタイミングみたいなので、初めてではないだろうが、こんなエピソードも作中に時間が流れ、彼らの肉体が成長しているからだろう。また葵だけ髪を切るという話は双子だけど男女である彼らの性差であり、双子だからと言って全く同じではない、それぞれが違う人生を歩み始めている証のようにも思えた。
また自分よりも小さな命との出会いも彼らを成長させている。これは見知らぬ人との出会いという お出掛けシリーズとも言えなくもなく、年長者でも年少者でも双子たちは出会う人々から刺激を貰い、知識や経験を吸収して心身が成長していく。
今回、感心したのは双子の成長がちゃんと描けている点だった。詩春も赤ちゃんや幼児の成長、または健康に関する書籍を読んで勉強していたが、作者も同じことをしたのではないか。子育てのエピソードに具体性が増し、2歳児たちの立体感が増したように思う。私が序盤に感じていた赤ちゃんを作品内で便利に使っているという印象は綺麗に拭い去られている。双子たちと同時に作者の成長も感じるから本書は好きだ。
そして時間の流れが生まれたからこそ ラストの対面がある。そして、今回のタイトルにもしたが時間が流れることは永遠はないということでもある。そういう意味では本書の終わりの始まりが早くも この『6巻』で到来している。
上述のように梨生×双子 や 及川×詩春 のような既存のキャラの組み合わせによって話が作られていくが、今回 忘れてはいけないのは松永×直(なお)のライバル同士の初対面だ。詩春に長年 片想いする直は松永との出会い以降の詩春の変化を目ざとく見つけるが、今回 初めて松永と直接 顔を合わせる。直は松永にライバル意識丸出しなので、男性間による戦いの幕が ここで開けたと言えよう。
詩春は完全に恋愛感情に鈍感な訳ではないが、それは自分から松永への気持ちだけで、まさか松永が自分のことを好ましく思っているとは思っていない。それは直からの気持ちも同じ。自分発信はともかく他者からの気持ちには鈍感ヒロインのようだ。そして だからこそ詩春は全く感知しないまま男性たちの争いが始まり、詩春は勝手にトロフィー扱いされる。誠に正しい少女漫画ヒロインと その構図である。
物語が多面的に動き出しており、それが作品の厚みとなっている。作品は ここからが本領発揮のように思う。
松永の仕事中に、彼の高校時代からの同級生・及川(おいかわ)が松永家を訪問し、なりゆきでイチゴ狩りに行くことに。『5巻』後半から松永がお出掛け回に不必要とされていて可哀想。でも これも双子の世界の広がりのためだろう。今回は、及川が長時間 詩春と2人きりでいて、無防備なんだけど しっかりしている彼女に触れて、松永が詩春に惹かれるのも手を出さないのも理解できた様子。健(たける)と梨生(りお)のように、もし身内でカップルが成立し続けるのなら、及川の相手は田神(たがみ)だったんのだろうか。お互い中盤から特に出番がないのが似ているかも…??
この頃から葵が自分のことを「あおくん」と言っており、そして詩春に対して ものすごい独占欲と執着を見せているような気がする。茜も同じような反応しているから単純に及川が詩春に近づくのが嫌なのかもしれない。そして茜は食い意地を発揮して色々と大変なことになる。双子の個性も いい感じに育っている。
ご近所の健は本当は3人きょうだい。これまでは長子・健と末子・真菜(まな)が登場していたが、今回は中間子である長女・菜波(ななみ)が登場する。
葵の髪が伸びてきたため健が髪を切ると張り切ると言い出すが、それを全力で阻止するのが菜波。菜波は兄に自分の髪を無残に切られた経験や、これまでの兄の お節介から兄を信用していない。だが今回は詩春の協力もあり葵の髪形は ちょっと格好良すぎるぐらいにキマる。まぁ これは作品的に今後 数か月のダメージ(現実時間では年単位?)を残せないからであろう。失敗した次号で元に戻っているのは矛盾になるし。
予想に反して健のカットが成功したことで菜波は自分の兄への不信の持って行き所をなくす。そこで菜波は詩春に過去の愚痴を聞いてもらい、そして帰ってきた松永は健の菜波に対する言動は全て、初めての妹への愛情だと彼女に教える。発する言葉一つで その人の気持ちをリセット・整理してしまうのは、さすがアナウンサー松永である。
この菜波や健の話は、詩春や松永、双子では出来ない きょうだい のエピソードで、良い3兄弟だなぁと思った。まぁ菜波は この後の登場回が思い出せなかったりするんですが…。どうも田神といい、中盤からの登場キャラは定着しなかったような気がする。
詩春のバイトする保育所に生後3か月の赤ちゃんが やってくる。双子にとっては初めての自分たちより小さい命。詩春も3か月の乳児に触れるのは初めて。ちなみに今回も『5巻』の詩春のクラスメイトの弟の入園と同じく、母親の怪我による臨時の入所である。
詩春に手厚い保育を受ける赤ちゃんを見て双子が嫉妬したり、小さい命が生きていることを学んだり双子の情操教育に大きな影響を与える。そして自分が年長であるという立場を理解して、2人はそれぞれに成長を見せようと奮闘する。
そして この頃から双子間のケンカも増えるが、それもまた人間社会を学ぶ成長の過程なのだろう。今までは手の届かなかった物に、台を使って手が届いたり、危険と隣り合わせの日々となっていく。確かに2歳頃から子供が勝手に動いてしまって起きた悲しい事故のニュースを見るような気がする。
これまで以上に双子への注意が必要だと気を引き締める詩春だが、自分の面倒が疎かになり、テストの特典が伸び悩む。詩春は赤点による夏休み返上を危惧しているが、今回のテスト結果65点で赤点ということはないだろう。
少しでも勉強しようと詩春は隙間時間を見つけて学力を伸ばそうとする。松永家で勉強しようとしているところを松永に発見され、詩春は職務怠慢だと自分を責める。だが松永は学生である詩春に時間を割いてもらっていることを気に掛け、自分で良ければ勉強を見ると言ってくれる。(おそらく)一流大学を出ているし、家庭教師のバイトの経験もあるらしい。
赤点回避は迷惑の回避。それが双子たちのためにもなる、という考えで詩春は松永に勉強を見てもらう。だが双子が寝静まった後の2人きりの空間に詩春は予想外に緊張する。その緊張が失敗を呼び彼らは久々に2人で倒れ込んでしまう。こういうハプニングは『1巻』以来だろうか。松永が詩春に惹かれてからは かえって接触が少なくなったような気がする。
そんな男女の空気を察して松永家に登場するのが直(なお)である。いよいよ三角関係の3人が一堂に会した。直は詩春の見えない所で松永に敵意を剥き出しにする。そして社会人が未成年に手を出したら どーなるか、と社会的制裁を盾に彼の詩春への好意を打ち砕こうとする。詩春のためにも早く大人になりたい直が今すぐには大人になれないなら、既に大人である松永に対して それを弱点にしてしまおうという作戦か。確かに世間からすれば直の方がカップルとして自然だもの。
施設に帰ってから詩春は直に説教を食らう。妙齢の男女が夜遅くに一緒にいることを注意された詩春は しおらしく気をつけると直の忠告を聞く。しかし それがまた直の危機感を煽る。普段の詩春なら、鈍感で松永への恋愛感情がないとキッパリと言い切るところだが、今は詩春も松永を意識するから否定することはない。ここもまた自分と松永の意識のされ方の違いで直には腹立たしいところだろう。
やはり松永を意識するあまり勉強に集中できない詩春が松永の個人的な家庭教師の終了を申し出た。2人きりの時間で詩春との関係が気まずくなることを回避したい松永も それを了承する。松永は敵を剥き出しの直との関係を聞き出したいが、プライベートを詮索することは自分の詩春への興味の証拠になると考える松永は我慢する。松永は年長者で成人で、相手は年下の未成年だから、自分から愛情表現する訳にはいかないから早くも この恋愛は膠着状態に入る。白泉社的には願ったり叶ったりの状況だろう。
そして この週末、松永は双子を連れて ある人物がいる病院へと向かっていた…。