《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

LOVE IS OVER.きちんと終わらせることが出来たから 君のいない明日を迎えられる。

LOVE SO LIFE 12 (花とゆめコミックス)
こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第12巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

松永さんへの恋心を確信した詩春は、ドキドキの毎日。ところが、松永さんは元カノに「やり直さない?」と言われ…? 一方、双子が祖父母に引き取られる時期が決まり、別れの日まで見守ろうと決意をする詩春に、ついに直が告白! 押し倒された詩春は!!? 急展開の第12巻。

簡潔完結感想文

  • ゆるフワ系の元カノは自分の納得を優先し、全ての責任を引き受けられる強い人。
  • 松永という泣ける場所もあり、今度の詩春は寂しさを自分で空に放つことが出来る。
  • 詩春のために大人になりたかったのだが、その失恋を受け入れて直は大人になる。

わらせた恋は振り返らない 12巻。

いよいよ詩春(しはる)にも3月末の双子の生活拠点の変更が伝えられ、年始からは新生活に順応するための助走期間となることが発表された。作品的に その前にやっておかなければならないのは、大人組周辺の人間関係の整理である。

今回は詩春と松永(まつなが)、それぞれが誰を選ぶかを決定する大事な巻になっている。これによって2人の両想いが確定したと言ってもいい。またまた双子の出番は少なめだが、詩春と松永それぞれの過去の恋を清算させ、彼らが2人とも前を向いて歩き出すという答えが1つの巻にまとまっているのが良かった(松永パートは『11巻』に収まりきらなかっただけかもだが…)。


回、個人的に好きなのは作者のバランス感覚や人物造形だった。

例えば詩春と同じ施設で育った直(なお)について。彼は『1巻』から詩春への好意を見せていて、これまでも何回か直の詩春への想いは語られてきた。直という人は読者にとっても作者にとっても肩入れしたくなる人だと思う。彼の方が片想い歴は断然 長く、そして詩春と同じ背景を持ち、彼女のために人生があるようなものである。

ただ作者は直に必要以上に思い入れを持たない。もしかしたら持っているのかもしれないが、それを作品上で出さないのが良かった。本書のメインが三角関係の恋愛模様ではないこともあるが、直の本気のターンは この1回きりで、彼は その後にゾンビのように復活して詩春への未練を見せたり、アプローチを仕掛けてこないのが良かった。
少女漫画作品の中には非のない当て馬を造形して、その当て馬の方が作者が気に入ってしまい、いつまでも ずるずると三角関係を引っ張り続けることで作品を延命するようなものもある。直も作者にとっては分かりやすく、そして同情しやすい人物だと思うが、直が告白する前から彼の敗戦は決定づけられていて、そして その理由も詩春より先に読者が理解できるようになっている(『10巻』の感想文参照)。

冷静に直にとって残酷な現実を用意して、でも彼を ちゃんと成長させられるように話を作っていることに作者のバランス感覚の良さを見た。ラストを見据えて物語を順序良く展開していく様子も好きな部分だ。


た松永の元カノの歩実(あゆみ)という人間の人物造形も上手くて、実は「強(したた)か」という彼女の性格がよく出ていることに感心した。

彼女は今回、松永と再会して非常識とも取れる行動をとるのだが、それは彼女が自分の行動に全部 責任が取れるからではないかと思った。それは松永と最初に会った日に、彼を一人暮らしの自室に連れて行った時の覚悟から見える彼女の豪胆さである。何が起きても、どういう結果になっても自分で引き受けるという覚悟があっての行動で、あらゆる未来を想定した上で、自分の取りたい行動を取っているように見えた。自分の心に正直で、そうあろうとする彼女は決して嫌な人間ではない。自分の強かな部分を嫌う人がいることも承知の上ではないか。

松永の好みとして詩春との共通点もあるが、歩実は詩春とは ちゃんと別人格になっている。

これは全く描かれていないことなので想像なのだが、大学のサークル内で人気者である松永の彼女になることは、同性からの嫉妬を買ったかもしれない。でも歩実という人は そんな妨害に負けることなく、松永に泣きつくこともなく、独力で処理してきたのではないか。それが松永と交際する上での彼女の覚悟で、そういうリスクがあることを承知で自分の気持ちに素直に行動するのが歩実ではないかと思う。

歩実は いわゆる女性ライバルなのだが、純真な詩春に対して読者に わざと嫌われるように造形されている訳ではないように見える。女性ライバルの敗退の原因となるようなヒロインに対しての意地悪や嘘などもない(そもそも詩春と会わないまま)。歩実は そういう人として作者の頭の中で創造され、そのまま作品世界に存在する。彼女の強かさは松永が惹かれた、彼女の魅力でもある。そのように歩実を公平に描いているところが好きだと思った。


永は元カノに呼び出されて彼女と再会する。そこから彼らの馴れ初めが回想される。松永が大学3年の時にサークル(?)で出会ったのが歩実(あゆみ)という女性。歩実とは初対面から意気投合し、心を許したからか松永は お酒を飲み過ぎて人生初の泥酔をする。初対面から松永は彼女のことを放っておけないと思ったし、歩実も泥酔する松永を見てそう思ったのではないか。

翌朝、松永は目を覚ますと知らない家のベッドで裸で寝ていた。そこは歩実の家で、事には及んでいないが、ベッドが汚れるのが嫌だった歩実によって身ぐるみを剥がされていた。歩実は「色々想定した」上で松永を家に上げており、そこで何が起きても合意の上という覚悟を持っていた。だが松永は泥酔していて本当に それどころではなかったみたいだが。
しかもTシャツだけならともかくGパンも脱がせるところに歩実のこだわりや自己主張するところはする、という性格が出ている。どうやって家まで、そしてベッドまで運んだのかとか、服を脱がせるのも労力がかかるだろうとか思うけど、松永をベッドまで運ぶのが優しさで、服を脱がせるのは こだわり といった感じか。柔らかいようでいて自分の考えを貫き通す歩実の性格が伝わるエピソードである。
この失敗で松永は一生 酒も煙草もやらないと誓ったようだが、そういえば飲酒シーンはなかったか。煙草は及川から貰ったのを一本 吸っていた気がするが。今後、詩春の前で飲酒する場面があったら、それは松永が彼女に気を許しているということになるのかな。


実に歩実に惹かれていく松永。そこから順調に交際を重ね、兄の結婚を機に、自分も歩実との結婚像まで描き始める松永。だが兄一家に不幸が起こり、歩実の優先順位が下がり、その勝手な決断を詫びることも出来ないまま彼らの交際は終わった。

その地点から松永は動き出そうとしている。恨み言を言われても仕方のない状況なのだが、なんと歩実は松永に復縁を申し出るのだった。その提案は松永にとって予想外のもの。ただ提案に戸惑いはしたものの松永の中で過去と現在の天秤は すぐに傾く。彼にとって今の疑似家族が何よりも大事で、歩実との結婚の想像は もう過去のものになっていた。

歩実は それに落胆するものの、現在 交際している人がいること、最近プロポーズを受けたことを正直に話す。歩実は人生のステップを前に、嫌いで別れた訳じゃない松永の存在が心のどこかにずっとあって、交際相手に了承を取った上で松永に接触した。どんな結果になっても彼は受け入れてくれるという。そんな彼と添い遂げるためにも未練となっている松永に会うべきだと歩みは思った。今回は負け惜しみではなく断られるための提案だった。これは歩実が けり をつけるための儀式なのだ。

歩実は この話を松永にしなくてもいいはずである。ただ何もかも話すことで松永との間に誤魔化しや未練を残さないようにしようとしたのだろう。こういう竹を割ったような性格も松永が惹かれた一因ではないか。松永が歩実のことを中途半端なまま継続できなかったように、歩実もまた松永のことを引きずりながら生きるのを良しとしない人なのだろう。そういう部分が彼らは似ている。そして それを正直に話したり、振られるための儀式をする豪胆さは初対面の時から彼女が持っている特性と言えよう。

松永もまた、彼の中の未練として、ずっと一緒に居てくれた歩実に対して言えなかったことを伝える。2人の交際は嫌いになったわけじゃなく終わってしまったが、その交際を感謝していることを伝える。別れの日は言い訳を出来るような立場じゃないから松永からは何も言えなかったが、それが松永の心残りになっていた。あの日、言えなかった この交際の、歩実という存在への想いを、自分の偽らざる気持ちを松永は誠実に届ける。
こうして元カノ問題は清算される。詩春が歩実と直接 対面したり、彼女の写真を見たり、具体的な元カノとして把握しないのも良かった。詩春は26歳の松永に元カノがいることを当然だと思っているだろうが、その存在を匂わせて彼女を嫌な気持ちや不安にさせるという手法を作品は使わなかった。直を含めた三角関係とは違い、歩実の問題は詩春が介入しない、大人の、過去の恋愛として処理することに専念しているのが良かった。逆に直の問題は いつか松永が察知するのだろうか。直が撤退したことを松永が知る日が来るか、見届けたい。


永は過去を清算し、前に進もうとした。そして その勢いのまま、詩春に言えずにいた双子の祖母の退院日、そして彼らの新生活の始まりの日時を告げる。自分たちの疑似家族は3月末の期日までで、その残りは あと4か月余りとなる。

そして松永たち大人は、環境の変化に双子がストレスを感じないように、祖母が退院した年明けから お互いの家を行き来し、宿泊して人と場所に慣れることを進める。松永は詩春に それに協力して欲しいと思っているが、辛かったら自分を頼るように言う。その松永の言葉に満たされ、詩春も背筋を伸ばして最後まで双子と関わることを決意する。
詩春にとって双子が祖父母に甘えたり、新しい環境に緊張しなくなっていく様子を見るのは恐らく抱えきれない寂しさを抱えることだろう。以前と同じように再び彼女の心が引き裂かれるかもしれない。そういう時には また自分の胸で泣いて欲しい、泣ける場所があるんだよ、ということを松永は伝えたかったのだろう。
詩春は施設に帰ってから一息つくと泣きそうになるが、それを堪え、立ち上がる。今回は以前と違い(『9巻』)、ちゃんと寂しさを心の中から外に放つことが出来た。これは詩春の成長だろう。


は その場面を見て、相変わらず詩春が泣くのを我慢して生きていると思っている。だが実際は直が推理する通り、詩春は松永の前を自分が泣ける場所とすることが出来ていた。

これとは逆に詩春は、松永の前だと緊張してできなかった家庭教師を(『6巻』)、直には気軽に頼めて、そして緊張しない。しかも そのことを直本人の前で話してしまい、無自覚に彼の心を傷つける。その発言に苛立ちが募り、直は詩春に厳しい言葉を投げつけ、そして彼女を押し倒す。
そして詩春が思っているような兄弟のような関係なんて思ったことはなく、詩春をずっと好きだったと告げる。直は そのまま詩春にキスをしようとするが、彼女の顔が恐怖で凍りついているのを見て思い止まり、直は部屋から出て行く。

詩春にとっては兄弟だと思っていた存在が突然 異性としての顔を見せ、そして力任せに自分に迫ってきた青天の霹靂である。そして その思い詰めた直の表情から、かつて彼が修学旅行(『9巻』)で自分を好きだという仮定が仮定じゃなかったことを思い知る。

恥じらいも泣き顔も自分の前では見せない表情を松永の前で見えると考えるだけで直は焦る。

生(りお)は明らかに様子のおかしい詩春の相談に乗り、彼女の混乱を推理する。詩春にとって家族は恋愛よりも価値の高いもの。だから直は とても特別な存在だったのに、相手はそう思っていなかったことが詩春の混乱と落ち込みに変換される。一方で梨生は直の分かりやすい純情も見てきたから、詩春が自分の考えと違うからと言って彼の好意を恐怖に変換してしまうことにも違和感を持つ。梨生が そういう意見の違いを提示して、詩春の視野を広げているのが良かった。

詩春も自分が松永の近くにいると湧き上がる感情を、直もずっと想っていてくれたことを考えると、自分の これまでの態度や、驚いたとはいえ彼が告白してくれた時の対応に至らない点があったことに思い当たる。

施設では直に避けられるので、詩春は直の学校に出向く。そして自分の非礼を詫びる。自分の直への違和感を率直に伝え、そして直に促され、他に好きな人がいるという正直な気持ちを彼に伝える。

詩春は直の中に失った家族を求めていた。それは恋人や夫婦ではなく兄弟として。でも それは叶わない願望だった。こうして詩春は自分の中の「家族」を失った。施設の入所日がセカンドバースデイなら、今回は2回目の家族の喪失なのではないか。

ここで直が逃げなかったのも、彼が現実を素直に認めるのも彼の成長である。
直は、ずっと詩春の笑顔を守りたいと願っていた。彼女が泣かないように、笑顔でいられるように彼女をずっと支えたかった。だが今回の件で、自分が詩春の笑顔を奪ったことは彼の後悔になり、そして自分が詩春を想う資格がないと思い詰めていた。

喪失感を抱えるのは直も同じ。8年間 想い続けてきた詩春への気持ちを本当に消せるのか彼は分からない。それでも日常は続いていく。失っても時間は流れ、人は歩き続けなければいけない。それは本書で繰り返されているテーマであるように思う。
ただ直は詩春に ある秘密を抱えていた。それが小学生時代の詩春が風邪を引いた時のキス。これは松永が知らない直だけが知っている詩春との記憶。これは作者の直への せめてもの贈り物ではないか。今回の告白時にキスをしていたらアウトだが、こういう小さな恋は良いと思う。葵(あおい)なんて3歳児特権で詩春に触りたい放題ではないか。ちょっと意味が違うか?


後は2回目のクリスマス回。
松永は今年も詩春にプレゼントを用意していた。何が欲しいか聞くタイミングを逃してサプライズの形になっているのは喜びが一層 増すだろう。プレゼントセンスに難がある残念な松永みたいな描かれ方だったが、詩春のことを考えて品を選んだ品を彼女はそれを心から喜んでいるように見える。

今年は詩春もプレゼントを用意しているが、バレンタイン回と同じく最後の最後まで渡せない。そして その時と違うのは、詩春は松永への好意を自覚しているということ。好きな人に渡すという胸の高鳴りや緊張感が伝わってくる。しかも松永は詩春がプレゼントしたネクタイをクリスマスイヴに出演したテレビ番組で身につけてくれる、というプレゼントまで用意してくれた。

今年は双子たちもプレゼントを用意してくれたり、以前は通用していた詩春の誘導テクニックが通用しなくなったり、そこかしこに成長を感じさせる場面があって とても良い。